メタジェンセラピューティクス株式会社(以下、MGTx)は、健康なドナーから提供された便を原材料に、腸内細菌叢移植(FMT: Fecal Microbiota Transplantation)——おなかの中の菌を移植する治療法—— を医薬品として開発している会社です。
今回は、そのCMC(製造・品質管理)部門を率いる黒田部長に、代表取締役CEO・中原拓がインタビューしました。
低分子、抗体、細胞製剤、そして外資系製薬工場のGMP現場まで渡り歩いてきたベテランCMCプロフェッショナルが、なぜ「人生最後のモダリティ」にうんちを選んだのか。日本で初めて便を薬にしようとしている事業のリアルをお届けします。
黒田 典敬(くろだ のりたか) メタジェンセラピューティクス株式会社 CMC部 部長。大手日系製薬会社でラボテクニシャンとしてキャリアをスタートし、CMC開発・CMC薬事開発・プロジェクトマネジメントに約10年従事。細胞製剤企業での再生医療CDMO技術移転、外資系製薬工場での生産技術職を経て、2023年にメタジェンセラピューティクス株式会社に参画。現在、FMT製剤のCMC部門を統括。
注射剤のラボテクニシャンから、チームのPMへ
──黒田さんは、これまでどんなキャリアを歩まれてきたのですか?
黒田:もともと一社目は製薬会社で、注射剤の分析法開発や品質試験の立案といった、いわゆる製薬企業のCMC開発[1]からキャリアをスタートしました。ラボテクニシャンとして3、4年いろんな製剤の経験を積ませていただいて、製剤設計にも関わるようになりました。
そこから医薬品のライセンスイン・ライセンスアウト、CDMO[2]への製造委託・分析委託などをリードする部署に移って、チームを率いたり、プロジェクトマネジメントや他社マネジメント、CMC薬事開発を10年近くやってきました。
中原:最初はテクニシャンとして手を動かす現場からスタートして、たった3〜4年でPM側に移ったんですよね。これ、だいぶ早いんじゃないですか?
黒田:ほとんどの人はPMのポジションには行かないんですよ。生涯開発をやり続けるか、そのまま工場に異動するかが多い。ただ、私の場合はライセンス契約でアメリカ人とCMCのやりとりをしないといけないのに、私以外みんな英語がからっきしで、チーム内でTOEIC次点の人が最高点450点だったんです。
中原:450点ですか…笑
黒田:なので私がすごくできたというより、「お前、英語できるんだからやれよ」という流れだったんです。
「CMCならGMPを知らないとダメだろう」──現場に降りた3年
──プロマネを経験したあとの、キャリアは?
黒田:細胞製剤の会社に入って、再生医療のCDMOの技術移転、CMCの承認申請データ取得、PMDA[3]相談などをやりました。ただ、その中で気づいたんです。ずっと研究畑の中のCMCで働いてきたけど、実際に製造している現場のGMP[4]がどうなっているのかが分からないと、CMCの人間と言えないだろう、と。自分の中でそこが圧倒的に弱いと感じた。
だからあえて、外資系製薬会社の工場で生産技術職を3年間経験しました。そこでGMP現場で何が起こっているのかを、身体で理解しました。
中原:PM時代って、GMPをよく知らなくても仕事できるものなんですね。
黒田:できるんですよ。GMPはルールなので、「このロットはGMPでやらないとダメ」ということさえ分かっていれば、あとはCDMOに委託すれば向こうがGMPのルールでやってくれる。分からなくても仕事自体はできるんです。
中原:じゃあGMPが分かると、何が違うんですか。
黒田:裏でどれだけの工数がかかっているか、コマーシャル生産の一環として試作を差し込むのがどれだけ大変なことか、受ける側のプレッシャーがすごく分かるんです。PM時代は「それだけやってくれ」で済んでいたけど、GMP工場側はコマーシャル生産の一貫としてやっているわけで、そこの重みが分からないと、本当の意味でのCMCは組めないんです。
中原:現場に降りて仕組みを知ると、「昔プロマネとしてこう依頼していたけど、実はこういう理由があったのか」と腹落ちする。
黒田:そう、まさにそれです。
「うんち」を真ん中に据える──人生最後のモダリティへ
──なぜ最後の会社にMGTxを選んだのか、教えてください。
黒田:一通り経験したことで、自分の中でCMCの全体像がこういうものだな、というのがよく理解できた。ただ、その先に何がしたいのかが分からなくなった時期があったんです。生産現場はとにかくコストとの戦いで、研究とは程遠い世界だというのもよく分かった。
もともと地方に住んでいて、農業とか、地方でゆっくりする、というのも人生の目標の一つにあった。でも、せっかくここまで経験を積んできたんだから、最後にそれを活かした上で、製薬業界から卒業できたらいい。そう思っていたときに、たまたま出てきたのが「うんちを薬にする」というテーマでした。
うんちは、製薬会社のCMCにとっては普通は避けなければならないものです。それをど真ん中に置いてやるというのは、今までの概念がまったく通用しない。 かといって無鉄砲な開発はできないから、ある程度幅広いCMCの知識がないと立ち上がらない。自分が最後にトライする上で、もってこいの題材でした。ご縁もあって、「人生最後のモダリティにしよう」と決意して入社しました。
中原:まだ3年3ヶ月なんですよね。なんかもう、ずっと昔から一緒にやっている感じがする。
低分子→抗体→細胞、そして便——"何をもって薬とするか"の哲学
──低分子・抗体・細胞ぜんぶ経験してきた黒田さんからみた、FMTモダリティの面白さと難しさとは?
