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今回は弊社代表取締役の籔井健一さんのインタビュー記事です!
今では、インディーズからメジャーアーティストまで、日本のアーティストのグローバル展開をご支援させていただいている弊社ですが、その裏側には、資金難、PMFの失敗、事業の撤退など、数々の苦しい経験がありました。
9歳で始めたクラシックギターの音楽人生からバンドマンとしてプレイヤーとして音楽の世界に身を置いたのち、30歳でサラリーマンに。そして、経営者として再び音楽と向き合うことになった籔井さんが、何を考え、どう動いてきたのか。そして今、どんな未来を描いているのか。
音楽やエンタメが好きで、スタートアップやグローバルなビジネスにも関心がある方は、ぜひチェックしてみてください。
目次
売れないバンドマンから売りまくるサラリーマン、そして経営者へ。
「1年で終わるなんてダサい」、資金難からPMFまでの道のり。
東南アジアでUGCが広がり、TikTokアワード受賞へ。
「事業は誰かのためにやるもの」、事業の原点に立ち返る。
事業の発展と共に、世界中の才能に活躍の機会を。
売れないバンドマンから売りまくるサラリーマン、そして経営者へ。
▍まずはどういった経緯で創業に至ったのかを教えてください。
元々は前職で働いていた会社の新規事業としてスタートしたのが始まりです。
弊社取締役の柚木も同じ会社にいまして、柚木と一緒に事業を立ち上げました。
ただ、当時から「どこかのタイミングで起業家として自分でやっていきたい」という思いはありました。
▍その思いにはどういった背景があったのでしょうか?
実は30歳までバンドマンとして活動をしており、30歳になって初めてサラリーマンとして働き始めました。
新規事業を立ち上げたのは38歳の時なんですが、8年間働く中で「やっぱり自分で何かしたい」といった、言語化できない思いみたいなのがずっと自分の中にありました。
▍そのタイミングで起業をしなかったのはなぜですか?
資本がなかったからです(笑)
当時(2017年頃)はビットコインや仮想通貨といったものがちょうど流行っていた時期で、そういった仕組みを使ったクリエイター向けのグローバルなファンクラブサイトを作りたいと考えていて、実際に金融庁に通っていました。
こういったプラットフォーム型のサービスの場合、最初は赤字を掘って所謂「Jカーブ(※)」を描いていくことになり、スタートアップは資金調達をする形で立ち上げていくのが一般的で、かなり資本が必要になります。
※赤字から急速に成長する成長曲線のこと
なので、手元に資本が十分にない中でいきなり起業するという選択肢はありませんでした。
▍そこからどのような流れで独立することになったのでしょうか?
なかなか思うように事業を成長させることができなかったことと、冒頭で述べた「自分でやっていきたい」という思いから、前職でお世話になった社長や戦友のサポートのもと独立することになりました。
「1年で終わるなんてダサい」、資金難からPMFまでの道のり。
▍その後、事業は順調に伸びていきましたか?
そんなことはなく、資金が残り30万円ほどになったタイミングもありました。
当時はファンクラブサイトではなく、PinterestやInstagramのようなクリエイターがコンテンツを投稿するプラットフォームを作ってリリースしたのですが、PMF(※)しないということがすぐに分かりました。
※Product Market Fit:プロダクトが市場に受け入れられる状態
「世界が求めるものではなく、自分が作りたいものを作ってしまった」と反省しました。
そこから、プラットフォーム事業は撤退し当時一緒に頑張っていたCTOも退社したりする過程で、そのプラットフォームの利用者でもあり現在もグリッジで頑張ってくれている小笠原が何もなくなったグリッジにジョインしてくれて、レーベルの立ち上げなど新しい事業を構想し始めました。
その過程でエンジェル投資家様や事業会社様から資金調達をすることができ、なんとか資金ショートを免れました。
今思えば「よくこのタイミングで資金調達できたな」と思いますね。
▍かなりハードな時期だったと思うのですが、どういった原動力で動いていたのですか?
