はじめに
こんにちは!
株式会社コムデのデザイナー近藤です。
以前、Wantedlyに「アクセシビリティ」についての記事を投稿したことをきっかけに、私たちはアクセシビリティの重要性を再認識しました。そこで、アクセシビリティについての理解を深め、自分たちの制作物にどのように反映できるのかを明らかにするため、社内で調査を実施しました。
本記事では、その調査を行うに至った経緯や取り組み内容についてご紹介します。これからアクセシビリティについて学びたい方は、ぜひ参考にしていただけると幸いです。
合わせて「デザイナーとして日々考えるウェブアクセシビリティとデザインの関係」の記事も合わせてご覧いただくと、より理解度を深めながらお読みいただけると思います。
https://www.wantedly.com/companies/commude/post_articles/935114
アクセシビリティはなぜ必要?
Webアクセシビリティは、障害の有無や年齢に関係なく、すべての人が平等に情報へアクセスできるようにするために欠かせない要素です。
とはいえ、現実的に「最高レベルのアクセシビリティ」を追求することは非常に難しいのも事実です。特にデザインや開発の現場では、工数やクライアントの要望など、さまざまな制約があります。
そうした状況だからこそ「どこまで配慮すれば最低限のアクセシビリティを担保できるか」という基準を持ち、努力義務として取り組む姿勢が大切だと思います。理想を追い求めすぎずとも、一歩ずつ改善を続けることで、より多くの人に使いやすいサイトを提供できるのではないかと考えています。
アクセシビリティを学ぶことになったきっかけ
これまで私たちのチームでも「アクセシビリティは大切」と言葉では認識していたものの、具体的に何をすればいいのか、どこを改善すべきなのかが漠然としていたところではあります。特に経験の浅いメンバーにとっては、アクセシビリティを考慮したデザインの具体像が掴みにくいという課題がありました。
上記の懸念と自分達の制作物を客観的に見直す機会として、チーム内で「JIS X 8341-3:2016」に基づくデザイン面でのアクセシビリティ調査を、経験の浅いメンバーが主体となって実施することにしました。
調査を通じて、調査メンバーが「なぜこのUI設計では配慮が不足してしまうのか」など、具体的に考える力を養い、更にインプット・アウトプットを通じて、他メンバーにもより理解を深めてもらえるようにしたいと考えました。
「JIS X 8341-3:2016」を調査して整理した方法
「JIS X 8341-3:2016」(以下よりJIS規格と省略)とは、国際的なガイドラインである「WCAG 2.0」を技術的内容として採用した日本工業規格で、国や地方公共団体のウェブサイトをはじめ、多くの企業においてアクセシビリティ対応の基準として活用されています。各項目の達成基準はA、AA、AAAの3段階に分かれています。
- A基準:最低限守るべき必須項目。
- AA基準:A基準に加え、より多くの人が利用しやすくなる推奨項目。
- AAA基準:最高レベルの基準で、すべてのユーザーに最大限配慮した内容。 (ただし達成の難易度が非常に高く、実際には民間サイトで対応するケースは非常に少ないのが現状です。)
今回の調査は内容を理解することが最大の目的ですが、JIS規格を読み解くことで「何が求められているか」がクリアになり、やるべきことを洗い出しやすくなります。
調査工程としては以下で取り組みました。
1.WBSをひいて、調査までのスケジュールを把握
上記のように調査までの工程をWBSを引いて、各カテゴリに対してどのようなアクションを起こしていく必要があるのか確認します。また、稼働率などを把握してチームで定期的にMTGなどを行い進行していきます。
2.目的・スコープの決定/ステークホルダーの特定
次に、Webサイトを訪れた人の中にはどういった障害を抱えている方がいるのか、またその改善策は何か、JIS規格を調査する前に私たち自身でリサーチできる範囲で洗い出していきます。その中で、デザインに関わる要素をピックアップし、事前に頭に入れておくことで、JIS規格を読み解く際にも解像度高く調査することができます。
3.JIS規格を章ごとに確認し、項目をスプレッドシートに落とし込む
ここからJIS規格の調査に移ります。基本的には達成基準はA、AAを洗い出して調査していきました。
JIS規格自体は、デザイン以外にも構築に関わる内容もいくつか含まれ、数が膨大にあります。そこで事前に私たちが調査していたリサーチを元に、デザイナーとして必要な項目をピックアップしました。その項目を各担当で分担し、それぞれ調査を進めていきました。
以下のシートのように、JIS規格の規定内容と合わせて、達成するための意図や具体的なメリットを記載して、どのメンバーが見ても分かりやすいように記述していきます。また、今後入社される方やアクセシビリティの知見が浅い方向けに、内容を少し噛み砕いたリストも合わせて作成しました。
4.チームで共有
最後にデザイナーチームへ共有します。調査に参加したメンバーはこの時点で、調査前に比べ遥かにアクセシビリティへの知見を増やすことができ、チーム共有の際にもスムーズに説明を行うことができました。
他メンバーからも、「デザイナーだけでなく、構築の観点から見た調査も行なって、社内全体に周知していきたい」「更にこれを資料化して、ナレッジとして残していきたい」といった今後の展開についてより具体的なプロセスに落とし込めると良いという意見も出ました。デザイナーのみで完結させず、他部署と連携し、全社での取り組みに発展させていけるように仕組み化していく必要があると感じました。
完璧を目指さなくても一歩ずつ
調査を進める中で改めて感じたのは、完璧を求めるとブランディングやデザイン性とのバランスが崩れがちになるけれど、「できることから取り入れていく」姿勢こそがアクセシビリティ対応の第一歩だと考えています。
アクセシビリティはデザイン面だけでなく、構築や運用フローにも関わる要素です。私たちは今回の学びを通じて、ゆくゆくはデザインだけでなく、開発・運用の工程まで含めて全社でアクセシビリティを意識し、取り組みを継続していける体制を作りたいです。
大切なのは「アクセシビリティ対応は特別な作業ではなく、日々の制作や運用の中で意識していくもの」という意識を持ち続けること。
今後、私たちも学びながら試行錯誤をしていきたいです。
終わりに
今回の取り組みを通して、デザインやコンテンツ制作の現場でアクセシビリティを「知識」としてだけでなく「実践」として意識できるようになったのは大きな前進でした。今後はデザイン領域にとどまらず、構築フェーズにおいてもアクセシビリティの視点を反映できる体制を整え、全社的な取り組みとして発展させていきたいと考えています。
小さな改善を積み重ね、より多くの人にとって使いやすいWebコンテンツ作成を実現していけるよう、引き続きチーム一丸となって取り組んでいきたいです!
今回取り上げた「JIS X 8341-3:2016」の詳しい情報は以下サイトからも確認いただけます。
「JIS X 8341-3:2016」
https://waic.jp/docs/jis2016/test-guidelines/202012/
「JIS X 8341-3:2016 達成基準 早見表(レベルA & AA)」
https://waic.jp/files/cheatsheet/waic_jis-x-8341-3_cheatsheet_201812.pdf