Product First, Company Laterを掲げるAll Turtlesとは?All Turtlesデザイナーの鈴木智大・灰色ハイジとのイベントレポート
BCG Digital Ventures(以下、BCGDV) でPartner & Director, Experience Designを務める 花城泰夢がゲストを迎え、デザインに関するトークセッションを行うシリーズ企画「DESIGN MEETUP」。
今回のゲストは、All TurtlesのSenior Designer 鈴木智大さんと、Brand & Product Designer 灰色ハイジさん。All Turtlesは、Evernoteの共同創業者であるPhil Libin氏が立ち上げた、サンフランシスコに拠点を置くプロダクトスタジオです。同社でデザイナーとして働くお二人に、現在の働き方やデザイナーとしてのキャリアについてうかがいました。
プロフィール
鈴木 智大(すずき・ともひろ)
All Turtles/Senior Designer。静岡県生まれ。大学を中退後に独学でデザインを学び、DTPや新聞社での経験を経て、2011年からスタートアップに関わり始める。Nanameue、STANDARDの立ち上げ期からのメンバーとして数々のアプリやWebサービスのデザインを手がける。2017年にフリーランスになったことを機に英語の勉強を開始し、2018年3月からアメリカに本社を持つAll Turtlesの東京オフィスに参画。日本とアメリカの共同プロジェクトでのデジタルプロダクトのデザインに従事。
灰色 ハイジ(はいいろ・はいじ)
All Turtles / Brand & Product Designer。サンフランシスコ在住。新潟県生まれ。All Turtlesのシニアデザイナーとして、デジタルプロダクトや、ブランドのデザインに従事。大学在学中から多くのウェブサイトのデザインを手がけ、プランナーとしても多様な広告のデジタル施策の企画に携わる。渡米後はフリーランスとしてブランディングやパッケージデザインなどへ領域を広げながら、現地のデザイナー養成所Tradecraftを経て現職。著書に『デザイナーの英語帳』(ビー・エヌ・エヌ新社)がある。
花城 泰夢(はなしろ・たいむ)
BCG Digital Ventures, Partner & Director, Experience Design。2016年4月、BCG Digital Ventures Tokyo の立ち上げから参画。東京拠点のExperience Designチームを牽引し、ヘルスケア、保険、消費財、金融などの領域で新規事業立ち上げやカスタマージャーニープロジェクトを実施。日本のみならず、韓国でも金融や小売業界にて新規事業立案やカスタマージャーニープロジェクトを行ってきた。UI/UXを専門領域としている。
All Turtlesが掲げる「プロダクトファースト」とは?
花城:All Turtlesは「スタートアップスタジオ」と呼ばれていますが、何をしている会社なのでしょう?
灰色:実は最近、呼び方を「スタートアップスタジオ」から、「ミッションドリブンプロダクトスタジオ」と変えたんです。つまり、世の中に価値のあるプロダクトを作るというミッションを掲げています。「スタジオ」という名称から、制作会社やVCを想像されることが多いのですが、All Turtlesは大きく分けると3つの柱からなっています。
一つ目は自社プロダクト。自社プロダクトがあることが、制作会社やVCとの大きな違いです。たとえば、いま写している背景は、Web会議のエフェクトツール「mmhmm」を使っています。これもAll Turtlesで生まれました。人物やスライドを自由に配置したり、手のジェスチャーを認識してエフェクトを出したりすることができます。
二つ目は、アーリーステージのスタートアップの支援。支援といってもさまざまな形がありますが、私たちの強みはプロダクトづくりのプロが集まっていることなので、プロダクトを成功に導くための支援をしています。
三つ目は、大企業の新規事業開発の支援です。All Turtlesの特長は「Product First, Company Later」。インキュベーションでは、会社を立ち上げることがゴールになっていることも多いですが、それは手段であって、すべては良いプロダクトをつくることから始まる。それが、私たちが大切にしている考え方です。
鈴木:Netflixのようなスタイルが近いかもしれませんね。Netflixはオリジナルコンテンツを配信していますが、外部と協業して制作することも多いですよね。All Turtlesも、良いプロダクトを生み出すことにフォーカスしているという意味で、似ているように感じます。
花城:Product Firstっていいですね。僕もこれまでさまざまな新規事業に関わってきたなかで、本質的に良いプロダクトがないとスケールしないというのは日々感じていたので、とても興味深くお聞きしました。「mmhmm」を見ていても、ローンチして、別会社にして、資金調達をして。Product Firstの姿勢だからこそ、ものすごい駆け上り方をしていっていますよね。
灰色:All Turtlesは、Evernote創業者のPhilが立ち上げた会社なのですが、彼の思想が色濃く反映されているように感じます。彼はものづくりが好きで、動き方もプロダクトマネージャーみたいなんです。「mmhmm」もWeb会議の需要が高まるなかで、彼自身が欲しくて開発したという経緯があります。
入社理由は、デザイナーの優秀さと多様さ
花城:そんなお二人がAll Turtlesに入社した理由やきっかけは何でしたか?
