仕事をしているととかく「大変」「辛い」といった言葉が出てきがちです。しかし、坂下はマイナスなことは一切言わず、代わりにいつも口にするのは、「仕事は楽しい」という言葉です。楽しむことを大事にするからこそ、ポジティブな姿勢でいられるし、よい作品づくりにつながる。そんな彼の仕事を楽しむ極意をご紹介します。
めくるめく出会いに導かれた、“ものづくり”の世界
坂下 夏海(なつうみ)は入社4年目となる2019年4月現在、デザイナーとして女性向けゲームを担当しています。もともと「ものをつくる仕事」に憧れていました。そのきっかけは高校時代に遡ります。
坂下 「高校時代に観た『サマーウォーズ』( 2009年 8月公開 細田守監督)のイントロに衝撃を受けたんです。未来感があってかっこいい!って興奮しました。こんな作品を自分でもつくれればと憧れましたね。このときの体験は今でも一番印象に残っています」
この体験を機に、大学ではアニメーションコースを専攻。手書きだったり3Dだったり、アニメーションづくりに没頭しました。そんな日々を過ごしていくなか、アニメーションよりも「作品」をつくりたい想いが徐々に湧いてきたのです。
小さいころからテレビゲームをはじめ、ゲームが好きだったこともあり、就職先は作品のなかでも「ゲーム」づくりができる会社へ進もうと心に決めました。作品づくりと一口に言ってもいろいろな携わり方がありますが、坂下は企画でも監督でもなく、デザイナーを選択します。
坂下 「企画職にも憧れはありました。大学でアニメーションづくりを学ぶなかで、監督みたいな立場での仕事も見てきました。しかし、それよりも自分の “手 ”を使ってものづくりできる立場がいいなと思い、デザイナーを目指すことを決意したんです」
就職先の会社を選択するにあたっては、「ものづくりをしたい」が一番。それから、受託ではなく自社として作品を出している会社。それからゲームをやっている会社。この3点を軸に会社を調べました。
坂下 「小さいころからゲームは好きで。マリオやモンハンとかにハマりました。特定のジャンルに絞ってということはなく、何でも遊びましたね。就職先もやっているゲームのジャンルにはこだわりませんでした」
坂下が就職活動をしていたころは、スマホソーシャルゲームが勢いづいていた時期。それならば、スマホソーシャルゲームを手がけている会社にしようと思い、サイバードと出会うこととなりました。
“人”が架け橋となり入社 飛び込んだ彼を支えたもの
▲グラフィックデザインに加えてUIデザインも担当するように
「ものづくりをしたい」「ゲームをつくりたい」と強い想いを抱き就職活動をしましたが、サイバードに決めた理由は“人”でした。
坂下 「何社か面接を受けたなかで、サイバードが一番、人がよかったんです。面接を受けにいっているのに見定められている感じではなくて。面接官の人事担当の人が、色々アドバイスをしてくれたんです(笑)。一緒に頑張ってくれているって感じがしました。こういう人たちと一緒に働きたいって思いましたね」
一方で、入社前には不安に思ったこともありました。
坂下 「入社前のサイバードの印象は、『代官山でおしゃれ』『イケメンシリーズ』『女性が多くてキラキラしている』でした。自分は馴染めるだろうかと、その当時は正直不安に感じました(笑)」
しかしながら、その不安よりも“人”のよさが坂下のなかでは上回ったのです。
坂下 「不安に思っていたことは、あくまでも自分のイメージと憶測。入った後のまだ分からないことよりも、今分かっていること、自分がいいなと感じたことを優先したいし大切にしたいと思いました」
そして、2016年にサイバードに入社をしました。入社してまず間違っていなかったと感じたことは、入社の決め手となった「人がいいという印象」です。
坂下 「サイバードの人のよさって相手の立場に立って考えてくれるところかなって。入社後は上司や先輩から指摘を受けることも多々ありましたが、皆さん自分流を押し付けるのではなく、僕がつくったものを生かすようなフィードバックしてくれました。自分自身も若い人の感性を殺さず受け入れられるような人でいたいなって思いましたね」
その他にもよかったと感じたことがありました。
坂下 「自分たちの代は、研修期間が 2カ月ほどありました。そのうちの 1カ月はエンジニアリング研修でしたが、エンジニア以外の新卒も全員受けました。その是非は人それぞれだと思いますが、自分は、まったく何もわからない会社に入ってそういうことまで教えてくれるのはすごく丁寧だなと思いました。
マナー講習もあって。デザイナーには必要ないかなと、そういうことを事前に全然勉強してなかったので、使う機会の有無に関わらず、きちんと教えてもらったことで安心できました」
「入社してからの時間」と「楽しさ」は比例していた そして、これからも
▲坂下がデザインした社内ハッカソンのロゴなど
