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「地方創生にマーケティング戦略は必要か?」北海道の非観光地「芦別」の遊休キャンプ場をどう再生させたのか(北海道・芦別編)

(記事作成:広報インターン 宮地)

「地方創生をするには、
 マーケティング戦略が必要だ。」

地方創生事業部グループの責任者、増田が言う。
新人インターン生の私(宮地)は「戦略……?単純に新しくて素敵な施設をつくれば人は集まるものじゃないの……?」と最初その言葉の意味がよく分からなかった。

今回から数回にわたり、株式会社ダイブ地方創生事業グループの「ザランタン」各施設設立背景現在までの道のりについて、増田へのインタビューとともに見ていく。初回となるこの記事ではザランタン芦別について。

(▲ザランタン芦別の開業準備中、ガゼボ塗装を行う)

北海道・芦別市について

北海道の富良野・美瑛から車で1時間の場所にあり、市の9割を森林が占める芦別市。ここに2021年7月にオープンしたグランピング施設「ザランタン芦別」では、大自然に囲まれながら満点の星空を眺めたり近くの天然温泉でリラックスしたりと、ゆっくりと流れる非日常の時間を楽しめる。今では年間5,000人以上のゲストが訪れる人気施設であるが、もともとこの場所は赤字続きで2年半閉鎖されていた遊休キャンプ場だった ── 。

なぜダイブは赤字続きだったこの場所を選んだのか、そしてどのように現在の「ザランタン芦別」へと生まれ変わらせたのか。お話を伺うなかで、私が学んだ地方創生におけるマーケティング面でのポイント5つを備忘録としてここに残していく。

【芦別×地方創生】マーケティングのポイント5つ


① 北海道ではあまり聞かない「芦別」の地域的な強みとは?

増田は、地方創生におけるマーケティング面での第一のポイントとして「地域を数値的に分析すべきだ」という。これは、その土地の立地的強みや特徴について、実際のデータや数字から理解するということである。

例を挙げて考えてみよう。例えば、山奥の土地を切り開いて自分たちが作りたい施設を作るとする。その場合、一からのスタートになるので必要なコストや工程が多くなってしまう。それに対して、ありのままの資源・すでにある資産を生かしてうまくコンセプトメイクできれば、もともとある環境を大きく改造する必要は無く、足りないものだけ増設すればいいので時間やコスト面でも効率的に事業を進めることができる。

地域性に沿わなければ、その分新たな観光資源を一から作るために必要な投資が多くなってしまう。逆に言えば、地域の強みをそのまま生かすことで、追加でかかるコストを抑えられる。つまり、地域の強みを理解し、それをどう生かせるかを考えることが重要なのだ。


増田 「芦別について分析すると、自然に関しては、北海道の中では際立って圧巻の景色というわけではなくて。その一方、札幌から車で2時間でアクセスできて、札幌から富良野・美瑛までの経由地にある。札幌は200万人が暮らす大都市で、富良野・美瑛には年間163万人の観光客が訪れている。定量リサーチで分析した結果、その間に位置している芦別にはすでにかなりの人流があることがわかった。」

宮地「なるほど。つまり芦別の強みは立地的に好条件だったんですね!」

増田「その通り。仮に辺境の地に施設を建てようとすると、強い観光コンテンツで目的地化させないと集客することは難しいけど、もともと人流がある場所なら、立ち寄れる場所を作ればいいからね。」


◾️学び①:「地域の数値的分析」
データや数値から論理的に説明できる地域の特徴を押さえよう



② お客様は「北海道の大自然」を一番に求めているのか……?

