転職を考えているエンジニアと話していると、最近よく聞かれることがあります。「今って、まだ転職しやすい時期なんですか」。数字だけで答えるなら「売り手市場は続いています」で終わってしまうのですが、現場で案件や採用に向き合っている身からすると、それだと半分しか伝わらない気がしています。市場は確かに動いている。けれど、その動き方が去年までとは少し変わってきました。今日はその話を、できるだけ正直に書こうと思います。
求人倍率の数字より、現場で感じている変化
数字を一つだけ出します。ITエンジニアの新規求人倍率は、2026年4月時点でおよそ2.6倍でした。前年の同じ時期は3.0倍だったので、求人の勢いそのものは少し落ち着いてきた、という見方もできます。ただ2.6倍という水準は、世の中の他の職種と比べればまだかなり高い。エンジニアを探している会社のほうが多い、という構造は変わっていません。
ただ、私が現場で感じているのは、倍率という数字には出てこないところの変化です。一年前は「とにかく一人でも多く」という空気の依頼が多かった。それが今は、「どういう人なら任せられるか」を細かく聞かれるようになってきました。数を埋めるための採用から、合う人を選ぶための採用へ。同じ「人が足りない」という言葉でも、その中身が変わってきたと感じています。
私たちはエンジニアを現場に紹介する仕事もしているので、この変化は肌で分かります。以前なら、経歴を見て「この経験があるなら大丈夫でしょう」で話が進んだ案件が、今は「具体的にどの工程をやってきたのか」「チームのどの位置にいたのか」まで聞かれる。一次面談の前段階で、すり合わせる項目が明らかに増えました。
もう一つ感じるのは、依頼そのものの言葉づかいが変わってきたことです。「人手が足りないので一人ください」という頼まれ方は減って、「このフェーズで、この役割を埋めてくれる人を探している」という頼まれ方が増えました。穴を埋めるための一人ではなく、チームの設計図の中の一マスを任せる一人。会社が人を入れる目的そのものが、少し丁寧になってきた印象があります。これは下半期にかけて、もっとはっきりしていくと思います。
「とにかく採る」が、止まりつつある
これは私たちのような立場の会社にとって、けっこう大きい変化です。少し前までは、ある程度の実務経験があれば入れる案件がたくさんありました。今もゼロではありません。ただ、クライアントが「経験年数◯年以上」という条件だけで人を決める場面は、確実に減ってきています。
代わりに増えたのが、「この技術をこういう体制でやってきた人がいい」「入ってすぐにこの役割を担える人を」といった、具体的な注文です。会社としては、人を紹介する前のすり合わせに時間がかかるようになりました。正直、手間は増えています。でも私は、これを悪い変化だとは思っていません。
合わない現場に無理やり人を入れて、入ったほうも受け入れたほうも消耗する。あの状態が減っていくなら、選別が厳しくなること自体は、働く側にとっても悪い話ではないはずです。ミスマッチで早期に現場を離れる経験は、本人の経歴にも気持ちにも、地味に傷を残します。それが減る方向に市場が動いているなら、長い目で見れば健全だと思っています。
問題は、この「選ぶ採用」の中で、自分が何を見られているのかが、求職者の側からは見えにくいことです。見えないまま「最近、書類で落ちることが増えた」とだけ感じて、自信をなくしてしまう人もいます。だからこそ、見られている中身を一度言葉にしておきたいと思いました。
AIが入って、見られる中身が変わった
選ぶ基準が変わった一番の理由は、やはりAIだと考えています。
少し前まで、エンジニアの評価で大きかったのは「コードを書ける力」でした。仕様を渡せば、その通りに動くものを作れる。それ自体が確かな価値だった時代があります。ところが、動くコードを書くだけなら、今はAIがかなりの部分を肩代わりするようになりました。簡単な実装やテストの下書きを任せて、人はレビューと判断に回る。そういう進め方をする現場が、現実に増えています。
そうなると、案件の側が見たい部分も自然とずれてきます。「書ける」ことは前提として、その上で、AIが出してきたものの良し悪しを判断できるか。なぜこの設計にしたのかを、後から人に説明できるか。要件があいまいなときに、自分から問いを立てて整理できるか。コードそのものより、その手前と後ろにある力が問われるようになってきました。
一つ、現場でよく見る場面があります。AIに書かせたコードはちゃんと動く。テストも通る。でも「なぜこの作りにしたの」と聞くと、答えられない。動いているから一見問題ないように見えて、半年後に別の人が触ろうとしたときに、意図が分からなくて手が止まる。こういうケースが、AIを使う現場ほど増えています。だから、判断した理由を残せる人、言葉にできる人の価値が、相対的に上がっているのだと思います。
世の中の動きを見ても、生成AIを使う前提の求人は、ここ数年で桁が変わるくらい増えています。AIエンジニアやデータ寄りの職種だけの話ではありません。ごく普通の開発現場でも、「AIを使って成果を出せること」が要件に書かれるようになってきました。あわせて、クラウドやインフラを理解して、自分で調べながら進められる人への引き合いは、むしろ強くなっているように感じます。