入社4年目を迎える今、これまでの会社生活のなかで、人間関係で悩んだことはない。サイバードの人の良さは変わっていないと感じています。しかし、デザイナーとしては悩むことはありました。
坂下 「これまでを振り返ってつらかったことは、締め切りはあるけど、自分が納得できるものができなかったときですね。担当していたサービスでゲームイベントのロゴをつくる機会がありました。事前のミーティングでプランナーの人からイメージの共有を受けて、そのイメージに沿ってつくって出したんです。
しかし、プランナーの思い描いていたものと異なっていてイチからやり直すことにしました。間違ったものは出したくない。だけど、締め切りは迫っているし、どこで自分の見切りを付けるかは悩みました」
期間の長さは違えど、時間と納得度のバランスには今でも毎回苦労します。一日熟考しても前の方がよかった場合もあったり。つくったものに対して100%の納得は今でもなかなかできません。
そうやって煮詰まったときには、改めてイチから考え直します。画家が絵を描くのとは違い、坂下の仕事は、ターゲットなどのルールがあります。どういう人向けなのか?季節はいつなのか?など手を動かす前に、思考の段階に戻ってルールに則った整理をすることを学びました。
デザイナーとしての環境の変化もありました。入社後はじめて担当したのは既存のゲームでしたが、担当をすることになり2年ほどで、ある程度自分はできるようになったと感じていました。しかし、今回新規プロジェクトに加わることになり、坂下はまだまだだなと痛感したのです。
坂下 「今振り返れば、初めて担当したタイトルは、それまで担当してきた人のナレッジのうえに自分は乗っからせてもらっただけで、ゼロから自分がつくり上げたものではなかったんです。今回ゼロからつくり上げることになり、初めて気がつきました」
自身だけでなくデザイナー組織としての変化もありました。入社した当時は、社内のデザイナーでありながら、受託のように感じることが多々ありました。
坂下 「皆でものづくりをするというより、デザイナーには部分的な仕事だけが降ってくるという感じが、正直ありました」
しかし、2年目、3年目と時間が経つにつれてデザイナー組織も大きくなっていき、デザイナーの立ち位置もしっかりしてきました。今では、新規プロジェクトにおいても早期からデザイナーも関わるようになり、企画担当者とも相互コミュニケーションをとりながら仕事を進めていけるようになりました。
これまでのやり方を踏襲するのではなく、よりよいやり方をデザイナーから提案しつづけ、それを周りの人たちも理解し「その方がいいね」と認知が変わってきた結果です。
「楽しさ」の源泉――自分と他者、ふたつの視点で
▲毎日楽しく不満もない 皆で色々なゲームをしたいという
坂下は「楽しい」という言葉をよく発します。
坂下 「仕事が楽しい、おもしろいです。丸 3年やってきて自分のつくったものが世に出るのが凄く嬉しいし興奮する。お客様はどう思っているだろう?と検索してみたりもします。エゴサーチです(笑)。そこでお客様の好意的なコメントを見ると、頑張ってよかったなって思います」
坂下が考えるデザイナーの定義は、「誰のために?」が常に軸にあるということです。アーティストが自分のなかの感情を表現する人ならば、デザイナーは人が考えていることや感じていることを代わりに作品にする人だと考えています。
だから、自分が携わるサービスを待っているお客様がいる限りどんなジャンルであろうと、お客様のことを考え作品をつくっていく。そして、忘れてはいけないのが、自分自身もつくり手視点だけにとらわれず、作品を見る側の立場で楽しむ気持ちを絶やさないことです。
坂下 「イケメンシリーズのシナリオを読んで、素で感動して泣いちゃったりもします(笑)。待っているお客様がいらっしゃる限りといった手前恥ずかしいですが、自分の『楽しむ』の源泉は『自分でつくったものでも自分で楽しめるし好き』ってことじゃないかな。それがお客様にも楽しんでいただけたら最高です」
デザイナーにも様々な特性がありますが、結局は皆、ものをつくることが好きだと言います。仕事で大変なことがあっても、皆おもしろいものをつくるのが好きだし、おもしろそうなものがあれば群がってきます。
坂下 「つくることが楽しいから、社内の皆さんにももっと気軽に相談してほしいです。デザイナーの手をわずらわすことはと皆さん気にするけど、サービスのことだけでなく、会社内のイベントでロゴをつくりたいとか。そういうこともやっていきたいので、部署とか関係なくどんどん声をかけてもらえればと思います」
楽しむことを大事にするからこそ、仕事のなかで楽しさを見つけることにも貪欲な坂下。これからも自分自身や共に働く社員の皆、そしてお客様が「楽しい」と思えることには、常にチャレンジしていきたいと思うのです。