地方創生におけるマーケティングの第二のポイントは、「自分のアイディアに固執せず、客観的に需要や市場規模を理解すること」であると話す増田。

事業を進めていくと、自分では大衆が欲しがるものを作っているつもりでも、無意識のうちに自分のアイディアに愛着が湧いて固執してしまい、「これは絶対にうまくいく!」と思い込んでしまうことがあるという。しかし、自分が考えている理想が消費者の需要に当てはまるとは限らない。狭い視野や価値観にとらわれないために、「どれだけの需要がある市場規模なのか」「ターゲット層の範囲は十分か」など、客観的な視点で時々立ち返る必要がある。


増田「芦別の例で考えてみよう。お客様がグランピングに第一に求めているものはなんだと思う?」

宮地「うーん……やっぱり自然ですかね!」

増田「そう思うよね。実際に芦別のグランピング施設を見てみると、北海道ならではの大自然を推している施設が多い。でもリサーチを行ってみると、グランピングのメインユーザーである女性は豊かな自然の前に、清潔な水回りや整った設備、手軽さを前提条件として求めていることがわかった。つまり大自然があっても、水回りや設備はボロボロのままだとお客様の需要を満たしているとはいえない。」

宮地「なるほど。たしかに、いくら自然が豊かでも不衛生の場所だと女性は特に嫌ですよね……なかなか実際の需要を汲み取れていないんですね……」

増田「その点で、当時いくつかの候補施設を下見したなかでも、芦別の元オートキャンプ場は管理棟やトイレ棟が既にあって、民間で整備しようとすると投資がかさむ上水道・下水や浄化槽工事なども済んでいた。ここから車で1分の場所におふろCafeという滞在型のおしゃれな入浴施設もあって、水回り設備は申し分ない。さらに、靴が汚れたり濡れないにようにするための土地造成工事や、施設内の通路・道路工事も整備済み ── 。その上で、外部環境としてはターゲットとする消費者が、清潔な水回りや整った整備、手軽さを求めているのに対して、まだそれを充分に満たす施設は北海道には不足している。芦別の物件であれば、その需要を満たせるはず ── 。この時点で、この事業は99%の確率で成功すると思った。」


◾️学び②:「正確な需要を理解する」
競合となる存在はいるか、それらの施設が提供しているもの・ニーズに足りていないものは何かなど、実際のデータから正しいニーズを汲み取り、“ターゲットとする消費者が欲しがるもの”を作ろう


③ 圧倒的な売りとなる満点の星空

地方創生におけるマーケティングの第三のポイントは、「目的地となる“売り”を作ること」であるという。


宮地「需要の高い清潔な水回りや設備を整えれば、お客さんにも満足してもらえますね!」

増田「いや、それは少し違っていて。お客様にとって、それは無ければ不満に思う前提条件で、あっても集客の目玉にはならない。」

宮地「そうか……設備が整っているだけでは『また行きたい!』『他の人にもおすすめしたい!』とは思わないですよね……」

増田「集客につながる“売り”になるのは『楽しい!』『すごい!』といった感動を生み出せるもの、といえるね。」

宮地「それでいうと芦別の目玉は……ですか?」

増田「その通り!芦別では星が綺麗だとは聞いていたけど、現地を訪れて現物をみた時にいち観光客として感動した。圧倒的な売りになると確信したんだよね。その売りである星空を最大限楽しんでもらうように施設を設計していくことが、中長期的なお客様の満足度にも繋がる。だから、ドリンクを飲みながら星を見られるようにキッチンカーを購入したり、無重力チェアを大量購入したり、かつ焚き火スペースの複数箇所用意するなど『星』にとにかく投資した。結果、芦別の星空を観たお客様は大絶賛してくれていて『また来ます!』とか言ってくれていて。今振り返ってみても、その判断は正解だったと思う。」


◼️学び③:「目的地となる“売り”」
たくさんの施設がある中から自分たちの施設を選んでもらうために、目的地となる売りは必須であり、売りへの投資は妥協せずに行うべき



④ 地域企業や仲間への信頼

地方創生におけるマーケティングの第四のポイントは、「仲間や地域を巻き込む」ことだという。

アフリカのことわざで『早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け』とあるように、小さいことを早くこなすには理解している一人が進めた方が効率的だが、長期的な観光開発を成功させるためには地域の人と連携して協力することが大切だと増田は語る。


増田「ザランタン芦別でも地域の企業を積極的に取り入れていて、当施設の近くにある天然温泉施設『芦別温泉 おふろcafe星遊館』の入浴券付きのプランを開始した。他にも芦別市の『おいしい野菜の会』から地域産直の野菜を仕入れたり、ベッドシーツに使っているリネンの会社や建設業者さんも地域の方にお願いしていて。こちらから相手を信頼して委託することで、向こうからも応援してもらえるようになるからね。」


