「警備業界」と聞いたとき、どんなイメージを抱くでしょうか。古くからある業界、肉体労働、アナログ……そんなネガティブなイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、「歴史ある業界だからこその魅力と、業界の負を解決する面白味がある」と株式会社KYODOUの代表・澤橋は語ります。
ShiftMAXは、富山県発の警備会社のKYODOUの社内ベンチャーの位置づけで立ち上がった事業部。祖業は工事現場やイベント会場などの警備業ですが、ニッチでレガシーな領域をIT化したいという思いから、2000年から社内ベンチャーとして、ShiftMAX事業部を立ち上げ、基幹業務システムの開発・販売をスタートしました。現在は、警備業界特化のSaaSを展開し、富山県だけでなく東京を含めて、多くのエリアに事業を展開しています。
今回の記事では、代表の澤橋に起業の経緯、大切にしている思いなどを聞きました。
ShiftMAXは、富山発の警備会社のKYODOUから立ち上がった業界特化のSaaSプロダクト開発を行う「社内ベンチャー」
——始めに、KYODOU株式会社の事業内容を教えてください。
KYODOU株式会社は、1995年に「有限会社 共同警備保障」として立ち上げた会社です。当初は交通誘導警備業務を中心としていましたが、2000年に、基幹業務システムの開発・販売をスタート。高岡市・岡崎市・金沢市・横浜市などに拠点を立ち上げながらサービス提供エリアを拡大してきました。現在は、約300名の従業員とともに事業を行っています。
——なぜ警備会社を立ち上げようと思ったのですか?
話は40年ほど前にまで遡ります。私は10代の終わりから20歳頃まで、運送業・バーテンダー・クラブDJなどさまざまな仕事をしていました。バーやクラブなどの夜の仕事をしていると、仕事を通してたくさんの経営者と知り合います。彼らの多くは自分のしたいことを経営を通して実現し、売上を作ることで従業員やその企業のあるエリアに貢献していました。
そのときに漠然と「地元 富山で企業して、地元に貢献したい」と思うようになりました。「とはいえ、いきなり起業するにはビジネスのことを知らな過ぎたので、まずは地元の小売店で店長をし、ビジネスをいちから学んでいきました。1年ほど働くとなんとなく仕事のこともわかってきたので、自分の会社を立ち上げることにしました。
——さまざまな業種・業界がある中で、なぜ警備業を選んだのでしょうか?
当時の起業のモチベーションは、「なんでもいいから売上を作り、地元に貢献すること」。そのため、需要があって地元のためになるものであれば正直、業界はなんでもよかったんです。警備業は当時、創業に関するルールなどが比較的緩やかで、案件も多くある業界でした。警備業を営む知り合いに起業についてのに話したときに「うちからも仕事を渡すよ」と言われたことも後押しとなって、警備業で会社を立ち上げようと決めました。
警備業は、想定していたよりも早くに軌道に乗りました。創業2年ほどで、警備業だけで2~3億の売上が立つようになりました。当時は人も仕事もある時代だったので、無理をすればどんどん仕事を拡大できるような状態でした。
——2000年には基幹業務システムの販売を始めています。どのような背景でShiftMAXが立ち上がったのでしょうか?