一言で言うと、
「1年で終わったらカッコ悪い」
ただ、これだけでしたね。
当時は「こういうビジョンを実現したい」とか、そういう綺麗な話ではなく「このまま終わったらやばくない?、ダサすぎるでしょ」といった気持ちで頑張っていました。
なので、藁にも縋る思いでデロイトやソニーミュージックが主催していたアクセラレータープログラムに参加したりしていました。
▍資金調達後の話を聞かせてください。
2019年9月頃に着金してとりあえず一安心したのですが、その数カ月後にコロナ禍になり2回目の壁がやってきました。
当時、YouTubeを用いて音楽をグローバル展開させていく事業とレーベル業をやっていたのですが、コロナの影響でエンタメ市場全体が一気にストップしました。
YouTubeは家にいながらでも音楽を聞くことができることからコロナはむしろ追い風ではありましたが、売上としては月に数千円〜数万円ほどでした。
ただ、そんな時に当時の弊社レーベル所属のアーティストが東南アジアでバズり始めたんです。
東南アジアでUGCが広がり、TikTokアワード受賞へ。
偶然ですね。
ある日アーティストのYouTubeチャンネルを見ると、インドネシアとかでPV数がポンと跳ね出したから「なんだろう」と思って調べてみると、現地の一般の人やカバーシンガー、インフルエンサーの方々が曲に合わせて踊ったり、歌ったりしてくれていたんです。
今ではUGC(※)という言葉がありますが、当時はまだそういった考え方も広くは浸透しておらず、自分たちもどういった現象か分からなかったのですが、とりあえず全部1件1件リストアップして、アーティストのアカウントで「ありがとうございます!」といったコメントをしていました。
※User Generated Content:一般のユーザーが自発的に作成・公開したコンテンツ
コメントの効果もあってか、どんどんどんどんUGCが増えていき、その年2020年にTikTok Japanが開催した第1回 TikTokアワードのミュージック部門でグランプリを受賞することができました。
▍TikTokアワードの受賞によって何か変化はありましたか?
音楽業界で有名なカンファレンスに登壇し200~300人くらいの前でオンラインで講演を行うことになり、そこから大きな変化がありました。
音楽業界の方からどんどん問い合わせが来るようになりましたね。
そして音楽業界の方と話していくうちに「音楽業界には”デジタル×グローバル”に関する知見はもしかするとあまりないのかな?」というインサイトが見えてきました。
それまでは音楽業界で働いたことも接点もなかったことと、前職のマーケティングのキャリアの視点で音楽業界をかなりフラットに見ていたので、柚木と「もしかすると音楽業界の力になれるかもしれないね」といった話をしたのを今でも覚えています。
▍「ここならPMFできるのでは」と思われた訳ですね。
そうですね。
ただ、それまで自社でプラットフォームやメディアやレーベルをやっていたことや、当時のアーティストのヒットや成長に貢献できてなかったので受託型のサービスをやることに少し抵抗はありました。
とは言え、会社の存続と稼いでいく必要があったので、プラットフォームやスタートアップとか、そういった理想とかは抜きにして、目の前の人や業界の可視化されたペインを解決するために受託型のサービスを提供していくことに決めました。
スタートアップをやっていると「ペイン」という言葉を聞くと思いますが、「それがやっと見えた!」という安心感と同時に前職でやっていた課題解決やお役に立つことの価値や魅力を思い出してきました。
やりたいことより、やれることをやる、という感じです。
そのタイミングでアーティストにも話し合いの場を設けてレーベルやYouTubeの事業からは完全に撤退しました。
「事業は誰かのためにやるもの」、事業の原点に立ち返る。
▍当時はそこまで乗り気ではなかったんですね。
正直に言うとそうです。
前職で代理店事業や自社メディア事業をやっていたこともあり、同じようなことをやりたいとは思っていなかったです。
ただ、実際にやってみるとお客様から発注いただくということがシンプルに嬉しかったです。ありがとうと言われること、頼りにされることが起業してから久しぶりの感覚でめちゃくちゃ嬉しかったです。
それまで様々な事業をやってきましたが、ほとんどお金にならず、ほんの一握りの人のためにしかなっていなかったんですね。
今のサービスを通してお客様と話をしていくと、困っている人が実際に目の前にいて、その人の「こうしたい」という思いや悩みを聞いて、その悩みを解決していく。
結局「事業は誰かのためにやるものなんだ」ということに改めて気づかされました。
あと、自分自身もそうだし、一緒にやっていた柚木もやりがいを感じていたと思います。
特に、以前からアメリカやブラジルの現地メンバーでチームを構成していたので、日本からでは取得できないリアルな情報やマーケティングノウハウがどんどん蓄積していったため、沢山の方に頼っていただき、役に立ててる実感といろいろな価値を感じるようになっていきました。
▍今では様々なマーケティング施策を通じて支援を行っていますが、当初はどういったサービスでしたか?
