新潟の巡回の途中、
ある店舗の裏口で、年配のスタッフが段ボールを抱えていた。
重そうだったが、
「手伝いましょうか」と声をかけるほどの距離でもなかった。
その人は、誰にも頼らず、ゆっくりと運んでいた。
段ボールが少し傾いて、
中の小物が一つだけ地面に落ちた。
スタッフは気づかず、そのまま歩いていった。
拾おうか迷った。
でも、落ちたのは本当に小さなものだった。
誰かが後で気づくだろうと思った。
そのまま巡回を続けた。
帰り際、同じ場所を通ると、
落ちていた小物はまだそこにあった。
誰も気づかなかったのだろう。
拾って戻すだけのことだった。
一秒で終わる。
でも、なぜかその一秒を使わなかった自分が、
妙に心に残った。
「誰も見ていないから」
「自分の仕事ではないから」
「後で誰かがやるから」
そんな理由が頭の中に並んだ。
けれど、
そのどれもが本当ではない気がした。
落ちていた小物は、
翌日にはなくなっていた。
誰かが拾ったのだろう。
その人は、
誰に褒められるわけでもなく、
誰に見られるわけでもなく、
ただ静かに拾ったのだと思う。
その“静かな一秒”が、
なぜかずっと心に残っている。
自分が拾わなかった一秒より、
誰かが拾った一秒のほうが、
ずっと重く感じられた。
その理由は、
今でもうまく言葉にできない。
ただ、
「人は見ていないところで、その人が出る」
ということだけが、
静かに胸の奥に残った。