ルーツの物語① 原点は、ひとつの出会いから
私が福祉の道に足を踏み入れるきっかけとなったのは、大学卒業後に携わった児童養護施設での経験でした。最初は右も左も分からず、子どもたちの前に立つ自分に自信もありませんでした。それでも、日々の生活の中で子どもたちと向き合ううちに、彼らの笑顔や涙、そして不安や孤独に触れるようになりました。その一つひとつが、私の心に強く刻まれています。
ある日、夜遅くに泣いていた子がいました。理由を聞くと、「どうせ自分なんか、誰も必要としていないんだ」とつぶやきました。その言葉に、胸が締めつけられるような思いがしました。小さな身体で背負ってきたものの重さに気づき、私はただ「あなたのことを大切に思っているよ」と伝えることしかできませんでした。けれど、その子は少しだけ表情を緩めてくれました。その瞬間に、私は思ったのです。「自分にできることは小さいかもしれない。でも、誰かの心に寄り添うことで、未来を変える手助けができるのではないか」と。
この体験が、私の進む道を決定づけました。子どもたちの人生のスタートラインにおいて、温かな環境と信頼できる大人の存在がどれほど大きな意味を持つのか。それを身をもって知った私は、「もっと早い段階で、親子のつながりを支えることができないだろうか」と考えるようになりました。そうすれば、子どもたちが「自分なんか…」と口にする前に、安心して未来を描ける環境を整えられるのではないか。
そんな思いを胸に、私は保育の世界に飛び込みました。1999年、小さな認可外保育園を開設したのが最初の一歩です。「空飛ぶくじら保育園」という名前には、子どもたちが自由に大空を飛び回り、夢を持って生きていけるようにという願いを込めました。施設の規模も資金も限られていましたが、子どもと保護者の笑顔に囲まれた日々は、私にとってかけがえのない時間でした。
振り返れば、あの児童養護施設での子どもとの出会いがなければ、いまの私はなかったと思います。法人を立ち上げ、保育園を運営し、やがて児童発達、就労支援へと活動の幅を広げていった原点は、すべて「目の前の一人を大切にしたい」という思いから始まったのです。
これが、社会福祉法人翔空会の物語の始まりです。