「学生の思考力アップ」をテーマに、学校法人武蔵野大学 武蔵野大学中学校・高等学校 中村好孝校長先生と株式会社カルペ・ディエム 西岡壱誠が対談!「思考力とは何か?」「どうやって伸ばすのか?」「探究と受験をどうつなぐのか?」など、教育の今と未来をお話いただきました。
目次
今の学生の状況──日本の学生は元気がない?というのは間違い!
思考力とは何か?──中村校長先生が語る「3つの要素+1」
思考力を鍛えるために──「動く」方法は1つじゃない
家庭でできる思考力の鍛え方──「会話」すること
カルペ・ディエムと「アカデミックマインド育成講座」に取り組むことになった理由──「探究」と「受験」をつなぐ
「アカデミックマインド」ってどういう意味?──名付け親は中村先生
今後の構想──「アウトプット」できる場所の整備
今の学生の状況──日本の学生は元気がない?というのは間違い!
西岡:
本日はよろしくお願いいたします!
早速ですが、読者の方に向けて、簡単に自己紹介をお願いできますか?
中村:
学校法人武蔵野大学 武蔵野大学中学校・高等学校、校長の中村好孝です。僕はもともと小学校の先生をしていまして、その後予備校の先生・高校の先生・中学校の校長を経て、本校は現在2年目です。本日はよろしくお願いいたします。
西岡:
ありがとうございます!いま御校で「アカデミックマインド育成講座」を一緒に取り組ませていただいていまして、この対談の前もちょうど授業をしていました。御校の学生の皆さんはすごく活気があるなあ〜と感じますが、中村先生が学生さんを見ていて思うことや、昔と今で変わったことはありますか?
中村:
そうですね。基本的に素直で、真面目に取り組みますし、決められたことをきちっとやる学生が多いですが、昔と大きく違っているのは「自分の意見を一生懸命話そうとする学生の数」ですね。これまでは年齢が上がるにつれて、自分の意見を言わなくなっていく傾向がありましたが、今はその傾向が減ったといいますか、緩やかになっていると感じます。恥ずかしいという気持ちより、間違っているかもしれないけど自分の意見を言おうかなという姿勢が多く見られます。
西岡:
それは、いい兆しですね……!
中村:
「日本は欧米に比べてここがよくない!」という対比をよく耳にしますが、僕はそればかりではないと思います。日本の学生も確実に自己主張ができるようになっているし、今までのいい文化を取り入れながら変化しています。全国の教育機関のバックアップで、その流れが加速しているのが、今の学生の様子かなと思います。
西岡:
「アクティブラーニング」という言葉が出てから何年もたっていますが、たしかに学生さんに話を振ったときに、意見がしっかり出てくることが多いですね。
中村:
そうなんですよ。側面だけを切り取れば、日本が遅れている面ももちろんありますが、それをこえていける素養が確実に育っていますし、卑下する必要はないと思います。うちの学生が一生懸命なのがいい事例ですね。
西岡:
今日も授業中に問題を出したときに、周りの子と協力している場面も見られて、チームワークやコミュニケーション能力の基礎も育っているんだなと思いました。周りと一緒に勉強できることは、これからの学びにもプラスになりますからね。
思考力とは何か?──中村校長先生が語る「3つの要素+1」
西岡:
では、今日の対談テーマ「学生の思考力アップ」についてお話していきたいと思います。言葉は知っていても、なかなか理解することが難しい能力だと思いますが、中村先生はどのように定義されていますか?
中村:
僕も教師なので、黒板というか、ボードを使って話したいと思います!
