従業員の健康管理を経営的な視点で考え、従業員が健康な状態でパフォーマンスを発揮できるよう積極的なサポートを通じて組織の活性化につなげる「健康経営」。
DeNAでは、2016年に従業員の健康サポートを行う専門部署CHO(Chief Health Officer)室を開設し健康経営を推進しています。今年度は、CHO室が中心となり労務や人事と協力のもと、通算3度目の「健康経営銘柄2024」に選定。また経済産業省と日本健康会議が共同で認定する「健康経営優良法人(大規模法人部門、ホワイト500)」にも8年連続で認定されました。
コロナ禍を経て働き方も多様になる中、どのような取り組みを通して従業員のパフォーマンスアップの支援を続けているのか。従業員一人ひとりの「DeNA流ウェルビーイング」実現に向けて邁進する、CHO室の活動を掘り下げます。
INDEX
「DeNA流ウェルビーイング」とは何か
──まずお聞きしたいのは、ミッションとして掲げられている「DeNA流のウェルビーイング」についてです。どういったことを指すのでしょうか。
菊池 有希子(以下、菊池):「ウェルビーイング」とは一般的に身体的、精神的、そして社会的に「良い状態」「幸福な状態」を表します。その状態になっていることで自分のポテンシャルを十分に発揮でき、良い状態で仕事に取り組めます。逆にいえば、不健康な状態などパフォーマンスを阻害する要因があると仕事に集中できないですよね。
一方で、「ウェルビーイング」な状態というのを一つの状態に定義するのは、多様な働き方を推進するDeNAではそぐわないだろうとも考えています。
畑 奈津微(以下、畑):一人ひとりが抱える課題も、それぞれの思うウェルビーイングな状態も違うだろうと考えています。なので個々のウェルビーイングを許容するのが「DeNA流のウェルビーイング」だと定義しています。
──なるほど。では「DeNA流のウェルビーイング」を実現する中で、大事にされている指標があれば教えてください。
植田 くるみ(以下、植田):当初から取り組み方針を決めています。それが、「Smile(笑顔)」「Positive(前向き)」「Diverse(多様性)」「Sustainable(継続)」「Collaborative(連携)」という健康5箇条です。
菊池:特徴的なのは、「前向き」と「多様性」を前面に出していることでしょうか。健康のためというと、「ラーメンは食べではダメ」とか「お酒は控えて」とか、何かを制限されるイメージが強いと思います。けれど、「ダメダメ」ばかりだと、堅苦しく感じて前向きに取り組もうと思えないですよね(笑)。そこで、健康5箇条にのっとりながらボトムアップを意識して「楽しみながら健康に」を実現できる施策をチームで検討を重ねながら実施しています。
畑:そのベースには、従業員のニーズの把握があります。年に1回全従業員を対象に実施する「ライフスタイルアンケート」や「働き方アンケート」、健康診断結果のデータ、施策ごとに実施するアンケート結果など、さまざまなデータを複合的に分析し施策を考えています。
──では、健康経営に取り組まれている体制やお三方が担っている役割について教えていただけますでしょうか?
植田:CHO室は現在4名ほどのメンバーで活動しています。メンバー以外にも、健康管理室や総務などの他部署や社外の専門家などと一緒に課題解決に向けて取り組んでいます。
その中で、私は副室長としてチームのまとめ役的な立場を担っています。CHO室の活動を通し、アクティブスリープ指導士の資格をとったので、その知識を活かし、睡眠についてのレクチャーもしています。
菊池:私は前職でメディア編集をしていた知見を活かし、主に従業員が「参加したくなる」ような仕掛けやPR方法、楽しみながら健康になるような企画立案を担っています。
畑:私は長らくゲーム事業で数字分析やイベント運営をしてきた経験から、KPIや業務効率を重視し、数字やエビデンスに基づいた施策づくり、CHO室のワークフローの整備を担当しています。
体重増加、食生活の乱れ、孤立化……。変わる健康課題
──皆さんそれぞれのスペシャリティを活かしながら領域を超えて集まったチームなのですね。ところで、コロナ禍以後のDeNAの健康課題に変化があったと伺いましたが……。
菊池:DeNAではコロナ禍以降、リモートワークと出社を合わせた「ハイブリッドワーク」を推進してきました。また2023年からは「スーパーフレックスタイム制度」(※)を導入するなど、変化する働き方と連動して、従業員の健康に関する悩みや課題も少しずつ変わってきています。
※スーパーフレックスタイム制度に関する記事はこちら
──どのような健康課題が顕著になったのでしょう?
