これまでの人生と日本IDDMネットワークとの出会い
ーーいつ・どのように1型糖尿病と診断されたのですか?
小学6年生の時、「マグカップ4杯の水を一気に飲んでも足りない」ほどの喉の渇きと頻尿が続き異変を感じていました。学校の尿検査で糖が検出されたことを機に病院へ行ったところ、HbA1cという数値が16.8%という普通の人であれば倒れるような値が出て医師がびっくりしたんです(通常時6%未満)。「今すぐ入院してください」と告げられ、そこから1か月の入院が始まりました。
ーー当時の気持ちや将来への不安は?
入院してからは血中の糖の濃度を徐々に下げる治療から始まりました。初めて経験した低血糖症状は手が震え、「このまま死ぬのかもしれない」と発症してから初めて「死」というものを感じた瞬間でした。これから先を考え「大丈夫かな」と不安の中、当時の主治医が「食事管理とインスリン注射をすれば、これまで通り生活することができる」という説明をしてくれて少し安心したのを覚えています。
退院して2週間後からは食事量の管理を「自分でやってみたら?」と母の提案で自らコントロールすることになりました。「自分の身体を守れるのは自分だけ」と腹をくくり、当時食事療法で使用していた食品交換表(第6版)を丸暗記したんです(注:現在、1型糖尿病は食事の量に応じてインスリン補充を行う療法に変わっています)。母が、自己管理をさせてくれなければ、今の自分はないので母には本当に感謝しています。
ーー日本IDDMネットワークを知ったきっかけと、関わろうと思った理由は?
大学時代、1型糖尿病患者3人でバンド「1-GATA」を結成し、全国で啓発活動を行っていました。その際に、「キミ」という1型糖尿病に宛てた楽曲の売上金を同団体へ寄付したことが最初の接点です。
その後、コロナ禍でバンドが休止し、結婚や妊娠、出産などのタイミングで職を探していたところ、たまたま「日本IDDMネットワークで働かないか?」というお声がけをいただきました。それまでは、部活動でもレギュラーで表舞台に立つことが多かったのですが、裏方的な仕事(イベントの企画・運営など)をすることで自分自身が成長できるのではないかと思い、日本IDDMネットワークに入職することを決めました。
当事者として働くことのやりがい
ーー現在の担当業務と役割は?
事業部でイベント企画・運営とSNS運用を担当しています。Zoomセミナーでは司会進行を務めたり、患者家族からの相談対応もしております。
ーー入職後、最も印象に残っている出来事は何ですか?
入職してから「マンスリーサポーター100人募集」プロジェクトを任され、患者本人・家族・友人など多様な立場からメッセージを集めた時に、「兄から妹へ」という名目で私の兄が手紙を書いてくれたんです。そこには、私が1型糖尿病と診断されてからの兄の想いが綴られていました。手紙の最後に「1型糖尿病が治って妹の日常の一つがなくなればいい。この活動を応援します!」という応援メッセージがあり、涙が溢れてきました。
これまでも部活動の大会の応援や、大学時代のライブも見に来てくれる兄だったので、兄がどんな想いをもっていたのかを知ることができて、手紙をお願いして本当に良かったなと思います。
ーー当事者だからこそ伝えられること・共感できる瞬間は?
色々な立場の患者さんやご家族の方からご相談をいただく機会が増えるなかで、当事者だからこそ共感できることがあります。そして、自分では想像もしていなかったような悩みに触れることも多くなりました。
たとえば、1型糖尿病のお子さんを持つ親御さんから「保育園に受け入れてもらえず困っている」と相談を受けた時、最初は、そんな状況があるのかとショックを受けました。
それでも、同じような痛みを経験してきたからこそ、心から分かり合える瞬間があります。そして、当事者にしか届かない言葉があると感じることも多くあります。だからこそ、私自身の経験や個性を大切にしながら、誰かの力になれる存在でありたいと強く思っています。
チームでの協業について
ーー職場の環境は?
課題に正面から向き合い、最後まで一緒に改善へ導いてくれる上司がいるおかげで、とても居心地の良い職場です。入職直後、私が作成した資料のグラフが見づらいと感じた上司が「このままでは読み手に伝わらないよ」と率直に声をかけてくれました。「ここをこう変えるともっと伝わりやすくなるよ」と具体的な手直し案まで示してくれたことで前向きに取り組め、「このチームなら安心して成長できる」と実感しました。
ーー支え合いを実感したエピソードは?
先日、他社の方も交えたオンライン会議中に低血糖になってしまい、血糖値を上げるために手元のお菓子を口にしました。すると、同席していた上司がすぐに「私たちにはこういうことも起こりますので、ご理解いただけると幸いです」と自然なトーンで場をフォローしてくれたのです。
本来なら「事前にコントロールしておいてね」や「ミーティング中はお菓子を食べないで」と注意されてもおかしくない場面でしたが、上司は私を一切責めることなく理解を示してくれました。そのおかげで、安心して会議に集中し続けることができ、この出来事を通じてリモートワークで離れていても支え合えるチームの温かさを改めて実感しました。
ーー チームの中でどのような存在になりたいですか?
リモートワーク中心の私たちの職場では、ふとした瞬間に誰かが助けを必要とする場面が少なくありません。私自身、入職直後につまずいたときに上司や先輩が迷わず手を差し伸べてくれた経験があり、「困ったときは遠慮なく声をかけていいんだ」と心から安心できました。
だからこそ今度は、私が“手を差し出す番”だと思っています。具体的には、各自の業務が立て込んでいるときでも状況を察知して「何か手伝えることある?」と声をかけたり、新しく入ったメンバーが戸惑っている様子を見かけたらすぐフォローに回ったり──チームが円滑に動くための潤滑油のような存在になりたいですね。
また、仕事の用件だけで終わらず、電話やZoomで雑談を交えながら“人と人”としてのコミュニケーションを大切にしたいです。離れているからこそ、ちょっとした会話や気遣いがチームの結束を強めると信じています。
今後の抱負/未来の仲間へのメッセージ
ーーこれから挑戦したいこと・実現したいことは?
1型糖尿病にまつわる目に見えない壁を一つずつ取り払い、「認知不足ゆえに受け入れてもらえない社会」をなくしたいと思っています。保育園や学校、職場、そしてスポーツや文化の舞台――あらゆる場面に残る思い込みや制度的なハードルを対話と実践を通じて一つずつ解消していきたいです。その積み重ねこそが、当事者が自分の可能性をまっすぐ追求できる環境を生み、1型糖尿病を取り巻く偏見を根本からなくす最も確かな道だと信じています。
ーー未来の仲間へメッセージ
私たちの役割は、“0” から “1”を作り出すことだと思うんです。忙しい日々の中でも、一つひとつの課題に向き合いながら、困っている誰かと社会をつなぐ“架け橋”をつくりたいと思っています。新たな仲間の経験やアイデアが加われば、さらに大きな“1”を生み出せるはずです。見えない氷山の下で苦しむ人々に希望を届けるため、一緒に社会をアップデートしていきましょう!