支援が終わったあと、その人はどうしているのか。 そもそも、窓口まで来られなかった人は、どうしているのか。
就労移行支援の現場で6年半、若者や障害のある方の就職に向き合ってきた中で、その違和感はずっと消えなかった。支援の枠組みの中でやれることはやり切った、という実感があるからこそ、余計に。
今回、10代・20代前半の若者の孤立をなくすことを目指す認定NPO法人D×Pで働く人の日常や本音を映す「スタッフインタビュー」に登場してもらうのは、LINE相談「ユキサキチャット」の相談員として働くばんびさん。物事を一つひとつ丁寧に掘り下げて考えるタイプで、「これで本当に合っているのかな」と自分にも周りにも問い続ける姿が印象的です。
その違和感を抱えたまま転職活動をはじめ、D×Pのユキサキチャットに出会いました。当時の悩みと、今感じていることを聞きました。
「人の幸せをこんなに考える学問はない」。福祉に惹かれた大学時代
──もともと、対人支援の仕事を目指していたんですか?
最初から福祉一本だったわけではなくて、大学に入った頃はまだふんわりしてたんです。ざっくり「社会のことに関心がある」くらいで、社会学部とかも受けていたくらいなので。
もっと遡ると、ナイチンゲールとかマザーテレサが好きで、看護師に憧れていた時期もあったんですよね。数学ができなくて諦めたんですけど(笑)。昔から、誰かをサポートすることに興味があったんだと思います。
大学では心理社会福祉学科の福祉コースを選びました。そこで最初に教わったのが、「普通の暮らしの幸せ」って何だろうということ。お金じゃなくて、倫理や社会正義を大事にしましょうって。人の幸せをこんなに真剣に考える学問はないんじゃないか、と思ったんですよね。
学生時代は関西で高校生支援のボランティア活動もしていて、定時制高校に通う高校生たちと関わる中で、「生まれ育った環境によって自己肯定感がこんなに左右されるんだ」と実感して。マイナスをゼロに近づけていくこと、社会のはざまにいる人たちへの関心は、あの頃が原点だったと思います。
お給料の話より先に、ビジョンを語ってほしかった
──新卒で就労移行支援の会社に入社されたのは、どんな理由からですか?
就活の軸は「社会を良くしようと本気で思っている人たちと働きたい」ということでした。福祉業界の説明会にもいろいろ行ったんですけど、ビジョンの話より先にお給料の説明から始まる法人も多くて。
入社した会社は、「障害は社会の側にある」という考え方に社員みんなが共感していて、ビジョナリーな会社だなと思ったんです。第一希望で入社しました。
18〜65歳が対象の就労移行支援でしたが、実際は大学生や20〜30代の若い方の割合も多かったです。発達障害、知的障害、精神疾患のある方の就職サポート全般に関わっていました。自己分析、書類選考の対策、面接練習、体調管理やコミュニケーションの相談まで、幅広かったですね。
──6年半働くなかで、何か感じるようになったことはありましたか?
就労移行支援って、今振り返ると「ある程度、生活基盤が安定している方」が来られる場所なんですよね。基本的に半年〜1年、就職活動をする期間があって、その間収入がなくても生活できる方、実家のサポートがある方が多かったんです。
しかも、こちらは「就職」というゴールを定めて支援するので、「今すぐ就職を目指すのが本当にこの人にとって良いのかな」と思っても、進めていかなければいけない場面もありました。
もちろん、社会の「はざま」にいる方も来られていました。ただ、就労移行支援という制度の枠組みの中では、そもそも窓口までたどり着けない人、就職の前段階で困難を抱えている人、支援が終わったあとに生活が崩れてしまう人のことは、考えきれないという構造がある。そこが、ずっと気になっていました。
「相談業務がしたい」のではなく、「ここでならできる」と思った
──転職は、どんなきっかけで考え始めたんですか?
不満というより、好奇心の方が強かったです。5〜6年いると、仕事の全体像も見えてくるんですよね。新しいことに挑戦するというよりは、今までの積み重ねだったり、後輩の育成だったりが増えていって。「もっと外の世界を知りたいな」という気持ちが強くなっていました。
そのタイミングで、残るか転職するか、すごく悩んで。「良いところがあれば動こう、なければ働き続けよう」くらいの感覚で転職活動を始めたときに、D×Pの求人を見つけたんです。大学時代にボランティアで関わっていた縁もあって、D×PのHPやSNSは時々見ていました。
行政の相談機関なども検討したんですが、ちょっと違うなと思って。結局そこも枠組みにはまってしまう。前職時代に感じていたのと同じ限界を感じたんです。
──ユキサキチャットという「業務内容」に惹かれたんでしょうか?
