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カルチャーメディア「CINRA.NET」は、2019年7月、東京・渋谷のヒカリエに新しいスペース「MADO」をオープンしました。雑貨や書籍などの販売を行うショップを常時営業するほか、トークイベントやライブ、ワークショップなどの企画も定期開催しています。
店長を務めるのは、CINRA社員の久保山領(27)。4年前、ECサイト「CINRA.STORE」を運営するチームにアルバイトとして入社しました。
MADOの準備を初めてからオープンまで約3か月、初めて経験することばかりで「毎日、暗闇を手探りで進んでいく感じだった」という彼に、開店までのストーリーや、訪れた人をワクワクさせる出会いがあるMADOという場への想いを聞きました。
インタビュー・文:原里実(CINRA) 写真:小河原万里花(CINRA)
久保山領
2015年、CINRA.STOREのサポート業務アルバイトとして入社。その後、CINRA.STOREディレクターとなり商品企画などを担当。
2019年より店長としてMADOの立ち上げに関わる。サウナとぬいぐるみが好き。
MADOがなければ出会わなかったような人たちが、つながれる場を目指したい
—渋谷のヒカリエに「MADO」がオープンしてから約1か月半が経ちますね。どんなお客さんが来ていますか?
久保山:本当にいろんな方が来てくださっていますね。「CINRA.NET」や「She is」など、CINRAで運営しているメディアのファンはもちろん、扱っているグッズのクリエイターさんのファンや、アート好きのお客さんも結構いらっしゃいます。ヒカリエ8階のこの場所は、MADOがオープンする前、もともとギャラリーだったんですよ。隣のお店は、実際いまもギャラリーです。
久保山領
—MADOのショップでは、どんな商品を扱っているのでしょうか。
久保山:クリエイターによる雑貨やTシャツ、書籍、ZINEなどのほか、MADOのオリジナルグッズなども扱いつつ、ちょっとした食べ物や飲み物も置いています。イベントスペースは、何もないときはショップのものを飲食していただくラウンジとして使っていますね。
イベントとしては、トークショーやミニライブ、ブランドのポップアップショップなど、定期的にいろいろ企画していけたらなと思っています。
手前がショップスペースで、写真左側の壁を隔てた奥がイベントスペースになっている(写真提供:MADO)
イベントがないときはラウンジとして利用可能なスペース(写真提供:MADO)
ラウンジスペースで飲食できる食べ物も販売中
女性向けのライフ&カルチャーコミュニティ「She is」で、有料会員向けに毎月贈っているギフトのひとつ、マニキュアも販売(写真中央。3本セット、税抜2,484円)。MADOではマニキュア以外の、毎月変わるギフトの実物も展示しているため、入会を検討中の「She is」ファンが訪れることもしばしばあるという
MADOオープニングイベント『ことばのNEWTOWN』の様子。詩や俳句、短歌のワークショップやポエトリーリーディングのオープンマイク、活弁士による無声映画の上映会、ミュージシャンによる弾き語りや朗読など、盛りだくさんの内容で展開した(写真提供:MADO、撮影:上保昂大)
—「これ」とひとつにしぼりきらず、多様な方向にのびのび広がっている印象ですね。
久保山:そうですね。カッチリとしたテーマや視点は設けていないんです。むしろいろんなものを発信して、いろんなことをやってみようとしている。ただ、「自分たちが自信を持っておすすめできるものを紹介する」ということは大事にしています。
もともと「CINRA.NET」は、カルチャーミックスを得意としているメディアです。幅広いジャンルのカルチャーを扱うことで、アート好きの人が新しい音楽に出会えたり、映画好きの人が舞台に関心を持てたり。同じように、MADOがなければ出会わなかったような人たちが、つながれる場にできたらいいなと思っています。
CINRAが運営するカルチャーメディア「CINRA.NET」
「芸術の力で人に変化を」。メディアで目指し続けてきた理想に、リアルな場からアプローチ
—なるほど。もともとCINRAがメディアを通じてやってきたことを、今度はリアルな場所で実践するというイメージなんですね。
久保山:CINRAのなかでも「CINRA.NET」と「She is」を運営しているArts&Culture Companyという事業部は、「芸術の力で人に変化を提供する」というミッションを掲げています。
そういったカルチャー体験をウェブだけでなくリアルな場でも届けたいと、ここ2、3年のうちに、『NEWTOWN』『CROSSING CARNIVAL』といったイベントを始めました。ただ、そうした大規模なイベントは年に数回しかできないので、小さな規模でももっとコンスタントにやっていきたいと考えて、MADOのオープンに至ったんです。
「みんなでつくる、新しい文化祭」をテーマにしたイベント『NEWTOWN』。2017年から年に一度開催しており、2019年も10月19日(土)〜20日(日)に多摩センターで開催する(写真提供:NEWTOWN)
久保山:実際に開店してみて、ウェブだけでリーチできなかった方々にCINRAを知ってもらうきっかけになっているなと感じます。会社案内を店頭に置いていると、想像以上に積極的に手にとってもらえるんですよ。
—それなら、MADOをきっかけにCINRAのウェブメディアを訪れてもらえるケースもありそうですね。
久保山:そうですね、嬉しいことです。「MADO」という店名は「窓」からとっているのですが、窓って新しい空気や光をとり入れるものですよね。だからぼくたちも、MADOを通してお客さんに新しいカルチャーをとり込んでもらえたら、と思っているんです。新しい、いままで触れてこなかったものに触れるきっかけに、MADOがなれたらいいですね。
—なるほど。店名にはそんな想いが込められているんですね。
ショップスペースとイベントスペースを隔てるこちらの壁に穴を開けたところ、大きな「窓」のように見え、店名を着想するきっかけになったという
会社にとっても初めての挑戦。「毎日、暗闇を手探りで進んでいた」
—MADOは2019年7月にオープンしましたが、どのくらい前から準備を始めていたんですか?
