バイネームでは、クライアントワークを通じてさまざまな業界・業種のプロダクトに関わりながら、UIデザインの本質を探求しています。今回話を聞いたのは、業務システムからWebサービスまで幅広いプロジェクトを手がけるバイネームのデザイナー・原さん。
「UIデザイン」と一口に言っても、その仕事の範囲は多岐にわたります。ユーザー体験を想像しながら、画面の設計やデザインシステムの構築を行い、時にはクライアントや開発チームと綿密に連携する。そんな日々の中で、原さんはどんな視点でUIを捉え、どのように考えながら仕事を進めているのでしょうか。
今回は、「クライアントワークでUIデザインに携わる一人のデザイナー」としてのリアルな視点から、バイネームのUIデザインの進め方や、その裏側にある考え方を語ってもらいました。
デザインシステムはパズルのような面白さ
──UIデザインの仕事はどのようにスタートしましたか?
キャリアの始まりは、ガラケーやPC向けのサイトをつくっていた時代です。最初の会社では3年間ディレクターとして働き、画面の使いやすさや導線の提案を重ねていました。当時はまだ「UI/UX」という言葉はまだ一般的ではありませんでしたが、使いやすさをどう設計するかを考えることが仕事の中心にありました。
その後、デザイナーとしても手を動かすようになり、特にコーポレートサイトのような大規模案件に多く携わるようになりました。100ページ単位の構成を扱う中で、最小のコンポーネント単位で設計を考えたり、CV率を意識して画面を組み立てたりと、体系的にデザインを捉えるようになりました。
当時のWebサイトは容量や表示の制約が多く、デザインの自由度は限られていましたが、「目的に合わせて最適な体験を設計する」という考え方は今も昔も変わりません。その流れで業務システムやスマホアプリなども手がけるようになり、デバイスの進化とともに表現や操作性の幅が広がっていきました。
UIデザインの定義はとても広いですが、私は「人が快適に使えるように設計すること」だと考えています。
──UIデザインのどんな部分に楽しさを感じますか?
一番おもしろいと感じるのは、デザインシステムをゼロからつくることです。まっさらな状態から「どんなパーツが必要か」「どんなルールで構成するか」を考え、形にしていくプロセスが好きなんです。
UIデザインの表層部分には、装飾的なデザインもありますが、私が惹かれるのは設計部分です。単位ごとのパーツを定義して、ボタンやチェックボックス、テキスト、カラーなどをどう組み合わせるかを考える、アトミックデザインをベースに「どのくらいのパーツがあれば成立するか」を把握しながら、効率的で再現性のあるデザインを組み立てていくのが楽しいですね。これはパズルのような感覚に近いかもしれません。
もちろん、そこから数十ページ分の画面を作るのは大変ですが、ベースのシステムをつくる段階がいちばんワクワクします。ディレクターとしての経験もあるので、画面設計とデザインを並行して進められる点も自分の強みだと感じています。
ユーザーリサーチが充分にできない場合の対応
──逆にUIデザインの中で、大変だと感じることや苦手な部分はありますか?
扱うサービスやクライアントの幅が広い分、サービスごとに「ユーザーの気持ちを理解すること」が難しいと感じます。たとえば現在取り組んでいる薬局のクライアント様の場合、一般ユーザー向けサイトやアプリだけでなく、薬局スタッフが使う業務システムも手がけているのですが、同じ「薬局」という範囲でも、利用者の立場や目的がまったく違うため、使うタイミングやシチュエーションを細かく想定する必要があるんです。
ユーザーが商品を探すときに「IDから検索するのか」「商品名から検索するのか」といった細かい動作の順番ひとつにも、現場の実態や心理的な流れを理解しなければ最適な設計はできません。そういった部分を丁寧にヒアリングしながら設計を詰めていくプロセスは時間もかかりますし、業務フローを理解していないと見落としも起きやすい。
特に自分がユーザーとして関わったことのない領域は想像が難しく、最初の理解フェーズに苦戦することが多いです。たとえば中古車販売システムのような、車に詳しくない自分から遠いサービスの場合は、ユーザーの感情を想定することが難しかったです。美容室の予約アプリのように、自分自身が利用者でもあるプロダクトとは違い、まず「その業界を理解すること」からスタートしなければならない点が、UIデザインの難しさでもあり、同時にこの仕事の奥深さでもあると感じます。
──ユーザー理解が難しいときは、どのように対応していますか?
理想を言えばユーザーインタビューなどを通して直接ユーザーの声を聞くのがいちばんですが、現実的にはコストやスケジュールの都合で難しいことも多いです。そうした場合は、間に入っているディレクターやクライアントからのヒアリング内容をもとに判断し、仮説を立てながらデザインを進めていきます。
ただ、それが“本当のユーザーの意見”ではないことも多く、「これで本当に合っているのかな?」と感じることもあります。そんなときは、とりあえず実装してみて、ユーザーの反応を見ながら改善していく、いわゆるPDCAのサイクルを回す提案をするようにしています。とはいえ、現場では「一度作ったら終わり」という進め方の案件も少なくありません。
── 継続的にサービスを改善するにあたって、デザインシステムも同様に改善するのでしょうか?
