ゼロスペック株式会社は、IoTやAIなどのテクノロジーを活用し、灯油配送の効率化を支援する「GoNOW」などのプロダクトを開発する、札幌発のスタートアップです。
前回の「率直にお話しますシリーズ #1」では、現場メンバーが語る「センサーの信頼性」「配送計画機能の課題」「組織としての悩み」など、リアルな開発の裏側をお届けしました。
今回は、その課題群の"裏にある設計図"を描く人物——代表取締役社長の多田満朗に話を聞きました。「業務の効率化」という言葉の裏には、どんな思想があるのか。「必要十分な"いい感じ”」「ハードの制約をソフトで超える」プロダクト開発のフィロソフィーとは? そして、GoNOWはどこへ向かうのか。CEOの視座から、プロダクトの「本当の姿」に迫ります。
プロフィール
多田 満朗
代表取締役社長。札幌市出身。高校時代はサッカーに打ち込み、卒業後アメリカの短大へ留学。帰国後、広告代理店を経てニトリパブリックに入社し、広告関連業務や新規事業開発に従事。「数字で話せ」「40歳までは幅広く経験を積め」という教えを胸に、2015年、39歳でゼロスペック株式会社を創業。「データから未来に新たな価値を提供する」をミッションに掲げ、業界の変革に挑み続けている。
――前回の記事で、現場メンバーから「センサーの信頼性」「配送計画の使いこなし」「組織課題」といったリアルな声が出ました。CEOとして、どう受け止めましたか?
多田: 正直、私も同じ課題感を持っています。
だからこそ、現場のメンバーがそこに共感できている、同じ目線で見えているということは、逆に言えば同じ方向を向けているということだと捉えています。
課題があること自体は、悪いことではありません。むしろ、それを全員で認識して、同じゴールに向かって進めているかどうかが大事だと思っています。
――GoNOWを一言で説明すると「現場業務の効率化」になりますが、多田さんの頭の中では、もっと大きな絵が描かれているのでは?
多田: そうですね。私たちの根本にある考え方は、「データを活用して、人々がより良い判断ができる状況を作り出す」ということなんです。
配送効率化は、その一つの表れに過ぎません。
これから日本は人口が減少し、高齢化が進んでいきます。今までと同じやり方では回らなくなる。だからこそ、単なる改善ではなく、改革が必要になる。データを活用することで、その改革の土台を作れると信じています。
――配送以外にも、この考え方が当てはまる領域があるということですか?
多田: はい。たとえば営業や、店舗の運営なども同じだと思っています。
今まで人の勘や経験で「なんとなく」決めていたことを、データに基づいて判断できるようになれば、もっと良い結果が出せるはずです。レストランで言えば、「お客さんが来ない時間帯は営業しない」とか、「仕入れをデータに基づいて最適化する」とか。
灯油配送で培った仕組みは、同じような構造を持つ他の業界にも展開できると考えています。状態がわからないままアクションを起こせない、そういう領域はまだまだたくさんあると思っています。
――前回の記事でテックリードの若松さんが「需要予測とルート最適化を組み合わせて、AIが配送計画を提案する世界を作りたい」と話していました。これは技術的に、どのくらい難しい問題なんですか?
多田: 技術的に「できない」ということは、正直ないと思っています。お金や人をかければ、大抵のことはできます。
ただ、本当に難しいのは「何を解くべきか」を決めることなんです。
――どういうことですか?
多田: たとえば、計画の最適化と一口に言っても、変動する需要、天候、個別のお客様の条件、配送員のシフト……考慮すべき要素が無数にあります。それを全部やろうとすると、どんどん複雑になって、結局お客様にとっての価値が薄まってしまう。
だから、「一番大きい課題は何か」「お客様にとって一番メリットが大きいのは何か」を見極めることが、私たちにとって最も重要な仕事だと考えています。
よく社内でも言うんですが、「大きい石から入れなさい」と。小さい石から入れていくと、肝心の大きい石が入らなくなる。
――今、一番大きい「石」は何ですか?
