はじめに|人事評価制度の「中身」を公開します
前回の記事では、私たちnodomaruが、たった10人ほどの規模の会社でありながら、なぜ人事評価制度の設計にこだわったのか、その背景をお話ししました。
ありがたいことにたくさんの反響をいただき、本当に嬉しく思っています! 前回の内容をざっくり振り返ると、以下のようなテーマについて触れました。
- 中小企業(ベンチャー)特有の人材頭打ちの課題
- 「不動産×労働集約」というビジネスモデルにおけるインセンティブ制の合理性
- その業界の合理性と、私たちが目指す組織思想とのギャップ
- チームの仕組みで勝つ「レバレッジ経営」へのかじ取り
「まだ読んでいない!」という方や、「もう一度おさらいしたい」という方は、ぜひこちらの前回の記事をチェックしてみてくださいね。
なぜ?たった10人の会社が3年かけて評価制度を作ったワケ | 株式会社nodomaru
さて、背景をお伝えしたところで、「じゃあ、具体的にどんな制度を作ったの?」という本題が今回のテーマです。
具体的にどんな評価項目があって、どうやって賃金や昇格の基準が決まっているのか、その仕組みを詳しく解説します。
ちなみに、この制度の設計思想や設計前の準備事項、実際にどうやって運用しているのか、インセンティブ制からの切り替え時にどんな葛藤や壁があったのか……といった「運用のリアル」については、次回以降の記事でじっくりお話しします。
まずは今回、nodomaruの評価制度の仕組みそのものをご紹介いたします!
目次
1.制度の全体像|評価制度を形づくる「3つの柱」
私たちの人事評価制度は、非常にシンプルです。 以下の「3つの柱」から構成されています。
- グレード: 会社から求められる「役割・人材要件」の定義
- 考課シート: 業績・行動・情意の3つの「評価項目」
- 賃金レート: グレードと評価が紐づいた「給与基準」
ここからは、この3つの仕組みについて一つずつ詳しく解説していきます。
2.グレード詳細|役割を見える化する「9段階×5ランク」
評価制度の中身を解説する上で、すべての土台となるのがこの「グレード(等級)」です。
大前提の設計思想は、会社と社員の「方向性のすり合わせ」にあります。
社員が迷わず安心して走るためには、
「どのような要件を満たせば、どのような処遇(給与や役職)になるのか」という会社の方向性を、あらかじめクリアに提示しておく必要があるからです。それを示す道標こそが、このグレード制度です。
詳しい設計手順は次回以降の記事でお話ししたいですが、このグレードを作る上で最大のポイントとなったのが、「適所適材」という考え方です。
「適材適所」と「適所適材」の違い
組織設計を考える上で、「現在の人材リソースを最大限発揮するにはどうするか」という視点はすごく大事です。
しかしながらこれは「適材適所」という思考に繋がってしまいます。
✕ 適材適所(「人材」から始めるアプローチ)
今いるメンバーの現在のスキルや、これまでの仕事・権限を維持することを前提として、その顔ぶれに合わせて組織や役割をパズルのように考えていくやり方。
◎ 適所適材(「組織の構造」から始めるアプローチ)
「人材は構造に従う」という考え方です。まずは経営計画(戦略)を達成するために「どんな役割(席)が組織に必要なのか」を先に定義し、その後で、その役割を遂行できるスキルを持った人を配置します。
引用書籍:最強の戦略人事―経営にとっての最高のCAO/HRBPになる
私たちは、「適所適材」の考え方に従い、経営計画から逆算してグレードを設計しました。
nodomaruが定義した「2つの役割」と「3つの階層」
前回の記事でお伝えした通り、nodomaruはチームの仕組みで勝つ「レバレッジ経営」を掲げています。
そのため、組織の構造上、大きく分けて2つの役割(人材)が必要になります。
- マネジメントで周りをエンパワーメント(育成・仕組み化)できる人材
- 高い専門性を磨き、圧倒的な個人の営業力を発揮する人材
この2つの役割を内包しつつ、タテの階層としては大きく
「ファンダメンタル」「リーダー」「オフィサー」の3ステージに区分し、それをさらに細分化して「9つのグレード」として可視化しました。
実際のnodomaruのグレード表がこちらです。
成長のグラデーションを支える「5つのランク」
さらに私たちは、メンバーの「継続的な成長実感」や「要件の部分的な達成」といった、日々の細かなステップアップも大切にしたいと考えました。
「G3の次はG4」という大雑把な階段だけだと、次のグレードに上がるまでずっと給与も評価も変わらず、モチベーションが維持しにくくなってしまいます。
そこで、各グレードの中に「D ➡ C ➡ B ➡ A ➡ S」の5つのランクを用意しました。
【9段階のグレード × 5つのランク = 実質45段階】
の細かなグラデーションがあることで、日々の泥臭い頑張りや小さな成長が、毎回の評価でしっかりと反映される仕組みになっています。
3.考課シート詳細|透明性の担保とコミュニケーションツールとしての機能
まずは、考課シートのサンプルをご覧ください。
一見すると複雑に見える考課シートですが、その構造は人間の成長や対話のプロセスに沿って非常にシンプルに設計されています。