「経験年数」という物差しが、効きにくくなった
こうした変化の中で、いちばん揺らいでいるのが「経験年数」という見方だと思います。長く現場にいたかどうかが、これまでは一つの安心材料でした。三年やってきた人なら、ある程度のことは任せられるだろう、と。私自身、紹介する側として、その物差しに頼ってきた部分はあります。
ただ、AIが単純な作業を引き受けるようになって、この物差しが少しずつ効かなくなってきました。同じ三年でも、言われたものを作り続けてきた三年と、なぜそう作るのかを考えながら過ごした三年とでは、出てくる差が以前より大きくなっています。年数は同じでも、任せられる範囲がまるで違う。採用する側も、そこに気づき始めています。
だから面談でも、経歴の年数をなぞるより、「直近で一番悩んだ判断は何でしたか」といった聞き方が増えてきました。年数で輪郭を測るのではなく、中身で見る。これは、回り道をしてきた人や、ブランクのある人にとっては、むしろチャンスだと思っています。年数だけでは測れないものが評価されるなら、語れる経験を持っている人の出番が増えるからです。
それでも、売り手市場が終わったわけではない
ここまで読むと、ハードルが上がって大変そうだ、と感じるかもしれません。でも、そこは誤解してほしくないところです。
エンジニアを探している会社のほうが多い、という土台は崩れていません。変わったのは、「誰でもいいから来てほしい」ではなくなった、という一点です。言い換えると、自分で考えて動ける人にとっては、むしろ選びやすい時期に入ってきたとも言えます。AIに任せられる仕事が増えたぶん、人がやるべき部分に集中できる。そういう環境を選べるなら、数年前よりいい状況だとすら思います。
私が一緒に働くエンジニアにも、同じことを伝えています。求人の数に一喜一憂するより、自分が「任せられる範囲」をどこまで広げられるか。そこを見ておいたほうが、長い目で効いてきます。市場が選ぶ採用に動いているなら、こちらも、選ばれるのを待つだけでなく、選べる側に立つ準備をすればいい。それだけの話です。
誤解を恐れずに言えば、選別が進む市場は、ちゃんと積み上げてきた人を正しく評価してくれる市場でもあります。数を埋めるだけの採用が続いていた頃は、丁寧に経験を積んできた人も、そうでない人も、同じ枠で扱われがちでした。選ぶ採用に変わるというのは、その違いがきちんと評価になる、ということです。地に足をつけてやってきた人ほど、今の流れは追い風になると思っています。
「選ばれる」より「選べる」側に立つために
では、何を準備しておけばいいのか。私が面談で「この人と働きたい」と感じる人を思い返すと、共通しているのは派手な経歴ではありませんでした。
一つは、自分がやってきた仕事を、役割と判断の言葉で語れること。「この案件に入っていました」ではなく、「この部分を任されて、ここで迷って、最終的にこう決めました」と話せる人です。技術の名前を並べるより、どういう状況で何を選んだのかが具体的なほうが、ずっと伝わります。
もう一つは、新しい技術やAIに対して、身構えずに触っていること。完璧に使いこなしている必要はありません。自分で試してみて、ここは便利で、ここはまだ危ない、と肌で分かっている。その手触りを持っている人は、初めて触る技術が出てきても、たぶん同じように立ち向かえます。採用する側は、そこを見ています。
付け加えるなら、うまくいかなかった経験を、隠さずに話せることも大きいです。「この現場では力を出しきれませんでした」「この技術は触ってみたけれど、自分には合いませんでした」。そういう話を正直にできる人は、振り返る力がある人だと感じます。盛った経歴より、つまずきとそこから何を学んだかのほうが、面談では何倍も伝わります。私自身、うまくいった話より、どう乗り越えたかの話で、その人の輪郭が見えることが多いです。
この二つは、特別な才能の話ではありません。日々の仕事の中で、少し意識を変えるだけで積み上がっていくものです。逆に言えば、今のうちにこの二つを意識して経験を積んでおけば、選別が厳しくなる流れは、自分の味方になります。下半期は、その差がはっきり出てくる時期になると思っています。
私たちはまだ創業1年目の、小さな会社です。だからこそ、一人ひとりがどんな経験を積めるかを、案件を選ぶ段階から一緒に考えるようにしています。ただ人を現場に出すのではなく、その人が「任せられる範囲」を広げられる場所かどうかを見る。市場が選ぶ採用に動いているなら、私たちも、働く人にとって意味のある現場を選びたいと思っています。
もし、AIやクラウドを前提にした開発の中で、設計や判断に関われる場所を探しているなら、一度話を聞かせてください。下のJavaエンジニアの募集に、私たちが何を大事にしているかを書いています。今すぐの転職でなくても、市場の話をしながら、これからのキャリアを一緒に考える時間にできればうれしいです。