先ほどもお伝えしたように、起業する前に警備業界に携わっていたときから、この業界の非効率さを目の当たりにしてきました。会社を立ち上げて数年経ったころWindows98が出回り始めました。私自身が高専出身で、自らプログラミングができたので、そのスキルを使って業界課題を解決できないものかと考えるようになりました。
もちろん当時から同じようなことを考え、システム開発を行う企業はありました。しかし、世の中にあふれるプロダクトはITに馴染みのないレガシー業界にはフィットしにくかった。それならば、現場を熟知した自分が開発者として手を動かし、現場に最適な形のシステムを作ればよいのではないかと思いました。
「無理をしない、させない。本当に必要なものに絞る」というマインド
——その後、会社は順調に成長していったのでしょうか。
設立から数年で売上は3億円にまで伸びました。また、現場課題・従業員の管理に関する課題を抱える企業は多く、知り合いからも「うちにもそのシステムを売ってよ」と声を掛けられる機会も増えていきました。
営業に力を入れていたわけではなかったのですが、勤怠管理システムも地元企業の中で少しずつ売れるようになり、私は有頂天になっていました。
起業した当初の目的は「地元に貢献したい」だったので、事業が軌道に乗り、事業やシステムを必要としてくれる人が増えていく現実が本当に楽しくて。次第に、自分の健康や身体は二の次にする働き方になってしまっていました。
警備の現場、開発、経営者業…すべてに全力投球していたら、ある日の朝、急に布団から出られなくなりました。会社の重要な業務をほとんどすべてひとりで担えていたはずなのに、散歩以外のことが何もできない。眠れず、食べられず、お風呂にも入れず、できるのは散歩だけ。そんな期間が続きました。
幸い、警備業務については当時の部長たちに権限を委譲していたので、私がいなくても会社は回りました。ですが、あんなに何でも自分でやりたかった私が、仕事はおろか生活すらもままならなくなってしまったんですよね。
——それからどのようなプロセスを経て回復に向かったのですか?
それまでの私は、誰かに貢献したい、幸せにできる人を増やすために会社を大きくしたい、という気持ちが強く、自分のことを大切にできていませんでした。睡眠さえ忘れて一心不乱に働くのが幸せ、と思い込んでいたのかもしれません。
でも思い切って休んでみて初めて、眠る、食べる、散歩をする…あって当たり前に思えるそれらのアクションが、自分を守るためにとても大切なものなのだと気づきました。仕事ではなく、自分に目を向け大切にする日々を重ねていると、あるときふと道端の花が目に入って、「綺麗だな」と思えたんですよね。
それまでの自分は仕事に忙殺され、花の美しさになんて気づいたことがありませんでした。でも、ちゃんと自分を大切にしていたら不安感がなくなり、身の回りにある美しさに気づけるようになりました。少しずつ仕事も再開し、それを機に「とにかく働きやすい環境を作ろう」と心に決めました。
売上は大切。でもそれ以上に、働きやすいことの方が大事。皆には絶対に無理をさせないし、自分も無理をしない。私一人が頑張ったところでたかが知れているから、無理してやらない。そのときから、サービスの拡大の仕方、システムの作り方も変わっていきました。
——その経験を通じて、プロダクトへの向き合い方については具体的にどのように変わっていきましたか?
それまでの私は、必要なら新しい機能をどんどん追加していこうと考えて開発を進めていました。そのため、勤怠管理のほかにも、給与計算機能、請求書作成機能などの機能が複数搭載されていました。ですがお客さんが求めているのはたいてい勤怠管理の部分で、それ以外の機能があってもシステムを買ってもらえる理由にはならない。そういうものをどんどん無くして、本当に必要な機能に集中していきました。
また、従来は「自分が作ったものは良いものだ」と勘違いしていました。でも、お客さんがやりたいのは最新システムの導入でもなく、DX化でもなく、とにかく業務を楽にすること。格好良いものを最新の技術で作ればいいわけではなく、現場で最も使いやすく馴染みやすい形のものを、シンプルに作るべきだと考えるようになりました。
そして、そのように思考を変えたときに、「本当に現場で必要とされているものだからこそ、現場の課題を身をもって感じてきた自分にしか作れないのではないか」と思えるようになりました。
