KINTOテクノロジーズが手掛けているサービスは、クルマのサブスク「KINTO」のみではありません。社内では、さまざまなプロダクトの開発が進行しています。こうしたプロダクトの信頼性を、少人数で横断的に支えているのがxRE Groupです。xRE GroupはSRE(Site Reliability Engineering)とDBRE(Database Reliability Engineering)という2つの機能から成る組織で、今回はその中でも、生成AIやMCPを活用した挑戦が進むSREの取り組みを中心に伺います。
2026年のAWS Summit Japanでは、「生成AI × MCPで切り拓く次世代SRE! 自律型運用への挑戦と開発者体験の進化」と題した登壇が大きな反響を呼びました。ただ、その中身は決して華やかなものではなく、現場の課題に一つずつ向き合う、地に足のついた取り組みの積み重ねだったといいます。
今回は、xRE グループのマネージャーを務める粟田さんにお話を伺いました。「導入したのに活用されない」という壁をどう越えたのか、生成AIやMCPにたどり着いた背景、そして少人数のチームでスピード感のある挑戦を可能にしている組織づくりについて、じっくり語っていただきます。
▍粟田 xRE グループ マネージャー 楽天でアプリケーションエンジニアからインフラエンジニアへとキャリアを広げ、その後DBA、さらに横断組織のDBRE(Database Reliability Engineering)へと領域を広げてきた。CCoEのマネージャーなども経験。現在はKINTOテクノロジーズのxRE グループ(SRE/DBRE)をマネージャーとして率い、生成AIやMCPを活用した「Agentic SRE」への挑戦を牽引している。
AWS Summit登壇の舞台裏。地に足のついた取り組みを、一本の線につなげた
――まず、AWS Summit Japanでの登壇について教えてください。テーマの設定から伺いたいのですが。
粟田:実は今回の登壇は、New Relicさんからお声がけいただいたスポンサーセッションで、テーマも先方からいただいたものなんです。最初にタイトルを見たときは、「自分たちは、ここまで先進的で華やかなことをやれているだろうか」と少し戸惑いました。私たちがやってきたのは、どちらかというと現場の課題に一つずつ向き合う、地に足のついた泥臭い取り組みだったので。
だから登壇資料は、過去・現在・未来という構成でまとめました。過去の泥臭い取り組みから、現在の内製の仕組み、そして将来の自律型運用まで。それを一本の線でつなぐことで、いただいたタイトルを自分たちなりに形にしようとしたんです。
――資料を作る過程で、心境の変化はありましたか?
粟田:登壇資料を作るのって、すごくいいんですよ。これはメンバーにもいつも言っているんですけど、自分がやっていることをそのまま形にすると、技術の話だけになってしまう。でも資料をつくる過程で、「何のためにこれをやっていたのか」を振り返ることができます。
私自身、SREのすべてを分かっているわけではありません。ただ現場で、メンバーが「やっていきたい」ということに全力で向き合うことしかしていない。それは理想でもあるんですが、だからこそ気づいたことがあって。彼らが良かれと思ってやったことは、その時々では正解なんです。
でも、正解はすぐに更新されていく。それを繰り返して今に至っているわけだから、2年前の正解が、今の正解のままとは限らない。あり方は変わっていくものなんだな、と。
みんなが感覚的に思っていることを言語化してわかりやすくするのも、私の仕事の一つだと思っています。その中で、自分たちの現在地と目指す先を可視化した「Agentic SREマトリックス」のようなものも作れました。アウトプットとして、すごく良かったなと思っています。
「Agentic SREマトリックス」は以下の当日の登壇資料内P31に記載があります。
――当日の会場の反応はいかがでしたか?
粟田:シンプルに、人がいっぱいいて楽しかったですね(笑)。当日は完全に入れ替え制で、質疑応答の時間もなかったんです。
ただ、後日、オートモーティブ系の方がLinkedInで紹介してくださったり、「全セッションの中で一番見るべき」と書いてくださった一般の方がいたりして、そこで「あ、反響あったな」と感じました。
反響がどこまで大きかったのかは、正直自分でもよく分からないところがあります。ただ、採用の場面では、多少響いたのかなと感じることはありました。SRE NEXTとAWS Summit、この二つの登壇があった時期から、選考を希望してくれる候補者が増えた感覚がありました。
――資料そのものの手応えはどうでしたか?