デザインシステムも同様で、本来は作って終わりではなく運用の中で更新・改善していくものだと思っていますが、実際には完成した時点で止まってしまうこともあります。中には、過去に複数の会社が関わってきたツギハギ状態のデザインシステムを引き継ぐケースもあり、「どれが正なのか」「どれを使えばいいのか」が曖昧なまま残っていることもあります。実際にはなかなか整ったデザインシステムに出会う機会はすごく少ないですね。
──FigmaでデザインシステムやUIデザインを作る際に意識していることはありますか?
Figmaでは、できるだけ「最小限のコンポーネント」で構成するように意識しています。見た目が少し違うだけの似て非なるものを増やすと管理が複雑になってしまうので、共通化できる部分はできる限りまとめて設計します。その上で、ボタンの状態変化などはバリアント機能を活用し、あとから修正や追加が発生してもスムーズに対応できるようにしています。
命名ルールについては、チーム内での認識を揃えることを重視しています。すべてを無理に英語にする必要はないと考えていて、一般的に使われている用語はそのまま日本語でも構わないと思っています。大切なのは「誰が見てもすぐに理解できるかどうか」。開発側との共通言語として名前を合わせることが重要です。
もちろん、プロジェクトによってはガイドラインを細かく定める場合もありますが、ルールを厳密にしすぎると工数ばかりかかってしまうこともあります。最終的には、チーム全員が効率よく作業できる状態を優先するようにしています。
クライアントと共創するコツ
──バイネームの仕事は全てがクライアントワークですが、クライアントからヒアリングしたり、協業したりする際にはどんなことを意識していますか?
まず意識しているのは、「その画面で何を達成したいのか」を最初に明確にすることです。見た目の美しさや機能の多さよりも、画面の目的や優先順位を整理することが重要だと思っています。たとえば「どんな行動を促したいのか」「どの要素を最も重視しているのか」といった軸を最初に共有することで、後のズレを防ぐことができます。
最近はアクセシビリティに関する意識も高まっているので、初期段階で「アクセシビリティ対応をどの程度考えているか」も必ず確認します。お年寄りがターゲットなら文字を大きくしたりコントラストを強くしたりといった配慮が必要ですが、アクセシビリティを意識しすぎると全体の印象が重くなることもあります。だからこそ、ターゲットユーザーを誰に設定しているのかを最初にすり合わせるようにしています。
また、フィードバックの段階で方針がぶれやすいことも多いため、「この画面の前提はこうでしたよね?」と確認を重ね、デザインの意図がぶれないように気をつけています。業務システムなどでは特に、一覧ページの構成や表示項目の順番など細部の設計が重要です。どの情報をどの位置に置くか、どんな操作を想定しているかを丁寧にヒアリングし、「この質問はこういう理由でしているんです」と意図を伝えながらコミュニケーションを取ります。
クライアントとの関係性づくりはすごく大切です。信頼関係があるからこそ率直に意見を交わせますし、その結果チームで試行錯誤しながら「本当に使いやすいUI」に近づけると感じています。
──クライアントとの距離を縮めるために、やっていることはありますか?
正直、私は人見知りなところがあるので、最初のうちはどう距離を詰めていけばいいか悩むこともあります。クライアントを訪問したときなど、エレベーターを待つ間のちょっとしたフリートークに何を話そう…と考え込むタイプです(笑)。
なので、打ち合わせの場では代表の井上さんに会話をリードしてもらうことも多いです。自分一人で進めると、どうしても定例的で固い雰囲気になってしまうので、そこはチームとしてバランスを取っています。
クライアントの方々は多忙なケースが多いので、無理に距離を詰めるというよりは、少しずつ雑談や共通の話題を見つけて自然に関係性を築くようにしています。たとえば趣味や最近のニュース、業界のトピックなど、相手が話しやすいテーマを探すだけでも会話の流れが柔らかくなる。
どんな相手でも、仕事としての信頼を積み重ねながら、誠実にコミュニケーションを取ることが、結果的に距離を縮めることにつながるのかなと思います。
──これまでに手がけたUIデザインの中で、印象に残っている仕事はありますか?
いくつかあるのですが、特に印象に残っているのは、別会社のUIデザイナーの方と一緒に担当したワークフローシステムのプロジェクトです。開発にはチケット制の運用を採用していた案件でした。
大変なプロジェクトでしたが、UX/UIを深く理解している方々とご一緒できたことで、学びが多かったです。業務システムという分野に初めて本格的に関わったのもこの時期で、UIデザインの奥深さを改めて感じました。UX設計とビジュアルデザインのバランスをどうとるかを徹底的に考えたプロジェクトでした。
ほかにも、前職で携わった大手自動車メーカーの企業サイトリニューアルでデザインシステムの導入支援を行った案件は、組織によってデザインへの思い入れが異なることを肌で感じられた貴重な経験でした。どれだけ丁寧に定義しても、実際に現場でどう使われるかは別問題で、運用設計の難しさを学びました。
一方で、不動産系企業の社宅管理システムの開発は、まさに体力勝負の案件でした。数百ページ規模の画面設計で、関係者も多く、バイネームとして関わった中でも大規模なものでした。時間的にもリソース的にも大きくコミットし大変でしたが、それ以降もっと効率的に制作できるように心がけるようになりました。
──原さん、ありがとうございました!