行政は、スタートアップにとって最も入りづらい市場のひとつです。
予算化の機会は限られており、導入には実績が求められ、入札制度という高い壁もあります。その市場にPolimill株式会社は、「最高品質のAIサービスを無料で提供する」という戦略で参入しました。その根底にあるのは、創業以来の「資本主義への挑戦」です。市場メカニズムが内包する課題を、資本主義のルールの内側から解く。最も参入しにくい「行政」を選んだことも、その挑戦の一部です。
私たちが開発する行政向けAI「QommonsAI」は、現在約1050以上の自治体に導入され、2026年内には全自治体の約7割にあたる1,200自治体への導入を見込んでいます。行政という巨大市場に、どのように挑んでいくのか。なぜ、最高品質のプロダクトを無料で提供するのか。そして、この急拡大する事業のど真ん中で働く人は、どのような経験を得られるのでしょうか。
組織を立ち上げ、戦略を設計してきたビジョナリーエバンジェリストのJulian Brodyさんに、Polimillの事業戦略、社会に与えるインパクト、そして行政AIプラットフォームの最前線で得られる経験について聞きました。
「最も難しい市場」をあえて選んだ理由——社会課題をビジネスで解決するプラットフォーム戦略の原点
── まずは、Polimillを立ち上げた経緯と、どのような課題を解決したいと考えているのかを聞かせてください。
Julian: きっかけのひとつにあったのは、「自分の人生に残された時間を、社会課題の解決につながることに使えないか」という思いです。貧困や格差、環境問題、孤独・孤立、高齢者の社会保障——私たちが直面する課題の多くは、市場メカニズムの失敗」としても捉えられています。
一方で私は、こうした社会課題を資本主義のルールに則り解決できたら面白いと考えたのです。「将来への閉塞感が漂う現代社会に向き合うサービスをつくりたい」と思い、Polimillを立ち上げました。資金を集めて事業を加速させる手段として、株式会社は非常に便利なシステムです。ただ、それ以上に意識していたのは「株式会社そのものが市場メカニズムの象徴」であるということでした。素晴らしい仕組みでありながら、課題も内包している。そこに挑戦の意義があると考えました。
── 多様な領域が存在する中で、なぜ行政をターゲットにしたのですか。
Julian: 最も参入障壁の高い市場だからです。行政は年に1度しか予算化のチャンスがありません。そして、実績や経験が求められる入札制度があります。ただ裏を返せば、一度その壁を突破できれば他社が簡単には追随できない市場でもあります。だからこそ、最初に行政という“狭き門”を選びました。制度の設計を深く理解して参入し、前例をつくった者こそが、次の展開を設計できると考えていたのです。
── 高い参入障壁を崩すために、具体的な戦略はあったのですか。
Julian: プラットフォーム戦略ですね。最高品質のプロダクトを無料で提供すれば予算措置が必要ありません。自治体は期中でも申し込めますし、初めの1〜2件を開拓し、前例さえつくることができれば「無料で高品質のシステムを導入しない理由はない」と評判になり、自ずとプロダクトが広がっていくと考えていました。
── 高品質プロダクトの無料提供は、事業として相当大きな決断だったのではないでしょうか。
Julian: もちろん戦略として無料にした側面もありますが、それだけではありません。生成AIが進化し続ける中で、AIを導入可能な自治体と導入が難しい自治体の間には、住民体験の質的な格差が広がっていきます。
そのため「QommonsAI」は、自治体だけでなく、保健所、消防署、警察署、学校法人などのパブリックセクターを対象に、各組織1,000アカウントまで無料で利用できる形にしました。社会的なプラットフォームになるからには、果たさなければならない使命があります。生成AIの恩恵を一部の自治体だけが受けるのではなく、できる限り多くの公共機関が同じように活用できる状態をつくる。それが、無料提供に込めたもうひとつの意味です。
1,050自治体へ導入拡大――全国の自治体職員が使う“行政AIプラットフォーム”へ
──事業の現状を聞かせてください。
Julian:「QommonsAI」は現在1050以上の自治体に導入されており、2026年内には全自治体の約7割にあたる約1,200の自治体に広がる見込みです。数十万人の職員の方々に日常的に利用され、単一のAX基盤としては世界有数の規模に成長しました。日々複数の自治体から申し込みが寄せられている状態で、ニーズを確かに捉えていると実感しています。
── 無料展開後は、どのようにビジネスを広げていくのですか。
Julian: 「QommonsAI」のプラットフォーム上に、行政版のアプリストアを開きます。自治体職員の業務は約1,000種類に及ぶといわれており、専門性の高いAIが欠かせません。高機能なAIを月額課金で提供し、必要な機能を必要な分だけ使えるビジネスモデルです。すでに約30社の大手企業がアプリ開発に参加を表明し、開発が具体的に進んでいます。
当社は、「QommonsAI」を通じて全国の自治体が持つ課題を統計的に把握しており、社会的な課題と民間のソリューションをマッチングするビジネスも展開可能です。年内には約80万人の行政職員が日常的に利用する基盤になるため、メディアとして企業と自治体の事例を取り上げる広告企画などの施策も構想しています。
また重要なのは、「QommonsAI」がすでに自治体職員の方々が日常的に使う入口になりつつあることです。プラットフォームを押さえているからこそ、その上で新しいサービスを展開できると考えています。無料で広げて終わりではなく、その先に行政向けのエコシステムをつくっていくことが、私たちの事業戦略です。