粟田:この資料は、2年、3年先でも使えるなと思っているんです。技術的なものは、2年後、3年後には変わっていると思います。でも、考え方はずっと残り続ける。実は、私が数年前に登壇したときの資料が、いまも会社説明でそのまま使われているんです。状況はいろいろ変わっているんですが、考え方の部分は違和感なく使える。だからKINTOテクノロジーズ SREのカルチャーとして、そういう資料や考え方が資産として残っていってくれればいいなと思っています。
「導入したのに、活用されない」――SREチームならではの壁
――そもそもの取り組みの出発点は、どんな課題だったのでしょうか。
粟田:New Relicを全社に導入して、ログ・トレース・メトリクスを一元的に見られる環境は整っていました。でも、ツールを入れただけでは、開発者が日常的に活用できる状態にはならなかったんです。SREはNew Relicの機能やオブザーバビリティの考え方を理解していますが、開発者にとっては数ある業務の一つ。障害が起きたときも、調査の速さや深さが個人の経験や習熟度に左右されて、複数人が同じ調査を重複して行うこともありました。
――ドキュメント整備や勉強会といったEnabling活動もされてきたと思いますが、そこで見えてきた気づきはありましたか?
粟田:どれも、開発者に新しい知識を学んでもらって、ツールの使い方を身につけてもらうことが前提なんですよね。そうすると、SRE側が手厚く支援しようとするほど、今度はプロダクトのエンジニアの時間を奪ってしまう。開発者体験を良くしたいのに、学習コストや運用負荷が増えてしまっては本末転倒です。この矛盾に、正面からぶつかることになりました。
――そこから、どう発想を変えたのですか?
粟田:「ツールの使い方を覚えてもらう」のではなく、開発者が普段使っているSlack上で「何が起きているのか」と聞けば、必要な情報にアクセスできる体験をつくれないか、と考えたんです。最初から「生成AIやMCPを使おう」と考えていたわけではありません。導入したツールをどうすれば現場で活用してもらえるのか、障害調査の属人性や重複をどう減らすのか。それを考え続けた結果として、生成AIとMCPにたどり着いた、というのが実際の背景です。
「詳しい人だけのもの」を、みんなに開く
――具体的には、どんな仕組みを作られたのでしょうか。
粟田:アラートを起点に、ログやトレースを自動で収集・要約してSlackに返す内製の仕組みです。さらにMCPを組み合わせて、Slack上でAIと対話しながら調査を深掘りできるようにしました。
最初の手応えは数字に表れました。これまで20〜30分かかることもあった障害の初動調査が、アラート発生から約1分でSlackに返ってくるようになったんです。ただ、これは障害そのものが1分で解決するという意味ではありません。何が起きているのかを把握して、関係者が共通のコンテキストを持つまでの時間が短くなった、ということです。人がそれぞれログやトレースを追いかけなくても、まず共通の状況認識を持った状態から対応を始められるようになりました。
――要約だけでは終わらなかった、と。
粟田:そうなんです。あるとき、ECSのタスクが落ちていた原因を、AIとの3回ほどの対話で特定できたケースがありました。ここで、単なる通知の要約ツールではなく、調査を一緒に進める存在になり得ると感じました。日々の運用でも、各環境の前日のエラーログを定時に分析してSlackへレポートするようにしていて、障害時だけでなく、ダッシュボードの定点観測に近いことも自動化できています。
この仕組みの技術的な詳細は、テックブログで紹介しています。
MCPを使ってNew RelicのデータにSlackからアクセスしよう!
―― 一番の手応えは、どこにありましたか?