植田:2020年にリモートワーク制度を本格導入しましたが、当初目立ったのは「体重増加」「食生活の乱れ」です。10割出社だった2019年と比べると6割の従業員が前年比で体重増加。そのうち4割の人が3kg以上体重が増え、また、全従業員の0.5割程度だった1日の歩数1500歩以下の人の割合が4割まで増えました。
そういった変化が2022年度あたりから徐々にあり、2023年度には健康課題が“変わった”な、という感じがしました。
菊池:「個人の生産性が上がった」という声が多かったリモートワーク中心の働き方になって数年経過し、社内でのコミュニケーション機会が減ったことから、「チームでの生産性低下を感じる」という声が多くなるなど、コミュニケーションに関連する課題が浮き彫りになってきました。
畑:コミュニケーション不足はストレスや職場での「孤立」を感じやすくなるため、最終的にメンタル不調につながるという流れも見えてきたんです。
また、年に1回実施している健康に関するアンケートでわかったのは、適切に医療機関を受診すれば改善するのに放置していることで、明確にパフォーマンス低下につながる複数の症状があることです。そこで会社として受診をうながすサポートができないかを検討しはじめました。
──こうした健康課題を踏まえて、具体的にどのような施策を打っているのでしょうか?
植田:CHO室では当初より従業員から吸い上げたニーズをもとに、「エクササイズ」「メンタル・睡眠」「食」という3つの柱を立て施策を行ってきました。昨年度からは、それにコミュニケーション要素を強くかけ合わせるようにしています。また、4つめの柱として「メディカルサポート」を始めました。
「×コミュニケーション」と「メディカル」を新機軸に
■ 従来施策に「×コミュニケーション」でメンタル課題へアプローチ
──「エクササイズ」「メンタル・睡眠」「食」にどうコミュニケーションをかけ合わせたか、教えてください。
菊池:臨床心理士と一緒に、毎回テーマを設定しオンラインで雑談を行う「ホッとカフェ」を開催しています。参加者は、直接会話したり、チャットでコメントしたり、仕事のかたわらラジオのように聴いたり、それぞれにあった楽しみ方をしていただいています。
また、出社推奨日イベントでは、脳トレやけん玉などの健康的な遊びを通して、同士のコミュニケーションが取れる機会を増やしています。
植田:メンタルに影響の出やすい睡眠については、睡眠に関するリテラシーを高めてもらうため、スマートウォッチを使った睡眠データのはかり方、改善ポイントなどを伝えるオンラインセミナーも開催しました。データと情報をセットで伝えることで興味が深まり、参加者の納得感も増しているように思います。
畑:また、去年からSAS(睡眠時無呼吸症候群)の可能性のある従業員に向けて検査補助もはじめました。告知後すぐに募集定員満枠の申し込みがあったことからも、ニーズに即した施策は反応がいいなというのを実感しましたね。なので、今年も実施を予定しています。
──「食」に関してはどのようなことをされているんですか?
菊池:月に1回、時短料理研究家のいとえりさんを招き、「昼休みの1時間でつくって、食べて、片付ける」をテーマにオンライン料理教室を行うスマートクッキング部を開設しました。コンビニ食材でつくるコブサラダや、千切りキャベツパックでつくる爆速お好み焼きなど、簡単で美味しくて健康的なレシピを教えていただいています。
この部活を通し、自炊へのハードルを下げ健康的な食生活への気づきになればいいな、と思っています。また、料理という共通の話題があるので、部活開催時や社内チャット内にある部員が集まるチャットもワイワイと会話が生まれているんですよ。
菊池:またエクササイズ分野については、理学療法士の先生による「出張ストレッチ講座」、コロナ禍はオンラインでのみの開催だったヨガですね。オンラインの他に、対面イベントを行い、ときには対面クラス実施後に先生とのランチ会を開催したりもしました。
畑:『kencom』アプリを使ったウォーキングイベント「みんなで歩活」も春と秋の年2回開催しています。チーム同士で歩数を競い合うイベントで、期間中はチームメンバーとアプリ内のスタンプを送り合ったり、チャットグループをつくって会話も楽しんでいます。
菊池:普段会わない別地域の方とチームを組むこともあるので、ローカルな話を聞けるなど、「歩活」を通して交流が広がっていくのが楽しいです(笑)。
植田:2021年から実施しているオンライン運動会「Fit Festa Online(FFO)」も、運動不足改善に関する取り組みの一つです。運動だけではなく、同僚を誘って運動をすると補助が出る「グル得企画」、チームで対戦する社内のeスポーツ大会など、コミュニケーションを促進する機会となるような設計を意図しました。