西岡:
ありがとうございます!中村先生の授業が聞ける!(笑)
中村:
「思考力って何?」と聞かれて、僕だったらどう答えるかと考えた時に、「3つの要素+1」みたいなものがあると思っています。
まずは「先」。これは「先を考えること」です。ちょっとだけ先の未来、つまり、今これをやったら次に何が起こるかを想像する、横方向の考え方です。未来を見に行ってから、今のところに戻ってくれば、何をすべきかの考えが膨らみます。
次に「中」。これは「本質を見ること」です。議論をしたり、問題を解く際に「革新部分はどこなのか」を探す、縦方向の考え方です。国語の要約が分かりやすい例ですが、出題文章の革新部分を見つけるためには、必要なもの・要らないものを見極めて、削ぎ落とさなければなりません。
最後に「逆」。これは文字通り「逆の立場で考えること」です。例えば教師だったら、学生はどう思うか?と受け手の気持ちを考えることで、図を分かりやすくしたり、説明の順番を工夫できますよね。
この3つのどれかができるのではなく、それぞれの習慣を身につけることが、総合評価として「思考力」になるんじゃないかと思います。
そして、プラス1は「動」です。一番大切なのは、これまで話したような思考を行動に移すことです。3つの考え方が重なりあった状態が「動くこと」で発動するイメージですね。
思考力を鍛えるには、学生たちがこういった経験ができる場所を、僕たち大人が用意する必要があります。経験が増えるほど、この思考力の円が重なって、太くなって、速度が増していくと思います。
西岡:
ありがとうございます!お話を伺って、もうめちゃくちゃ納得感しかなくて(笑)
今お話いただいた「思考力」は特定の教科に限った話ではなく、全ての教科に必要だと思うんです。例えば英語の共通テストは全部読んでいたら、時間内に終わらない設計になっているので、「中」=必要な情報を抜き取る能力が必ず必要です。精読主義というか、全部読まないと答えが出ないという意識が強い場合、「中」の経験を積まなければいけませんね。
中村:
そうですね。学校で学んでいることって大人になってから絶対使わないじゃん!と思っている人も多いですが、決してそんなことはないです。実は学生のときから、思考力を鍛えるトレーニングを続けることが、ビジネスや日常生活の役に立つ。
仕事をしていると、中期計画や長期計画を考える場面がありますよね。これって言ってしまえば、テストの問題を解いていて、今これを聞かれるということは、次はこうじゃないか、全体を考えるとこれをやる必要がある、といった風に考える作業と同じなんですよ。
西岡:
たしかに、ビジネスの場面でこそ力が発揮されますね。
数学も「大人になったら使わないよね?」と言われがちな教科ですが、「先」を考える時に武器になると思います。例えば、YouTubeの登録者数の経緯から、未来の数値を予測したり…。学校の勉強って意味がないと思われがちですが、思考力を踏まえて取り組めば、勉強が面白いものに見えてくると思います。
中村:
この勉強は役に立つんだよ! と学生たちを「説得する」のではなく、学生たちに「納得してもらう」必要がありますね。やっぱり根拠もないのに頭ごなしに言われたことって、やりたくないですしやる気も起きないですが。納得感があれば、自分の中にちゃんと落とし込めるんですよ。
思考力を鍛えるために──「動く」方法は1つじゃない
西岡:
僕は「動く」つまり「インプット」だけではなく「アウトプット」することが本当に大切だと考えていて、講演会でもよくこの話をしています。動くことでしか得られないことがありますし、「経験」が「動く」という漢字に秘められているのかなと思いました。
中村:
派手なことや目立つことが苦手な子もいますが、今は昔と違っていろいろなツールがあるので、単に「動く」といってもやり方が無限にあります。僕たち自身もそのやり方を理解して、生徒たちの立場(=逆の立場)になる必要があります。
西岡:
そうですよね。コロナ禍になって、どの学校さんも大変な状況だったと思うのですが、逆にいいことはありましたか?って聞いてみたことがあるんです。その際にある先生が、オンライン授業になってから、普段発言しない子がチャットでよく発言するようになったという話を聞きました。僕たち大人が、さまざまな媒体やシステムを理解して、この子にはどんな方法がいいのか?というのを見つけていくことが大切ですよね。
家庭でできる思考力の鍛え方──「会話」すること
西岡:
「思考力」を鍛えるって学校以外でもできる場面が多いですが、「家庭」にフォーカスしたときに、保護者の方も実践できることはありますか?
中村:
やっぱり「会話」をすることですよね。先生にこんなことを言われてムカついた! こんなことがあって友達とケンカした! と子供から言われたときに、「先生はどんな気持ちでその言葉を言ったんだろう?」「どうしてその子は怒ったのかな?」と会話しながら視点を変えてあげることで「逆」や「中」などの思考をもつ場面が生まれると思います。
西岡:
コミュニケーションを繰り返すことで、視点を変えて考える癖がつきますよね。
中村:
そうですね。日常生活で実践していくことが、一番思考力を鍛えることにつながると思います。
カルペ・ディエムと「アカデミックマインド育成講座」に取り組むことになった理由──「探究」と「受験」をつなぐ
中村:
僕は「縁」を大切にしています。実は西岡さんに会う前から、西岡さんの本を読んでいたので「あ!この本を書いた人だ!」と興味津々でした(笑)
また、どこでも「探究」という言葉が話題に上がる中で、素朴な疑問がありました。それは「探究活動をすれば、テストの点数は上がるのか?」ということです。