粟田:実は、個々の機能よりも、ユーザーの行動が自然に変わってきたことなんです。開発者が毎回New Relicの画面を開いて、ダッシュボードの見方やクエリの書き方を覚えなくても、普段使っているSlackで「何が起きているのか」と聞けば、知りたい情報にアクセスできるようになった。これはNew Relicを使わなくなったということではなくて、その価値にアクセスするために、全員が必ずしも操作方法を習得する必要がなくなった、ということだと捉えています。
私たちは最初から「ダッシュボードを見なくてよい世界」を狙っていたわけではありません。ただ、現場の課題を一つずつ解消した結果として、ツールを直接操作しなくても価値を受け取れる体験が自然と生まれていた。これは単なる業務効率化ではなく、これまで一部の詳しい人に偏っていたオブザーバビリティを、より多くの開発者に開いていく取り組みなんだと、強い手応えを感じました。今では社内の主要プロダクトのほとんどに導入されていて、今後はトヨタグループ全体への展開も検討しています。
プロダクトに「愛着を持ちすぎない」――変化を恐れない技術思想
――New Relic MCPは2025年11月に登場したばかりですが、かなり早く取り入れられたと聞きました。新しい技術をこれだけ速く実戦投入できるのは、なぜですか?
粟田:私が絶対に外さないと言っていることが一つあって、「自分たちが作ったものに、愛着を持ちすぎないようにしよう」ということなんです。プロダクトを可愛がりすぎると、変化を恐れるようになってしまうと思っていて。
MCPがなかった頃は、同じような機能を自分たちで作ろうとしていたんです。実際、作れるんですよ。でも、MCPが出てきたら、パッと乗り換える。自分たちで作ったものに愛着が湧いていたら、「自分たちで作る方でやりたい」となってしまう。表側の体験は変わらないけれど、裏側は、もっといいものが出てきたら変えていく。そういう姿勢を大事にしています。
――他にも、そうした事例はありますか?
粟田:AWS DevOps Agentですね。前年のre:Inventで発表されたばかりの技術ですが、出てきたと聞いたら、次の日ぐらいにはもう検証していました。検証してみて、まだ課題があって使えない、と分かることもある。でも半年、1年経ったら使えるようになる可能性は全然ある。だからアンテナは張っておきましょうね、という話です。アンテナの張り方をちゃんと考えてやっていれば、裏側を変えることに困る必要はないんです。
AWS DevOps AgentとNew Relicの連携検証についての詳細は、テックブログにまとめています。
AWS DevOps Agent とNew Relicを連携して障害調査の自動化がどこまでできるか検証
――「やめる」「乗り換える」という意思決定の基準は、どこにあるのでしょう。
粟田:価値を考えた時に使えるか、使えないか。やりたければやればいい。使えなければやめればいいけど、それを経験にしてください、と。
もっといいものが出てきて、「こっちの方が筋がいい」と、作っている本人がそう思うんだったら、私はそのセンスを信じます。仮に使われなかったとしても、それが意味がないわけじゃなくて、自分の成長にしてくださいということなんです。
Agentic SRE――2人で積み上げてきた知見を、Agentでスケールさせる
――xRE グループが掲げる「Agentic SRE」は、従来のSREと何が違うのでしょうか。
粟田:取り組むモチベーションは、自分たちの技術力を示したいからではありません。背景にあるのは、SREに対する需要と、それを担える人材の数とのギャップです。KINTOテクノロジーズでは長く、SREが2人体制で活動してきました。
採用も簡単ではない一方で、求められる役割は増え続けている。しかもそれは、KINTOテクノロジーズの中だけでなく、トヨタグループ全体を考えても、さらに大きくなっていくと感じています。その需要に、人を増やすことだけで応え続けるのは現実的ではありません。そこで、KINTOテクノロジーズが掲げる「Agent First」という考え方を、SREの領域でも実現できないかと考えたんです。
「Agent First」は、KINTOテクノロジーズで掲げられている2026年の重点テーマの一つです。取締役副社長兼CIOの景山が、テックブログでその背景を語っています。
2025年の振り返りと2026年の展望:Agenticな未来へ
――従来のSREを置き換える、ということではないのですね。
粟田:まったく違います。私たちKINTOテクノロジーズのSREは、サービス信頼性ヒエラルキーを下から一段ずつ積み上げながら、地道に取り組んできました。Agentic SREで実現したいのは、その経験や判断の観点、進め方をAgentに載せることです。
これまで2人のSREが直接関与できるプロダクトには限界がありました。その知見をAgent経由で提供できれば、より多くのプロダクトにSREの考え方や品質を届けられる。
サービスの信頼性を高め、開発と運用のバランスを取り、プロダクトが継続的に価値を届けられるようにする。その原則と品質基準は同じです。変わるのは、活動の担い方とスケール。情報の収集や分析、定型的な実行はAgentが担い、人はリスク判断やビジネス判断、信頼性戦略に責任を持つ。
一言で言えば、Agentic SREは「従来のSREとは違うもの」ではなく、培ってきたSREを、Agentによってより多くのプロダクトへ届けられる形にしたものなんです。
――初動調査が速くなったことで、現場の働き方はどう変わりましたか?
