今回は公認会計士メンバーの衣笠さんにインタビューを行いました。少し長めの記事ですが、非常に示唆に富んでおり、公認会計士という資格がどのように人生に影響を与えたか、そしてスタートアップ界隈に踏み出すことに繋がったのかを実体験に基づいて話してくれました。
中学校は地元の公立でしたが、高校受験で早稲田大学本庄高等学院へ進学し、その後早稲田大学の政治経済学部へ進みました。多くの方が人生の中で自分の将来に関してふと考えることがあると思います。僕の場合は高校を卒業する前、ふと自分の将来のことを考えた時に、将来何をしたいかは分からなかったけれど、難関資格を取るのはアリだなと思いました。当時思い浮かんだのは、弁護士、公認会計士、税理士でした。ですが、弁護士は丁度制度変更がありロースクールに通うことが必須になったため断念。一方、会計士になれば税理士にもなれるらしいと聞いたので会計士を第一候補にしました。
ーお父様も税理士ですよね?
はい、父も税理士です。高校生の段階で将来の選択肢に公認会計士と税理士が挙がるぐらいには影響があったかなと思います。父は社会人になってから資格勉強を始めたのですが、資格獲得に時間がかかったため、自分は資格を取るなら早い段階で…と反面教師にした側面はあります。子供目線ですが、やっぱり働きながらの資格勉強ってすごく大変そうだなと感じたんです。
ーお父様の背中を見て目指したわけではないけど、反面教師にしたんですね
はい(笑)実際には生活水準が変わる国家資格の威力を目の当たりにしたので、それを働きながら獲得した父親の努力への純粋な敬意もありますし、もう少し楽に進められないかなという反面教師の半々ですね。
ー(一同笑)
大学進学後にTACで会計士資格に関する話を聞き、学習内容も汎用的で、仕事内容も色んな会社が見れて面白そう、しかも年収も高めで税理士にもなれる!取っておいて損はない、と判断(笑)大学1年から公認会計士の資格に向けて勉強を始め、大学3年の頃に合格しました。公認会計士の試験合格後は実務補習所に入るのですが、シクミヤの代表の山岡とはそこで同じ班だったことがきっかけで知り合いました。
大学4年の12月に有限責任監査法人トーマツに入社し、国内監査部門で財務諸表監査/内部統制監査を行い、5年勤めた後に退職。その後、半年ほどの語学留学を挟み、帰国後はベンチャーに入社し投資業務や経営企画業務、IR、内部監査を担当しました。1年ほどで子供が産まれたことをきっかけに、より融通が利く自由な働き方のために独立を検討し、退職しました。
監査法人で感じた不安
監査という仕事はとても専門性が高く、会計基準や監査基準、関連法のキャッチアップが必須です。一方で事業会社で重宝される傾向がある営業や企画、経理や財務といった経験をなかなか積めません。なので監査法人で仕事をしていく中で、会計や監査には詳しいがそれ以外の経験がほとんどなく、年収は既に高いという状況に不安を感じたんです。ふと、監査法人以外のキャリアが限定的になるなと。なので、マネージャーになる前がいいと思い、5年をひとつの区切りとしました。
この時感じた不安はどういう仕事を自分がしたいかを客観視するきっかけになりました。
監査人として感じたビジネス理解の限界
先ほど話したように監査は専門性の高い仕事です。監査法人の監査は外部監査で、独立性を持って社外の第三者として監査を行います。客観的な視点で会社を理解できますし、なにより複数の会社を見ることができます。ですが、僕個人としては、経営・事業面から遠くなり、常に経営・ビジネスサイドの間に管理部を挟んで会社を理解することになるデメリットを感じました。
これは外部監査なので仕方がないことなのですが、例えば経理の業務フローをヒアリングを通じて理解を試みることと、実際に手を動かして理解を試みることで得られる理解の深さは異なります。優秀な監査人であれば、資料やインタビュー等から実際の会社の業務フローや意思決定のプロセス・背景を読み取り想像する能力や、クライアント担当者から情報を引き出すコミュニケーション能力が高く、それらの能力を駆使してクライアント企業のビジネス・業務理解の解像度を上げることができます。
ですが、普通の監査人は会社ビジネスの表面部分の理解に終始するというリスクを常に孕んでいます。少なくとも、僕がビジネスパーソンとして成長するためには事業会社の業務にもう一歩近づかなければならないと感じました。
成果にフォーカスできる仕事がしたい
また監査法人の話になるのですが、監査は事業会社から「チェックしてお墨付きを出す」という役割が一番期待されています。いわゆるお墨付きを出すために調書が大量に作成されますが、日の目をみることがないものがほとんどです。保証業務という業務の性質上、迫真の検討や論理的で美しい調書を作っても特別なバリューになりません。ですが、例えば意思決定促進のための分析業務であれば、より早く、精緻で示唆に富んだレポートには価値がありますし、投資家向けのピッチ資料であれば論理的で美しく、熱量と気迫の籠ったスライドは会社の運命を左右するほどの価値を持つことがあります。IPO準備で主幹事証券や東証へ提出するドキュメントや質疑の回答は、その一つ一つが上場確率に影響を与えます。
僕は後者の仕事にどんどん惹かれていき、その過程で目に見える成果が出せるようになりたい、そういった仕事がしたいという思いが強くなっていきました。
ー少し話を戻すのですが、監査法人を辞めた後に語学留学をされた理由は何ですか?
