生き物たちの力を借りて豊かな未来をつくるバイオベンチャー企業群、ちとせグループ。このシリーズでは、企業という有機体を構成するひとつひとつの細胞である「ひと」にフォーカスを当て、ちとせの全体像を描いていきます。
稲森 貴一(いなもりきいち)
Legal strategy Div., Tech & Biz Development Div. 所属/2020年4月入社
東京大学大学院 理学系研究科 生物科学専攻修士課程 卒業
ちとせグループ 法務・知財担当。藻類領域を中心に、法務業務をこなしつつグループ全体の知財戦略の立案、特許の出願・管理まで幅広く担う。博士課程まで発生生物学を専攻し、研究者としてのバックグラウンドを持つ異色の法務人材。研究や現場の話を丁寧に聞き取り、事業にとって本当に守るべきものを、契約や知財という形に落とし込むことを大切にしている。
1日の流れ
9:30 AM 業務開始
10:00 AM 全社MTG
11:00 AM 契約書作成・チェック
1:30 PM 部署内MTG
2:00 PM 上長と1 on 1
3:00 PM 新規契約について実際の活動と狙いを事業担当者から聞き取り
4:00 PM 特許出願に関して研究者から発明内容と新しさを聞き取り
6:30 PM 業務終了
――― 今日ご紹介するのは、法務の稲森貴一さんです。昨年、私(今野)は万博業務で稲森さんにたくさん助けていただき、本当に頭が上がらない御方です。そんな頼れる稲森さんにお話を聞いていきます!まずは普段の業務について教えてください。
よろしくお願いします(笑)普段の自分の仕事は、基本的には法務として契約書のレビューや作成、それから知財戦略を考えたり知財そのものを管理したりするのが主な業務ですね。
万博の仕事でもまさにそれで、展示内容や協賛各社との取り組みについて聞きながら、どこをちとせとして守るべきか、契約やルールとしてどう整理するのがよいか、というところを万博担当のみなさんと一緒に考えていました。
日常業務も万博関連の業務も、やること自体に大きな違いはなく、事業やプロジェクトの話を聞いて、重要な点を整理しながらそれを契約という形に落とし込んでいく、という業務が私の仕事です。
――― 契約周りのお仕事について、なんとなくイメージが湧きました。一方で、知財ってどんな仕事なんでしょうか?
知財の仕事は、大きく分けると「計画的に進める仕事」と「偶然をうまく拾い上げる仕事」があると思っています。計画の部分では、どんな稼ぎ方をしたくて、そのためにどんな研究開発や特許が必要かを考えて、それを事業部や研究チームと一緒に進めていきます。
一方、研究や開発は必ずしも思い通りに進むものではなくて、想定していなかった面白い発明が出てくることもあります。そうした成果(=知的財産)を、そのままにせず、特許にするのか、論文にするのか、あるいはあえて出さないのか。出すとしたら、どこを押さえるべきか。そういう判断をして、事業として使える形に整えていくのも知財の役割だと考えています。
――― 法律・契約・知財について幅広くカバーされる稲森さんですが、大学ではどんなことを勉強されていたんですか?
もともと生き物が好きで、学部から博士課程までメダカが卵から孵化するまでの過程について研究していました。たった一つの受精卵から、分裂を繰り返し、稚魚や赤ちゃんのような形態になる、この仕組みを解き明かす研究です。
なので、ちとせには研究職で応募しており、ゲノム解析や生物実験の経験をアピールして面接を受けたんです。
――― 今の仕事と全然違うんですね!?法務や知財の業務を打診されたとき、抵抗はなかったんですか?
もちろん研究も面白かったのですが、自分は実学とはほど遠い理学系でしかも博士課程まで進んでいたので、一般企業に就職するには一定の難しさもあるだろうなと考えていました。だからこそ「やってみないか」と言われたことは基本的に何でもやってみようという考えで就職活動をしていました。
その結果、今の自分の仕事につながっています。研究者としてのバックグラウンドがあるからこそ、現場の声を聞きながら、特許や契約という形に落とし込んでいく仕事の進め方が出来ているのかなと思います。
――― 稲森さん「ならでは」の仕事の進め方という感じがしますね。それと、「何でもやってみよう」という言葉って「ちとせのひと」シリーズのインタビューでよく聞く気がします!
――― これまでで印象に残っている仕事はなんですか?
