2026年2月19日にdotD noteに投稿された記事です。
このシリーズでは「言語化」をテーマに、DXの現場で起きている本質的な問題、PMが使う具体的な手法、そして生成AIがこの壁をどう変えるかを全3回で書いていきます。
前回、クライアントの曖昧な意思を具体にするための2つの手法——触診とプロトタイプ——について書きました。段階的に質問を重ねて本当の課題を探り当てる触診と、モノを見せて空中戦を止めるプロトタイプ。この2つを短期間で回すことで、「曖昧」を「具体」に変えていく。
https://note.com/daisuk_dax/n/n591d7285552b
最終回の今回は、この対話のプロセスに生成AIが加わったとき、何が変わったのか。そして変わらないものは何か。ここを書いてみたいと思います。
壁打ちの相手が変わった
若い頃、先輩から教わった手法があります。クライアントとの対話に臨む前に、相手がするであろう質問を徹底的にエクセルへ書き出す。それらに対する回答をひたすら書く。いわば「一人シミュレーション」です。
地味な作業ですが、自分にとってはこれがすごく有効なんですね。相手の身になって考えることで、自分の思考を客観視できる。漏れや甘さに事前に気づける。この手法自体は今も変わらず使っています。
変わったのは壁打ちの相手です。
以前は自分ひとりか、社内の先輩や上司に付き合ってもらっていました。いまはそこに生成AIが加わっています。何が一番違うかというと、人ひとり、ふたりでは到底出しきれないような想定質問と回答が短時間で生み出せることです。しかも、それらを踏まえた対策案まで出してくれる。
ただし、ここには条件があります。クライアントのペルソナや対象テーマの文脈をきちんと与えないと、生成AIは的を射た回答を返してくれません。何を聞くかだけでなく、誰の立場で聞いているのかを伝える必要がある。ここが抜けると、もっともらしいけれど芯を外した回答が並ぶことになります。
ただし、一点だけ注意があります。生成AIに渡す情報の範囲は、クライアントとの契約やルールに照らして判断する必要があります。便利だからといって何でも渡せるわけではありません。
プロトタイプは「速くなった」のではなく「生まれた」
前回の記事で、プロトタイプを1週間くらいで作ってクライアントにぶつけると書きました。実は、この手法自体が生成AIの登場によって初めて実用化されたものです。
それ以前は、やりたいと思ってもコストが見合いませんでした。デザインプロトタイプを一から作るには時間も人手もかかる。当時の現実解はパワーポイントでポンチ絵を描くか、ペーパープロトタイプを使うか。どちらも「モノを見せる」には程遠いものでした。
2024年頃、生成AIが本格的に使えるようになって、「あ、これプロトタイプを作って持っていけるな」と気づきました。
曖昧な課題を手掛かりに、生成AIと壁打ちして仮説を深め、プロトタイプの骨子を作る。プロトタイプを形にしたら、社内で壁打ちして改善サイクルを回す。これを1週間で回してクライアントに持っていく。生成AIがなければ倍以上の時間と労力がかかったでしょうし、今ほどのクオリティも出せなかったと思います。
プロトタイプという概念自体は以前からあります。でも、クライアントにぶつけられるレベルのものを1週間で回すワークフローは、生成AIによって初めて「生まれた」。前回の記事を読んでくださった方は、少し意外に感じるかもしれません。
壁は消えたのではなく、形を変えた
では、生成AIがあれば誰でも「言語化」ができるようになったのかというと、そう単純ではありません。
生成AIにうまく働いてもらうために結局必要なのは何か。一言で言えば、相手を慮ることだと考えています。
クライアントの依頼事項だけではなく、その背景にある課題意識、エピソード、ミッション達成の先にあるものを明らかにする。クライアントから直接聞き出せない部分は、こちらが相手の目線で仮説を立てる。そうして出来上がった情報を生成AIに渡して初めて、精度の高いアウトプットが返ってきます。
もし生成AIの回答がどうにもピンとこないとき、それは大抵、自分のインプットが足りていないサインです。制約条件や前提が抜けていないか、相手の文脈をきちんと渡せているか。生成AI側の問題ではなく、渡す側の問題であることが多いです。
こう考えると、「言語化の壁」は壊れたわけではありません。「相手に伝える」壁が「AIに文脈を渡す」壁に形を変えた。そしてAIから返ってきたものを自分の言葉として咀嚼し、クライアントに伝わる形に落とし込む。その最後の一歩も、やはり人の仕事です。結局、壁を越えるために求められるのは、相手の立場で考え、仮説を立て、適切な言葉にする力——つまり、第1回から書いてきた「言語化」そのものです。
シリーズを終えて
3回にわたって「言語化」について書いてきました。
第1回では、DXの壁は技術ではなく言語化にあること。第2回では、触診とプロトタイプという2つの手法。そして今回、生成AIがそのプロセスをどう変えたか。
振り返ってみると、生成AIは「言語化」の力を大きく増幅してくれる存在です。壁打ちの相手としても、プロトタイプの制作パートナーとしても、以前とは比べものにならないスピードと幅を与えてくれます。でも、その起点にあるのは常に、相手のモヤっとした意思の中から本当にやりたいことを掘り出す、という人の仕事です。
「曖昧を具体にする」のは、やはり対話から始まります。