あまり大声で言える動機ではないのですが、TOEICで高得点取った後輩が転職を通じて年収を上げていたので…(笑)
ー(一同爆笑)
年収に対する不安
旅行も好きですし、海外で暮らしてみたいな、英語はいつか勉強してみたいな、業務範囲だけじゃなくキャリアも広がるだろうなという期待、という色んな理由が集約されていました。監査法人を退職した後だったので、やるなら今しかないなと。語学留学を通じて同じように語学留学をしていたメガベンチャーの方と知り合ったのですが、スタートアップを今後のキャリアの選択肢に入れるきっかけになりました。金の亡者のように聞こえるかもしれませんが、年収が下がる不安は少なくとも抱えていました。スタートアップと大手企業の給与を年収だけで比較することには、福利厚生や退職金などの手当の有無もあるので様々な意見はあると思いますが、実際にスタートアップでそれなりの年収で働いている人と知り合ったことで、僕自身の年収に対する不安はとても軽くなりました。スタートアップという選択肢もあるじゃん!と。
キャリアの空白を自ら作ることに抵抗がなかったわけではありません。ですが、公認会計士という資格まで取ってここでキャリアの空白を前にして尻込みするようでは、これから先何に対しても踏み込めないだろうなと思いました。もっとリスクを取っている人は山ほどいるのに、かっこ悪いな…と。英語で携帯契約したり、家借りたり、財布盗まれたり、留学ではいい経験をしたなと思っています。
ー(財布盗まれたんだ…)そこでベンチャーに転職し、お子さんが生まれたことをきっかけに退職したとのことですが、その後は何をされていたんですか?
その後は税理士である父親の事務所を手伝っていました。紙の資料をマニュアル入力する作業が多く、非効率性を感じていましたし、クラウド化するにも自分が経理のことをまだまだ理解していないことを実感しましたね…。手伝いながら税務の勉強も始めていたのですが、やはり自由な働き方を求めていた部分があるので、独立も視野に入れて既に監査法人を辞めて独立した補習所の仲間に話を聞きたいと思い、飲みに行きました。代表の山岡とはそこで再会しました。
独立に関する話を聞きに行ったのですが、そこで山岡がIPO準備を支援している会社で経理人材が欠員していることを聞きました。父親の事務所を手伝っているとはいえ、社会的にはニートなので、心配した山岡がその場で先ほどの会社の経理支援をしないかと声をかけてくれました(笑)
追記:山岡に後ほど聞くと、上場後のベンチャーでの経理業務経験がある衣笠から有益な話を聞こうと考えていたものの、再会した衣笠はまさかのニートで相当驚いたようです(笑)
その時は業務委託で3ヶ月の契約。先ほども言ったように、社会的にはニートです。失うものがないのでその場で業務委託が決定しました。その後は当時山岡がいた会社に入り、彼がスピンオフしたと同時にシクミヤに移籍しました。
-どうして山岡さんにそのままついて行こうと思ったんですか?
