2026年1月、アンドパッドはオーナーカンパニーという組織を新設しました。従来の「建物を建てて引き渡す」という事業ドメインを超え、建物が完成した後の「維持管理・保全」まで展開する事業部です。オーナーカンパニーの戦略的意義とは何なのか。同カンパニーの責任者を務める執行役員の西野に、新組織に懸けるミッション、緻密な事業戦略、思考プロセス、そして求める自走型組織のカルチャーについて話を聞きました。
西野 史記 執行役員 オーナーカンパニー 本部長
2018年にVertical SaaS企業へ入社。セールス&マーケティング部の責任者を経て、2020年にアンドパッドに入社。大手企業へのセールス及びカスタマーサクセスを担当。2021年にエンタープライズの部署の新設に伴い、部長に就任。2025年執行役員就任。2026年新設の組織オーナーカンパニーの本部長就任。
過去記事
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建物の『維持・管理・運営』には効率化の余白がある
――オーナーカンパニーを立ち上げるに至った背景やミッションについて教えてください。
私たちがこれまで深く関わってきたのは建設の領域、つまり「建てる」領域です。しかし、建設という営みはそれだけではありません。建物の引き渡し完了後は、それぞれの施設や建物、設備に応じた管理が必要になります。例えば不動産業であれば、不動産価値を下げないことが非常に重要で、テナントやマンションの入居者数をいかに増やせるかが、大事な要素になります。一方、製造業などのメーカーでは、生産をいかに最大化できるかが主軸になり、生産設備や機能の維持管理が非常に重要になります。つまり、建物を単なるコストと捉えるのではなく、ビジネスの競争力を高める資産として活かすことが求められています。これまでANDPADは完工・引渡しまでのフェーズにおける価値提供が中心でした。しかしこれからは、作った後の維持管理という広大なフェーズにまでサポートしていきたいと考えています。そこで私たちの価値を発揮していくことが、建築・建設業界の発展を支え、当社の根幹である「幸せを築く人を、幸せに。」というミッションの達成にもつながっていると考えています。
――建物の維持管理という“資産を支える領域”に挑戦することになった経緯とは?
小売業や飲食業といったリテール業、サービス業、不動産業、あるいは製造業といった建物のオーナーと呼ばれる領域は、大きなマーケットがあります。市場開拓の中で、私たちはお客様のニーズが確実に存在することを掴みましたが、2022年頃のアンドパッドのプロダクト機能や体制では正面から戦いきれず、価値を提供しきれないというもどかしい状況が2025年頃まで続いていました。そこから当社の成長戦略を見据えた際、建設ドメインに留まるだけでなく、発注者である「オーナー」セクターにまでTAMを明確に広げていこうという方針が決定。2026年1月にオーナーカンパニーが始動し、本格的に価値を届けられる体制が整いました。
――ターゲットとなる具体的な規模感や市場のポテンシャル、セクターについてより詳しく教えてください。
コアターