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コロナ禍で逼迫するコールセンターの業務を、ITツールで効率化。大学院生メンバーが、その開発を立ち上げからリードした。

仙台市のコールセンター業務を支援するために、シグマアイが自社開発したアプリケーション「whis+(ウィズプラス)」。新型コロナ感染症の拡大対策や、問合せによる業務負担増といった問題を解決するために、2021年7月より稼働しています。その実装をリーダーとして担った、シグマアイの学生アルバイト、井口さんに開発のプロセスややりがいを聞いてみました。

【プロフィール】
井口大輔
東北大学大学院 情報科学研究科 情報基礎科学専攻に在籍。学部時代に量子アニーリングを学び、修士過程では機械学習や「スパースモデリング」を研究。基礎的な領域の研究に従事した。2019年8月よりアルバイトとしてシグマアイにジョイン。主に仙台市のコールセンター向けソリューション「whis+(ウィズプラス)」を手掛ける。2022年7月より外資系コンサルティング企業に新卒入社予定。

企業の中での研究を通じて、社会に貢献するために。学生アルバイトとしてシグマアイにジョイン

−シグマアイで働くことになったキッカケを教えてください。

東北大学工学部の2年生のときに、東北大学教授でシグマアイ代表の大関さんの授業を受けました。それまでに大関さんのことは知らなかったのですが、その授業が本当に面白かったのです。ニコニコ動画みたいにコメントを集めて、それに対して脱線しながらもツッコミを入れていました。授業の内容のもちろん分かりやすくて、こんな先生がいるんだ!と驚きましたね。

その後、大関さん主催の量子アニーリングのセミナーに出席しました。そこで、初めて、量子アニーリングを研究してみたいな、と感じたのです。ぼんやりとしたまま大学に入って、悩んでいた時期でもあったので、ビビッと来ました。4年生に進級したときに、田中・大関研究室に配属になりました。

そして、2019年8月に研究テーマを大関さんに相談に行きました。そこにシグマアイ共同創業者の観山さんもいて、シグマアイでの共同研究の案件の話が出てきた。「井口君やってみる?」と軽い感じで誘っていただいたのです。普通の大学生をやっているだけでは、企業の中で研究したり、社会に直接的に貢献できる機会はなかなかありません。これは逃すわけにはいかないと、「やります!」と即答しました。シグマアイの設立が2019年4月ですので、立ち上げ間もない頃にアルバイトとしてジョインしました。

「第二の故郷」仙台市を、コロナ禍から元気にしたい

−そして、仙台市の医療系コールセンター向けアプリ「whis+」の開発に携わることになりますが、どのようなキッカケでプロジェクトにジョインしたのですか?

新型コロナウイルスの感染が拡大していた2020年の秋頃に、仙台市から大関さん、取締役の伊勢さんに相談がありました。そこで大関さんが「若い人材の適応力に期待したい」と、私に声を掛けました。私自身も、「自分の力を試したい」「社会に貢献したい」という気持ちでシグマアイにジョインしたので、「ぜひ、やらせてください」と返事をしたのです。

仙台市は大学時代の6年間を過ごした「第二の故郷」。4年生まで飲食店でアルバイトをしていたのですが、そのお店もコロナで一時的に閉めざるを得なくなりました。繁華街でも、いつの間にか閉店しているお店が結構あったんです。その風景を目の当たりにして、街をもう一度元気にしたいと思っていたので、自分がやろうと決めました。

「このままでは使ってもらえない」コールセンターの現場を訪れて、大きな危機感が芽生えた

−具体的には、「whis+」のプロジェクトはどのように進められたのでしょうか?

大関さん、伊勢さん、事業開発の田口さんといった経営ボードの皆さんが、ビジネス的な要件を詰めてきてくれるので、私はひたすら手を動かして実装をしていました。2021年の1月にプロトタイプが完成。仙台市の担当者の方にも好評だったので、そこから各機能の実装を行いました。

そして、忘れもしない2021年5月、事業開発の羽田さんとコールセンターの現場に伺いました。そこで見たものは、私たちの想定とは全く異なっていたのです。オペレーターの皆さんは別のシステムを使っていたのですが、「whis+」よりもずっと洗練されていました。Google Mapをベースにしたシステムで、我々のものよりも見やすいですし、操作性も高かったのです。

オペレーターの皆さんからも色々な意見を伺いました。実際の業務も拝見したのですが、今の状態の「whis+」では使ってもらえないと痛感し、大きな危機感がそこで芽生えました。頭の中の想像でアプリをつくっているだけで、現場の人たちのことを考えていなかったと反省しましたね。

一方で、現場に入って元気づけられたことも多かったです。オペレーターの皆さんは看護師経験のあるホスピタリティあふれる方ばかりで、「市民のためになんとか力になりたい」という思いを持っていました。私たちに対して「市民のためにも、新しいシステムの開発や運用に協力したい」という声を多くいただき、皆さんのホスピタリティを存分に発揮する環境を作らなければならない、と決意しました。

また、「若い学生さんが、私達に目を向けて頑張ってくれていること自体が嬉しいです。私達も頑張ります」とも言ってくださった。これらはまさに、現場に入って直接コミュニケーションを取らなければ得られなかったことでした。

リリースまでの1ヶ月半で、ほとんどゼロから作り直した

−それは身に沁みる体験でしたね。そこからどのように開発を進めましたか?

