PROFILE
大門 真悟 OKADO SHINGO
株式会社Nazuna 代表取締役会長
株式会社Nazuna obi 代表取締役
株式会社Mudani 代表取締役
株式会社Trh.n 代表取締役
株式会社Yumegurashi 代表取締役
株式会社Machiyagurashi 代表取締役
真悟事務所
経歴
滋賀県出身。
関西大学システム理工学部に在籍中、イタリアンレストランの立ち上げメンバーとしてアルバイトをし、飲食業に触れる。同時に人力車でアルバイトを行い観光業に触れる。大学3年の時に、1年間休学し単身ベトナムへ渡り「居酒屋やんちゃ」を立ち上げ、事業経営を経験。
卒業後は商社へ就職し、その後2014年にインバウンドの旅行事業を開始。
2015年に株式会社Yumegurashi(以下Yumegurashi)を設立し、旅館業を開始。2018年に現在の株式会社Nazuna(以下Nazuna)を設立。
Nazunaでは2024年に渡邊龍一氏を代表取締役社長に選任し、代表取締役会長に就任。
現在、旅館運営・開発事業、一棟貸し運営・開発事業、不動産投資事業、地方創生事業、飲食事業、EC事業、リラクゼーション事業を経営。
こんにちは、Nazunaの代表取締役会長の大門真悟です。
Nazunaがどのようにして誕生し、私たちのサービスの核である「おせっかい」という理念がどのように育まれてきたのかをお話ししたいと思います。私たちのお客様はもちろん、現在Nazunaで働く仲間たちに向けたものでもあります。私たちが大切にしてきた価値観を共有し、一緒に未来を築いていければ幸いです。
創業のきっかけ
商社時代にサラリーマンをしながら将来の独立に向けて準備を進めていました。当時はさまざまな市場の成長動向を分析し、どのマーケットにポジションを置くべきかを慎重に吟味していました。なかでも観光業界と薬局業界に注目し、それぞれの市場規模、競合優位性などを比較・分析し、その結果、観光業界の将来性を確信し、参入を決意しました。
観光業界に進出を決めたものの、業界経験がない自分にとってはハードルが高く、何から手をつけるべきか手探りの状態でした。そこで、「旅行業界の中で、成長が見込めて、限られた資金でも始められる事業は何か?」を真剣にリサーチしました。いろいろと市場を調査した結果、訪日外国人向けのラウンドオペレーター事業が面白いのではないかと考え、まずはこの分野で挑戦することにしました。
その後、観光業界に詳しい知人を探し回り、昔アルバイトを一緒にしていた竹内に連絡を取ることにしました。彼女はちょうど仕事を辞めたところで、「将来的に、ホテル・旅館業界に進出するなら手伝ってもいいよ」と言ってくれました。こうして、彼女も事業に加わることになったのです。
ラウンドオペレーターとは、海外の旅行エージェント向けにツアーを作成し、ホテルやガイドの手配を行う仕事です。この事業は、頭金をもらってから手配を進めることで、元手ゼロで始めることができたのです。さらに、この仕事の魅力は、お客様のホテルや飲食店の調査ができるだけでなく、訪れたお客様からアンケートを実施できる点にありました。
私たちは、1カ月に数百人以上のお客様の手配をしながら、ツアープランを作成しました。その過程で得られた膨大なデータは、訪日外国人のニーズや期待を分析するためのデータとなり、後にNazunaの創業に必要な資金調達時の重要なエビデンスともなりました。
この事業を通じて得られたのが、訪日外国人の「せっかくだから」という心理でした。「せっかくだから日本らしい宿に泊まりたい」「せっかくだから町家に滞在してみたい」といったニーズが、特に京都で強いことをデータから知ることができたのです。このデータがきっかけとなり、私たちは京都の町家を再生した宿泊施設を作るアイデアを思いつきました。2014年当時、まだ「爆買い」や「インバウンド」という言葉も広まっていなかった時代です。
京都で町家再生旅館を始めた理由
京都には独特の文化と伝統が息づいています。その中でも町家は、京都らしさを象徴する存在です。私たちは「せっかくだから町家に泊まりたい」という需要が特に強いことをデータから知りました。
しかし、当時の町家宿泊施設は、設備が古く快適さに欠けることが多く、口コミも芳しくありませんでした。具体的には、水回りが冷たく寒すぎる、音が響きすぎる、写真では良さそうだったけれど実際に行ってみたら「最悪だった」といった声が多く寄せられていました。一方で、明治や江戸時代から続く老舗旅館もありましたが、これらは日本人のリピーター向けに特化しており、英語が全く通じないという問題がありました。
外国人旅行者にとっては、言語の壁やサービスのミスマッチが原因で「せっかく」の体験が残念なものになってしまっていたのです。
私たちは、こうした供給のギャップに注目しました。町家の魅力を保ちながら、現代の旅行者に合った快適な滞在を提供できれば、新しい価値を生み出せると確信しました。そこで、私たちは2015年に「京都 茶の宿 七十七 二条邸」(現:Nazuna 京都 二条城)をオープンしました。