僕は予備校講師として受験指導をしていましたが、やっぱり偏差値至上主義は存在しますし、テストでいい点数をとらなければならない場面がたくさんあります。「探究」と「点数」を分けて考えてしまうと、ここの橋がかからないんです。「探究」すればするほど「点数」も上がるという状況を作ることができれば、連続性が生まれて、学生のモチベーションにもなりますよね。
もしかしたら、カルペ・ディエムさんだったら、この橋をかけられるんじゃないか?皆さんが経験してきた勉強と、僕が考えている構想を一緒に取り組んでいければ、近道になるんじゃないか?そう思いました。
西岡:
ありがとうございます…!東大生と話していると、彼らは思考の幅が広いなと感じることがあります。当たり前に見えるけど不思議なことが世の中には無限にあるので、それに気がついて考えられることが、学習能力や認知能力として評価できるんじゃないかと思います。『東大思考』でも書かせていただきましたが、東大生は「勉強」と「日常」をつなげて考えられる人、つまりそこの橋を適切にかけられている人が多いですね。
中村:
自然に橋をかけられる子もいれば、やり方が分からない子もいますが、思考方法や学びのやり方って急激に変化するものではないし、根本は同じだと思うんです。
なので、東大生の皆さんが橋をかけられたなら、それをどうやってやったのかを子供たちに見せてほしいし、まねさせてほしいです。そうすれば、こんなやり方があるんだ!と直接学ぶことができますから。
僕たちみたいな大人が話すより、年の近い大学生のお兄さんやお姉さんに話してもらう方が、確実に学生たちに浸透します。まずは先輩たちが実践してきた「型」を学んで、その上で自分でアレンジして「オリジナル」をつくっていく、そんな経験ができることは学生たちにとって本当に有益です。いま「アカデミックマインド講座」として取り組んでいる特別授業は、まさにこれですよね。
西岡:
ありがとうございます。僕がふと思い出したのは、2浪目が決まったときにしたことです。東大に受かった人、東大を目指している頭のいい友人に「ノートを見せてほしい」「勉強方法を教えてほしい」「なんなら普段どんな生活をしているか教えてほしい(笑)」と100人くらい聞いてまわったんですが、自己流でうまくいっていない部分や反省点がたくさん見えました。モデルケースを知ることで、正しい努力の方法を見つけ出すことができたんです。
中村:
未来がイメージできるような「先の経験」を知ることって、自分を検証するだけではなく、「ここに近づきたい」っていうモチベーションにもなりますから、その意味でも大切ですね。
「アカデミックマインド」ってどういう意味?──名付け親は中村先生
西岡:
実は「アカデミックマインド」という講座名の名付け親は中村先生ですが、由来を教えていただけますか?
中村:
すごく単純でして(笑)「探究」と「受験」をつなげたいと思ったときに、「受験」という言い方をしてしまうから、2つを別物と捉えてしまうと思ったんです。なので「受験」ではなく「1つ上の段階=学問」をする講座、つまり学び問い・問うことを学ぶ講座なんだという意味をもたせるために「アカデミック」という言葉を使いました。ここに心構えとか準備の段階を示す「マインドセット」をくっつけて「アカデミックマインド」です。アカデミックなマインドを持つこと、1つ上のレベルで物事を考えていくという意識を学生たちに持ってほしいと考えました。
西岡:
納得感の話ともつながりますよね。講座でやっていることは「1つ上のレベルで物事を考える思考方法の獲得」で、これは受験、さらに未来へとつながっていく。今やっていることが未来へつながっているとイメージできると思います。
今後の構想──「アウトプット」できる場所の整備
西岡:
「アカデミックマインド講座」の「先」について、今構想されていることはありますか?
中村:
短期構想だと、アカデミックマインド講座でインプットしたことをアウトプットする場所を整備することですね。例えば高校生が小学校に行って、先生として小学生にも分かる説明と事例で、アカデミックマインドを教えるとか!
西岡:
いいですね!相手の年齢や興味によってどんな説明をするかも変わるので、とてもいい経験になると思います。
中村:
中期構想だと「人生の先輩に話してもらうこと」です。
少し話が離れますが、「青パト」って知っていますか?小学生が帰る時間に、近所のおじさんが自分の車に青いライトをつけてパトロールするんです。これは例の1つですが、高齢者が増えていく中で、自分が必要とされている場所をつくることって本当に重要で、地方創生にもつながると思います。
教育現場でそんな場所を作りたいと思っていて、まだ実現可能性は低いですが、学童に年配の方々を招いて、人生で培ったすごい経験を授業してもらうということができたら面白いだろうなと。アカデミックマインドに支えられていれば、先輩方の経験からたくさんのことが学べると思います。
西岡:
生きてきた時代が違っても共通する部分ってたくさんありますし、学べることだけではなく、刺激にもなるお話も多そうですよね。
日常生活と学問が切り離されている状況が現状がありますが、身の回りの問題に、学問を使ってどうアプローチすればいいか考えるのが、勉強の本来の楽しさだと思うんです。ここに納得感を持てるような取り組みを今後もしていきたいなと思います。
中村:
大学はゴールではないですから、今後の人生の財産になるような学びの場を提供していきたいです。先輩方の力も借りて、次の世代にいいバトンを渡していける活動の1つになれば嬉しいですね。
西岡:
未来への希望が広がるお話がたくさんできた対談でした。本日は本当にありがとうございました! 教育には無限の可能性がありますよね。今後もぜひさまざまな活動を通じて、一緒にその可能性を広げていければと思います。今後もよろしくお願いいたします。
公式YouTubeチャンネルに対談風景をアップしました!ぜひこちらもご覧ください。