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日本のスタートアップからみた中国マーケット

大家好(こんにちは)!トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社の小林です。

スタートアップ業界に飛び込んで4年になりますが、その日は突然やってきました。当社の開発した排泄予測デバイス「DFree(ディー・フリー)」を、どうしても中国に紹介したい、という公的機関からの依頼によって、2018年3月に10年ぶりに中国へ行くことになりました。

大学の第二外国語が中国語というだけで、中国語がペラペラに話せるわけではないのですが、そこから、約半年間で6回、中国へ行くことになりました。まずは、深セン(と香港)、次は北京と上海、また上海と杭州、そして瀋陽と大連、またまた上海と、ほぼ毎月中国に行きました。

遊びに行っていたわけではないので、中国のヘルスケア、特に介護マーケットの状況、そして、日本と中国の違いなどについて、まずは、紹介したいと思います。

中国の高齢者人口は、既に世界一!!!

中国の65歳以上の高齢者人口は、2017年時点で1億5,831万人となっており、既に世界一の高齢者を抱える国になっています。そうです、中国は、日本の総人口以上の高齢者を抱えている巨大マーケットなのです。また、2017年の中国の高齢化率は11.4%(日本:27.3%)ですが、予測では、2060年には高齢化率は30%を超え、日本と同じく、約3人に1人が高齢者という超高齢社会になる見込みです。

■高齢化率の推移(主要国比較)

それに伴い、2023年には中国の高齢者産業の市場規模は、約170兆円に達すると見込まれており、ここ5年で急成長が見込まれ、ヘルスケアとしては、大変有望なマーケットです。実際に、中国政府や事業会社は、介護分野を含むヘルスケアへの投資を積極的に行っています。2017年におけるヘルスケア関連のITベンチャーへの投資額でも、既に中国は日本の約15倍の金額を投資しています。

■中国の高齢者マーケット

さらに、高齢者人口が増えてくると問題になってくるのが介護です。中国でも、介護の問題は徐々に顕在化してきており、一人っ子政策の影響もあり、さらに今後、深刻化してきます。介護の中でも、世界共通で、排泄ケアは非常に大きな負担になっています。中国で排泄ケア用品(主におむつ・パッド)の使用が必要な人(失禁者)は、既に4,000万人を超えており、成人用おむつ市場も急速に成長しています。日本の要介護者の人口が約600万人なので、その大きさがわかるかと思います。 中国は失禁者人口でも既に世界一なのです。

■失禁者人口の内訳

65歳以上で介護が必要な高齢者:約3,750万人
・65歳以下全身麻痺や片麻痺で要介護者:約200万人
・その他の症状で失禁している人:約100万人
 ※出所:全国老齢事業委員会(中国)

中国の介護事情「9073」

現在の中国では、在宅家族介護が90%、コミュニティ介護が7%、養老施設介護が3%という「9073」という構成比率になっています。上海市では「9073」ですが、北京市では「9064」となっており、地域によっても若干の差はあるみたいです。

いずれにせよ、90%が在宅ということで、日本では、約600万人のうち約200万人が介護施設に入居されていますので、中国の在宅比率の高さがわかるかと思います。この理由としては、介護施設の建設が追い付いていないことに加えて、中国では儒教の思想により、親は最期まで子供が面倒をみるべきである、という考え方も影響しているようです。現地の人から聞いた話によると、介護施設のサービスレベルがそれほど高くないということもあり「介護施設に両親を入居させる=両親を見捨てた」という見方を周囲からされるケースもあり、介護施設が敬遠されることもあるようです。

中国の介護モデル(構成比率)

在宅家族介護が高齢者介護のメインモデルである一方、「一人っ子政策」や「老人空巣家庭(独居老人)」等の問題により、今後、在宅家族介護の一本足であり続けることは困難になるため、都市部の介護施設では、供給が需要に追いつかなくなっていくと考えられます。実際に、現在、中国では史上空前のハイペースで、介護施設あるいは高齢者が入居する巨大な街(コミュニティ)のようなものが建設されています。それに伴い、ヘルスケアの中でも、介護分野への投資熱が高まっています。

中国政府も、ここ数年で本腰を入れて介護問題への取り組みを始めています。これまで、何の制度(補助)もなかったのですが、2016年6月から、介護保険制度の試行ということで、上海市・広州市などの15都市を試行拠点として、それぞれ介護保険の制度を設計して導入しています。

■長期介護保険制度の例(上海市)

ただ、まだまだ試行段階ということで、各自治体で制度が異なっていたり、宝くじの配当金(そんなに大きな規模ではない)を原資にしたり、補助の金額もそれほど大きくないような状況です。2020年までに全国での介護保険制度の導入完了(=皆保険)を目指すとしていますが、制度的には、これからまさに創っていくというフェーズです。

中国をはじめ世界が注目するのは、日本の介護!!!

