展示のオープン初日は、いつも人であふれています。けれどその2週間前、同じ場所には何もありません。コンクリートの床と、白い壁と、まだ何も映っていない投影面だけがあります。
空っぽの箱を、世界に変える
搬入が始まると、会場は一気に工事現場になります。造形物が運び込まれ、什器が組まれ、機材ラックが立ち上がり、天井から吊られたプロジェクターに一台ずつ電源が入る。
映像は、最後まで正解が出ません。壁の色、床の反射、隣の部屋からの漏れ光。図面の上では完璧だったものが、実際の会場では必ずどこかずれています。だから、暗くしてから夜ごとに、目で見て直します。
スケジュールは、後ろから引かれている
初日の開場時刻だけは動きません。そこから逆算して、いつ電源が使えるようになり、いつ音を出していい時間帯が終わり、いつ検査が入るのかが決まっています。
搬入車が使える時間、エレベーターの積載、共用部を通っていいルート。会場が商業施設なら、営業時間中は作業できないこともあります。制作の都合よりも、建物の都合が優先される期間です。
だからこそ、遅れを一日でも取り戻せるかどうかは、段取りの精度で決まります。
全員が、何かしら持って動いている
この時期の現場には、職種の境目がほとんどありません。ディレクターも、デザイナーも、エンジニアも、運営メンバーも、全員がノートPCか工具か台本を持って動いています。
一旗は、職種で仕事をきれいに切り分けない体制で動いています。だからこそ、「それは自分の担当ではない」が成り立たない。逆に言えば、自分の担当外の仕事がすぐ隣で起きているので、入社1年目でも現場の全体像が見えます。
朝礼から、初日は始まる
オープン当日の朝、開場前の会場でスタッフ全員が集まります。動線の最終確認、想定される混雑箇所、当日の役割分担、緊急時の対応。
そして時間になると、扉が開いて、最初のお客様が入ってくる。2週間かけて組み上げたものが、そこで初めて「体験」になります。
この瞬間のために働いている、という人は社内に少なくありません。
会期が終われば、また空っぽに戻る
巡回展の場合、会期が終われば全部ばらして次の都市へ運びます。またコンクリートの床と白い壁に戻る。
撤収は、搬入よりも短い時間で終わらせなければなりません。次の会場の仕込みが、もう始まっているからです。
解体しながら、次の会場で直したいところをメモしていきます。この壁は投影面が広すぎた、この動線はもう少し余裕がほしい、このシーンは進むペースが早すぎていた。巡回するたびに展示が良くなっていくのは、この撤収の時間に記録を残しているからです。
そしてまた、別の街で、同じ2週間が始まります。