山岡をきっかけに業務委託を契約した際、彼の経理業務がとても合理的だと感じたんです。先ほど話したように、当時僕は独立を考えながら父親の税務業を手伝っていたのですが、紙の伝票や資料のアナログ入力がとても多く、決して効率的とは言えませんでした。ですが、山岡はクラウド会計を使い、Google DriveやGASを使って経理プロセスを効率化しており、それを目の当たりにした時にこの環境で働くことは実力面でプラスになると確信しました。
自分の判断に正直に生きるための資格
山岡と再会した時、僕には大きく分けて3つの選択肢がありました。山岡が所属している会社で彼と一緒に働くか、税理士業に本腰を入れるか、そして再度転職するか。その中でやっぱり一番力がつきそうな選択肢を取ろうと思いました。最悪のシナリオは実力もつかず、年収も下がり、その先の転職も不利になるというパターンですが、そのシナリオ下でも別にのたれ死ぬわけででもないだろう、ということでリスクは認識はしていましたが不安はありませんでした。振り返ると、公認会計士という資格は僕が自分自身の判断に正直に生きる後押しをしてくれました。公認会計士の資格を持っていて、監査法人で働いた経歴があるなら自己退職しても監査法人には大抵戻れます。見方次第ではありますが、僕が抱えていた不安やリスクはキャリアプランの変更の範囲で、今思えば大きいリスクではありませんでした。
独立を考えた時から僕が胸中で抱えていた不安とリスクは「仕事がなくなったら、なかったらどうしよう」が一番大きかった。だけど、その時から今まで暇になったことは全くありません。今はとてもプロジェクトと人に恵まれており、支援先企業は常に色々な課題に向き合い続けています。仕事はなくならないし、常にチャレンジングな仕事をしています。シクミヤも会社として自社サービスを開発し、事業を拡大しているとてもチャレンジングなフェーズにいます。
ー今はどういったお仕事をされていますか。
山岡との再会をきっかけに経理業務支援を行った企業で現在は財務責任者として働きながら、会計のレビューや、財務レポーティング、デットファイナンス、IPOプロジェクト管理、M&A関連業務などを行っています。その他のクライアント先でも財務/経理の責任者・マネージャーの役割で経営支援を行なっています。クライアントは常にチャレンジングな課題に向き合っていて、おかげさまで僕自身も日々忙しく、でも楽しく色んな仕事を経験できているなと感じています。
会社の荒波を超えていくために必要な課題に向き合い、価値を感じることをやる
監査調書を作ったり、会計上のアドバイスをしたりするより、会社の荒波を超えていくために必要な課題に向き合うことに意義を感じます。あ、かっこつけましたが、目の前に対応しないといけない事象があるのでわき目もふらずやっている側面もあります(笑)
実力がつく、成長できるという話を先ほどしましたが、今僕を動かしてるのは”自分が価値を感じることをやっている”ということだと思っています。スキルや能力面で何が向いているかが重要ではないとは言いません。実際、自分のスキルや能力面で何が向いているかを断定的にいうことは出来ないですし、分からない部分もあります。ですが、それは自分が価値を感じることをやることと比較すると、眇眇たるものだと感じます。今までのキャリアの話をしましたが、実は今後のキャリアをどうするかは現時点であまり考えていません。支援することになった企業がうまくいくといい、という気持ちが圧倒的に大きい。そしてそのために必要なスキルを優先順位をつけながら習得し、成果を出していきたいです。
ー公認会計士がシクミヤに入社した場合、どのようなキャリア形成ができると思いますか?
結論、希望に応じた幅広いキャリア形成ができる!(笑)スタートアップ支援を通じて経理や財務をはじめとした管理業務全般を学ぶ機会があります。いきなりスタートアップに入社する手もありますが、会社によって型の善し悪しがあるため、自社で型を持って複数のスタートアップ支援を行うシクミヤに入って学べる価値はとても高いです。
運用支援から入り、仕組み自体の導入や改善を行い、経営レポーティングや経営上の意思決定ないしその支援を行うことで、経理部長や財務責任者に必要なスキルを身に着けることもできます。プログラミングを習得し、コーポレートエンジニアとしても活躍している若手公認会計士メンバーもシクミヤにはいます。会計を軸にクライアントワークもできるし、自社サービスの開発やイベントの企画、シクミヤの広報・採用や新規事業の立案・運営もできます。
今、シクミヤは少数精鋭チームなので、スタートアップの支援をしながらもシクミヤ自体がスタートアップ的な面白みがあります。
僕としては、面白そうだなと思ったら是非声をかけてほしいと思っています。待ってます!(笑)
非常に真面目な話になったので、最後にハッピーバースデー俺!とSlackに投下されていた写真を貼っておきます
シクミヤでは一緒にスタートアップの成長を後押しする仲間を募集しております。カジュアル面談なども行なっているので是非、お気軽にご応募ください!