企業や研究機関と連携しながら、研究・技術の社会実装を支援するON BOARD。2023年度からは、国の研究機関が推進する情報通信分野の研究開発プロジェクトにおいて、研究成果を社会に届けるための伴走支援を手がけています。
「わからないことを、わからないと素直に伝えること。それが、この仕事に向いている人の条件だと思います」
そう語るのは、プロジェクトの立ち上げ当初から参画している斉藤舞さん。文系出身で、前職は金融というキャリアの持ち主です。今年度からこのプロジェクトに加わった事務局の大山八尋さんとともに、最先端の研究を社会につなぐ仕事の実態を伺いました。
研究の「社会実装」はむずかしい ── ON BOARDの役割
──このプロジェクトについて、教えてください。
斉藤:情報通信の分野では、多くの大学や企業が5GやBeyond 5G、6Gの技術を活用した研究に取り組んでいます。ON BOARDは、日本の強みである通信・デジタル技術の研究を、社会実装や海外展開につなげるための支援を行っています。
大山:研究者の方々は、当たり前ですが、研究・技術を社会に広めるためのPRやマーケティングに精通している人は少ないです。そのため、社会実装を前進させる伴走支援を、ON BOARDが担当しています。
──ON BOARDとして、具体的にどのような形で社会実装を後押ししているのでしょうか。
斉藤:社会実装支援と言ってもさまざまですが、まずは研究者にお逢いして研究内容を理解することから始まります。社会実装先のパートナーとなる企業の人たちにわかりやすく伝えるためです。その先で研究者の本音や要望をお聞きし、たとえば「社会実装先とつながりたい」という要望があれば、その企業をおつなぎすることもあります。
ON BOARDの特徴は、この取り組みを1人の専門家が担うのではなく、多様な人材がチームとなって実施していることです。月に1回、チームメンバー全員で検討会を開き、各研究案件についてどのような支援をするとよいのか?といった議論を重ねています。
理系でなくても最先端技術の現場に立てる ── 「横軸スキル」が活きるチームのつくり方
──研究の社会実装を支援するとなると、専門知識が求められそうです。その点はいかがでしょうか。
斉藤:実はそんなことはありません。私自身、情報通信に関わるようになったのはこのプロジェクトが初めてでした。前職では金融機関で新規事業開発・DX推進に携わり、その後独立して、現在は広報・PRやマーケティングの専門家として活動しています。私のように業界を問わず活かせる汎用的なスキルを、私は「横軸スキル」と呼んでいます。一方、情報通信の専門知識に精通したスペシャリストは「縦軸スキル」。ON BOARDのプロジェクトでは、この横軸スキルと縦軸スキルを持つ人材が組み合わさって動いています。
──その「縦軸スキル」を持つスペシャリストとは、どのような方々を指すのでしょうか。
大山:今回のチームメンバーには、ソニーやNTTで研究系の責任者を務めた方や大学の先生など、情報通信業界に非常に詳しい専門家の方々がいます。私たちは、そうした方々を通称「レジェンド」と呼んでいます。ON BOARDのプロジェクトでは、このレジェンドのような「縦軸スキル」を持つスペシャリストと、斉藤さんのような「横軸スキル」を持つ人材がコーディネーターとして連携した体制で動いています。
──専門知識の差によって、噛み合わない部分はないのでしょうか。
斉藤:噛み合わないことはありません。私以外の横軸スキルのコーディネーター的なメンバーも含め、メンバー全員が研究そのものに強い関心を持っているからです。打ち合わせの前には必ず研究概要に目を通し、関心を持って臨みます。そして、わからないことはレジェンドに聞いて理解を深め、レジェンドもまた一般ユーザーの視点を学ぶことができる。両者にとってWin-Winとなる仕組みがチームとして自然にできあがっているので、専門知識の差でぎこちなくなることはないと感じています。
──メンバーに参画いただくときに、大切にしていることを教えてください。
大山:大切にしているのは、共感性を持って、研究者の価値観に寄り添えることです。研究内容に関心を持ちながら、どう表現すればわかりやすく伝わるかを研究者本人にきちんと共感して考えられる人が集まっています。プロジェクト内での役割は、研究者との対話や技術理解を担うメンバー、展示会の事務局運営を担うメンバーなど、それぞれの得意分野に合わせて担当します。日が浅いメンバーも垣根を感じることなくスムーズに協働できているのは、皆が「研究・技術で日本を元気にしたい」という思いを共有しているからだと思います。
むずかしい研究を、多くの方にやさしく伝える形に変える ── 最先端技術を「見える化」する展示企画と「伝える」という仕事
──社会実装支援として、具体的にはどのような活動をされているか教えてください。
斉藤:代表的な活動のひとつが、毎年秋に開催される日本最大級のデジタルイノベーション総合展示会「CEATEC(シーテック)」です。研究内容をわかりやすく紹介する展示企画の一部を支援しています。
従来、研究内容の展示は細かな文字で専門家がわかるようなむずかしそうな説明が書かれ、研究者・技術者以外にはなかなか理解できないものが普通です。結果として来場する一般の方には理解しづらいものになっていました。
そこで、もっと直感的に伝わる見せ方として、イラスト展示にできないかと私から企画を提案しました。技術内容を理解した上でビジュアルに落とし込めるデザイナーを起用したところ、展示を見た人たちはもちろん、研究者からとてもよい反響があり、今では支援パッケージとしての型が確立されています。
──デザインのためには研究者の方々へのヒアリングも必要だと思います。その中で、見えてくることはありますか。
大山:課題を直球で聞いても、なかなか出てきません。展示用のイラストを作るために研究内容だけでなく、研究のビジョンや計画、想定されるユースケースを丁寧にお聞きします。そうすると、研究者の本音や要望が見えてきます。たとえば「実際にこのような企業に使ってほしいけれど、企業にアプローチする伝手や時間がない」という場合には、お聞きしたユースケースをもとに導入先となり得る企業へチームがアプローチを代行し、つなげることもあります。
イラストは研究や研究者を理解するための手段であり、社会実装支援こそが本来の目的です。その過程で、研究者の方々自身も自覚していなかった課題が浮き彫りになることがあり、その瞬間はチームとしての醍醐味です。
──印象に残っている研究者とのエピソードを伺えますか。
斉藤:昔から音楽が好きで、遠隔地の人と時間的な遅延なく同時演奏をできるようにしたい、という思いからこの通信技術の開発を始めたという研究者の方がいらっしゃいました。
子供の頃から好きだったことが、今の研究につながっている。そうした研究の背景にあるストーリーを聞くのが、私自身も好きですし、世の中に同じような思いを持つ人たちが共感し、仲間が増えていったら素敵だなと思います。
研究を行っているご本人に直接会って話を聞ける機会は、民間企業の新規事業部門にいてもなかなかありません。見えていなかった課題や気づきを提示すると、研究者が素直に受け止めてくださる。そのプロセスに関われることに、大きなやりがいを感じています。
もったいない技術に光を ── ON BOARDが目指す、伴走支援の未来
──今後、この取り組みをどのように広げていきたいと考えていますか。
斉藤:このON BOARDの多様性ある社会実装支援チームの取り組み自体は、特に対外的なプロモーションはしていません。だからこそ、研究者の皆さんの間での口コミで広がり、ON BOARDの支援が評価されていくようなムーブメントが起きたら嬉しいです。社会実装への道のりは非常に長く、その手前の段階で技術の魅力をわかりやすく伝えるPRの部分や、本質的な課題を洗い出して対話する部分など、頼れる存在になっていけたらと思っています。
多くの研究者の方々に知っていただき、悩んでいる方から頼られる存在になれたら嬉しいですね。
──このプロジェクトに向いているのは、どんな人だと思われますか。
斉藤:知的好奇心や探求心がある人ですね。それから、わからないことを正直に言えること。研究者の方々は知識が深い分、専門用語を使いながら話されることも多いですが、一般の方々には伝わりづらい内容も少なくありません。そうした話に対してわかったふりをせず、フラットに「これってどういう意味ですか?どんな場面で、どんな企業が使うんですか?」と素朴な疑問を持ち、それを言葉にできること。こうした人が、良い素養を持っていると思います。
大山:多くのことに好奇心を持ち、新しい取り組みに関心を持てる方ですね。最初から固定観念にとらわれず、対話を通じてさまざまなものを引き出していくプロセスを楽しめる人は、とても楽しく働けるのではないかなと思っています。ただし、単にわからないというのではなく、研究内容について理解を深めようとする努力は必須条件です。
──最後に、この記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。
斉藤:日本の技術力をもっと高めたい、広めたいという想いがある方には、ON BOARDの環境はきっと合うはずです。
今の日本には、まだ光の当たっていない素晴らしい技術がたくさん眠っています。だからこそ、私たちが社会実装の支援を行うことで、社会をもっと良くし、日本を強くできると信じています。そういう想いや志を共にして、一緒に楽しみながら並走してくださる方をお待ちしています。