黒田:他の製剤と違って、便はいろんなものが混ざり合ったものです。抗体も低分子も、いかにピュアにして、純粋なものを作って投与するかにフォーカスが当たる。でも我々は混ざり合っているものを含めた全体として品質をコントロールしていく。ここでパラダイムシフトを起こさないとダメなんです。
「どうやって品質コントロールするのか」を突き詰めていくのがこの仕事で、そこが面白い。技術的には、便を集めるところは献血・採血と同じで、病原体がないことをしっかり確認して原材料にしていく必要がある。ここは血液製剤と同じように、手を抜かずにきっちりやるべきところです。
中原:低分子は構造式まで完全に書ける世界。抗体になると糖鎖修飾などのバリエーションはあるけど全体としてOK。細胞になると化学式では書ききれないけど、いくつかのマーカー[5]で定義する。そして「便」になる。
黒田:はい。便という形であろうと、効き目の正体、つまり「何が効いているんだ」というところをしっかり定義することが重要だと思います。我々は便の中にいる生きた腸内細菌にターゲットを当てているので、「この腸内細菌が効いているんだ」ということをしっかり見せていく。そこが肝です。
中原:つまり、ものとして定義しきれなくなったら、機能や規格で定義するしかない。"何をもって薬とするか"という哲学をCMCとして打ち出さないといけない、と。
黒田:そうです。医薬品として使える便は何なのか、という定義。ここはノウハウに関わるので具体的には言えないですが、自分で規格のラインを決められる。それが独自性であり、この仕事で一番面白いところです。今まで誰もやっていないので、自分が設定したものが業界の標準になり得る。パイオニアというか、開拓者になれるポジションです。
中原:CMCの人って、むしろそういう"自分で決める"のが苦手な人が多い気もしますが。
黒田:そこが大きな分かれ道だと思います。決まったフォーマットの中で製剤のスペシャリストになりたい人には、このモダリティは向きません。自分でこの製剤をどう薬として定義していくかを考えるのが好きな人にとっては、格好の題材です。
中原:逆にCMCのロジックを分かっている人が我々の事業を見ると、違和感を抱くのでしょうか。
黒田:違和感はないはずです。ちゃんと特性を理解していけば、自然とこの落とし所になる。当局ともしっかり相談した上で、今の形になっています。
鶴岡・川崎・順天堂──3拠点のCMC現場
──MGTxのCMCは、鶴岡・川崎・順天堂(一部リモート)で構成されています。それぞれの拠点の違いは何ですか?
黒田:もともと本社が山形県の鶴岡市で、そこから始まった会社です。鶴岡は食文化の街でもあって、そこで提供いただいた便を使えるというのは、我々にとって自信を持って開発を進められる理由の一つです。鶴岡では、提供いただいた便から菌を生きたまま冷凍保存する処理施設が稼働しています。
そこで作った原材料を川崎に持っていって、凍結から製剤(カプセル剤)にしていく。こちらは完全に医薬品の治験薬の製造工程です。
薬事開発はどこでもできるので、そちらに興味がある方はリモートワークができます。順天堂大学の施設内では、大学病院という特殊な環境で、製薬会社の一員として研究開発に携わっていただけます。

(鶴岡)医薬品の原料となる腸内細菌溶液
中原:キャリアの入り口としての適性も拠点ごとに違いそうですね。
黒田:鶴岡は入り口として入りやすい場所です。これまで食品工場で働いていた方、医療機関で働いていた方が「ちょっとキャリアを変えたい」と思うきっかけに、すごくマッチします。作業自体はシンプルですが、いろんな製剤の知識・経験を積めるポジションです。
川崎は既存の製薬工場でGMPのガチガチのルールにきつさを感じていた方に、自分たちでルールを決めていける環境として、チャンスだと思います。ただ使われるだけじゃなくて、みんなで作り上げていける。順天堂は、もともと大学やアカデミアで研究されていた方が、製薬寄りにキャリアをシフトしたいときの入り口として機能します。
中原:新卒もウェルカムですよね。
黒田:新卒もウェルカムです。微生物やこの治療法自体に興味がある方であれば、一から指導していきたいと考えています。やる気と情熱と真摯な気持ちがあれば。理系で生化学や微生物のバックグラウンドがある方だと、より入りやすいとは思います。

(川崎・鶴岡)腸内細菌溶液の品質試験
MGTxのCMC部門に、向いている人とは?
