「祖父の背中」が、すべての原点だった
—— はじめに自己紹介をお願いします。
茨城県出身、株式会社えにらぽ代表の梅原徳広です。
筑波大学で経営工学を学ぶ傍ら、「いばジョブ」など地域に特化した事業を展開しています。5年前に大学を休学して事業に専念しています。
—— 経営に興味を持ったきっかけは何でしたか?
幼少期に、祖父が経営していた会社に足を運ぶ機会がよくありました。現場で働く姿、従業員を想い日々小さなことを当たり前のように積み重ねていく姿、小学生ながら祖父を心から尊敬し、「いつか僕も経営者になる」と思っていました。
—— かなり早い段階で志が芽生えたんですね。
そうですね。それと同時に、祖父のように「誰かのため、そして地域のために働く」という姿勢が、ずっと心の中にありました。
「地方の魅力」が、バイト先の団子屋で見えてきた
—— 学生時代、地元に対する思いはさらに強まったと聞きました。
はい。高校の時に地元の笠間市にある笠間稲荷神社の団子屋さんとお蕎麦屋さんでバイトしていたんですが、お正月のような繁忙期は笠間稲荷神社の影響もあり、大行列ができるのに、普段は閑古鳥が鳴いている。そのギャップに「いい人、いいもの、いいサービスが地方にありふれているのに、もったいないな」と。
—— 「どうにかできるんじゃないか?」という思いですね。
まさにそうです。地方には知られていない魅力が山ほどある。だからこそ。その魅力を映像やSNSで伝えたいという想いが、今の事業の原点になっています。
医療から経済へ。“人に寄り添いたい”がブレなかった
—— もともとは医師志望だったとか?
はい。実は、中学〜高校までは医療の道を考えていました。でも「人のために」という想いは、必ずしも医療でなくても実現できると気づき、経営工学の分野に進んだんです。
—— 「人に寄り添いたい」という軸はずっと一緒だったんですね。
その通りです。
地方で働きたい人が、自分らしく生きられる社会をつくる、そのための手段として、映像・人材・経済を選びました。
大学を“休学”して選んだ「実践」の道
—— 大学ではあまり座学に馴染めなかったとも聞きました。
はい、実際の社会に出るインターンのほうが楽しく、大学での学びが自分のビジョンに直結するイメージがどうしても湧きませんでした。「このままでは何も得られない」と、思い切って休学しました。その後、オフショア開発の会社でインターンを始めたんです。
—— 社会に出てからの学びのほうがしっくりきた。
そうですね。実際の企業で総務や営業を中心とした実務を経験しながら「今すぐに自分で事業をやりたい」と強く思うようになりました。
映像事業から法人化へ。熱意が道を開く
—— そこから、起業へ?
はい。2020年、「竹梅映像」という名前で事業を始めました。地方の企業や店舗を魅力的に発信する映像制作事業や、コロナ禍だったのもありイベントや学会をオンラインで開催する際のライブ配信事業を行っていました。ありがたいことにお客様からの反応も良く、2021年に法人化しました。
—— 熱意が伝われば、応援してくれる人が現れる。
本当にそう思います。「地域を本気で良くしたい」という気持ちが、金融機関やお客様にも伝わったのかなと思っています。
組織づくりは「信じて、任せる」
—— 一緒に創業したのは?
学生時代の同級生です。彼はハードの知識やハードの構築が得意で、僕は営業と経営を担当。お互いの強みを信じて任せ合うスタイルでした。
—— 経営者として、意識していることは?
一番大事にしているのは「自分自身に期待しつづけること」。自分の人生理念でもあるのですが、人が生きる目的は「人に必要とされること」だと思っています。やはり必要とされるためには自分にも自分以外の大切な家族・従業員・お客様が何を求めているのかを常に考え行動することが大切になってきます。お客様にも、一緒に働く仲間にも、感謝と信頼で向き合うと決めています。
見えてきた課題。いばジョブ誕生の背景
—— 「いばジョブ」はどのような課題意識から始まったのでしょうか?
「竹梅映像」で映像制作を続けるうちに、地方の‥特に茨城県内の事業者が抱える根本的な課題が見えてきたんです。
そして、その課題は“人材不足”。特に中小企業や観光業の現場では、「人がいないから経営者自身の時間がなくなり、事業拡大や企業の未来のための時間が取りづらい」といった声をよく耳にしました。
—— 映像だけでは解決できない課題が見えたと。
はい。魅力を伝えるだけでは十分じゃない。そもそも働き手がいなければ、地域の魅力そのものが継続できない‥。それなら、地方に働きたい人と企業をつなぐ仕組みを作ろう、と考えたのが「いばジョブ」の原点です。
—— いろんな視点からアプローチしているのですね。
お客様に対して色々なことを伴走させていただいて感じるのは、どんな支援も結果的には「人の可能性」を引き出す手段だということ。例えば、映像制作は外への発信、人材支援は内側の強化‥。なので、私たちが可能な限りの方法をご提示しながら、地域の持続可能性を支えたいと思っています。
現場で得た“違和感”が、新しい事業のタネになる
—— 実際に現場に出ることの大切さを感じているそうですね。
本当にそうです。現場に行って、お客様の話を直に聞いて、肌で感じて初めて「これは課題だ」と確信に至ることがたくさんあります。例えば、映像制作中に話す社長さんが「採用募集出していて知り合いの大学生を紹介してよ」と何気なく話した言葉が、のちの人材事業に繋がったり。
—— 経営のヒントは、現場にあると。
はい。机上の戦略だけでは、地域ビジネスは動かない。僕たちが意識しているのは「一次情報を取りにいく姿勢」。だからこそ、現場での対話の時間は欠かせません。
「信用を得るために、まず自分が動く」
—— 若くして起業した中で、信頼を得る難しさはありませんでしたか?
最初は「若いけど、本当にできるの?」という目で見られることもありました。でも、そこでへこまずに、まずは“自分が動く”。実績を出すまでは、ひたすら現場で汗をかきました。
—— 信頼を得るためのスタンスがあったんですね。
はい。「有言実行」よりも、「無言実践」を大事にしてました。やると言ったことをやり切る。それが一番、信頼につながると思っています。
未来のビジョン──「“やってみたい”を行動に変える、1000人のきっかけを」
—— 今後、チャレンジしたいことはありますか?
僕の目標は、まず生まれ育った茨城県、地方の中小企業に若い人材が魅力を感じ入社し、結果として地方全体が活気に溢れるまちづくりに繋がっていく未来を作りたいです。そのためにも「1000人の“やってみたい”」という気持ちを、実際の挑戦に変えられる場をつくることです。ただ「応援する」だけじゃなくて、その一歩を踏み出せるような仕組みを用意したい。たとえば、地方で働いてみたい学生向けのインターン制度や、地元企業のスキルアップ支援など、現実的に動ける選択肢を増やしていきたいんです。
—— 若者が一歩踏み出すための、きっかけ作りですね。
はい。誰でも「何かしたい」という想いは持っている。でも、それを実現するチャンスがなかったり、踏み出す勇気が出なかったりする。だからこそ、僕たちは“行動できる仕掛け”を提供していきたいと思っています。地方にも若者にも、眠っている魅力や可能性がたくさんある。それを掘り起こして、形にするまで伴走したいです。
梅原さんの挑戦は、単なる事業ではなく、「人」と「地域」の未来をつなぐ取り組みでした。
あなたの「やりたい」に、寄り添う誰かがきっといる。
その一歩が、未来を変えるかもしれません。