「マイクロデベロッパー」から「クラフトデベロッパー」へ
――今日は「クラフトデベロッパー」について、まずは言葉の定義から話しながら整理していければと思っています。
殿塚さん:僕が勝手に作った言葉なんですけど、「クラフトデベロッパー」という言葉を聞いたときどんなイメージを持ちましたか?
――うーん、なんとなく大きいデベロッパーとは対の開発をする人たちなのかなと思いました。
殿塚さん:大手との対比で言うと、すでに「マイクロデベロッパー」って言葉はあるんですよね。マイクロデベロッパーとは、小規模な地域の中でまちづくりをしている人たちのこと。そういう意味で、僕らはマイクロデベロッパーでもあるんですが、BONUS TRACKや学芸大学の高架下の開発にかかわります、団地の再生します、という規模のものまで入ってくると、だんだん規模も開発にかかわるエリアもマイクロじゃなくなってきているなと思ったんですよね。だから、自分たちをマイクロデベロッパーと表現するのは違和感があるなと。
――そうですね。
殿塚さん:今の僕たちがやっていることを表す言葉を考えてみたんです。そしたら、個性的で多様なクラフトビールをつくる会社のように、まちの個性を生かした開発をしていることから、「クラフトデベロッパー」と表現するのがしっくりくるかもなと思いついたんです。
さらに、お客さんにはアーティストや、クリエイター、 飲食店のように技術を持っているクラフトマンも多い。なので、「クラフト」にはふたつの意味を掛け合わせている感じです。僕の性格出てて、めっちゃ単純ですけど(笑)。
――「クラフトデベロッパー」という言葉には、相手の顔が見える信頼感だったり、ちゃんと手足を動かしているようなニュアンスも感じられるなと思いました。
殿塚さん:実際、規模の大小じゃない何かに期待をしていただいてるなと感じる部分もあるんです。机上の空論ではなく、住んでる人たちとの対話とか、そこにいる人たちの持っているポテンシャルみたいなことを考えた上で計画・修正したり、変化させていく、っていうことに対してで。つまり、クラフトデベロッパーとして、「個性的で多様な開発をすることへの期待」ですね。
クラフトデベロッパーが増えれば、まちはもっとおもしろくなる
――「個性的で多様な開発を実現する」ことについて、もう少し詳しく聞かせてほしいです。
殿塚さん:机上の空論にしないためには、計画から運営までを一貫してやることが大事なんですが、実際にそれをやっている不動産の会社は、あんまりないかもしれない。計画と運営を別の会社が担当しているケースがほとんどだと思います。
――ふむふむ。
殿塚さん:まちづくりをしよう、とプロジェクトが立ち上がるとき、企画を考えたり、そのデザインをする人には予算がすごいつくわけですね。こういうビジョン描いて、こういうまちづくりをしていきましょう、と。で、同様に施設もこんなコンセプトでやっていきましょう、と決まる。そこから実際に運営が始まって、運営の人たちはすごく高く掲げられた理想を実現するために色々やるんだけど、なかなかできなかったりするんですよね。
――それはどうしてなんでしょうか。
殿塚さん:たとえば公園って、本来はいろんな人が自由に使っていい場所じゃないですか。キャッチボールをしてもいいし、歌を歌ってもいいし、お弁当食べてもいいし、本読んでもいい。だけれど、 なにかクレームがあったら「お隣さんの窓ガラス割っちゃうから、ボール遊び禁止です」とか、「近隣住民から音のクレームがあったから、音楽禁止です」って運営側の視点が入ってくると、誰も怒られない公園がたくさんできる。運営する側は、問題が起こらない方が楽だから。だけど、それがいい公園なのかどうかはまた別の話ですよね。
――たしかに……。
殿塚さん:まちづくりや不動産開発においても、同じ現象が起こるわけです。企画の段階から共有がされていないと、運営や管理側はリスクをとらないようにしてしまうし、何かあっても誰もリスクを取らない状態になる。計画した人たちは、できなかったら運営のせいだよねって言うし、運営の人たちは別に俺たちが考えたんじゃないし、やらされてるだけだから、って。結果、外から見たらコンセプトは素敵なのに、行ってみたら、「あれ?」って思う場所になっちゃうんです。
殿塚さん:それを起こさないようにするために、企画から運用まで一貫でやっていく必要があるんじゃないかな、と。むしろ、運営できる人が企画をしていくことが、これから求められるんじゃないかなと思ってて、 クラフトデベロッパーはそういう立ち位置なのかなと思ったりしています。企画からかかわることで、責任を負う部分も広くなるけど、より実現したいものに近づけられる気がしています。もちろん、難易度も高くなるんですけどね。
現場の人たちが、もっと評価される社会にしていきたい
――omusubiはクラフトデベロッパーとして、まさに実践している最中かと思いますが、やっていて感じる課題はありますか?