──プラットフォームとしての存在感が高まることで、Polimillで働く人が得られる経験も変わってきそうですね。
Julian:まさに、今は非常にダイナミックなフェーズに入っていると思います。
現在も、誰もが知っているようなAI企業のシステムアーキテクトと、当社の開発チームが毎週のように定例ミーティングを行っています。エンジニアにとっては、入社してすぐに世界最先端の技術に触れられる環境です。もちろん、面白いのはエンジニアだけではありません。企画職であれば、どの企業と連携し、どのサービスを優先し、どのようなルールでプラットフォームを育てていくのかを考えることになります。営業職であれば、全国の自治体や民間企業から寄せられるニーズに向き合いながら、単に商品を売るのではなく、行政向けAIプラットフォームの広がりをつくっていく役割を担います。
行政、自治体、国内外の大手企業、世界最先端のAI企業。その交差点に立ちながら、事業をつくっていける。これは、今のPolimillだからこそ得られる経験だと思います。
行政が変わると、住民の暮らしが変わる——全国民のQOLを支える仕事
── 自治体の業務が効率化されることで、社会にどのような変化が起きるのでしょうか。
Julian: 大きく2つあると思っています。1つは、住民向けサービスの質が上がることです。職員がAIに任せられる作業が増えれば、本来考えるべきことに時間を使えるようになります。住民に何が足りていないか、どのような政策があると暮らしが良くなるか——じっくり考えられる時間が増えれば行政の企画や政策の解像度が上がり、住民のQOLが直接上がるでしょう。SNSなどによる情報や口コミが広がりやすい現代において、住民体験の質が上がることで、自治体に人が集まる可能性が高まります。
そして、もう1つは職員自身のQOLが向上することです。残業が減り、やりがいを感じられる仕事に集中できる。「地域住民を幸せにできている」と感じられれば、仕事への意義も深まると思います。
── 行政にとって、自治体職員の確保も大きな課題になっています。AIの活用は、行政の持続可能性にも関わってくるのでしょうか。
Julian: そう思います。人口戦略会議の試算では、2040年に自治体職員の数が半分になるとされています。内定者の辞退率が50%超の自治体も出てきているとのことで、小規模な自治体ほど現実的な危機として迫っています。生成AIによる業務効率の改善は、単に仕事が楽になるという話にとどまらず、行政そのものの持続可能性に関わる大切な施策です。
これまで、「お役所仕事」という言葉はどちらかというとネガティブな意味で使われてきました。しかし、最先端の技術によって行政の仕事が変わることで、イメージも変わっていく可能性があります。
日本では、ほぼすべての国民が何らかの行政サービスに触れています。つまり、行政サービスが変わるということは、この国全体のQOLが変わるということです。
「何を貢献できるか」より「ここで何を得られるか」——Polimillのフィールドで手に入るもの
── Polimillの組織フェーズについても聞かせてください。
Julian: 事業の拡大スピードが採用ペースを大きく上回り、現在の人員を短期的には2〜3倍に増やすフェーズに入っています。ただし「QommonsAI」を導入する自治体数が増えたからといって、いたずらに人を増やすつもりはありません。AIを活用することで、少人数でも大きな成果を出せる組織でなければならないと考えています。今後想定している事業規模に対しても、世界トップクラスのAI企業に近い生産性を実現できる組織を目指しています。
──現在は、どのような職種で採用を進めているのでしょうか。
Julian:当社では、エンジニア、営業職、企画職に加え、広報、財務・経理、経営企画など幅広い職種をを採用中です。クラウドメーカーやAIラボ、一般企業から毎日のように提携の話をいただく中で、連携先を決める判断は非常に戦略的な仕事です。営業職は自治体側からの問い合わせに対応することが中心のため、顧客の課題にコミットできる人に向いています。また、コミュニケーションを大切にしたい人やスキルを伸ばしたい人にとっても、Polimillは面白い環境だと思います。
なにより、どの職種であっても、行政AIという新しい市場そのものをつくっていく経験ができます。そこが、いまPolimillで働く一番の面白さではないでしょうか。
── 最後に、入社を検討している方へメッセージをお願いします。
Julian:当社に入社した方は「Polimillに何を貢献できるか」も大切ですが、それ以上に「ここで何を得られるか」を考えてほしいと思っています。それは、行政やグローバル企業とのネットワークでも、GovTechの知見でも、何でも構いません。自分の人生において、Polimillはひとつのフィールドに過ぎません。私たちは人生のなかで、限られた時間、認知能力、お金、エネルギー、感情といったリソースを、どこに投資するかを常に選びながら生きています。誰もが、自分の人生の経営者なのです。では、その経営者たちに私たちは何を差し出せるのか。Polimillという巨大な「可能性空間」だと考えています。ここをただ仕事をこなす場所にしてしまうのではもったいない。ぜひ使い倒してください。もし、Polimillというフィールドで「何か得られそうだ」と思えた方は、連絡をください。どのようなことが得られるか、一緒に考えましょう。私たちのミッションは「のこしたいみらいをともにつくる」です。その「ともに」に、あなたが加わってくれることを願っています。