一番印象的で大変だったのは、マレーシアの藻類生産施設、CHITOSE Carbon Capture Central (C4) に関わる特許出願の仕事です。初めての海外出張だったことと、とにかく特許の量が多かったことが印象に残っています。
現地では、どんな設備が使われていて、どこに工夫があるのかを藻類生産メンバーから一つずつ説明してもらいながら、特許になりそうなポイントを洗い出していく作業でした。
帰国後は、その情報を整理して弁理士の先生に説明する資料を作り、さらに、先生から上がってきた特許文案を、今度は現場メンバーに確認してもらう、という調整を繰り返しました。海外出張の手配から全て自分で対応し量も調整も多かったので、楽な仕事ではありませんでしたが、事業の土台を作る仕事だったという意味で印象に残っています。
右:マレーシア国民食クエチャオを楽しむ様子。そうそう、これがいつもの稲森さん(今野)
――― 仕事のやりがいについて伺います。「プロセス自体が楽しい」というタイプと「プロセスは大変でも成果が嬉しい」というタイプの仕事があると思いますが、稲森さんの業務でいうとどちらが多いですか?
「契約書を読むのが楽しい!」というタイプではないので(笑)、法務の仕事でいえば後者だと思います。考えを整理して契約書草案を読み込み、できるだけ早く返したものがきちんと評価されたり、事業部のメンバーから「ありがとう」と言ってもらえたりすると、やってよかったなと感じます。契約が締結され、プロジェクトが前に進んだときも同じようにやりがいを感じます。
一方で、知財の仕事については、戦略を考えること自体が楽しい部分もありますね。どんな事業計画を描いていて、そのためにはどんな研究や発明がほしいのか。また、意図せず出てきたすごい発見をどう事業につなげるかを考えるのは、作業というより思考の仕事なので、そこは純粋に面白いと感じています。
――― ちとせでは「バックオフィスも全員営業」とか「攻めの○○」という言い回しをよく聞きますが、法務ではどういった点にそんなカルチャーを感じますか?
分かりやすいところでいうと、リスクの捉え方ですね。法務の仕事はどうしても「リスクの最小化」に意識が向きがちですが、ちとせでは「リスクの最適化」が大事だと考えています。事業部が「このリスクは取ってでも前に進めたい」と言ったときに、あらゆる想定をした上で取るべきリスクは取る、という判断ができるかどうかが法務の役割だと思っています。
「リスクの最小化」が目的になってしまうと、事業として前に進めなくなる。リスクを抑えることはあくまで手段であって、本来の目的である「稼ぐこと」に立ち返る。その視点を持ち続けることが、ちとせらしい「攻めの法務」なのかなと思っています。
――― 他にちとせのカルチャーで良いなと思うものはありますか?
一つは、人の雰囲気ですね。ギスギスした空気を感じることがほとんどありません。話しかけたり質問したりすると、なんとか相手にとってプラスになるように返そうとする人が多いように感じます。
外から聞く話だと、時には足の引っ張り合いすらあったりするみたいですが、そもそもそんなことをしても得する人がいないように、会社が設計されているんだと思います。
――― 個人的な体感ですが、生き物好きが集まっているので心根の優しい人が多いような気がしています。
もう一ついいなと思うカルチャーは、自分の仕事を広げていくこと自体が、価値として認められている点です。担当外のことだったとしても、新しいチャレンジや他の人が気づいていない抜け漏れを拾いにいく行動に対して、プラスの評価をする。会社としてそういったメッセージがはっきりしていると思います。
――― 最後に、ちとせで叶えたい夢や、やりたいことはありますか?
今ちとせで、バイオを基盤に「新産業を創出する」取り組みに関われているのは、とても特別なことだなと思っています。産業を一から立ち上げることは、いくらお金があっても簡単にできるものではなく、同じ方向を本気で目指す組織の一員だからこそ関われる仕事だと思っています。
自分自身は、研究者のように最前線に立つ立場ではありませんが、産業が生まれるプロセスを支える側として関われるのは大きなやりがいです。現場で汗をかいている人たちと一緒に考え、どうすればこの取り組みが前に進むのか、どうすれば長く続く形になるのかを支えていきたいです。
簡単な道ではないとは思いますが、少しずつでも着実に前に進んでいる実感もあり、このままいけば本当に産業を興せるんじゃないかという期待もあります。ちとせで産業創出に関わり続けること、それ自体が今の自分にとっての一番のやりたいことですね!