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【支援先紹介 vol.4】デジタルツインの構築とAI活用でインフラ老朽化の解決を目指し、次世代の都市開発を牽引

スマートフォンやドライブレコーダーで収集した画像データをAIで分析し、道路点検の効率化を進めている株式会社アーバンエックステクノロジーズ。2020年4月の会社設立から約半年で既に複数の自治体に導入され、順調に事業を拡大しています。代表取締役CEOの前田紘弥さんに、事業の詳細や今後の展望、事業と研究を両立するご自身のキャリアについてお話いただきました。

車両搭載カメラと AI技術を組み合わせ、道路点検業務を効率化

ーーまずは事業についてお話いただけますか。

AIを活用した道路点検システム「My City Report for road managers」を提供しています。従来、道路の損傷確認は各自治体ごとに目視や専用車両を使用して行っていましたが、人員や予算の問題で十分な点検ができていない自治体もありました。日々道路を走る一般車両にスマートフォンやドライブレコーダーを搭載して画像データを収集し、AIによる画像解析を行うことで道路の損傷状況をリアルタイムで把握し、点検作業の効率化を図ります。

高性能なセンサーを使用した場合と比較すると、スマートフォンなどの画像では精度が劣ることがあっても、意思決定に必要なデータを収集することは可能です。より手軽なデータ収集方法により、リアルタイム性と効率を高めたシステムを提供します。

すでに導入いただいている自治体に対しサービスを提供しながら、更なる精度向上のため、同時に実証実験も行っています。2020年10月に発表した三井住友海上火災保険との実証実験では、専用のドライブレコーダーに弊社のAI画像分析技術を搭載し、技術課題を検証していきます。

ーー道路点検以外にもシステムを応用できるのでしょうか。

道路点検だけでなく、建設時から修復までの一連の流れにまでデータ活用の幅を広げるほか、道路以外の橋やトンネルなどの点検にもシステムを適用できるよう研究開発を進めています。

事業の根底にある考えは、都市のデジタルツインを構築することでデータ活用の幅を広げ、利便性の高いサービスを提供することです。デジタルツインとは、現実に存在する情報を仮想空間で再構築したもの。リアルタイムで構築されたデジタルツイン上で様々な分析やシミュレーションを行うことができれば、よりスムーズなシステム開発や高度なサービス提供につながります。

道路だけでなく都市全体のデジタルツインを構築し、多様なサービスでデータ活用が進むことで、インフラ老朽化の課題解決に繋がることはもちろんのこと、次世代のインフラ構築手段が生まれることも期待できます。

ーー現在取り組んでいる技術や事業の課題について教えてください。

技術面においては、道路点検でより多様なデータ分析を実現しようとすると、画像処理の技術だけでは足りない要素がでてきます。例えば、道路に生じた損傷の過程を追うことができるようになれば、現時点の傷の大きさから将来の傷の大きさを予測することができますが、単に現時点の画像を処理するだけでなく、時間の経過や外部環境の影響なども加味する必要があります。

制度面でも課題があります。現在は自治体ごとに道路巡回という業務があり個別に点検していますが、県単位で一括で点検が済むようにできれば大幅な効率化に繋がります。制度を変えるのは簡単なことではありませんが、細かな実証実験積み上げて現状に沿った制度設計を促していきたいです。

様々なステークホルダーが関わるデータを活用するため、プライバシーの問題も生じてきます。データの提供側もメリットを享受できるようなサービス設計が必要です。

引き続きデータパートナーや導入自治体を増やし、更にデータを蓄積していくことも必要でです。今後タクシー会社や運送会社など、何千台もの車両の走行データを持っている事業者との連携を目指しています。

目立たず生活を支えるインフラへの憧れ

ーーインフラの課題について取り組まれたのはいつ頃ですか。

東京大学の社会基盤学科で学んでいた頃です。生産技術研究所で、関本義秀先生の研究室に所属しながら研究していた中で、日本のインフラ老朽化についての課題意識を持ちました。

もともと道路を含む都市について関心があり、社会基盤学科に進学しました。インフラのように、当たり前に存在していて普段目立たなくても、世の中の役に立つ存在に憧れがあったんです。長崎生まれの東京育ちで二カ所を行き来する機会が多く、飛行機の窓から見下ろすたびに、一日では作れない、積み重ねによって作られた壮大な都市への関心が高まっていきました。前人が築いてきたものに新しく重ねていくという意味では、都市開発と研究は似ているかもしれません。

