瀬戸内海の中央に浮かぶ広島県の離島・大崎上島。島で唯一の公立高校・大崎海星高校が統廃合の危機に直面したことをきっかけに、町・学校・地域が一緒になって「高校魅力化プロジェクト」に取り組んできました。今、この島は「教育の島」から「学びの島」へと歩みを進めています。
プロジェクトに関わるメンバーを紹介するシリーズ、第2回は集落支援員の伊奈さん。元中学校教員や会社員、地域おこし協力隊を経て現在に至るまでの歩みや、現場で壁にぶつかりながら掴み取った「人と関わるうえで大切なこと」について聞きました。
Q1. 今、どんな仕事をしていますか?
公営塾と教育寮のスタッフを支えるサポート業務を担当しています。現場で奮闘するスタッフたちが焦ったり周りが見えなくなったりしたときに、一歩引いた視点から状況を整理し、先回りしてサポートすることを心がけています。
Q2. ここで働くことを決めた一番の決め手は?
広島県の関係人口創出プログラムで大崎上島町を訪れたのがきっかけでした。いくつかある実習先の中で、唯一橋がかかっていない離島だったという理由だけで選びました。移住を決める際も、親との暮らしをどうするか考えるくらいで、大きな不安はありませんでした。
一番の決め手になったのは、生徒たちの熱量の高さです。採用面談の際に「マイプロジェクトアワード」に向けた発表練習を見学したのですが、ラジオや絵、お年寄りとの交流が大好きな生徒たちが、それぞれの「好き」を自分の言葉で熱く語っていました。その純粋な情熱や想いがダイレクトに伝わってきて、深く感動したことを覚えています。
Q3. 実際に働いてみて、ギャップはありましたか?
温かく迎え入れてくれる地域の優しさに驚きました。地域の清掃に毎回参加していたら、町民運動会の練習の時に「いつも掃除に来てくれてるよね?」と声をかけてもらい、地道に続けることの大切さを実感しました。
一方で、高校生との接し方には苦労しました。英語の教員免許は持っているものの、自身も高校時代に英語が得意だったわけではなく、生徒の質問にうまく答えられないこともありました。探究活動では、前職までの経験からデータの収集や軸づくりを重視しすぎて生徒に求めすぎてしまい、関係性ができていない中で深く問いかけた結果、シャッターを下ろされてしまった経験もあります。
それからは無理に指導しようとせず、生徒に寄り添う関わり方に切り替えました。自分が求めすぎてしまう役割は他のスタッフや先生に委ね、自分だからこそできる距離感で寄り添うことを徹底するようになりました。
Q4. 島での暮らしはどうですか?
ウォーキングアプリを使って散歩することを楽しんでいます。普段は車移動ですが、歩いてみると新しい発見が多くて新鮮です。また、町のブラスバンドに所属し、15年ぶりにトロンボーンの演奏を再開しました。イベントで演奏すると地域の方から声をかけてもらうこともあり、練習がとても楽しい時間になっています。吹奏楽をやっている高校生と会話のきっかけが生まれるのも嬉しい変化です。
暮らしの中では、地域にお金を落としたいという思いから地元の肉屋さんを利用するようになりました。手作りのおかずがおいしく、お店のお母さんとの会話にいつも癒されています。
Q5. 一番苦労したことと、どう乗り越えたかを教えてください。
地域おこし協力隊の3年目に、公営塾スタッフから教育寮のハウスマスターへと役割が変わりました。新体制でのスタートでしたが、スタッフ間での認識のズレや、生徒の反発・トラブルが重なり、大きな苦労を経験しました。
スタッフ同士の目線を合わせるため、他の高校の寮へ視察に行きました。同じ現場を見たことで、今まで抜けていた視点に気づき、「○○高校ではどうだったか」と共通の基準で話ができるようになりました。
生徒からの反発に対しては、譲れないラインを引きつつも、気持ちがすっきりするまで対話を重ねました。感情的になってしまった翌日は必ず謝ることを徹底しました。トラブルに対しても一人で抱え込まず、チーム内での情報共有を欠かさず連携して対処しました。これらの経験は、現在のスタッフをバックアップする仕事にも大きく活きています。
Q6. 仕事の中で手応えを感じた瞬間は?
高2留学※に意気揚々と挑んだものの途中で落ち込んでしまい、そこから卒寮まで自分のできることを愚直に探し続けて立ち直った生徒がいました。(※高校2年生の1年間だけ、在籍している高校を離れて地域の高校に通い、地域で暮らしながら学ぶ制度)
卒寮の際、その生徒から「面談の時や町の行事の時など、数えきれないくらいに伊奈さんにはお世話になりました」と書かれた手紙を受け取りました。多くを語らない不器用な手紙でしたが、一緒に行動した時間がその生徒にとって一番の支えになっていたのだと気づかされました。世話を焼きすぎて悩むこともありましたが、周囲のスタッフとの関わりも重なり合い、最終的に自信を持って羽ばたいてくれたことが何より嬉しかったです。
Q7. チームの雰囲気を一言で表すと?
「適材適所が叶うチーム」です。自分が苦手な部分を他のメンバーが自然とカバーしてくれますし、それぞれの強みを認め合える環境があります。同僚と比べて落ち込んでいたとき、「その部分はその人の得意分野ですが、あなたには別の強みがありますよ」と声をかけてもらい、救われたことがあります。
Q8. この仕事に向いているのは、どんな人ですか?
一生懸命に向き合える人です。生徒は大人の姿をしっかり見ていますし、周囲も一生懸命な人を応援したくなります。互いに応援しあえる風土がありますが、まずは自分自身が懸命に励む姿勢が大切だと感じます。日々変化が起こる環境なので、状況に合わせて柔軟に対応できるしなやかさも求められます。
3年前、「なんとかなるだろう」と飛び込んできましたが、実際にどうにかなっています。少しでも気になったら、まずは話を聞きに来てください。
伊奈沙織|集落支援員
静岡県出身。公立中学校の臨時講師、会社員、大崎上島町地域おこし協力隊などを経て現職。現在は公営塾や教育寮のスタッフサポートを担う。趣味はラジオ鑑賞とブラスバンド演奏。