多田: まずは「状態の数値化・可視化」を徹底することですね。センサーでデータは取れるようになった。でも、そのデータをどう扱うか、どう「使える」状態にするか——ここが本当に難しいんです。
前回の記事で若松さんが話していたように、センサーのローデータから本当の残量を推定するには、統計処理や時系列分析、タンクの物理特性を加味したモデリングなど、地道な積み上げが必要になる。
より良いアウトプットを出す為にはより適切にデータを収集する必要があり、それによって価値ある需要予測やルート最適化が出せるようになる。今やっているのは、その未来への足場を固める作業なんです。
――前回の記事で「必要十分な"いい感じ”」がフィロソフィーだと現場メンバーが話していました。この方針は、なぜ選んだのですか?
多田: これは、私の前職での経験が大きいですね。
ニトリがやったことは、家具やホームファッションのコストを下げて、多くの人が「季節に応じてカーテンを変える」「気軽に敷物を変える」といった、今まで高くてできなかったことをできるようにしたことなんです。誰でも気兼ねなく買える価格——業界では「ポピュラープライス」と呼ぶんですが、そういう考え方を徹底していました。
――その考え方が、GoNOWのセンサーにも反映されている?
多田: はい。高精度なセンサーを使えば、もちろん精度は上がります。でも、コストが10倍になったら、「本当は使いたいけど使えない」というお客様が出てきてしまう。それでは意味がない。
だから私たちは、ハードウェアの制約をソフトウェアの力で超えるという道を選びました。機能を絞り込んだセンサーでも、ソフトウェア側で補正・推定をかけることで、業務が回るレベルの精度を出す。
前回の記事で若松さんが「ローデータから本当の液面位置を推定するのがエンジニアの腕の見せ所」と言っていましたが、まさにそこがゼロスペックが考える核心なんです。
――エンジニアにも、その思想を共有してほしい?
多田: はい。これは営業でも、エンジニアでも、同じマインドでやってほしいと思っています。「自分が作りたいから」ではなく、「お客様に喜ばれるか」を基準にする。
複雑な機能をたくさん作って価格が上がるくらいなら、シンプルでも多くの方に使ってもらえるものを作りたい。そこは厳しく見ています。
――「AIで配送計画を自動化する」と聞くとスマートに聞こえますが、実際の開発現場はどうですか?
多田: 全然スマートではなくて、実際のプロダクト開発は泥臭いですよ(笑)。
ただ、私は「泥臭くやれ」と言いたいわけではなくて、達成するために必要なことをないがしろにしない、ということなんです。
――具体的には?
多田: 2つあります。
1つは、現場に行くこと。情報収集だけならAIでもできる時代です。でも、答えは現場にある。実際にお客様のところに行って、自分の目で見て、話を聞いて初めてわかることがある。私も今でもセンサーの開発で油まみれになることがありますが、そういうことを避けて、いいサービスは作れないと思っています。
2つ目は『なぜ』の徹底です。いいプロダクトや商品を作るのは簡単ではありません。みんなそう思いながらプロダクト作っていると思いますが、ついついお客様や上司などから言われたものをそのまま作ろうとしてしまったり、今まではこうだからとか業界の常識だからなど本質を見ずに判断してしまっていることが多くあります。トヨタで5回、ニトリで7回であれば私たちは10回『なぜ』を繰り返すことで、価値が提供できるプロダクトを作りたいと考えています。
――エンジニアにも、現場に行ってほしい?
多田: はい。これは口を酸っぱくして社内に言っています(笑)。
エンジニアが現場を見ていないと、人づてに聞いた情報だけで判断することになる。そうすると、「この機能をAにするかBにするか」という場面で、良い決断ができないんです。
三現主義を抜きにして、いいプロダクトは作れないと思っています。逆に言えば、現場に行った人は全員「行ってよかった」と言います。マイナスは一つもないんです。
――GoNOWの"PMF(プロダクトマーケットフィット)"は、今どのあたりですか?