現場に伺ったのが5月中旬だったのですが、リリース日が7月1日と決まっていました。1ヶ月半しか時間が無いなかで、今まで開発したものを全部忘れるぐらいの勢いで、ほぼゼロから作り直しましたね。現場で使ってもらうために必要な機能を洗い出して、チームで力を合わせて実装しました。ユーザーインターフェースも簡易的なものだったので、オペレーターの皆さんが相談者とのお話に集中できるように、操作性と併せて改修しました。たとえば、オペレーターさんは病院をご案内するのはもちろんですが、まずは相談者と対話して症状などを正しく聞き取り、安心感を与えることが大切です。その対話に集中できるように、直感的なインターフェースや、視線・カーソル移動・スクロールなどが少ない操作性に改善しました。また、キーボード入力に慣れていない方もいらっしゃったので、住所等を入力する際に、「マウスによる選択式」と「キーボードによるタイピング」の双方に対応できるようにしました。大学の研究はそっちのけで、実装に没頭したのです。

私自身、システム開発の経験に乏しいので、勉強しながら実装していました。分からないことがあれば、また調べて、、の繰り返しです。スケジュールがタイトで辛かったのですが、開発している時間は楽しかったですね。自分が頑張ったら、オペレーターの皆さんが喜んでくれる。コロナ禍での社会貢献にもつながる。そういう想いを持てたので、楽しく進めることができました。

また、シグマアイの先輩の皆さんからも、きちんと評価をいただけました。良いモノを作ったら「すごくいいね!」と褒めてくれるので、モチベーションアップにつながりました。「ここはこうした方が良い」と意見もしっかりいただけます。アルバイトの学生に対しても、一人のエンジニアとして対等に向き合ってくれるので、働きがいがありました。

「whis+」に機能を追加して、仙台市のDXへとつなげたい

−「whis+」は、2021年7月にリリースされたのですが、コールセンターの皆さんの反応はいかがでしたか?

リリース後に現場を訪れました。オペレーターの方々に「以前のシステムよりも使いやすくなった」「whis+のおかげで業務が楽しくなった」と言っていただけたのは、すごく嬉しかったですね。社会に貢献できたという実感も持てたのは、初めての経験でした。仙台市とコールセンターの現場の皆さんと、共に創り上げた仙台市民のためのサービスになったと思っています。

−2022年になった今、どのような状態でしょうか?

もちろん使っていただいています。ただ、新たな課題も見えているので、システムをより進化させたいですね。コールセンターでの業務の中には、一部、紙ベースのタスクが残っています。それらをデジタル化することによって、さらに幅広いデータを集められる。それをもとに行政の業務に活かしたり、何らかの形で仙台市民に還元できたらな、と考えています。「現場と共に仙台市民のためのサービスを創る」というミッションを、プロジェクトメンバー全員で掲げていますので、「whis+」を起点に、行政のDXを進めていくのが当面の目標です。更には、「スマートシティ」というテーマにも挑戦します。仙台市民がより住みやすいようなまちづくりへの貢献をしたいです。市民や行政、保健所、病院など、医療を中心としたそれぞれの人や組織をつなぎ、より良い関係を構築できるコミュニケーションづくりや、新たなサービスを企画しています。

就職先の外資系コンサルティング企業でも、シグマアイで学んだことを継承したい

−最後に、井口さんご自身の今後について、教えてください。

2022年7月に、外資系コンサルティング企業に就職します。今は実装をメインで担当していましたが、これからはより上流の業務に携わります。ただ、システムが稼働する現場に触れることの大切さを身に沁みて感じたので、そこは忘れずにやっていきたいです。システム導入やDXにおいては、管理者やコンサルタントの目線よりも、現場がどういう思いで業務をしているか、実際にどういうフローでこなしているか、ということがすごく大事なんですよね。

シグマアイで身につけた開発のスタンスも、次の職場では継承していきたいです。技術はもちろん大切なのですが、それよりも想いやビジョンが大事で、あくまでも技術は達成するための手段。「仙台市民のために」というミッションを掲げることで、私たちも、コールセンターの皆さんも幸せになった。そう感じています。

−大学院修了後も、シグマアイでそのまま社員として働く選択肢はありましたか?

もちろん考えました。ただ、一度外に出て、あらゆる業種を相手に仕事をすることで、自分を成長させることを優先しました。そこで力を付けて、またシグマアイに戻ってくるかも知れません(笑)。そのときにどういう仕事ができるのか、どういう社会貢献ができるのか、楽しみではありますね。

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