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教えて吉田先生!これからの健康経営を考える!8.幸福度とは?

全20回シリーズでお伝えしています「教えて吉田先生!これからの健康経営を考える」。前回は「エンゲージメントって何?」でした。今回は「幸福度とは?」をお送りします。

インタビューは2020年4月6日に都内にて行われました。

――― まず幸福度に関連して、そもそも「幸せ」とは何でしょうか?

「幸せ」については、太古の昔から多くの先人たちが考察を深めてきましたし、私が定義するのもおこがましいのですが、言うまでもなく、その時代・文化・あるいは本人の性格により「幸せとは」に対する答えは大きく異なるでしょう。きっと傍目にはとても幸せに見える人たちでも、本人に向かって「幸せですか」と聞くと「いや、こういった理由で不幸せなんです」と答えたり、その逆のケースもあるでしょうね。

いまこうやって話しながら思い出したのは、トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』の冒頭部分、「幸せな家族はいずれも似通っているが、不幸な家族にはそれぞれの不幸な形がある」というフレーズです。正直に言うと私はこの小説を読んだことはないのですが(笑)、昔の勤務先で幸せと不幸せをめぐって精神科医の大先輩と話していた際にこの言葉を教えていただき、以後ずっと頭から離れないのです。精神を病む人びとと相対している精神科医にとっては、とてもしっくり来る言葉のように感じます。

ところで2011年にブータンの国王が来日された際、国民総幸福量(Gross National Happiness, GNH)という言葉が国内でも一般に知られるようになりました。同国では実に50年近く歴史のある政策上の尺度だそうです。日本でもちょうどその頃から、内閣府が幸福度に関する研究会を立ち上げて幸福度の指標を作ろうとしていました。詳細は譲るとして、幸せについて私たちが語ろうとするとき、幸せとはその人の心の中にあるもの、というように現代の日本人の感覚からすると少し宗教じみたものとなったり、そもそも幸せは客観的に測れるものなのか、というふうに話が大きくなってしまいがちです。

文化や時代に応じた幸せを、時代の変遷まで含めて考えなくてはいけませんね。少なくとも幸せには、主観的幸福度として個人に質問して測定できる部分と、国民の購買力や安全性や医療体制などで客観的に測ることが可能な部分があります。例えば日本人は、世界的にトップレベルの清潔な環境で生活し、それほど汚職のない社会を当たり前に享受しています。逆に通勤時間は長く、家族団らんの時間は少なく、昇進や昇給は年功序列的で、組織の生産性は低いと指摘されていますが、それらが我慢ならないほど自らの幸福を阻害している、と考える人は、まだそれほど多くない。

感覚的にですが、幸せとは、個人の満足と社会の厚生のバランスを取りながら追い求めるもの、でしょうから、個人と社会・組織間のエンゲージメントがますます重要になる(note第7回)と思います。このところ毎年のように国別の世界幸福度ランキングが公表されますが、個人的には、日本はランキングされているほどは悪くないはずなんだけどなぁ、と感じています。それは私が「誰もが幸福に社会参加する世界を創りたい」と思っているからなのでしょうが(笑)。

――― 幸福度と健康の関係について教えてください。

健康をウェルビーイングと捉えるならば、幸福と健康の関係は非常に近いと考えます。例えば医療の世界において、病気になった人びとを健康な状態にして、元の社会生活や家庭生活に戻すのが臨床医の仕事です。健康が幸福の1つの条件とすると、患者さんの幸せを回復することが、本来の医者の仕事なのではないかと思います。そう考えると、私が従事している臨床医の仕事も、産業医の仕事も、社員幸福度を見える化するパルスサーベイの仕事も全て繋がっています。

健康は幸福のかなり大きな部分を占めることは自明に思えますし、逆にもし患者さんが健康を回復したのに幸福でないとしたら、医師は先ほどのアンナ・カレーニナに立ち返って考えるべきなのかも知れません。

――― 幸福度と仕事の関係について教えてください。

日本人にとって、仕事をすることは幸福度と非常に強い結び付きがあるように思えます。例えば、諸外国と比べると、日本人は定年後も社会参加としての勤労意欲を強く持つ方が多いようです。自らの社会での居場所を確認し、人から必要とされている、みんなの役に立っている、という思いを実現させたいのです。もちろん、ある程度のお金は必要ですが、日本人にとっては、人に喜ばれ、何かしらの価値を提供することで感謝されることが非常に重要なのだと思います。人生100年時代を考えるとき、この国民性がプラスに働くような制度設計が必要ですね。

――― 健康経営と幸福度の関係について教えてください。

経済産業省の「健康投資管理会計ガイドライン」の中で従業員の幸福度調査が提案されていたり、健康経営をリードしている学者も、幸福度の高い労働者ほど生産性が高いのか?に注目しています。

今後も、ひとびとの幸せな社会参加支援において、企業が大きな役割を担いつづけるでしょうから、企業理念の旗印のもとに集まってくれている社員に、いかに幸せになってもらうかということは、健康経営において非常に重要であると考えます。

(聞き手:株式会社スーツ 代表取締役 小松 祐介)

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