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21世紀の産業革命を支える基盤としての「データ構造化」
Photo by Mika Baumeister on Unsplash
はじめに — 21世紀の産業革命は「データ」から始まる
19世紀、鉄道は長距離移動や大量輸送を可能とし、生産体制や商流を劇的に拡大させ、産業革命のスピードとスケールを決定づけました。
21世紀の産業革命において、鉄道に相当する役割を担うのはどのような技術でしょうか?
わたしたちはその一つがAIであると考えています。そしてAIが最大限に力を発揮するための“レール”こそが、データ、とりわけ構造化されたデータです。単に量を蓄えるだけでは不十分で、意味づけと文脈が揃ったデータモデルこそが、AIを事業価値へと接続します。
私たちは、非構造化データを事業のKPIや業務プロセスに接続する「使える構造」に変換することで、AIの潜在能力を現場の成果へ転換していきます。この「データ構造化」は私達が考えるDXの根幹技術です。詳しくは下記の記事をご覧ください。
https://www.wantedly.com/companies/company_2609139/post_articles/1013461
なぜ「データ構造化」が不可欠なのか
AIは入力に対して驚異的な推論・生成能力を示しますが、入力が曖昧で不統一なら、結果は再現されません。ここでいう構造化とは、次の3点を満たす状態を指します。
- 同じ意味のデータが同じ形式で表現される(標準化と正規化)
- 時間・空間・主体(誰がいつどこで)という文脈を付与し、追跡可能である(トレーサビリティ)
- 分析や自動化の単位に分解され、再利用できる(コンポーザビリティ)
この状態になってはじめて、モデルの更新や追加学習、依存関係の変更を行っても、結果の整合性が保たれます。逆に、データが“文書”のまま漂っている限り、個別のPoCは成功しても、全社的な拡張でつまずきます。
捕捉:AI活用のボトルネックはアルゴリズムよりデータ設計。レールがなければ列車は走れない。
現場で起きている“真のボトルネック”
- DXが最も求められる現場ほど、紙や画像、PDF、音声などの“非構造化データ”が堆積する
- 部門ごとに指標や用語がバラバラで、横断分析ができない(同じ語でも定義が異なる)
- 効果検証が属人的になり、改善が再現されない(ファクトよりナラティブが先行)
この壁を超えるには、OCRや音声認識といった“取り込み”の先に、タグ設計、スキーマ設計、参照設計(IDや地理・時間軸)までを含む体系的な「データ構造化」プロセスを敷くことが不可欠です。
業務や社会課題の解き方がどう変わるか(具体例)
アプリやAIは一般的にマシンリーダブルなデータが必要です。アプリやAIが導入されることで、業務省力化や多部署連携が可能になり、人手不足による負担の解消や、付加価値向上に向けた取り組みが可能になると考えています。具体的には以下のような内容が考えられます。
業務効率化
- 検索と引き継ぎの時間短縮
- 文書・画像・音声をタグ分割し、用語辞書で正規化して「横断検索」を高速化
- 顧客や案件の時系列イベント(問い合わせ→見積→受注→請求)を1タイムラインに統合
- 現場入力の負担軽減
- 音声入力→項目自動展開(日時・場所・数量などを自動抽出)
- 画像・PDFから数量やチェック項目を自動起票し、現場は確認のみ
- 属人化の解消と教育コスト削減
- 業務手順をイベント単位に構造化し、ケースに応じた手順書をAIが提示
- よくある判断の根拠をテンプレ化し、新任者の立ち上がりを短縮
- 優先順位付けとアラートの自動化
- リスク徴候やSLA逸脱をルール化し、担当者や期日を自動割当
- 重要度×緊急度に応じたダッシュボードで「今やるべきこと」を提示
- 顧客対応の一次受け自動化