まずはシート全体の構造と見方(流れ)から解説します。
【考課シートの4つのプロセス】
STEP1:目線共有 ➡ 全社目標と個人の成長目標のベクトルを合致させる
STEP2:実行・計測 ➡ 3つの観点(業績・行動・情意)から計測する
STEP3:分析(機能的) ➡ 本人と上司双方が数値ベースで分析・修正する
STEP4:対話(情緒的) ➡ 数字に表れない感情やプロセスを共有する
単に「査定」するためだけの紙ではなく、「社員と上司が毎月向き合い、共に成長するためのコミュニケーションツール」としてデザインされているのが、このシート最大の特徴です。
STEP1:目線合わせ|「経営計画」×「ありたい姿」の合致
「期待値のズレ」を解消するため、シートの最上段には以下の2つを記載しています。
・会社の経営計画(会社が目指す目的地)
・ 今期/半期終了時にありたい姿(個人がどう成長したいか)
日々のタスクや目先の数値に没頭していると、どうしても本来の目的地を見失いがちです。
だからこそ、会社の方向性と個人の理想の姿を擦り合わせます。
ここが見えているからこそ、毎月の1on1でも「目指す理想の姿に向かってブレずに進めているか?」という調整が可能になります。
STEP2:実行・測定|3つの観点から客観的に評価する
評価項目(成長要件)は、「達成力(業績考課)」「実践力(行動考課)」「人間力(情意考課)」の3観点で構成されます。
■3つの評価観点
- 達成力(業績考課):
【結果】 売上や成約数など、数値で表される会社貢献。 - 実践力(行動考課):
【プロセス】 成果を再現性高く生み出すための実務行動・スキル。 - 人間力(情意考課):
【姿勢・価値観】 理念・行動指針・カルチャーの体現。
■レーティング方法
計算から主観を排除するため、クリアな計算式を組んでいます。
評点 = ウェイト(項目合計20) × 基準(0~5の6段階)
ウェイト:考課項目合計20ウェイト
基準:考課項目0~5の6段階
評点:20×5=100点満点
【計算の具体例】
達成力(業績):
項目①(ウェイト3×基準4=12)+ 項目②(ウェイト3×基準4=12)+...
➡ 小計 42点
実践力(行動):
項目①(ウェイト1×基準5=5)+ 項目②(ウェイト1×基準4=4)+...
➡ 小計 18点
人間力(情意):
項目①(ウェイト2×基準4=8)+ 項目②(ウェイト1×基準3=3)+...
➡ 小計 14点
➡ 【合計 74点】(※全項目の合計ウェイトは必ず「20」になります)
■グレードに応じたウェイト(重みづけ)の調整
この3観点の配分(ウェイト20の割り振り)は、グレードによって変化します。
G1〜G3(ファンダメンタル層):
いきなり高い業績(達成力)を求めるのではなく、「実践力」や「人間力」のウェイトを高めに設定。基礎力向上と理念浸透に集中できる設計にします。
G4〜G6(リーダー・エキスパート層):
グレードが上がるにつれて「達成力」や「マネジメント成果」のウェイトを高め、組織の数字を作る役割へとシフトしていきます。
■総合得点の算出と、ランク変動のルール
このシートを使って毎月スコアを算出し、半期(6ヶ月)の平均点を最終評価として使用します。
半期の平均点によって、ランクの昇降格が以下のように決まります。
評点90点~:3ランクUp
評点80点~:2ランクUp
評点70点~:1ランクUp
評点36点~69点:Stay
評点~35点:1ランクDown
■営業組織が「3観点評価」を取り入れる大きなメリット
複数の評価基準がある中で、業績考課は営業職の考課を行う際には最も導入しやすい傾向にあります。
事務職や技術職とは異なり、売上という定量指標が明確であるからです。
一方で、業績指標のみを取り入れてしまうと、おのずと成果至上主義的な雰囲気、ひいては“数字=その人の人間価値”のような見られ方が無意識に発生してしまいます。
これらを防ぎ、持続可能な成長を生み出すために、
業績考課だけでなく、行動考課と情意考課を加えました。
3観点での評価を行うことにより、以下の大きなメリットが得られると考えています。
- 成果の「再現性」が高まる:
成果に至るプロセス(実践力)が可視化されるため、再現性のあるスキルが身につく。 - 不調時の「具体的改善策」が見える:
数字が出ないときでも、行動量(実践力)か姿勢・メンタル(人間力)のどこに課題があるか、または打ち手のきっかけを特定できる。 - 理念・カルチャーが「行動レベル」まで浸透する:
姿勢(人間力)も正当に評価されるため、組織のカルチャーが自然と現場に根付く。
STEP3:分析|「コト(仕事)」に向き合い、建設的なFBを行う【機能面】
測定した評点に対して、本人と上司の双方が評価と分析を行います。
明確な評価制度がない会社であっても、「毎月の事実に対して改善点を話し合い、PDCAを回す」ということ自体に取り組んでいる組織はたくさんあると思います。
ですが、ここには現場ならではの「難しさ」があります。
- マネジメント側:
「自分がこうやって成果を出してきたから」と、無意識に主語が上司(自分)になっていないか?