殿塚さん:真摯に向き合ってる運営の方たちがちょっと軽視されがちなところがあるので、その人たちがフェアに評価されたり、報われるようにしていきたいですね。
――そうなのですね。評価されにくいのはなぜなんでしょうか。
殿塚さん:管理や現場運営の仕事って、突発のトラブル対応もあるし、 思ってたのと違うこともあるし、関係する人も多いから、変数も多いじゃないですか。それを処理していくのでかなり大変なんですけど、一方で頑張れば誰でもできるように見えちゃうんじゃないかなあ、と。
殿塚さん:特に管理の仕事は、トラブルを起こさないようにする、つまりゼロをマイナスにしない仕事、もしくはマイナスをゼロに戻す仕事なんですよ。それって見えないんですよね、成果として。ネガティブなコミュニケーションの方が多いし。だけど僕は、現場の近いところにいて、リアリティを持ってちゃんと等身大で実現してる人が、最もかっこいいと思っていて。そこは田んぼや農家さんの話につながる部分かもしれないですね。
――前回の田んぼの話ですね。
殿塚さん:うん、うん。僕のおじいちゃんもそうだったし、田んぼを一緒やっている湯浅きいちさんもそういうところがあるなと思ってて。自分を過剰に大きくも見せないし、自分の身の丈ぐらいの範囲で豊かに暮らしてるっていう。そういう謙虚さみたいなところに、僕はかっこよさを感じているんだけど、不動産の世界を見ると、かっこよく尖らしたりしたほうが、付加価値がついたりする。でも、そこにはちょっと嘘が混ざってるんじゃないかなって思ってるところが、あるのかもしれないな。
――ふむふむ。
殿塚さん:本当の価値を生んでいるのは、地に足がついたことをしてる人たちなんじゃないかと思うんです。それが不動産で言うと、場所の運営とか、管理をしてる人たちだし、世の中全体であれば、僕は農業従事者の方、一次産業の方たちなんじゃないかな、と。その人たちがいないと何も成立しないのに、その人たちに対価がきちんと払われていないんじゃないかっていうのは、ずっとジレンマって思ってるかもしれない。
omusubiがクラフトデベロッパーとして目指していくこと
――これからのまちづくりに、クラフトデベロッパーのような動きができる組織や人が増えていくことは大事だと思う一方で、大変な面もたくさんあるように感じました。omusubiはどんなことをモチベーションにやってきたのでしょうか。
殿塚さん:うーん、最初は素敵な場所ができると思ってやってみたんだけど、結局それがないとできなかったから、やるしかないって感じかもしれない(笑)。だけど、素敵な場所ができたらいいな、っていう思いはあるじゃないですか。それに、「やらざるを得ない」を繰り返してるうちに、それなりにできるようになってきていて。経験を積み重ねてきているから、初めてやる人よりは苦しくないかもしれない。
殿塚さん:すごく大事な仕事なのに、お金が払われづらいっていう構造は解消していきたいなと思っています。そこは農業とも似ているな、って。じゃあどうやって予算を獲得してけばいいかというと、最初に話したように、企画の部分も含めて仕事するってことですね。企画のところは予算がつくことが結構あるので。それに、言ったことを自分たちで実現するっていうのは、ちゃんと言動一致してて、かっこいいなと思うんですよ。
ただ、自分たちをクラフトデベロッパーと名乗るのであれば、BONUS TRACKを作るとか、学芸大学の高架下を作る、くらいのことはスタンダードでできるぐらいの水準になってなきゃいけなくて。その上で、まちの公共施設とか、まち全体がどうなるかってところまで考えて、自分たちが貢献できるようになって、クラフトデベロッパーになったと言えるかもしれません。言った言葉そのままブーメランで帰ってくるので、めちゃくちゃ恐怖ですが(笑)。僕らもまだまだ、ぜーんぜん道半ばにいます。
取材・撮影(インタビュー風景)=ひらいめぐみ