海外のインフルエンサーに日本の音楽を歌ってもらうというシンプルなものでした。
所謂インフルエンサーマーケティングですね。
そして、受託に切り替えて約1年後くらい2021年の末頃から今のような形(複数のマーケティング施策を組み合わせてグローバルマーケティングを包括的に支援する形)に徐々に変化していきました。
▍どういったキッカケがあったのでしょうか?
日本を代表するエンターテイメント企業から声がかかり、世界的にも有名なアニメの主題歌を歌っているアーティストを支援することになりました。
その時に初めて年間契約での依頼を受け、これまでスポットで行っていたSNSの運用やKOLマーケティング(※)などを丸っと年間で対応することになり、「こういった形の支援が求められているんだ」という気づきを得ました。
※Key Opinion Leader、所謂インフルエンサーを活用したマーケティング手法
また、今では弊社の事業部の一つであるファンダムマーケティングを当時から行っており、世界中のファンのリアルを把握し分析していて、それがサービスや事業部としての基盤となり、今なお着々と独自のノウハウとして蓄積しています。
そして、支援させていただいたアーティストの新曲が世界的にもかなりバズり、ご紹介の連続でインディーズから、アジアツアー・ワールドツアーを成功させるメジャーのアーティストまで多くのアーティストの支援をさせてもらっています。
また最近では、Shopfiyを軸にした越境EC&CRMによるグローバル規模でのダイレクトマーケティングにも注力しています。
デジタル、SNS、グローバル、バズ、という言葉よく聞くと思いますが、それだけではとも不十分で表面的になります。
グローバル規模での顧客管理、そしてダイレクトに売り上げに直結する越境ECなどを弊社が得意とする各国メンバーと連携したファンダムマーケティングとの掛け算で実装できます。
「ECはまだ」という方でもこのダイレクトマーケティングという視点、顧客管理という視点は存分に活かせますので啓蒙も兼ねて推進していきたいと思っています。
昨今、SNSのアナリティクスや各種ツールで、なんとなくの数字は誰でも見れるようになってきてはいますが、実際の各国のファンの声やステークホルダーの声、カルチャーやトレンドを把握したり、日本ではなかなか馴染みのないプラットフォームやコミュニティを分析して、アーティストレイヤーから経営・事業部レイヤーまで、意思決定を後押しするようなサポートは引き続き継続したいと思っています。
事業の発展と共に、世界中の才能に活躍の機会を。
▍今後の展開についても教えてください。
次の世代に多くの機会を提供していきたい、といった思いがあります。
まずはグリッジのスタッフにより大きく活躍する機会を提供していきたいですね。
今26人くらいのスタッフがいるんですが、半分以上が海外在住のJ-POP好き、もっと言うとオタクなんですね。
そういった世界中にいる日本のことを好きでいてくれている人たちとチームを作って、各国にグリッジのブランチ(支社)を作ることで、現地のスタッフにより大きな機会を与えていきたいと思っています。
あと、2~3ヶ月に一回海外に行き、現地のレーベル、アーティスト、インフルエンサー、学生と強制的に会う機会を作っています。
国、経済、現地の若者の可能性とダイナミクスを感じると同時に、表面的には見えない課題を感じることが多くあります。
現地の大学に行ったり、現地の大学と提携してビジネスプランコンテストを開催したりしているので、現地の若者がどれだけ優秀なのかというのは肌で感じているのですが、そういった人たちが活躍できる機会が明らかに少ないと感じています。
▍社内だけでなく、社外の次の世代を担う若者にも機会を提供していきたいと。
そうです。
これは不思議なんですが、 自分がやりたかったことから受託に切り替えて今のサービスを提供していく中で、Wantとは別でMissionみたいなものが自分の中で芽生えてきている感覚があります。
世界の若い世代と色々話していく中で、情熱・スキル・ポテンシャルがあるのに、機会がなくて活躍できない人がめちゃくちゃいるんですよね。