粟田:プロダクトのエンジニアが時間を使う対象が、発生した事実を調べることから、その事象の本質に向き合い、判断して次の改善につなげることへ、少しずつ移ってきたと思います。情報を集めて整理するところはAIに任せて、リスク判断や再発防止といった、人が向き合うべき部分に時間を使えるようにする。そこが一番大きな変化だと考えています。
この挑戦を可能にする組織――「矢印を組織に向ける」
――これらの取り組みを、少人数のチームで実現されています。マネージャーとして、どんな環境づくりを意識していますか?
粟田:実際に手を動かしているのは、いまは2人のメンバーだけです。具体的な手段には細かく口を出しません。「何をやりたいの?」「で、それはどうつながるの?」という話を、自分たちでできるようにしていく道を作るだけです。
xRE グループでは、目標の8割ほどをメンバー自身に考えてもらっています。現場にいるメンバーにしか見えない課題があるし、自分で考えることで、チームの活動を「自分ごと」として捉えられるからです。とはいえ、何でも自由にやればいいという話ではありません。
そこで私が担うのが、本人のやりたいこととチームや会社の方向性を接続すること。私はこれを「矢印を組織に向ける」と表現しています。「この技術を使ってみたい」で終わらせず、「誰のどんな課題を解決するのか」「実現したら組織にどんな価値が残るのか」まで一緒に整理する。目的が合っていれば、具体的な方法は現場を一番理解しているメンバーの判断を尊重します。
――メンバーの方々は、もともとSREとしての経験があったのでしょうか?
粟田:実は、もともとSREチームは私がみていたDBREチームとは別のグループにありました。SREとしての活動を効率的に広げていくために2024年の11月にDBREと統合し再出発をしたのですが、うちに来た時は「KINTOテクノロジーズにSREって必要なんですかね」というくらいの状態だったんです。エンジニアとして入ったが、何をやっていいか分からない、というところから私のところに来ました。
そこで最初にやってもらったのが、登壇なんです。まず社外のカンファレンスで登壇してもらって、その後はカジュアル面談にも入ってもらいました。そうすると、自分の中でまだ確信が持てていなくても、「KINTOテクノロジーズのSREとはこういうものだ」と自分の言葉で言語化しなければいけなくなるんですよね。
初めて人に話すために、資料も相談への向き合い方も、全部自分の中で見据えていかないといけない。そうやって、考え続けるための機会をつくることは、マネジメントの中でもすごく大きいことだと思っています。
――自分から手を挙げにくいメンバーには、どう向き合っていますか?