「京都 茶の宿 七十七 二条邸」の試み
二条邸では、水回りを全室露天にするという、京都市内では考えられなかった試みを行いました。街中で露天風呂を作るという発想が当時の京都にはなく、私たちはあえてこの新しい試みに挑戦しました。これは、設備の面で特別感を演出するだけでなく、収益性の指標であるADR(平均客室単価)を向上させる狙いもありました。さらに、お客様とのコミュニケーションを促進するために、囲炉裏を設けることも決めました。囲炉裏を囲むことで自然と会話が生まれ、訪れたお客様の声を直接聞き出す機会が増えることを期待したのです。
また、日本全体の宿泊業界の流れとして「ラグジュアリー旅館ほどのおもてなしを提供しよう」という風潮が強まっていました。私たちも開業当初は「おもてなし」を徹底しようと試みました。5室しかない宿だからこそ、全てのお客様に最上のおもてなしができるはずだという仮説のもとスタートしました。しかし実際には、1日2組程度しか完璧なおもてなしを実現するのが難しいという現実に直面しました。
Nazuna 京都 二条城
「おもてなし」の限界と発想の転換
おもてなしとは、お客様のニーズを聞き出し、それに応えるものです。ニーズを正確に聞き出すためには、過去のお客様の情報やお客様との会話が必要不可欠であり、そのハードルは予想以上に高いものでした。お客様が話したいかどうか、スタッフが聞き出せる能力を持っているかどうか、そうした要因が複雑に絡み合い、結果的に「おもてなし」が実現できないケースが多かったのです。
この経験から、「高級旅館の真似をするだけではダメだ」という結論に至り、発想の転換を図ることになりました。そこで、まずは「友達のような関係」を目指すことにしました。「かしこまった接客」ではなく、「フレンドリーで親しみやすい接客」を追求する方針へとシフトしました。
さらに、「お客様のニーズを聞くのをやめよう」と決意しました。こちらから「やってあげたい」と思うことを一方的に提供するスタンスに切り替えたのです。これにより、5組全員に対して何かしらの価値を提供することが可能になりました。
「おもてなし」と「おせっかい」の違い
創業当初、私たちは日本的な「おもてなし」に挑戦しました。しかし、お客様のニーズを正確に把握し、それに応えることの難しさを痛感しました。昔からリピーターをメインのお客様にしていた旅館では顧客情報の蓄積があるため、おもてなしが容易ですが、一見さんに近い外国人旅行者をターゲットにするには、情報収集とその準備時間を考えると「おもてなし」の考え方が適していないことが分かりました。
やれるものなら全てのお客様に「おもてなし」を提供できればと思いましたが、限界があることがわかりました。それに対し、「おせっかい」はすべてのお客様に提供できると気づきました。なぜなら、「おせっかい」の主語は「私が」「私がやってあげたい」という気持ちだからです。この考え方により、全てのお客様とのつながりが生まれ、誰に対しても実行できることがわかりました。
2020年、私たちは理念型経営を実現するために、従業員全員で理念を言語化する合宿を行いました。その結果、「おせっかい革命」という理念が生まれました。
Nazunaでは、「でしゃばって他人に余計な口出しをする過度な世話好き」という意味の「おせっかい」を、親近感を示す表現として捉えています。迷惑に感じられるリスクを恐れず、心から相手を想い、私たちの「喜ばせてあげたい!」を実行に移す。それが、Nazunaのおせっかいの考え方です。
「おもてなし」とは異なり、相手のニーズを完全に把握しなくても実行できます。その一歩踏み込んだ「おせっかい」によって、人間関係を築いていけることに気づきました。おせっかいは、お客様とメンバー、メンバー同士、メンバーと取引先、そして会社と社会との関係構築のきっかけとなる考え方です。
Nazunaの未来
現在、Nazunaでは「おせっかい」を具現化するために、サービス面(ソフト)と施設面(ハード)の両方で独自性を追求しています。特に、京都らしさを感じられるデザインや地域性を反映したアートワーク、ユニークなお風呂の設計など、細部にわたるこだわりを大切にし、訪れるお客様に心地よい空間を提供しています。これらは、Nazunaの提供する体験に深みを加えるための工夫であり、私たちの理念を体現するための一環です。
Nazunaではこれからも、すべてのお客様に「おせっかい」を提供していきます。そのために、小規模施設にこだわり、囲炉裏やフリーフローといった、コミュニケーションが生まれるスペースを設けていきます。これらのスペースを通じて、より深い人と人とのつながりを築いていけるよう努めていきます。
「おせっかい」という理念を軸に、Nazunaで働く全員が一丸となって、これからもお客様に喜んでいただける体験を提供していきたいと思います。これを読んでくださったNazunaの仲間たち、そしてお客様の皆さま、一緒にNazunaの未来を作っていきましょう!