2026年7月9日、OpenAIはCodexという独立アプリを消した。ChatGPTに統合された——と報じられた。だが、これは「統合」ではない。「分割」だ。
Codexは消えたが、中身は2つに分かれた。ChatGPT WorkとChatGPT Codex。前者はDoc、PPT、Excelの三種の神器を並べ、後者はコードブランチとPRレビューを置く。下敷きは同じAgentエンジン。1つのAgentで何でもできるなら、1つの入り口で済むはずだ。統合して一本化する方が、効率的ではないか?
だが、現実は逆だった。なぜか——その答えをAnthropicが先に見つけていた。
「コード書き」に非エンジニアが殺到した
2025年2月、AnthropicはClaude Codeを発表した。ターミナルで動くAIプログラミングエージェント。開発者向け、のはずだった。
ところが、ある朝、開発責任者のBoris Chernyがオフィスに入ると——データサイエンティストの画面に、一斉にClaude Codeが並んでいた。彼らはコードを書いているのではない。SQLを投げ、matplotlibでグラフを描いている。その翌週には、データチーム全員の画面にターミナルが開いていた。
さらに予想外のことが起きた。Claude Codeで家族旅行のプランを組む人、壊れたHDDから結婚写真を復元する人、観葉植物の水やりを監視する人まで現れた。プログラミングツールが、万能アシスタントとして使われ始めたのだ。
Anthropicは気づいた。Agentの能力が一定ラインを超えると、1つの入り口では立ち行かなくなる。コードブランチやPRレビューが並ぶ画面に、非技術者が「旅行プランを作って」と頼む——その違和感を想像してほしい。逆に、開発者がDocやPPTのアイコンの中でデバッグしようとするのも、同じくらい噛み合わない。同じエンジンでも、ユーザーの頭の中にあるモデルが違う——「コードを書いてもらう」と「仕事をやってもらう」。この2つの心の入口が必要だ。
そこで2026年1月、Claude Coworkが生まれた。Codeの能力をグラフィカルな界面で包み直し、非技術者でも自然言語で指示できるようにしたものだ。興味深いのは、Coworkの開発期間がわずか10日間だったこと。しかもコードはすべてClaude Code自身が書き、人間は設計と方向づけだけを担当した。自らの存在意義を証明するような誕生だった。
同じ結論、違う戦略
OpenAIも同じ現象に直面していた。Codexの週間アクティブユーザーは500万人に達したが、非開発者の採用スピードは開発者の3倍以上だった。100万人以上が、Codexでレポート作成やデータ分析をしていた。AnthropicがCodeで見たことと同じ構図だ。
だが、OpenAIの選択はAnthropicとは決定的に異なった。
Anthropic
Coworkという新ブランドを立ち上げた。Codeの隣に新しい入り口を建てる、横への拡張だ。自然な選択に見えるが、ゼロからユーザー認知を築くコストがかかる。
OpenAI
「Codex Work」という新ブランドを作らなかった。代わりに、ChatGPTという週間8億人以上が使う巨大ブランドをそのままWorkに改造した。ChatGPT Work——名前だけで、元のユーザーには「ChatGPTが仕事をやってくれるようになった」と映る。新しいアプリを覚える必要はない。
この違いは、ブランド命名の問題ではない。ユーザーの移行パスの設計だ。AnthropicのCoworkは「新しいツールを学ぶ」ことを意味する。OpenAIのWorkは——いつものChatGPTを開くと、そこにWorkがある。新しいアプリをインストールする必要も、名前を覚える必要もない。「ChatGPTが仕事もやってくれるようになった」と感じるだけ。壁を作るか、壁を消すか。
そして、もう一つの象徴的な変化。旧来のChatGPT、つまりチャット画面は、サイドの小さなタブに追いやられた。クリックすると右下にポップアップが出る——それがかつてのChatGPTのすべてだ。2022年11月に始まったChatの時代は、大衆への啓蒙という役割を終え、Agentの時代に場所を譲った。
異路同帰
AnthropicもOpenAIも、同じ結論に独立して至った。Agentの能力が一定ラインを超えると、「書く人」と「働く人」で入口を分ける必要がある。Code→Cowork、Codex→Work。道は違えど、行き着く先は同じだ。この判断は業界でも繰り返されている。中国のテンセントはCodeBuddyからWorkBuddyを分離し、DAU 1,300万人を達成した。Code→Workの分割は、ある企業の偶然ではなく、製品の法則になりつつある。
なお、この分割と同時にGPT-5.6がリリースされた。フラッグシップモデルSolはClaude Fable 5と同等以上の性能を、価格ほぼ半分($5/$30 vs $10/$50 per M token)で提供する。プログラミングベンチマークでも80点でFable 5の77.2点を上回り、コストは約半分以下。性能と価格の両面で、日常業務におけるAgent活用のハードルを一段下げた。