粟田:アウトプットすることに迷っていたり、多少苦しんでいたりしても、その先に成長があると分かるんだったら、私はちゃんと行かせます。発表してきたり、ブログを書いたり、本の執筆に挑戦したり。そういうのを業務としてやっていいよ、と後押しします。
なぜかというと、アウトプットするためには、インプットが10倍必要になると言われているからです。外に出すために今の仕事をしようとすると、単純に深いインプットが必要になるからこそ、通常の成長とは全然違う成長曲線を描けるようになる。だから「登壇する気持ちで今の仕事をやってください」と伝えています。
内製の仕組みも、最初から大きなプロジェクトとして与えたものではありません。障害調査が属人化しているという、メンバー自身が感じていた課題から出発して、小さく試し、価値を確認しながら実運用へ広げていきました。
トヨタグループを横断する、面白さと難しさ
――トヨタグループの多様なプロダクトを横断で見る環境には、どんな学びや難しさがありますか?
粟田:学びと難しさは、表裏一体だと思っています。プロダクトごとに技術レベルもスタックも、信頼性への考え方も運用の成熟度も違う。あるプロダクトでうまくいったプラクティスが、別のプロダクトでも同じように機能するとは限りません。原則は共通でも、どう適用するかは現場ごとに考える必要がある。そこが難しさであり、多様な設計に触れられる面白さでもあります。
少人数の横断組織が必ずぶつかる壁として、三つあると思っています。プロダクトのドメイン知識が足りないこと、これまでの歴史を知らないこと、そしてキーパーソンが分からないこと。初めて構成を見たときに「なぜこんな構造に?」と思ってしまうこともあります。
でも、今ある構造は誰かが何も考えずに作ったものではなくて、その時々の要件や制約、意思決定があり、支えてきた人たちの積み重ねで今の形になっている。
その背景を知らずに、横から来たSREが技術的な正しさだけを持ち込んでも、現場には受け入れてもらえないんです。
――だからこそ、チームで徹底していることがあると。
粟田:私らがいなくても、アプリケーションは動くんですよ。それでも、数ある選択肢の中から私たちを頼って相談してくれている。その一つの問い合わせの裏に、どれだけの人がいるのか。それを意識しないと、どんどん独りよがりになってしまいます。
だからチーム全員に、プロダクトチームから問い合わせをもらったら可能な限り早く反応すること、そして必ず「相談してくれてありがとうございます」と感謝を伝えることを徹底してもらっています。一番の学びは、技術的な正解だけではプロダクトを良くできない、ということかもしれません。共通の原則を持ちながらも、相手の歴史と文脈を尊重し、現場に合った形を一緒につくる。それが横断組織のSREやDBREに求められる役割だと思っています。
AI時代に求められる、三つの力
――「AIがSREを置き換えるのではなく、増幅する」という考えを掲げていらっしゃいます。これからのエンジニアに求められる力は、どう変わると思いますか?
粟田:一言で言えば、「考え続けてほしい」ということです。メンバーには三つのことを伝えています。
一つ目は、思考を言語化すること。自分が何を見て、どう考え、何を基準に判断したのかを説明できるようにする。これからAgentに渡していくのは、単なる知識や手順だけではなく、どこに着目してどう判断するかという「思考」そのものです。思考が言語化されて初めて、他のメンバーが再利用でき、チームのプラクティスになり、将来的にはAgentにも載せられる。自分の頭の中だけにある判断は、どれだけ優れていてもスケールしません。
二つ目は、車輪の再発明を恐れないこと。AIがすぐに答えを返してくれる時代だからこそ、自分の手で試行錯誤した経験に大きな価値があります。失敗を避けることよりも、なぜうまくいかなかったのかを理解して、次に再現できる形で残すことを大切にしてほしい。
三つ目は、タスクの先を見ること。AIが代替しやすいのは、決められたタスクそのものです。だからこそ、なぜこの仕事をするのか、本当に解くべき課題は何か、その先で誰をどう幸せにしたいのかまで考える必要がある。目的が見えていれば、もっと良い方法を提案できるし、仕事を点から線、さらに面へ広げられます。
――全員が同じように考え方を切り替えられるかというと、難しい部分もあるように思います。