様々な制約があってなかなか活躍できなかったりする現状を見て、おこがましいですが「そういった若者に機会を作っていかないとな」と思うようになりました。
会社のミッションとはまた別ですが、グリッジがどんどん大きくなり世界中にブランチを作っていくことと、そういった世界中の若者に機会を提供していくことが、まさにピタッと重なっているような感覚を持っています。
▍世界中にブランチが増えてスタッフも増えていくことで、アーティストのグローバル展開の支援の幅も広がりますよね。
音楽以外の領域での支援の幅も広がります。旅行会社やアニメやゲームの支援ももっと行いたいと思っています。
また、日本から海外への進出だけでなく、海外から日本へ進出するクライアントを支援するという方向性で、欧米やアジアのステークホルダーとのミーティングを重ねています。
実は世界的に見ても日本の音楽マーケットは非常に大きく、世界で2~3位くらいと言われていて、例えば欧米のアーティストが日本に展開していきたいというニーズはかなりあります。
日本人が思う以上に日本はまだブランドがありますが、海外のビジネスステークホルダーから見るとまだまだブラックボックス。
実際、数ヶ月前からそういった案件も受けており、「日本に興味あるんだよね」といったお声を沢山聞いており、今後は海外アーティストの日本を含めたアジアへのマーケティング支援も積極的に行っていきます。
▍最後に、どういった人たちと働きたいかを教えてください。
ワークアズライフな人です。
お客様や消費者はもちろんのこと、自分たちがワクワクするかどうかも大切にしており、オンとオフを分けずに仕事を楽しめる人に来てもらいたいです。
次に、色々な突発的な変化を楽しめる人です。
グローバルな環境だと「A」と言っていたものが突然「B」に変わったりすることが普通にあります。朝令暮改ではなく、朝令”朝”改くらいで変わります。
そして常に学べる人、学んでそれをビジネスシーンでアウトプットすることが当たり前にできる人。
あとはお客さんのサクセスとは何かを考え、そのために行動できるカスタマーサクセスファーストな人。
先ほども話しましたが「事業は誰かのため」に存在するものです。
「クライアントであるアーティストのために」「そのアーティストの曲を聞いてくれるファンのために」、そしてそれをビジネスとして昇華していくことを常に考えて行動できる人に来てほしいです。
エンタメ、音楽でビジネスビジネスするのは?という方もいるかもしれません。私の考えとしては、ビジネスとして再現性のある仕組みと情熱でマネタイズすることで、例えばミュージックビデオや音作りのクリエイティブ、人材にお金をかけることができ、表現の自由と幅が広がります。
世界では札束の殴り合いの規模が違います。だからといってお金お金というわけではなく、ことエンタテインメント業界ではロマンとそろばんのバランスは大事だと思っています。
最後に、特に今後は経営者視点を持っている人にジョインしてもらいたいと思っています。
これから海外でブランチを立ち上げて0→1をやっていくためには、経営者としての視点やマインドを持っている人が必要です。
経営のポジションや各国の代表といったポジションを担える人がいれば、どんどん機会は提供していきたいと思っています。
いかがでしたでしょうか?
挑戦、失敗、そして再起を繰り返しながら、なんとか立ち上がったグリッジ。
今ではありがたいことに、たくさんのアーティストや企業の方々からお声がけをいただけるようになりました。
でも、まだまだここからです。
すでに新たなチャレンジに取り組んでおり、これからも立ち止まることなく挑戦を続けていきます。
目指すのは、世界中に革新的なエンターテイメント体験を届け、人々が夢中になれる世界を創ること。
グリッジでは、そんな未来を共に創っていく新たな仲間を探しています。
業務委託・正社員・学生インターン、様々な形で仲間を募集しております。
少しでも興味を持っていただけた方はお気軽にエントリーいただければと思います。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。