ルーツの物語② 親子の絆を育む場をつくりたい
児童養護施設での経験を経て、私は強く思うようになりました。「もっと早い段階で、親子の絆を支えることができたら、子どもたちは安心して育っていけるのではないか」と。施設で出会った子どもたちは、それぞれに素晴らしい力を持っていました。でも同時に、家庭の事情や環境によって、その力が十分に発揮できない現実も目の当たりにしました。子どもたちが「自分は大切にされている」と心から感じられる居場所を、どうにかしてつくりたい。その願いが、私を保育園設立へと駆り立てました。
1999年、私は思い切って小さな認可外保育園を開設しました。名前は「空飛ぶくじら幼児園」。大空を悠々と泳ぐくじらのように、子どもたちが自由に、そしてのびのびと成長できるようにという願いを込めました。開園当初は、施設も古く、決して立派とはいえない環境でした。でも、私にとっては宝物のような場所でした。そこには、子どもと向き合う喜びと、保護者と一緒に悩み、笑い合う日々があったからです。
保育園を始めてすぐに感じたのは、子どもたちだけでなく「親の居場所」も必要だということでした。保護者の方々と話していると、「子育てを一人で背負っているようでつらい」「誰かに相談できる場所があったらいいのに」といった声がたくさん聞こえてきました。私自身も、子どもは家庭の中だけで育つのではなく、地域や社会の中で支え合いながら育つものだと、日々実感するようになっていきました。
あるお母さんは、育児に自信をなくしていました。「うちの子は発達が遅れているのではないか」と不安を口にされました。私は「お子さんのペースで成長していけば大丈夫ですよ」とお伝えしながら、一緒に日々を見守っていきました。その子が少しずつ笑顔を取り戻していく姿を見たとき、そしてお母さんが「ここに通ってよかった」と涙ぐみながら話してくれたとき、保育園は子どもだけでなく親にとっても大切な居場所なのだと確信しました。
子どもを育てることは、決して親だけの責任ではありません。社会全体で支え合う仕組みがあってこそ、子どもは健やかに育ち、親も安心して子育てに向き合えるのだと思います。保育園はその要となる場所。私はそう信じて、この園を続けてきました。
「親子の絆を育む場をつくりたい」――その思いが、法人の理念の根っこになっています。そして、この小さな園での学びや気づきが、後に法人の設立、そして事業の広がりへとつながっていくのです。