そのアドバイスは、どれくらい部下に届いているのだろうか。 - 部下側:
仕事に対する客観的な指導や指摘を、「自分という人間を否定された」「傷つけられた」と受け取ってしまうことはないか。
これはマネージャーだけの問題でも、部下だけの問題でもありません。
人と人とのコミュニケーションだからこそ、どんな現場でも起きてしまう非常に「もったいないズレ」です。
だからこそ、制度という大義名分を創り、目指すべき方向性や評価基準をあらかじめ「言語化」することが大きな意味を持ちます。
制度として基準が明文化されていることで、仕事(コト)と人格(ヒト)を切り離す「課題の分離」が自然と行われるようになります。
マネージャーは自分の感覚論ではなく「会社の目指す基準」を主語にして伝えられるようになり、部下も「仕事に対する前向きなアドバイスだ」と素直に受け取れるようになる。
お互いに余計な感情的ストレスを生むことなく、本当に価値のあるフィードバックができるようになる。この土台があるからこそ、日々のPDCAが初めて現場で機能し始めるのです。
STEP4:対話|感情の共有と内省【情緒面】
最後に、当月の振り返りとして総評と所感を共有し合います。
ここまでの項目は主に「ハード面(数値・基準)」の話でしたが、どんなに綺麗な仕組みを創っても、実際に働くのは生身の人間です。
人のバイオリズムや感情は、毎月一定ではありません。
- 「数字(結果)は出ているけれど、自分の中で成果を素直に認められない」
- 「チームは良い雰囲気なのに、自分だけ成果が振るわず焦ってしまう」
- 「一番近くで泥臭いプロセスを見てくれていた上司に、ちゃんと努力を承認してほしい」
こうした迷い・焦り・承認欲求といった感情を抱くのは、人間としてごく自然なことです。
ここで重要なのは、湧き出た感情を抑え込んだりコントロールしようとするのではなく、言語化された自分の「感情の癖」を知り、その取り扱い方を学んでいくことです。
「自分の素直な感情を言語化すること」は、自分自身の状態を客観的に見つめ直す「深い内省」へと繋がっていきます。
だからこそ、マネージャーの役割は単に数字を採点することではありません。 メンバーの発する感情を受け止め、一番の理解者として歩み寄ること。そして、一歩高い視座から共感し、メンバー自身の内省をしっかりとフォローすることです。
仕組み(機能)で「仕事(コト)」に向き合い、対話(情緒)で「人(ヒト)」に向き合う。
この両輪が揃って初めて、メンバーが安心してチャレンジし、自立して成長していける組織が完成するのだと考えています。
4.賃金レート詳細|評価と給与が連動する「透明な給与体系」
グレード(役割)を決め、考課シートで日々の成長を測る。
その最後に行き着くのが、「評価結果が、具体的にどう給料(処遇)に反映されるのか」という賃金レート(給与テーブル)です。
「頑張ってもどう給与に跳ね返るかわからない」
「昇給の額は結局、上層部の匙加減」
といったブラックボックスを完全になくすため、nodomaruでは評価と給与が100%連動するテーブルを社内に公開・運用しています。
全45階層の基本給テーブル
基本給のベースとなる仕組みは非常にシンプルです。
前述した
【9段階のグレード(G1〜G9) × 5つのランク(D〜S) = 実質45階層】
のそれぞれに対して、明確な基本給があらかじめ設定されています。
(※上記画像はサンプルのため実際の額面とは異なりますが、社内メンバーには実際のテーブルを完全に公開しています)
考課シートで算出した半期スコアによって自分がどのランク(D〜S)へ移動し、翌期の基本給がいくら変わるのかが誰でも一目瞭然で分かる仕組みになっています。
基本給「+手当」で組織の役割にアジャストする
組織には様々な職種や役割が存在します。
わかりやすい例で言えば「営業職」と「バックオフィス(事務職)」では、働き方も求められる役割も異なります。
そのため、共通の土台となる「基本給テーブル(45階層)」に対して、自社の組織図や職種に合わせて手当を組み合わせる設計をとっています。
