3. 会社を立て直すはずが…スタッフ9割が辞めてしまった日
良かれと思って振りかざした「正論」が、なぜか人を傷つけ、真逆の結果を招いてしまう・・・
この苦い経験は、僕にリーダーシップの本当の意味を教えてくれました。
僕が入社した当時のタニクリは、まさに世紀末のような状態でした。工場では挨拶はなく、怒鳴り声が飛び交う。店舗ではスタッフが好き放題にお店を私物化している。この状況をなんとか立て直さねばと、僕は躍起になりました。
やったことは、至って「普通」のことです。掃除や接客のマニュアルを作り、それを守るように個人指導を繰り返しました。当時の僕は「自分は正しいことをしている。なぜみんな理解してくれないんだ?」と本気で思っていました。しかし、その「正しさ」は、現場で長年働いてきた人たちのやり方や想いを無視した、一方的なものでした。
その結果は、悲惨なものでした。僕のやり方に反発したスタッフが、次々と会社を辞めていったのです。
わずか3年で、9割の店舗スタッフさんが退職してしまいました。
会社を立て直すはずが、僕は自分の手で会社を壊していたのです。「自分は正しい」という思い込みが、いかに人の心を離れさせてしまうか。この時の僕は、まだそのことに気づくことができませんでした。そしてこの大量退職という名の「大失敗」は、僕と父との関係を決定的に悪化させ、あの伝説の事件を引き起こす引き金となってしまったのです・・・