多田: センサー自体は、かなりお客様に受け入れていただいている実感があります。7〜8割くらいでしょうか。
一方で、SaaSとしてのGoNOW——つまり、そのデータを使ってお客様の業務をどう変えていくか、という部分は、正直まだ2割くらい。伸びしろしかない状態です。
――「伸びしろしかない」という言葉、前向きですね。
多田: そうですね。センサーでデータを取れるようになった。ここからが本番なんです。
最初のステップは、今までの業務を効率化する、いわゆるDX的な役割。でも、その先に期待されているのは、今まで考えてもいなかったような改革です。
過去にはAIもなかった、データを取る手段もなかった。その時代に作られた仕組みを、新しい技術で根本から作り直す。過去にとらわれず、あるべき姿を実現していくのが、私たちの仕事だと思っています。
――最近「SaaSの死」という言葉を耳にします。「AIがあらゆる業務を代替し、SaaSは不要になる」という論調をどう見ていますか?
多田: 私の見解はちょっと違いますね。
SaaSの機能や内容にもよりますが、SaaS自体がAIを活用することで、さらに価値が上がっていくと思っています。AIはあくまでパートナー、オプションの一つ。それを組み合わせることで、より良いサービスが作れる。
GoNOWの中にも、AIを使えばもっと良くなる機能はたくさんあります。ただ、それは部分最適の話であって、最終的にそれをどう結合してお客様に価値を届けるか——そこは私たちがやるべき仕事なんです。
だから、AIは脅威ではなく、私たちの武器になる。プラスの面しかないと思っています。
――3年後、5年後のGoNOWは、どうなっていますか?
多田: 一番嬉しいのは、たくさんのお客様に使っていただいている状態ですね。今の10倍、100倍の方に使ってもらえていたら最高です。
あと、私たちは業界にこだわっていません。灯油配送で培った仕組みは、同じような構造を持つ他の業界にも展開できます。ある場所やモノに何かを供給する、回収する——そういった領域には、私たちの価値を提供できると思っています。
――その先にある「目指す世界」は?
多田: シンプルに言うと、「みんながもっと楽できたらいいよね」ということです。
灯油配送って、生活のライフラインなんです。その業務がもっと楽になって、残業がなくなって、休みが取れるようになって、プライベートの時間を大事にできるようになる。そういう状態を作れたら、私たちとしてもすごく嬉しいですね。
――最後に、これからGoNOWの開発に携わるエンジニアやPdMに、メッセージをお願いします。
多田: まず、チームを大事にできる人に来てほしいです。
天才的な人が一人でなんとかする、という世界ではないと思っています。迷ったときに相談できる、そうやってチームでデータを集めて答えを出していく。そういうマインドを持った人と一緒に働きたいですね。
あとは、現場を大事にすること。これは繰り返しになりますが、本当に大事なことなので。
――最後に、この記事を読んでいる方へ一言。
多田: ゼロスペックでやっている事業は、本当に楽しいです。
自分が作ったものを、多くの人に使ってもらえる。技術を持っていない私にはできないことを、エンジニアの皆さんはできる。それってすごく楽しいことなんじゃないかなと思っています。
面白いことにチャレンジしたい、多くの人に価値を届けたい——そんな方は、ぜひ一度話を聞きに来てください。お待ちしています。
「率直にお話しますシリーズ」について
このシリーズでは、ゼロスペックのリアルな姿——技術的な挑戦、うまくいっていない部分、組織としての課題——を包み隠さずお伝えしています。
前回の #1 では、現場メンバーが語る「センサーの信頼性」「配送計画機能の課題」「組織のボトルネック」など、開発の最前線のリアルをお届けしました。今回の #2 では、その課題群の裏にある「CEOの設計図」をお伝えしました。
「ハードの制約をソフトで超える」という技術的チャレンジ。「ローデータから、本当の残量を当てにいく」という地道な積み上げ。そして、「データで、より良い判断ができる世界を作る」というビジョン。 これらに共感いただける方、「難しい問題を解きたい」「技術で現実の課題を解き切りたい」という方は、ぜひ一度お話ししませんか?