また、他の仲間にも夢中で取り組んでもらうために、「これはうまくいく……!!」と思ってもらえるところまで巻き込んでいくのもリーダーの役目。論理的な戦略はとても大事だが、戦略だけではなく、それを実行するためのチームマネジメントも必要だという。


増田「ザランタン芦別では、一緒に立ち上げをしていた社員の清水くんに裁量権を持ってもらって、自分はあまり口出しせずに彼のアイディアを積極的に取り入れた。その方が、彼自身で色々考えるようになるし、裁量権がある方が仕事は楽しくなる。責任感は増すけど、その分、成功した時の達成感は段違いに得られるし。」

宮地「確かに、上からの指示を受け身的にこなすよりも、自分のアイディアも採用してくれた方がやる気にもつながりますね!」

増田「中長期的な成功を考えると、基本的には仲間をできるだけ信頼して任せた方がいいと思う。初めは小さな失敗は起きるかもしれないけど、そこから学べばいい。個々人が挑戦して失敗したことの積み重ねは結果的に組織を強くする。リーダーとしてはリスクマネジメントだけは意識して、いざとなったらサポートしたり大筋の戦略からズレて大怪我しそうであったら軌道修正したりはするけど。」


◾️学び④:「仲間や地域を巻き込む」
すべてをトップダウンで進めるのではなく、中長期的なゴールに近づくために裁量権を与えること、仲間にうまく周りを巻き込み夢中にさせることが重要



⑤ 広大な敷地も工夫を施し、期限内の開業へ

そして、最後のポイントは、シンプルに「熱意」を持ってやり切れるかどうか。どれだけ戦略を練って実行していても、予想外のトラブルやうまくいかないことは日常茶飯事。それでも諦めず、思考を凝らして工夫して、乗り越えるための熱意や根性が求められるという。


増田「ザランタン芦別の立ち上げで直面したのが、新設するテント客室のウッドデッキ工事と電気工事の課題。7月開業を予定していたんだけど、3万平米以上ある敷地が広大すぎて。当初の計画よりも莫大な予算と時間がかかることがわかって、壁にぶち当たった。だけどそこで諦めて開業を延期しようと言った人は誰一人いなくて、『絶対に7月にオープンする……!』という強い熱意を持って、みんなで代替案を考えた。ウッドデッキは、ウッドチップを基礎にしてその上にベニヤ板で代用する形で対応して。客室まで電気を通す工事はせずに、急速充電できる大型モバイルバッテリーを利用するプランへと変更した。結果的に、コストを大幅に抑えながら期限内の開業にこぎつけたんだ。」

宮地「みなさん前向きですごい……!それだけザランタンにかける思いが強かったんですね。」

増田「『努力は夢中に勝てない』という言葉があるように、『仕事だからやらなきゃいけない』ではなく、『これからどうなっていくのか楽しみ……!』『オープンしてお客様が来るのをはやく見たい……!』と夢中になって楽しんで取り組める人は、強い。そういう仲間が今後さらに増えていったら嬉しいな。」


◾️学び⑤:「熱意をもってやり切る」
どんな優れたマーケティング戦略も、実行しなければ机上の空論。トラブルや課題に対してやり切る「熱意」が最も重要だ


まとめ

ここまで見たように、

①地域の数値的分析

② 正確な需要を理解する

③目的地となる“売り”

④仲間や地域を巻き込む

⑤熱意をもってやり切る

の5つのポイントを押さえたマーケティング戦略により、赤字続きで閉業し遊休地となっていたキャンプ場は年間5,000人のゲストが宿泊する人気グランピング施設へと生まれ変わった。

「地方創生をするには、
 マーケティング戦略が必要だ。」

はじめはその意味がよく分からなかったが、このインタビューを通して、ただ新しい施設をつくれば人が集まるのではなく、筋道の通った戦略が重要であること、またどのようなポイントに注目してその戦略を考えるべきかを学んだ。今後事業のさらなる発展が期待されるなかで、今回学んだマーケティングの基礎を土台として取り組んでいきたい ── 。

(記事作成:広報インターン 宮地)



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