誰も知らないところで、ひとつだけ灯った光
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夜の営業所は、昼間の喧騒が嘘みたいに静かだった。
蛍光灯の白い光だけが、机の上の書類を照らしている。
帰ろうと思っていた。
鍵も手に持っていた。
でも、ふと視界の端に、ひとつだけ気になるものがあった。
棚の一番下。
誰も触らないような場所に、
小さな段ボールが置かれていた。
「新製品テスト用」
そう書かれたシールが、少しだけ剥がれている。
誰が置いたのか分からない。
いつからあるのかも分からない。
ただ、そこに“ずっと”あったような気がした。
段ボールを開けると、
中には一枚の紙が入っていた。
手書きの文字だった。
「この製品は、誰かの生活を変えるかもしれない。
だから、丁寧に扱ってほしい。」
署名はなかった。
誰が書いたのかも分からない。
でも、その文字は、
急いで書いたものではなく、
ゆっくり、丁寧に書かれたものだった。
紙の下には、
試作段階のエアレスタイヤが入っていた。
まだ完成形ではない。
少し重い。
少し硬い。
でも、触れた瞬間に分かった。
「これは、誰かが本気で作ったものだ」
営業所の静けさの中で、
そのタイヤだけが、
まるで“熱”を持っているように感じた。
誰かが、
試行錯誤して、
失敗して、
また作り直して、
ようやくここまで辿り着いた。
その過程を想像した瞬間、
胸の奥がじわっと熱くなった。
自分は、
ただ製品を運んでいるだけじゃない。
ただ説明しているだけじゃない。
誰かが必死で作ったものを、
誰かの生活に届ける役目をしている。
その事実が、
思っていたよりずっと重かった。
段ボールを閉じるとき、
手が少し震えた。
帰り道、
営業車のライトが道路を照らす。
いつもと同じ景色なのに、
なぜか少しだけ違って見えた。
「明日、この製品を必要としている人がいるかもしれない。」
その予感が、
静かに、
でも確かに、
胸の奥で光った。
誰も知らないところで灯ったその光は、
消えそうで、
でも消えなかった。
そして、
その光が、
自分を前に進ませた。