中原:CMCの採用候補者は20代~30代くらいで「もう一段ギアを上げて成長したい」という方を想定していますよね。「自分には何もない」と思っているような人でも大丈夫でしょうか。
黒田:原材料を作るポジションになるので、作業したことをきちんと記録し、見て確認して間違いがないかをチェックできる。この基本的な事務作業がしっかりこなせることが一番大事です。品質は最終的に書類によってできていくので、コツコツと形として残していけることが好きな人に来ていただきたいです。華やかなサービス精神よりも、地道に記録を積み上げる姿勢。それがあればゼロからでも大丈夫です。
中原:逆に、こういう方にはMGTxは辛いかも、というのも正直に言っておきたいですね。
黒田:スタートアップなので、「昨日こう言っていたけど状況が変わったので今日はこうします」ということが普通に起きます。計画通り動かせないと困る、という方には、しんどい環境だと思います。臨機応変に動けることが前提です。ただ、失敗したからダメじゃないか、という減点方式ではなく、やってくれた人に加点していくという加点方式の会社です。GMP工場のような厳格な減点文化で疲れてしまった方には、合うと思います。トライアル&エラーが起きるのが当たり前の場所なので、伸び伸びとやっていただけるはずです。
中原:抗体薬のCMCは、もうルーティン化してきた領域になりつつあります。ここで新しいモダリティをゼロから立ち上げた経験は、FMTだけでなく、将来また別の新しいモダリティが出てきた時にも必ず活きる。
黒田:そうですね。新しいモダリティを薬事資料に落とし込んでいける、ゼロから立ち上げられるという経験は、これからの時代に非常に希少価値があります。20-30代で成長を求めている方にとっては、大きなチャンスだと思います。
おわりに
中原:最後にひとこと、候補者の皆さんへお願いします。
黒田:我々は健康な方から便を集めて、それを移植していく、日本で初めての面白いことをしている会社です。製造のポジションはその最先端を担うところ。新しいことをしながら、困っている人たちを助けられる可能性がある仕事です。興味を持っていただけるなら、ぜひ一緒に仕事をしたいと思います。ご応募、お待ちしております。
CMC人材募集中
メタジェンセラピューティクスでは、鶴岡拠点の原材料製造・品質管理を中心に、CMC人材の採用を強化しています。医薬品業界の経験がある方はもちろん、食品工場や医療機関からのキャリアチェンジも歓迎です。「地元・山形で医薬品づくりに関わりたい」「新しい挑戦をしてみたい」——そんな方のご応募をお待ちしています。
<注釈>
[1]: CMC開発:Chemistry, Manufacturing and Control。医薬品の「化学・製造・品質管理」に関する開発業務の総称。医薬品の"品物としての中身"を組み立て、規格や製造方法を定義していく領域。
[2]: CDMO:Contract Development and Manufacturing Organization。医薬品開発・製造を受託する企業。自社で工場を持たない製薬会社が開発・製造を委ねる相手。
[3]: PMDA:独立行政法人 医薬品医療機器総合機構。日本の薬事規制当局で、承認審査や安全対策を担当。
[4]: GMP:Good Manufacturing Practice。医薬品の製造管理・品質管理の基準。工場の運用ルールを定めた"医薬品づくりの憲法"のようなもの。
[5]: マーカー:細胞や物質の性質を識別する目印となる分子。細胞製剤では、これで細胞の種類や品質を定義する。
【採用強化中】新しい医療モダリティである腸内細菌叢移植(FMT)を医薬品として社会に届けるために、一緒に道を切り拓いてくれる仲間を募集しています。鶴岡・川崎・順天堂(・リモート)の各拠点で、CMC関連のポジションを採用強化中です。「ゼロから規格をつくる」経験に興味がある方、減点方式に疲れてしまった方、新しいモダリティでキャリアをもう一段伸ばしたい方。ぜひカジュアル面談からお声がけください。
【免責事項・利益相反(COI)の開示】 中原拓はメタジェンセラピューティクス株式会社の代表取締役社長CEOであり、博士 (理学)を有する基礎的な科学(バイオインフォマティクス)の専門家です。本記事は、マイクロバイオームサイエンスおよびFMT(腸内細菌叢移植)に関する最新の科学的知見や業界動向の共有、ならびに当社のビジョンをお伝えすることを目的としており、特定の医薬品の広告・宣伝、および個別の患者様への医学的アドバイス(診断・治療の推奨)を目的とするものではありません。 本記事で言及されるFMTや関連技術には、現在研究開発段階にあり、薬機法上の承認を得ていない未承認医薬品・治療法が含まれる可能性があります。これらの有効性や安全性は確立されたものではなく、将来的な承認を保証するものではありません。 ご自身の病気や治療に関しては、必ず主治医や専門医療機関にご相談ください。また、中原拓は当社の株式を保有しており、本記事の内容には当社事業に関連する利益相反(COI)が存在します。