「動き出す浮世絵展」に続く一旗の自社IPが、「動き出す妖怪展」です。名古屋から始まり、東京をはじめ国内複数都市を巡回してきました。会場ごとに構成を変えながら、少しずつ育ててきた企画です。
江戸の人が、本気で怖がっていたもの
妖怪は、いまでこそキャラクターとして親しまれていますが、描かれた当時は、説明のつかない現象に名前を与えるための存在でした。
夜道で聞こえる音。理由のわからない病。急に消えた人。科学で説明できないことに輪郭を与え、共有可能な形にする。妖怪画は、そういう装置でした。
だから、何百年も経ったいま見ても、どこか背筋が寒くなる。恐怖の対象は変わっても、「わからないものが怖い」という感覚は変わらないからです。
動かすと、怖さは増すのか、減るのか
これは制作の初期に必ず議論になるテーマです。
動きをつけすぎると、妖怪は「かわいい」に寄っていきます。一方で、静止画のままでは、イマーシブにする意味がありません。
暗さをどこまで許容するか。音をどこで止めるか。来場者が振り返ったときに、そこに何がいるのか。
映像だけでなく、造形物、照明、音響、そして順路の設計まで含めて、「怖さ」という感情をコントロールしていきます。
怖いだけでは、来場者は歩かない
もうひとつ大切にしているのが、緩急です。
怖い部屋が続くと来場者は疲れてしまい、途中で集中が切れます。だから、思わず笑ってしまう妖怪や、色鮮やかで美しい部屋を意図的に挟みます。
驚いたあとに、ほっとする。その振れ幅があるからこそ、次の部屋の暗さが効いてきます。順路は、感情の設計図でもあります。
自社IPだから、試せる
受託の仕事では、クライアントの想定を大きく外れる挑戦は簡単ではありません。自社IPであれば、そこは自分たちで決められます。
うまくいけば次の都市でさらに伸ばし、違ったと感じれば次の会場で組み替える。巡回するたびに作品が育っていくのは、自社コンテンツならではの面白さです。
会場の広さも天井の高さも都市ごとに違うので、同じ展示をそのまま運ぶのではなく、毎回つくり直しているという感覚に近いかもしれません。
日本の文化を、恐る恐る楽しむ
妖怪も、浮世絵も、城も、寺社も、一旗が扱っているのは「すでにそこにあったもの」です。
新しくつくり出すのではなく、いまの技術で、いまの人が体験できる形に翻訳する。それが私たちの仕事の中心にあります。
怖がりながら、笑いながら、いつのまにか日本の文化に詳しくなっている。そういう時間をつくれたときが、いちばん手応えを感じる瞬間です。