たとえば、PCを開いて3回ボタンを押せば何らかの精緻なデータを取れる機能があったとします。でも、現場の人は忙しい中で3回もボタンを押せないし、究極的には、1度もボタンを押さずに電話で完結したほうが良い——そういう気づきは、現場を知らない単なるシステム開発会社にはないはずです。現場・経営者、どちらの視点もあるからこそできる開発は、今もなおShiftMAXの強みであり続けているという自負があります。
相手に徹底的に向き合い、相手の課題を解決する。それがShiftMAXの礎
——澤橋さん自身が考える、KYODOU、そしてShiftMAXの現在の魅力を教えてください。
1つ目は、深い業界理解・現場理解をもとにシステム開発を行っている点です。たとえば警備業界には「上番 / 下番(じょうばん / かばん)」という業界ならではの勤怠の仕組みがあります。しかし大手の開発会社はそのような独特の風習を知らないので、システムにも組み込めない。同様に、業界ルールを知っているからこそ実現できる使いやすさ、管理のしやすさがShiftMAXにはあります。
また、ShiftMAXは、Excelとクラウドのハイブリッド型のシステムです。「リアルタイムに情報を反映したい」という管理者側の目線と、「使い慣れたツールで作業したい」という現場の目線の両立を目指し、このスタイルを採用しています。これらは、今もなお私自身が現場に出向き、現場のリアルを知っているから、つまり、徹底的な現場主義を貫いているからできることだと思っています。
KYODOUの2つ目の魅力は、サポート力です。先にお話しした通り、今のKYODOUはただシステムを売りたいとは考えていません。私たちが実現したいのは、システムを売ることではなく、お客さまの課題を解決すること。そのために、お客さまの声に耳を傾け個別の支援を行ったり、製品アップデートに生かしたりすることは非常に重要だと思っています。
他社の提供する最新のシステムの中には「すでにパッケージ化されたシステムに合うように、社内の仕組みやワークフローを変えていく」というものも多いように思います。ですが、警備業界は長年アナログで行われてきた業務も多く、ITやシステムに明るくない方も多く働かれています。
システム導入によってIT化が進み課題を解決できる部分もありますが、なんでもシステムに合わせて変えればいいというものでもありません。部分的にアナログな業務を残すことが全体最適であるというケースもあるでしょう。そういう話は、実際にお客さまのところに足を運び、声を聞かなければ耳に入ってきません。だから今でも私は、現場に足を運ぶことをとても大切にしています。
ShiftMAXは工務店のオーダーメイドのような受託スタイルを貫いていたので、ご相談をいただいてから実際に使い始めていただくまでに時間がかかります。しかし、その寄り添い力とサポート力を支持してくださるお客様が長いお付き合いをしてくださっています。
各お客様と長いお付き合いをしていきたい、長く力になりたいという思いから、現在は各社で要件定義のフェーズを入れて要望を汲み取り、必要に応じて機能のパーツを組み変えることになっています。
——最後に、KYODOU・ShiftMAXに興味を持ってくださっている求職者の方へメッセージをお願いします。
KYODOUは、周囲の人の幸せを大切にする会社です。従業員に対しては、自信の健康や時間をおろそかにしないでほしいと願っており、無理な労働を強いることはありません。また、ここまでお話してきた通り、大きな売り上げを上げることよりも、お客様一社一社の要望に合わせ、使いやすいシステムを提供することに重きを置いています。
KYODOUは、ITが浸透している業界に優れたプロダクトを提供するのではなく、SaaS企業や大手ベンダーが参入していないアナログな業界に対して、シンプルで使いやすいプロダクトを提供しています。ニッチな業界を捉えているからこそ、機能競争や価格競争から解放され、必要なものを必要な人に、という視点を持った開発・営業を続けられています。
今後は警備業界というニッチな業界に製品を展開したノウハウをもとに、ビルメンテナンス業界、介護業界など、多様な業界への展開を目指しています。
アナログ業界の課題に本気で取り組みたい、課題解決に向けてチームをリードしたいと考えている方は、ぜひ一度お話ししましょう。ShiftMAXのコアメンバーとして、事業成長を実現するだけでなく、理想の組織づくりにも一緒に挑戦していただければ嬉しいです。社員一人ひとりが働きやすく、さらに新たな挑戦へ踏み出せる環境を整えてお待ちしています。あなたの力で、レガシー業界の新しい未来を共に創りましょう!