鈴木:2017年、フィリピンで半年ほど英語を勉強したんです。せっかく英語を学んだからには、英語を活用できる環境で働きたいと思っていました。そんなとき、友人からAll Turtlesが日本法人を立ち上げる予定だと聞き、WeWorkで開催されたオープニングパーティに行きました。ちょうどそこにはPhilを含めたボードメンバーがいて、優秀なメンバーと一緒に働けることに魅力を感じました。
言語的なところも理由になっています。日本オフィスのメンバーには、英語も日本語も話せることが求められていました。自分にとっても、最初から完全な英語生活になるより、これまでの日本での経験を活かしながら働けるというのが選んだポイントとして大きいです。
灰色:私はアメリカに来て仕事を探していたとき、スタートアップのデザインのジョブを中心に見ていました。ブランドとプロダクトの両方をやりたかったのですが、大企業は細分化されていて部署も分かれている場合が多いと聞き、もう少し小さな規模のところを探していました。そんなとき、鈴木さんがサンフランシスコに出張で来ていて、共通の知人を介してお会いしたんです。そこで初めてAll Turtlesを知りました。
他の企業からもオファーを頂いたのですが、All Turtlesにした決め手は、デザイナーの多様さです。スタートアップには、デザイナーが数人しかいないことが少なくないのですが、All Turtlesには10数人のデザイナーがいました。それに、デザイナーごとに強みがあったんです。モーションに強い人や、プロトタイピングができる人など。自分が持っていないスキルを持つ人がいる環境に身を置きたいと思い、入社を決めました。
花城:分かります。僕もBCGDVで色々なプロジェクトに参画できることと、横のデザイナー同士で連携してナレッジを貯め合える環境が良いなと思っています。
「オーバーコミュニケーション」で、とにかく言語化
花城:社内でのメンタリングや1on1はどうしてますか?
灰色:入社して丸2年立ちますが、英語で頻繁に話すのが少し面倒で、実はこれまで避けていたんです(笑)。でも組織変更で統括者が変わり、1on1の好みのスタイルについて聞かれました。どれくらいの頻度で話したいかとか、称賛されるならみんなの前でがいいか1対1がいいかとか。どんなときにイライラするかも。1on1にもいくつかのスタイルがあるんですね。
そこから1on1がスタートして、今はデザインヘッドと週1ペースで実施しています。私がお願いしたのは、ピアフィードバック。自分が何ができていて、何ができていないのか客観的に知りたかったので、同僚にアンケートをとってもらい周囲からの評価を聞くようにしました。
花城:グローバルな環境ゆえに苦労していること、逆によかったことはありますか?
灰色:日本だと「空気を読む」という文化がありますが、アメリカはとにかくすべて言語化しないと伝わらない。誰かが空気を読み取ってくれることは一切ないです。特にリモートワークになってからは、Over-Communicationをしたほうがいいと言われています。「今から30分歩いてくるので席にいません」とか、「すぐに返信できないけど、後で返すね」とか。当たり前かもしれませんが、表明しないと分からないというのはこちらで学んだことです。
鈴木:僕は最近、ヘルスケアや医療系のプロジェクトに入ることが多いのですが、聞き慣れない英単語が頻繁に出てくるのが大変です。DeepLを使っても理解するのが難しいことがあるので、言語的な部分で苦労しています。
それから、無視できないのは時差。僕は日本オフィスに所属しているのですが、日本が朝のとき、サンフランシスコは夕方なので、朝方にミーティングが集中します。昨年3月まで一時的にドイツにいたときは、日本とやりとりするのは朝方で、アメリカとは夕方でした。ただ、時差には良い面もあります。共通時間にミーティングをして、一方が起きているときに作業をすることで、24時間稼働で開発できるのがメリットです。
灰色:確かに、こちらが寝ている間に「すごい! 完成してる!」ってことがありますよね。
花城:共通時間が限られているからこそ、テキストで細かく伝えるOver-Communicationがまた大切になってくるのかもしれませんね。お二人とも、今回はどうもありがとうございました!