- 構造化FAQと過去対応ログを基に、チャットやメールの一次回答をAIが生成
- 重要案件は人にエスカレーション。応対履歴は自動でCRMに反映
- 需要予測と在庫・要員配置の最適化
- 受注・季節性・外部要因を学習し、在庫・シフト・工数を先回り調整
- 異常検知と品質管理の省力化
- 日報や検査記録を構造化し、閾値超過やパターン異常を自動検知
- 再発防止策を類似事例から自動提案
- 採用・人事の生産性向上
- 履歴書・職務経歴を構造化し、要件との適合度スコアを自動算出
- 面談ログを要約し、評価のばらつきを可視化
- 内部ナレッジの再利用
- 提案書・設計書・トラブルシュートを要素化し、ケース別に再組立
- 生成AIが「根拠付き」で回答と参照原本リンクを提示
- コンプラと監査対応の効率化
- 契約・稟議・ログを時空間IDで紐づけ、エビデンス収集を自動化
- ポリシー逸脱の自動検知と是正フロー起動
- バックオフィス
- 請求書・経費の自動読取と仕訳候補提示
- 稟議・契約期限の自動リマインドと更新下書き
- 営業・CS
- 商談メモからCRM自動更新と次アクション提案
- 問い合わせ一次対応ボット+ナレッジ参照
- 企画・レポート
- PDFや表の自動表構造化→定型レポート自動生成
- 製造・保守・建設
- 点検記録の音声→項目化と異常アラート
- 施工写真から出来形チェックの自動化支援
- 自治体・公共
- 申請書のスキャンから項目抽出と横断突合
- 補助金や窓口問合せの集計と効果測定の自動化
社会課題の解き方
- 補助金政策の効果測定の高度化
- 交付情報、事業実績、受益者属性、地域指標を統一スキーマで連結
- 地域差や施策間の相互作用を見える化し、翌年度の配分ルールをデータドリブンに更新
- 結果の再現可能性が担保され、説明責任が強化される
- インフラ老朽化の予測・予防
- 陥没・補修履歴、地質、交通量、地下埋設物、施工年を時空間IDで統合
- 「壊れてから直す」から「壊れる前に最適更新」へ。更新投資の優先順位が明確化
- 高齢者見守りと空き家対策の連携
- 福祉、固定資産、上下水、郵便、地域ボランティア情報を匿名化・連結
- リスク徴候の早期検知と、支援・空き家対策の同時最適化が可能に
私たちのアプローチ:AIのための“レール敷設”
現場で回ることを最重視し、以下のステップで“非構造→構造→活用”を実装します。
- データ取得
- 画像・PDF・手書き・音声を対象に、レイアウト認識とセマンティック分割を同時に実施
- 認識結果に信頼度と根拠(元ページ座標や音声タイムスタンプ)を付与
- データ設計(タグ設計とスキーマ提案)
- 用語辞書と同義語マップを作成し、現場の語彙を保ちながら標準化
- 業務イベント単位のデータモデルを提案し、レビューで確定
- 情報抽出(値抽出と参照設計)
- エンティティ間の関係(事案ID、地理メッシュ、時間粒度)を設計
- 欠損・矛盾の検出ルールを定義し、品質をモニタリング
- データ活用(分析・運用・提示)
- ダッシュボード構築などの現場にあったUI/UXを構築し、現場の意思決定に直結した伴走を行います。
この一連の流れは、MiraiE.aiの現場導入を通じて磨かれてきたもので、現在は国土交通省のProject LINKSでも中核技術として展開しています。
まとめ — レールを敷いた先に、持続的な成果が生まれる
AIを“走らせる”ためのレールは、自然には敷かれません。構造化されたデータがあることで、高速反復と再現性のある改善が回り、投資が複利で効く。広告やゲームなどデータリッチ産業の成長軌道は、その好例です。
私たちは、AI導入をレールから構築し、現場と並走して実装していきます。
「データ構造化」については、「LLMを用いて非構造データをデータ構造化してみた」の記事をぜひご覧ください。
https://zenn.dev/microbase/articles/2f9f179fba7842