ーー在学中から起業を意識していたのですか。

いえ、就職して会社員として働き始めてからです。修士課程を終える頃には、就職と研究者の道に進む選択肢で迷いました。研究を続けることも視野に入れていましたが、研究結果がどのように社会で位置付けられ活用されるかのイメージが湧かず、一度就職することで理解できるのではないかと考えました。三菱総合研究所に就職し、コンサルティング会社として様々な立場で物事を考えることで、大学での研究についても外部の視点から客観的に捉えることができました。

卒業後も協力研究員としてのポジションを残し、研究を続けながら学会に参加するなどしていていた中で起業のイメージが膨らんでいたときに関本先生に声をかけていただきました。2019年の9月末で退職し、半年の準備期間を経て2020年4月に関本先生と2人で会社を立ち上げました。現在は4名在籍しており、来年4月にはシステム開発者を中心に10人程に増える予定です。

ーー起業を考えてからすぐに行動されたのですか。

起業を検討したものの、決断するまで半年はかかりました。事業の将来性にやりがいや自信もありましたが、安定した収入を得られる会社員を辞めることに不安がありました。起業を決めた理由は、事業を始めた同級生がいるなど起業が身近になってきたことと、起業しやすい外部環境が整っていたことです。東大IPCなどのサポートプログラムが充実していることを知り、起業を決意しました。

起業しながら、現在も研究室に特任研究員として所属しており、今年度末には博士号を取得する予定です。研究結果を活用した事業でマネタイズし、東大にも収益が入ります。迷った選択肢ではありましたが、結果、理想的なキャリアパスを描けたと思っています。知っている限り社会基盤学科では私のようなキャリアパスを選んだ人はいません。新しいキャリアを描いていることになりますが、ぜひ後輩にもチャレンジしてほしいです。

世界の歪みを技術で解消したい

ーー今後の展望をお聞かせください。

最終的には、都市空間全体を3Dマップにしたデジタルツインの構築を目指しています。2025年頃には実現したく、そのために現在できることを逆算しながら実行しています。高精度でなくても、リアルタイム性を重視し、実際に活用できて役に立つ情報が集約できるプラットフォームとしてであれば、実現可能だと考えています。建設業では、建築物単位での3Dマップ活用が進んでいます。一方、都市全体となると関わる人が増えデジタル化が難しくなりますが、実現できれば解決できる課題も増えます。

「社会」や「都市」の規模感では、様々なステークホルダーが関わる分、歪みが生じやすいことも事実です。そういった不合理や偏りなどを、客観的にデータ化し明らかにすることで効率化を進めることができ、それが社会全体のよりよくすることに繋がります。

日本だけでなく世界でも展開できると考えており、実際にいくつかの国ですでに話を進めています。

ーー起業を目指す方にアドバイスはありますか。

研究しながら、その研究結果で起業する選択肢もあることを多くの人に知ってほしいです。今思い返すと、知らなかっただけで学生時代から起業も研究についてもチャンスはたくさんありました。東大のサイトで調べると、国際学会へのアクセスや産学連携のプログラムなど多くの情報が掲載されています。学生の方には情報収集して積極的にチャンスを掴んでほしいです。

また、一人で全てをやろうとしないことも大事です。学部生の頃、海外研修プログラムに応募したことがありましたが、一人で書いてそのまま提出し落選してしまいました。今考えると、誰かに添削してもらえれば通っていたかもしれません。人に見てもらい、フィードバックを受けて改善していくことが大事です。東大IPCの応募前も、関係者や過去に採択された起業家の方から適切なフィードバックを頂き、その通りに修正したからこそ採択されました。質の高い研究ができている研究室にも、早めに論文のレビューをしたり、ある程度の段階で外部にも発信していく文化があるように思います。

これまでは研究か事業のどちらかを選ばなければならない印象がありましたが、両立する新しい環境が整ってきていると感じています。研究と、その研究結果が実際に社会に実装されるための事業作りを同時に行うことで、より高度な価値を世の中に提供できます。ぜひ多くの人にチャレンジしてほしいです。

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