粟田:だからこそ、「何のためにそれをやっているのか」を、一人ひとりに考えてもらわないといけないと思っています。私は別に、どこに行けとは言いません。いろいろある中で、自分が一番モチベーションのある軸はどこなのか。それを考えてもらう。その軸がある中で動いていれば、変化には柔軟に対応できるはずなんです。
SREという言葉自体がなくなったとしても、これまでやってきた活動がなくなるわけじゃない。それを生かして次のことができる。それは、言われたことをやっているんじゃなくて、自分で考えているからだと思うんです。ただ、AIが出てきた今は、昔よりもっと大変だとも思っています。
特に若い世代ほど、ある程度のことは考えなくてもできてしまう時代だからこそ、あえて人がちゃんと考え切ることを意識しないと、本当に怖い。その場をつくるのは私の仕事ですが、それをどう生かすかは、みんな次第です。
3年後、xRE グループはどうなっているか
――これから挑戦していきたいテーマを教えてください。
粟田:大きく二つあります。一つは、Agentic SREを「観測・判断」から「実行」へ進めること。現在の内製の仕組みは、情報を収集して状況を整理し、対話を通じて原因を深掘りするところまで来ています。今後は、Agentが対応方法を提案するだけでなく、人の承認を受けながら安全に実行し、その結果を観測して次の改善につなげるところまで進化させたい。
ただし、すべてを無条件に自動化したいわけではありません。リスクや影響範囲に応じて、人が判断すべき領域とAgentに委任できる領域を設計すること自体が、重要な挑戦だと思っています。
もう一つは、積み上げてきたSRE/DBREの知見を、より多くのプロダクトへ届けること。生成AIやMCPを使うこと自体は、いずれクラウドやIaCと同じように、当たり前の選択肢になっていくはずです。
だから私たちは「生成AIやMCPを使って何かをつくる」というテーマ設定はしていません。目指しているのは、より多くのプロダクトに、同じ品質でSREやDBREの価値を届けること。そのための最短の手段として、Agentを使いこなしていきたいんです。
――3年後、xRE グループはどうなっていてほしいですか?
粟田:やっていることは、たぶん変わっているはずなんです。SREもDBREもAI化しているかもしれない。でも、今いるメンバー一人ひとりが、その時代に合わせて最先端をいけている人になっていてほしい。SREという形がなくなったとしても、自分の役割をちゃんと見つけて、誰かを、何かを牽引している。そういう状態を作っていける人たちになっていることですね。
もう、バックエンドエンジニア、フロントエンドエンジニアと分かれている時代ではなくなってくると思います。だからこそ、一つのロールにこだわらず、柔軟に形を変えていける。その覚悟を持って、変化を拒絶しない頭を作る。その場を作るのが、私の仕事だと思っています。
考える人、求む
――最後に、KINTOテクノロジーズに興味を持っている方へ、メッセージをお願いします。どんな人と働きたいですか?
粟田:突き詰めると、「感謝できる人」、そして「考える人」です。横断組織の人間として、プロダクトの歴史とキーパーソンにリスペクトを持てるかどうかは、とても大きい。その歴史を無視して「あるべき論」を唱えると、ハレーションしか生まれません。ちゃんとリスペクトを持って、相談してくれた相手に一言目で「ありがとうございます」とスタートできる。そういう人と働きたいです。
そして、その感謝の根っこには「考える力」があると思っています。考えるから、感謝できる。相手の裏にどれだけの人がいるのか、なぜ自分たちを頼ってくれているのかを考えられる。だから私は、求める人物像を突き詰めると「考える人」に行き着くんです。
xRE グループは、完成された運用を決められたとおりに回すチームではありません。自分たちが何を担うべきか、SRE/DBREの価値をどう定義し、それをどう多くのプロダクトへ届けるか。そこから自分たちで考えて作っているチームです。正解が用意されていない難しさはありますが、目の前のタスクをこなすだけでは物足りない人、自分で課題を見つけて試し、その経験をチームの力に変えたい人にとっては、非常に面白い環境だと思います。
AIに仕事を奪われない方法を考えるのではなく、AIが担えることはAIに任せたうえで、自分たちは何を考え、どんな価値を生み出すのか。そこに一緒に向き合ってくれる方と働きたいですね。ご応募をお待ちしています。