nodomaruは不動産の営業会社であり、職種を
「エキスパート(個人の専門性)」と「ディレクター(マネジメント)」
に分けているため、以下のような手当構成(アドオン方式)にしています。
【給与の内訳】
基本給 + 営業手当 + 資格手当 + マネジメント手当 + プロジェクト手当
【各種手当の考え方】
営業手当(固定残業代):
営業手当=基本給/月間稼働時間×1.25×固定残業時間(グレードにより変動)
資格手当:
業務に必要な専門知識を評価(例:宅地建物取引士 = 月2万円)
マネジメント手当(アドオン方式):
基本グレードと同様の考え方で「マネジメントグレード」を設計し、役職やマネジメント範囲に応じた手当レート表を作成して支給しています。
プロジェクト手当(アドオン方式):
新規事業や事業部兼務など、基本役職を超えて役割を担ってくれている場合に、プロジェクト範囲に応じて支給しています。
例)
・基本グレードG3-A
・営業人材
・宅建あり
・マネジメントG1-A
項目:基本給+営業手当+資格手当+マネジメント手当
金額:310,000+72,656+20,000+22,000=424,656円
基本給(45階層)というクリアな土台を共通に持ちつつ、身につけた専門スキル(資格)や担う役割(営業・マネジメント)に応じた手当が明快に加算されるため、メンバー全員が納得感を持って自分の目指すキャリアに挑戦できるようになっています。
参考文献・クレジット
本考課制度の思想構築および設計あたっては、弊社の制度設計パートナーである株式会社ワンストップHOP様にコンサルティングのご協力をいただくとともに、同社の知見が凝縮された以下の書籍を大いに参照・引用しています。
- 小川実 著:Amazon.co.jp: 小さな会社の「仕組み化」はなぜやりきれないのか : 小川 実: 本
- 大神千穂 著 / 小川実 監修:小さな会社の「人材育成」はなぜやりきれないのか | 大神千穂, 小川実 |本 | 通販 | Amazon
おわりに|制度の「仕組み」から、いよいよ「運用のリアル」へ
今回の記事では、nodomaruの人事評価制度を形づくる「3つの柱」の全貌をお届けしました。
- グレード:
適所適材の思想に基づいた9段階の役割定義 - 考課シート:
3観点(業績・行動・情意)による機能的・情緒的なツール - 賃金レート:
評価と給料がダイレクトに紐づく45階層+各種手当の給与テーブル
当初は設計の意図や運用上のリアルまで一気に解説する予定でしたが、盛り込むべき内容があまりにも多いため、今回はまず「仕組みの構造」を中心にお届けいたしました。
「綺麗な制度だけど、本当に現場で回っているの?」
ここまで読んでくださった方の中には、きっとこんな疑問が浮かんだかもしれません。
「仕組みは綺麗だけど、こんな面倒な評価や1on1、本当に現場で運用できているのか?」
「結局、形骸化して現場が疲弊しているんじゃないの?」
まさにその通りで、「綺麗な制度を作ること」と「それが現場で機能すること」は全くの別物です。
実は、この制度が形になり、実際に現場で機能するようになるまでには、実に「3年間」という月日と、数々の泥臭い試行錯誤がありました。
- 要件の言語化や階層分けといった、設計時の難しさ
- 営業組織としてのインセンティブ脱却時のリアルな葛藤
- 制度導入時に起きた現場のハレーション
理想論だけでは語れない、数々の生々しい課題と向き合い続けてきたのがnodomaruの3年間でした。
そこで次回以降のシリーズ記事では、今回ご紹介した仕組みの裏側にあるストーリーを、包み隠さずお話ししていこうと思います。
「成長がクリアに見える環境で、思いきり挑戦したい」
「数字だけでなく、ひとりの人間として本気で向き合ってくれる仲間と働きたい」
もし、nodomaruの組織づくりや『人と本気で向き合う文化』に少しでも共感していただけたら、とても嬉しく思います。
次回以降の「運用のリアル」も楽しみにしていただきつつ、 nodomaruという会社に興味を持ってくださった方は、ぜひ一度カジュアルにお話ししましょう!