そんな中で、中国をはじめとした主要国が注目しているのが日本の介護です。これは介護制度だけではなく、介護サービス・製品や技術まで、世界中の国々が、超高齢社会で課題先進国である日本が今後どうなっていくか、どのように課題を解決していくかを参考にしたいと考えているからです。当社でも、世界各国の介護施設などの現場に出向き、介護の実態を視察しておりますが、やはり介護サービスとして、最も進化して、最先端を走っているのは日本であると認識しています。

毎年、国内最大の福祉機器の展示会「国際福祉機器展(通称:HCR)」が開催されていますが、3日間の来場者数は10万人を超え、海外からの来場者も非常に多くなっています。いまや、CEATECの来場者数15万人にも迫る勢いとなっており、国際的にも非常にプレゼンスの高い展示会となっています。当社のブースにも、中国・香港・台湾・韓国からの方々が訪問いただきました。
※国際福祉機器展ホームページ https://www.hcr.or.jp/exhibitions/exhibition2018

■2018年10月に開催された国際福祉機器展(当社ブース前)


課題先進国の日本が勝負する領域は?!

これほど、日本が世界から注目されている領域は、残念ながら、介護の他にはないかもしれない、というのが、いまの日本の実態だと認識しています。かつては、製造業、バブル崩壊前は金融機関が日本の経済成長を支え、世界経済を牽引していましたが、いまやそれは見る影もありません。平成元年には、世界の時価総額ランキングの上位50社中32社が日本企業でしたが、平成30年にはそれが僅か1社だけになってしまっています。
※週刊ダイヤモンド記事参照 https://diamond.jp/articles/-/177641?page=2

ここからは、すごく個人的な見解で恐縮ですが、もう一度、日本経済が活力を取り戻すためには、介護をはじめとしたヘルスケア産業にこそ、そのヒントがあるのではないかと前々から考えています。だから、私はこの領域で仕事をしていますし、日本が得意なこと、世界中のどこの国よりも先行していることで、勝負することが、一番、重要なので、大きなチャンスがあるのではないかと感じています。

その一方、本当にいまでないと、この優位性はいずれは追いつかれてしまい、価値のないものになってしまうという危機感も持っています。特に、中国の成長スピードは、日本とは比べものにならないほど早いからです。何十社も面談して感じたイメージですが、中国企業の1週間は、日本企業の1ヵ月です。

意思決定のスピードだけではなく、制度についても、まず規制するのではなく、やってみて問題があれば対応していくような進め方、そして、圧倒的な資本力と人的リソースを投下されて、一瞬で追い抜かれてしまう可能性があると思っています。とにかく何をするにしても桁が1つか2つ違います。

■中・米・日のベンチャー投資金額(2016年)

出所:投資中国、清科研究中心、NVCA Yearbook 2017、Crunchbase、CBInsights、JVR、ユーザベースよりドリームインキュベータ上海が分析・作成

実際に、中国に行く前までは、日本はGDPでは抜かれたかもしれないが、まだまだ日本経済は中国経済よりも上だと心のどこかで思っていました。しかしながら、現地に行ってみると、まだまだ粗削りな部分はありつつも、完全に日本は中国に抜かれてしまったと感じることが多々ありました。特に、これまでにない新しい領域やイノベーションに対する意欲と、それを実行するスピードやリスクテイクの考え方など、なぜ日本が抜かれてしまったか、よくわかりました。

そうは言いつつも、介護領域においては、まだまだ勝機はあって、日本が世界の介護マーケットを牽引する可能性は十分にあると思っています。そのために、いま、日本に優位性がある時にこそ、どんどん中国をはじめとした主要国に出ていくべきだと強く感じました。

前述のとおり、中国は経済規模的にも人口規模的にも、間違いなく、今後、世界最大の介護マーケットになっていきます。そして、それは、既存の製品・サービスを提供する大企業であれ、スタートアップであれ、いまから全力で勝負していかないと勝てないと思いました。

ということで、当社は、これから中国進出に向けての準備を本格化していきます。まずは、現地でのピッチイベントへの出場や調査、現地でのビジネスパートナー・資金提供者探しなど、できることから始めていきますので、中国事業に興味のある方は、ぜひお会いしましょう。

■「Asia Hardware Battle 2018」第3位

あまり、うまくまとめきれていませんが、第1回目の中国の話は、このあたりで締めたいと思います。

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