また、リフレッシュと社内コミュニケーションを狙った「ウェルネスワーケーション」も実施しました。従業員が健康アクティビティを入れて自由に参加できるタイプのものと、CHO室が企画した1泊2日のウェルネスワーケーションを2種類行いました。
菊池:1つは高尾山への登山を含めたもの、もう1つは山梨県の西湖でのものです。西湖では、焚き火やほうとうづくりなどのアクティビティ、樹海ウォークや富士山を目の前にしたヨガなどの運動を一緒に行いました。
ワーケーション後もメンバー同士が自発的に集まってランチ会などを開催していると聞いています。このように、施策を通して自発的な行動につながるのはとても嬉しいです。
■「メディカル」に関する取り組み
──では4つめの柱となった「メディカル」について教えてください。
畑:従業員アンケートや健康診断の結果、社内ヒアリングをもとに、課題感の大きな症状について専門医を招いてのセミナーを開催したり、症状検査のための費用補助、医療機関の受診・投薬への費用補助など「メディカル」に直結する支援施策を行ったりしています。
特にニーズが高かったのが「婦人科診療」「頭痛・偏頭痛」「花粉症などのアレルギー症状」でした。
昨年度はサポート施策に200名以上の申し込みがありました。一番利用者が多かったアレルギー症状のサポートについては、利用者アンケート回答者の92%が通院と適正な薬の処方で10%以上のパフォーマンス改善につながったと回答、またその半数以上は20%〜40%の改善率で、とても手応えを感じています。
──女性特有の健康課題に関するセミナーも好評だったと聞いています。
畑:PMSや更年期症状に悩まれている女性従業員がいること、また当事者の女性だけでなく、パートナーや上司・部下などの男性も接し方や知識のなさについて悩みを抱えていることがアンケートからわかっていました。
そこで、一昨年はPMSに関するセミナーとピルを利用してみたい方向けの補助施策を、昨年は更年期に関するセミナーと診療補助の施策を実施しました。
植田:年々セミナーへの参加者が増えるとともに、男性従業員も理解のために興味関心を持ってくれているのは嬉しいことです。
──女性のPMSについて、男性の同僚や上司が認識しているのは働く上での安心感にもつながると思います。
畑:ご家族の参加もOKとしているので、「妻と参加しました」という方も中にはいらっしゃいます。こうしたメディカル領域の施策は、元厚生労働省の医系技官でもあるCHOの三宅がすぐ横にいるのは大きな強みです。セミナーの企画を立てる際に「それエビデンスあるの?」「そうした内容ならば、あの病院のあの先生を調べるといい」と的確な助言をくれますから。
先日行った、ディスプレイなどを見続けると眼精疲労やメンタルの不調にも繋がりやすいという「VDT(Visual Display Terminal)症候群」のセミナーも、まさに三宅の知見が活きる企画でした。
植田:そうですね。特にエンジニアから目に関する不安の声が多く、セミナー開催の必要性を相談していたところ、国内の第一人者である先生を紹介してもらえ、とても満足度の高いセミナーを開くことができました。
変わる健康課題をキャッチアップし健康経営を日々アップデート
──では最後に今後どのようにDeNAの健康経営を進めていきたいか、教えてください。
菊池:やはり、コミュニケーション不足への課題を感じることが多いので、従業員の悩みへ寄り添いながら、まさにコミュニケーションしつつ一緒に課題解決に向けていきたいと思います。
また、メディカルサポートなどせっかくの素敵な企画も知ってもらわないと意味がないので、施策の認知を上げていきたいです。「なんだか楽しそう」が始まりで、「気がついたら健康になっていた」というような、素敵な結果につながるきっかけをたくさんつくっていきたいですね。
畑:私は、先述で少し触れましたが、オンラインによって増えた「孤立化」の課題を満たす施策を、今後は拡充していきたいと思っています。
また、事業部にいた頃は「健康無関心層」だったのですが、CHO室に来て「働く上での健康のあり方」「パフォーマンス維持できる知識を持っておくこと」の重要性を知ったからこそ、健康に無関心な人にも役立ててもらえる企画を推進したいです。
植田:CHO室が立ち上がって8年が経ちますが、その間に課題もニーズも働き方も大きく変わりました。そして今後も変わっていくのだと思いますが、どんなに環境や働き方が変わっても、従業員一人ひとりがセルフコンディショニングできるような知恵を積み上げていってもらえるよう、これからもその都度チューニングしながら活動を進化させていきたいと考えています。
DeNAにジョインしてくれる方、その家族の方も含めてそれぞれのウェルビーイングを実現できるような取り組みを続けていきたいです。
※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。