久保山:ぼくが店長をやらせてもらうことに決まったのが4月だったので、そこから3か月ちょっとで開店までこぎつけました。
リアルな店舗をつくるのは、自分はもちろん事業部としても初めての取り組みでした。だから最初は、何から手を着ければいいかまったくわからなかったですね。店名にはじまり、ロゴや内装のデザイン、アイテムのセレクト、オリジナル商品の開発などすべて、MADOチームで話し合いながら並行して進めていきました。毎日、暗闇を手探りで進んでいく感じでした(笑)。
MADOのオリジナル商品。左から、コーヒー(756円)、ライター(324円)、クリアバッグ(2,160円)
—暗闇を手探りで……。大変なこともたくさんあったかと思いますが、何に一番苦労しましたか。
久保山:そうですね……すごく個人的な気持ちの部分なんですが、初めてのことばかりで何をするにも自信が持てなくて。「これで大丈夫かな?」と不安に思いながら進めていくのが大変でした。
ぼくはいまでこそ社員として働いていますが、もともとは、ECサイトの「CINRA.STORE」のアルバイトとして入社したんです。注文の受注管理や、お客さまのお問い合わせ対応、発送業務など、チームのサポート業務を担当していました。
—サポート役だった分、プロジェクトリーダーとしてチームを引っ張る立場になって、変化が大きかったんですね。
久保山:そうですね。もともとの気質が、リーダーというよりはサポート役で。そのせいもあってなかなか自信が持てず、物事を前に進めていくことができなかったんです。
オープン後は、お客さんの反応がやりがいに。ワクワクしながら店舗を進化させていく
—そのハードルは、どうやって乗り越えたのですか。
久保山:一度上司と話したことで、気持ちが前向きになりました。悩みを相談したところ、「とりあえず、久保山くんの好きにやってみようよ」と言ってもらえたんです。「会社としても初めての試みだから、とにかくトライ&エラーでいいものにしていこう」と。その言葉をもらって、自分がいいと思ったことをやってみてもいいのかなという気持ちになれました。とにかくやってみないことには何も変わらない、と。
オープンしてからは、お客さんの反応が目に見えるのでとても楽しいです。もともと対面での接客が好きで、店長の仕事にチャレンジしようと思ったのもあって。見えた課題に対して「こうしたらもっとよくなるかも」と、前向きにお店を進化させていけるので、とてもワクワクします。
—たとえば、どんなことが見えてきたのでしょう。
久保山:お店を始めてみて、ZINEや書籍が意外と売れることがわかりました。考えてみると、そもそもヒカリエに書店がなかったり、近くにZINEを扱っているところがなかったりする。「じゃあ、もうちょっとZINEや書籍を増やしたらお客さんに喜んでもらえるかな」といったことを考えます。アイデアをかたちにして、それに対する生の反応を見られるというのはすごくやりがいがありますね。
奥は台湾の日本文化誌『秋刀魚』(1,080円)。手前はイラストレーター・コミック作家のカナイフユキさんのZINE『LONG WAY HOME』(2,200円)
集まる「人の魅力」を起点に。輪が広がっていく場所をつくりたい
—お客さんからの声としては、どんなフィードバックがありますか?
久保山:共通して感じるのは、「CINRAがスペースを持つ」ことに対して、期待してくださっている方が多いなということです。だからその期待に応えたい、もっといい場所にしていきたいという想いが、自分のなかにも強くあります。お客さんのなかには、「ここでイベントをやりたい」と言ってくださった方もいました。
—もしそれが実現したら、もっと楽しいことになっていきそうですね。
久保山:まさにそうですね。そしてお客さんはもちろん、スタッフである自分たちも楽しみながらやっていくことを大事にしたいです。MADOに集まる「人の魅力」を起点に、「あの人がおすすめするなら楽しそう」「体験してみたい」とか、輪が広がっていくような場所にできたらいいですね。
※記事内に記載の価格はすべて8%の税込表示です