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コロナ禍において、感じ考えたこと | 地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事 岩本悠

今、私たちに問われていること

新型コロナウィルスの感染拡大は、社会にさまざまな影響を与えています。全国の学校の多くも臨時休校を余儀なくされるなど、教育や地域の現場でも大変厳しい状況が続いています。このコロナ禍において、多くの地域・教育の現場の方たちとの試行錯誤から学ばせていただいたこと、問われていることをここに共有し、更なる対話とこれからの行動を共に考える一つの機会にできましたら幸いです。

コロナ禍が投げかける問い

コロナ禍は、私たちに多くの深い問いを投げかけてきます。その問いにより私たちは、今まで無意識・無自覚だったことに日々気づかされています。その一つが、学校の価値です。休校になり、当たり前だった日常が失われたことで、そもそも学校は何を担い、何を守り、何を育んでいたのかが、改めて顕在化してきました。学校は狭い意味での「教育」に留まらない「福祉」的な価値(例えば、健康的な生活リズム、子どもの安全な居場所等)も担っていることが如実に浮き彫りになってきたと感じています。

私自身も審議員を務めている中央教育審議会では、これからのVUCA(変動性・不確実性・複雑性・不透明性が高い状態)と呼ばれるような「予測不可能な未来社会」を自立的に生きる力を育むための今後の教育の在り方について議論をしていたところでした。今、コロナ禍によってVUCAな状態に世界全体が陥ったことで、予測不可能な時代や社会をよりよく生きるために本当に必要な資質・能力とは何か、という切実な問いが、私たちみんなに投げかけられていると思います。言い換えれば、この状況下で自立的に生き、自分たちの持続可能で幸せな暮らしや地域・社会を守り創るために発揮される資質・能力こそが、これからの時代の教育で育むべき資質・能力と言えるかもしれません。

また、その解(資質・能力)についても、抽象論や理想論が一方的に伝達されるのではなく、社会全体で具体的な共通体験を通して探究し、体感を伴った対話を通して目指すべき資質・能力が深く社会に共有されていく機会だとも感じています。このあたりは、状況が少し落ち着いたときには、ぜひ皆さんと対話させていただきたいところです。

社会全体での総合的な探究の機会

学びの在り方や具体的な方法についても、転換の機会になると感じています。私たちは学校や地域において、プロジェクト学習や課題発見解決型学習などと呼ばれる探究的な学びを支援・提供してきました。これは、唯一絶対の正解がないなかで、何が課題か、どう解決していけるのかを、自ら考え、多様な人たちと協働しながら取り組んでいく探究学習です。今のコロナ禍の、世界の誰も正解を知らない、答えが分からない状況のなかでは、「大人=知っている人・教える人」「子ども=知らない人・教えてもらう人」という構図自体も変わります。

今は大人も子どもも誰もが共に考え、判断し、行動することが求められる、まさに社会総がかりでの「総合的な探究の時間」です。この機会を通して、「探究」という学びの在り方の価値や必要性、課題や可能性などが社会全体に共有される起点になるのではないかと考えています。また、こうした時だからこそ、現場の皆さんと共に今まで培ってきた探究の知見や力を、微力ですが、社会へ還元していければとも思っています。

未来社会に開かれる機会

これまで日本の学校教育においてICTや先端技術の活用はあまり進んではいませんでしたが、コロナ禍により学びのオンライン化・デジタル化は飛躍的に進むでしょう。オンラインやデジタルツールの活用は、学校にとって(最初は不安や負担、混乱が少なからずあるとは思いますが)、大きなチャンスにもなると捉えています。うまくオンラインやデジタル技術を活用できるようになれば、多様な子ども一人ひとりに応じて個別最適化された質の高い学びを今まで以上に提供できるようになります。

地域における暮らしや仕事においても同じようなことがいえると思います。オンライン対応ができるようになれば、今まで都会に集中していた人・モノ・情報・サービス等に場所を問わず平等にアクセスできるようになります(例えば、遠隔診療、遠隔教育等)。集積と規模による効率性や便利さといった都会の優位性(それに伴う都市の過密と地方との格差)がオンラインによって解消され、地方創生が進む可能性もあると感じています。

高まるリアルな地域社会の価値

一方で、デジタル化やオンライン化が進めば進むほど、リアルの価値が高まるでしょう。情報の共有やコミュニケーションはオンラインでも可能ですが、五感で感じられる、実態や手触り感のあるもの・ことや体験(例えば、今の私の身の周りでいえば、田植え、山菜採り、釣り、畑仕事、園芸、工芸など)はオンラインでは得られません。そして、こうした自然や文化といったリアルを色濃く有しているのが、地域社会です。ICTや先端技術を活用して未来社会に教育を開くと同時に、リアルな教育資源に溢れる地域社会に教育を開き、オーセンティックな(真正な)体験や学びを取り込むことで、AI時代を生き抜く豊かな感性や創造性、人間性が育まれます。

これは、私たちが取り組んでいる「地域みらい留学」(https://c-mirai.jp/)や地域を舞台にしたプロジェクト学習などにおいても言えることです。地域社会のなかに存在する、五感で感じられる本物でリアルなものとの関わり、体感を大切にしながら、新たな知識や情報はオンラインも活用して学べる豊かな学習機会や、データや科学、工学、先端技術などを活用しながら地域社会のリアルで真正な課題の解決に取り組むSTEAM型のプロジェクト学習など、オンラインとリアルの両方を活かしつなぎながら、予測不可能な未来もたくましく幸せに生きる力を身につけていく教育。これは、地域の学校関係者や自治体等の方々とともに目指していきたい「地域みらい留学」や高校魅力化の一つの未来の姿です。

