東京都八王子市の住宅街にあるヒューマンライフケア八王子の宿。吉武駿さんは小規模多機能型居宅介護施設の施設長です。パートとして入社して、契約社員を経て正社員に。3年前からは管理者を任せられています。未経験からのキャリアパス、これからの目標について、話を聞いてみました。
自分にできるか不安でした
――入社のきっかけを教えてください。
吉武 前職は内装業。高校時代からお世話になっていた親方について仕事をしていたのですが、辞めて職探しをしていました。そのときに親戚がはたらいていて、誘われたのが、この施設でした。6年ほど前のことです。正直、介護の仕事には、汚い、つらい、というイメージを持っていました。資格もないし「自分にできるのか?」という不安もあって、悩んだものの、生活していくためにお金は必要。せっかく声をかけてもらったんだし、数ヵ月だけ、次の仕事が見つかるまでやってみるかと、そのくらいの気持ちではじめました。
――やってみて、気持ちはどう変わっていったのでしょう。
吉武 人と接する仕事で、自分なりの工夫をすることで、利用者様に喜んでいただくことができる。表情から反応が読みとれたりして、やりがいがあると思えました。慣れてきたところで、はたらきながら介護職員初任者研修の資格が取れると聞いたので、それなら本腰を入れてやってみようかと。いろんな研修を受けられて、学べば学ぶほど、現場に還元できる。手応えがあって、面白いと感じました。
――パートで入って、それからはどのようなキャリアステップを?
吉武 パートとして1年ほどはたらいたあと、契約社員として1年くらい。そして正社員になりました。何人かの施設長のもとで仕事して、3年ほど前に施設長に抜擢され、管理者を任せてもらっています。介護福祉士の資格は去年取りました。
――これまでのお仕事してきたなかで、忘れられないエピソードはありますか。
吉武 デイサービスを利用されていた利用者様で、お見えになるたびに「こんなとこ、好きで来てるんじゃないからね」とか、きついことをおっしゃる方がいらっしゃいました。よくやりとりをしていて、表情をうかがっていたりすると、案外楽しんでいらっしゃるようではありましたが。お亡くなりになって、ご家族の方と話していたら、「ずいぶん良くしていただいたみたいで」とお礼を言われました。聞けば、ご自宅に帰られたあと、私のことを「良い人なんだよ」と、いつも言ってくださっていたそうなんです。口に出して言われたことはありませんでしたが、ああそうだったんだ、やっぱり楽しんでくださっていたんだとわかって、うれしかったですね。
――どんな方だったんでしょう。
吉武 80歳半ばの女性の利用者様でした。自分たちの接し方ひとつで、利用者様の印象は良くも悪くもなります。だからこそ楽しんでいただけるようにしたい。仕事だからと仕方なくやっていたりすれば、気持ちのなさが伝わってしまうはず。そのことを肝に銘じています。
スタッフの個性を尊重したい
――施設長として、この八王子の宿をどのように運営していきたいとお考えですか。
吉武 月1回は研修で、ほかの施設長とも会いますが、ヒューマンライフケアは施設ごとの裁量権が大きいと感じます。シフト管理のほか、施設長の仕事としてスタッフマネジメントがあり、そこに管理者のスタンスが反映されます。私の場合、自分の思いを一方的に押し付けるのは嫌で、スタッフ一人ひとりの個性や考え方を尊重したい。それぞれの意見やアイデアなど、声を集めてやっていきたい。そう思っています。もしロボットのように扱われたら、自分なら嫌ですから。ここではたらいているスタッフは全部で10名。男性は私を含めて3人。女性が7人です。パートさんなど、自分より年上でキャリアも長いベテランの方がいます。この施設で未経験からスタートした人がほとんどですね。
――小規模多機能型居宅介護施設ではたらくのは、デイサービス、訪問介護、ショートステイだけをそれぞれ行なっている施設でお仕事することと、どのような違いがあると感じますか。
吉武 ひとつのサービスの枠にとらわれず、臨機応変に対応できて、融通がきくぶん、多機能のほうがはたらきやすいと思います。たとえば通所の方が、気分が乗らず「きょうは行きたくない」とおっしゃった場合、デイサービスだけの事業所では、ムリに連れてくるか、こないかの二者択一しかできません。しかし多機能なら、お気持ちに沿って、通所ではなく訪問に切り替えたりすることができる。利用者様のご要望すべてを受け入れられるわけではありませんが、柔軟性な対応がしやすい利点があります。
人に興味が持てるかどうか
――この施設で活躍できるのは、どんな人だと思いますか?
吉武 入浴介助などはありますが、要介護度の高い利用者様は少なく、それほどからだに負担がかかることはないと思います。未経験から活躍しているスタッフも多くいます。専門的な知識やスキルの有無よりも、大切に思えるのは、人に興味が持てるかどうかですね。話し好きで、積極的に利用者様とコミュニケーションできる。そして変化に気付けるような人なら間違いなく活躍できます。多機能は「これをやらなければ」といった決まり事が少なく、精神的にゆとりが持てるので、あまり堅苦しく考えることなく、気軽に、気楽に、まずはやってみていただければ。
――施設長の次の目標をお聞かせください。
吉武 次に進むステップとしてブロック長がありますが、まずは施設の管理者である施設長としての役割をしっかりと果たしていきたいと考えているので、ケアマネージャーの資格取得を目指します。そうすれば サービス提供の流れを一元的に把握が出来るようになりますから。運営をもっとスムーズにできるようにして、みんなが笑顔で、楽しく、それぞれの個性を発揮しながら、利用者様に満足していただける。そんな施設をつくっていきたいですね。