ユキサキチャットは、LINEで13〜25歳の若者の進路や生活の相談を受けながら、必要に応じて現金給付や食料支援も行っているサービスなのですが、正直、「相談業務がやりたい」「ユキサキチャットがすごくやりたい」というよりは、まず「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」というD×Pのビジョンに共感できる、というのが先にありました。「この人たちなら、この仕事なら、できるかもしれない」という順番だったんです。
それまでの仕事も、社会のはざまにいる人と関わる仕事でした。その延長として、D×Pはさらにその「はざま」にフォーカスしている仕事だなと思ったんですよね。
この仕事を続けられている、3つの理由
──実際にD×Pで働いていて、どんなところに価値を感じていますか?
3つあります。
1つ目は、組織としてビジョンが明確で、それに共感できること。ユキサキチャットのチーム内でも、社会に対するもどかしさとか、「誰かを悪者にするわけじゃないけど、もっとこうなったらいいのに」みたいな話が、雑談のなかでも自然と出てくるんです。
2つ目は、スタッフ一人ひとりがそのビジョンに共感して、同じ方向を向いて進んでいること。熱量の出し方は人それぞれですが、みんな社会課題へのアンテナが高いなと感じます。
3つ目は、社会が良くなっていくことに、自分の仕事が貢献できているという感覚です。経済的な発展というより、弱い立場に置かれている人が生きやすくなること。もちろん、最低限のお給料は大事です(笑)。忙しいかと聞かれることもあるんですが、この3つが満たされているので満足度は高いです。
「揺らいでいい」。むしろそれが、この仕事の強さになる
──どんな人がD×Pに向いていると思いますか?
前職の同僚にも、実はD×Pっぽさを持つ人は多かったんです。社会課題への関心がすごく強くて、それが表に出るかどうかは別として、自分の中に静かに「こういう社会があるといいよね」という軸を持っている人たちでした。
D×Pはチームを大事にする組織で、相手の意見を尊重しながら進めていく柔らかさがある風土です。だから、「この支援が正しい」という信念を強く持ちすぎている人は、正直合わないかもしれません。
むしろ向いているのは、「自分がやっていることは本当に合っているのかな」という揺らぎを持てる人だと思います。正解がないことを前提に、その葛藤を抱えながら周りと話してチューニングしていける人。全部揃っていなくてもいいですが、そういう姿勢がある人は合うんじゃないかな、と。若者に対しても「これが正しい支援です」と押し付けない。それがD×Pらしさだと思います。
──そういう感覚は、どんな経験から培われたと思いますか?
学生時代のボランティア活動での経験が大きいです。100人、1000人単位で高校生やボランティアスタッフに出会う中で、家出してストリートミュージシャンになった人、親御さんが離婚されている人など、当時の自分からすると「ヘビー」に思える経験を持つ人にたくさん出会いました。
自分は、経済的に困ったこともなく、まっすぐ進学してきた人間で。「自分の知らない価値観や経験をしてきた人がいるんだ」と気づかされました。そして、自分の中にも無意識の差別や偏見があるだろうな、と。それを少しでもフラットにしていきたい、という気持ちが今もずっとあります。
自分と違う人に出会ったときに、「かわいそう」ではなく、「こんな人もいるんだ」「なんでこうなったのかな」「自分に何ができるかな」という感情が湧く人。そういう人は、この仕事に向いていると思います。
「もう一歩踏み込みたかった」あなたへ
──最後に、この記事を読んでくれた人に伝えたいことはありますか?
今の現場で、目の前の一人ひとりに真剣に向き合っているからこそ、「その先」が見えなくなる瞬間ってあると思うんです。支援が終わったあと、その人はどうしているんだろう。そもそも、うちの窓口まで来られなかった人は、どうしているんだろう。制度や枠組みの外にいる人のことが、ずっと気になっている。
それは、今の現場で手を抜いているから感じる違和感じゃなくて、むしろ真剣に向き合ってきたからこそ気づける違和感だと思うんです。私自身も、同じ場所を通ってきました。
ユキサキチャットは、正解のない問いを前に、チームで頭を抱えながら、それでも「今できる最善」を考え続ける仕事です。もし「もっと若者の人生全体を見ながら関われる仕事がしたい」と思っているなら、ぜひ一度、話を聞きに来てくださいね!