こんにちは、渡邊龍一です。
このたび2025年5月に「Nazuna 箱根 宮ノ下」を開業しました。創業の地・京都を飛び出し、なぜ私たちは箱根という地を選んだのか。この記事ではその背景、そして私たちの想いについてお話しさせてください。
外資系ホテルが増えゆく中で、日本の魅力をどう伝えるか
近年、日本の観光地には数多くの外資系ホテルが進出しています。京都も例外ではなく、「外資系ラグジュアリーホテル日本初上陸」というニュースを目にするたびに、正直なところ悔しさを感じていました。
私たちNazunaは、日本の「おせっかい」を理念とし、日本ならではの細やかな心遣いや温もりを宿泊体験に込めています。それは効率や合理性とは別のベクトルにある価値であり、私たちの強みです。この価値を、日本人だけでなく、もっと多くの海外のお客様にも届けていきたい。
京都だけでは伝えきれないと感じたからこそ、私たちは“外に出る”決断をしました。
京都で得た成功体験と、それを広げる可能性
京都で私たちは、SNSを活用したダイレクト・トゥ・カスタマーの戦略によって、多くのお客様と直接つながることができました。
予約サイトに頼らず、自分たちの言葉で世界に向けて価値を伝える。何が響くのか、どうすれば選ばれるのか。試行錯誤を重ねながらPDCAを回す中で、私たちの「おせっかい」が国境を越えて伝わる手応えを感じました。
これはどこに行っても通用する価値なのではないか──。そう思えたからこそ、次の地へと進む勇気が持てたのです。
京都と箱根の“日本らしさ”と、Nazunaの親和性
箱根は、日本人にも海外の方にも人気の高い観光地であり、都心からのアクセスも抜群です。お風呂文化が根付いている土地でもあり、Nazunaが大切にしている“湯あみ”の時間を最大限に表現できる場所だと感じました。
さらに、箱根には長い歴史を持つ旅館が多く、地域のホスピタリティが根付いています。その一方で、コロナ禍においても日本人の旅行需要によって一定の稼働率を保っていたなど、マーケットとしての安定性もありました。
こうした背景の中で、Nazunaとして京都で培ってきた“人のあたたかさ”や“手間を惜しまないおせっかい精神”は、箱根においても違和感なく根づかせていける。そう確信を持てたことが、今回の決断の後押しとなりました。
箱根の豊かな自然と温泉文化に、私たちの「おせっかい」を掛け合わせることで、新たな体験価値が生まれると信じています。
“お風呂”は、ただの設備ではない
Nazunaが大切にしている要素のひとつに「お風呂」があります。
それは単に宿泊施設の機能ではありません。私たちが提供したいのは、お風呂を通じて“心をほどく”時間。スマホや情報に追われる現代だからこそ、湯に浸かり、呼吸を整える時間こそが、旅の中で一番贅沢な瞬間だと思っています。
京都でも、町家を活かしながら設計した半露天風呂などに多くのお声をいただいてきました。お風呂は日本文化を象徴する体験の一つであり、日本人にも、そして海外からのお客様にも、「これは特別だ」と実感いただけるものです。
そして箱根。温泉地として名高いこの地では、お風呂という体験はさらに深みを増します。
Nazuna 箱根 宮ノ下では、全客室に趣の異なる専用風呂を設けました。自然に囲まれた湯舟に身を委ねる時間は、心身を整えるだけでなく、季節の移ろいを五感で感じる豊かな体験になります。日常から一歩離れ、自分自身に立ち返るような時間を、箱根の自然の中で提供したい──それが、私たちが箱根という地で宿を営む上での原点の一つです。
文化をつなぐ「人」の力
今回の出店にあたり、京都からは3名の既存メンバーが箱根に異動しました。そして現地で新たに3名のスタッフが加わりました。
この6名が最初にやったことは、「おせっかい」の文化を共有すること。
Nazunaでは「人」がすべてだと思っています。だからこそ、お客様に向ける心だけでなく、仲間同士で思いやる文化を大切にしています。京都で育まれたこの文化を、箱根でも根づかせるために、既存メンバーたちが惜しみなく知識と心を分け与えてくれました。
これは場所が変わっても、「Nazunaらしさ」を形づくる最大の要素です。
想定外の連続。それでも開業できたのは「人」のおかげ
正直に言えば、開業までの道のりは平坦ではありませんでした。
設備の遅れにより現場に入れず、開業準備が計画通りに進まない中、スタッフたちは近くの会議室を借りて業務を進めてくれました。誰が悪いという話ではなく、それでも「やるしかない」と腹をくくって動いてくれたメンバーの柔軟さと粘り強さには、心から感謝しています。
オープン初月の稼働率は想定の2倍近くとなる90%超。SNS経由での集客が奏功し、今も多くの予約が入り続けています。
Nazunaは、地域と旅の在り方を再構築する
Nazunaの宿は、宿そのものだけで完結しません。
私たちは、その土地でしか手に入らないモノや出会えない人とのつながりを旅の一部として提供したいと考えています。たとえばNazunaに泊まったことがきっかけで、地元の工芸品に触れたり、地域の飲食店へ足を運んでもらったりするような体験。
Nazunaは“旅のハブ”として、地域とお客様をつなぐ役割を果たしたいと思っています。
最後に
京都、箱根に限らず今後は全国そして世界に「おせっかい」を届けていきたいと思っております。AIが発達し、質問したりする相手がAIに変わってきている中で改めての人の温かみを感じでほしいと思っています。
当館にお越しいただいたお客様に『またNazunaに戻ってきたい』と思っていただけるよう、私たちも一層努力してまいります。