一歩先を見据えて手をうつこと

地域との協働による高校魅力化の原点の一つとなった島根県立隠岐島前高校の魅力化プロジェクトは、地域唯一の高校の廃校という学校と地域の存続危機から始まりましたが、目の前の「存続」を目標とするのではなく、その先にある「魅力化」を旗として掲げました。生徒が「学びたい」、保護者が「通わせたい」、地域の人が「協働したい」、教職員が「働きたい」と思う魅力ある学校をつくることを目指しました。結果として、全国からも生徒が集まる学校となり、危機を乗り越えられたのは、存続を目標にしていたら生まれなかった発想や視点があったからこそだと思います。

空手の板割りでは、目の前の板を割ることを目標に打つと割れないのだけど、板の先を見据えてまっすぐ打つと板が割れているということを学び、魅力化と同じだと感じたことがあります。今回のコロナ禍でも、目の前だけを見ていると、翻弄され疲弊します。目の前の危機とリスクだけでなく、その先にある希望とチャンスも見据えて、手をうつことが大切だと思っています。

今、求められていること

今は学校や教育行政だけですべてを解決することは困難な状況であります。多様な子どもを誰一人取り残さないためには、今こそ学校が地域社会と連携・協働し、多様な専門職等も含めた「チーム学校」として、どんな家庭の子どもであっても、どんな地域に生まれても、障がいの有無や国籍などにも関係なく、すべての子どもが社会とつながり(包摂され)、それぞれに必要な学びを確保できるようにする必要があります。
そして、休校により本当に限られた時間のなかで育てたい資質・能力を育むために、教科横断的な視点で教育内容を組織的に再配列し、必要な人的・物的資源等を地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせる「カリキュラム・マネジメント」が、今こそすべての学校で必要です。ICTの活用は、こうした社会に開かれた教育課程やカリキュラム・マネジメントにおけるあくまで一つの、しかし重要かつ有効な「手段」だと考えます。

国や都道府県など教育・地域の現場を支える方々には、今までの尽力に深く感謝いたします。それと同時に、今まで以上に、現場が子どもたちのために力を発揮できるよう、産業界をはじめ地域・社会の多様なステークホルダーと協働し、情報機器をはじめとした物的資源と現場を支えるための多様な人的資源を充分に確保するとともに、現場の創意工夫をできる限り可能にする柔軟な制度支援、現場の視点に立った分かりやすい情報支援、そして、一斉一律だけでなく多様な現場の実態に寄り添う個別最適化された伴走支援を、子どもファースト・現場ファーストで迅速に行っていただけるよう、私たちからも切に要望していきたいと思います。

今、大切に考え動いていること

今回のコロナ禍において、私たち地域・教育魅力化プラットフォームが、最優先に考えている価値観は、メンバーや関わる人たち、生徒たちの【Will-being】の確保です。Will-beingとは、身体的・精神的及び社会的に健康(Well-being)で、よりよい未来へ向かう意志・意欲(Will)を有している状態のことです。生命力にあふれている状態、いきいきと命が輝いている状態、免疫力が高い状態ともいえるかもしれません。
そのうえで、子どもたちの学習機会を最大限確保することを目指しています。人間は心身及び社会的な健康や安全が脅かされると、自己防衛本能が働き攻撃性が高まりやすくなります。一方、自分の心身や社会的な健康が確保できる状態であれば、平時よりも利他心や社会貢献意欲が高まり、利他的な行動や自発的な社会貢献行動が起きやすくなります。これを機に、自分を大切にしながら、人のため、社会のためにも考え動くことができる人が一人でも多く育っていくことを願い、このような方針で行動しています。

具体的には、オンラインによる生徒たちの進路・学習機会、教職員や行政職員等への全国事例や情報、機器、研修等の提供、対話や共学共創の機会や場づくり、現場の声や実情を国や行政機関に届け、効果的な現場支援に向け対話・政策提言する活動などを進めています。まだまだ、できること、すべきことはあると思っています。

艱難汝を玉にす。有事は人を強くす。危機は、人を大きく成長させ、人と人、コミュニティや社会の絆を結びなおす機会です。分断や格差を助長するのではなく、このコロナ禍を、子どもたちをはじめ教育・地域・社会が共により強くしなやかに成長する機会にできるよう、今後、更に多くの方たちと協働しながら、全力で取り組んでまいりたいと思います。

引き続きご指導・ご協力をどうぞよろしくお願いいたします。

一般財団法人 地域教育魅力化プラットフォーム
代表理事 岩本悠

上記文章は代表理事である岩本悠が、このコロナ禍で学んだこと・考えたことを2020年4月21日にnoteに投稿したものです。下記より他のnoteもご覧いただけますと幸いです。

コロナ禍において、感じ考えたこと|地域みらい留学|note
新型コロナウィルスの感染拡大は、社会にさまざまな影響を与えています。全国の学校の多くも臨時休校を余儀なくされるなど、教育や地域の現場でも大変厳しい状況が続いています。このコロナ禍において、多くの地域・教育の現場の方たちとの試行錯誤から学ばせていただいたこと、問われていることをここに共有し、更なる対話とこれからの行動を共に考える一つの機会にできましたら幸いです。 ...
https://note.com/cmirai/n/n6d4ec602acd5
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