写真:「伊勢神宮『おはらい町』おかげ参道」 撮影:田附宏秀(CC BY 3.0)
お正月の意味
今年も始まりましたね。皆様、お正月はどのように過ごされましたでしょうか。大掃除をして、しめ飾りや鏡餅を飾り、大晦日に紅白歌合戦を見て年を締めくくり、新年を迎え、親戚と集まってお酒を酌み交わしたり、初詣に出かけたり、箱根駅伝をTV観戦したりと、日本ならではの風景があったのではないでしょうか。
ちなみに、紅白歌合戦では、矢沢永吉さんや郷ひろみさんのパワーに圧倒されました。テレビを見ながら、まだまだやれるぞと自信がわき、年明けからのトレーニングに熱が入りました。
さて、ここで改めて、お正月の意味を考えてみたいと思います。
お正月は、新しい年の初めの日だから祝うというだけではなく、歳神様を家にお迎えし、一年の健康と繁栄を祈願する伝統行事です。歳神様は祖先の魂が姿を変えたもので、豊作と家族の幸福をもたらすとされています。その歳神様を迎えるために、門松・しめ飾り・鏡餅を飾ります。
- 門松:神様が降りてくる「依り代」。松は長寿、竹は生命力、梅は忍耐と開運の象徴です。
- しめ飾り:しめ縄に橙や紙垂などを付け、神聖な場所であることを示します。しめ縄の起源は天照大神が天岩戸から出た際、再び隠れないように縄を張ったことに由来します。
- 鏡餅:歳神様へのお供え物。三種の神器の八咫鏡をかたどったという説もあります。
日本はアニミズムの国で、歳神様をはじめ、木や花や山や動物など自然や生活に宿る神々が数多く存在し、古くから『八百万の神』と呼ばれてきました。この豊かな神々の世界観は、日本人の精神文化を形づくる大切な要素です。そして、その八百万の神々の頂点に立つのが、太陽を司る天照大神です。
天照大神は伊勢神宮に祀られています。私自身、伊勢神宮を訪れると、西行法師の句「何事のおはしますかは知らねども、かたじけなさに涙こぼるる」の心境になり、自然と涙が出るほどの神聖さを感じます。
伊勢神宮に訪問した時の記念写真
伊勢神宮に学ぶ「守るために壊す」発想
伊勢神宮に行くと、各神様の社殿の隣に同じ大きさの空地があることに気づきます。この空地は何のためにあるのでしょうか?ご存じの方も多いと思いますが、伊勢神宮では20年に一度、この隣の空地に社殿を新しく建てて、神宝・装束なども全てて作り替え、ご神体を新しい社殿へ遷します。そして今までの社殿は解体します。これを式年遷宮といいます。次回は2033年ですが、準備には8年かかるため、実は昨年より始まっているのです。
通常、古い建造物は「守る」ために保存しようと試みますが、伊勢神宮は「守る」ために壊すのです。社殿を建て替えることで、神様を常に清らかな場所に祀り、さらに宮大工や職人の技術を未来へ継承する。そして永遠に古代を再生し続ける。この「壊すことで守る」という発想は、非常に示唆に富んでいます。一見、相反するように思えますが、守るべきものの本質を理解していれば、このような施策は必然なのかもしれません。
『守・破・離』という成長の原理
茶道や武道の修行における成長段階を示す概念に「守・破・離」があります。
- 守:基本の型を忠実に守り、徹底的に習得する
- 破:習得した型を破り、応用・発展させる
- 離:型から離れ、独自の境地を創造する
私も武道を学んだ経験がありますが、初心者の頃は基本動作を繰り返し徹底的に習得しました。映画『ベストキッド』でも、主人公が「早く空手を教えてほしい」と思いながら、毎日ワックス掛けやペンキ塗りを繰り返す場面があります。(ジャッキーチェン版では服をかけて拾う動作の繰り返し)こうした基本の積み重ねが型となり、『守』となるのです。ここから「破」「離」へと成長・発展していきます。
この「守・破・離」は、茶道や武道だけでなく、人間の成長、そして企業の発展にも当てはまります。変化の激しい時代に、どのような戦略を立てるべきかを考えるとき、私は常にこの言葉を意識しています。
2023年の当社のスローガン"for Next Stage"を社員に説明する時に、『守・破・離』に言及しました。
「『守る』ところはしっかり守って、それをベースに『破る』、つまり「変わらなきゃ」の部分で発展させ、最後は『離れ』て新しいステージに向かって飛躍する。“for Next Stage”ですね。」
それ以来、コラムを書く時に、この『守・破・離』が頭をよぎるようになりました。このテーマが本社長コラムの底流にあると強く感じておりましたので、新年最初の今号からシリーズのタイトルを『守・破・離』とさせていただきます。
ソフトウェア開発における『守』とは
2023年には、更に以下のように説明しました。
”この「守るところ」と「変えるところ」をしっかりと見極めることが重要だと考えています。”
では、「守るところ」とは何でしょうか。私は、それをコアコンピタンスと考えています。当社のコアコンピタンスは以下の3つです。
- 品質力
- プロセスマネジメント力
- ソフトウェアエンジニアリング力
AIが進化し、ソフトウェア開発のあり方が大きく変わる時代においても、この3つの本質を守り続ければ、十分に勝負できると確信しています。実際、お客様へも常にこの3つを紹介し、AIにとって代わられる可能性の高い「ソフトウェアコーディング」や「単体・結合テスト」とは異なり、より人間の力を必要とする「品質のコンサルタント」や「プロセスのマネジメント」などの受注に結びついています。これは、内部で培った力を外部ビジネスへ発展させる「破」の実践です。
AI活用も同様です。当社のソフトウェアエンジニアリング力と結びついたことで、展示会でも他社から注目されるレベルになっています。今後、AIがソースコードを自動生成する時代が来るでしょう。現に、大学ではAIにコードを書かせていて、インターンシップに来た学生が「ソースコードって人間が書くものなんですね」と驚いていたのには、私も驚かされました。
しかし、私はあえてソースコードを書く訓練が必要だと考えています。今後、AIがソースコードを書く時代になるでしょう。その時代でも『基本の型を忠実に守り、徹底的に習得』した人間がきっと必要になります。そこに差別化要因があると考えています。
新入社員が毎日のようにコードをカリカリ書く修行をする。しびれを切らして「早く実際の開発をさせてください」というのを聞くやいなや、AIが生成したコードの不具合を師範が瞬時に見抜き、高品質なソフトを仕上げる。そして一言「基本が大事じゃ」――そんな「IT版ベストキッド」のような場面が生まれるかもしれません。
今年に向けて
守るべきものに関しては、現時点での私の考えですが、これからも議論を深めていきたいと思います。伊勢神宮の例のように、守るべきものは「やしろ」そのものではなく、「やしろの作り方」かもしれません。ソフトウェアエンジニアリングにおいても同様の議論があってよいでしょう。
今回のコラムが、「守・破・離」について考察するきっかけになり、成長や発展の一助になれば幸いです。
今年の当社のスローガンは
Return to the Origin, Leap to New Ocean
です。
“Origin”=守 を再認識し、”Leap to New Ocean”=破・離 で大きく発展する一年にしていきたと考えております。今年もよろしくお願いいたします。
※次号は1月12日(月)リリース予定です
<<#15:魅了できたか? #17:年初の誓いはSMARTに>>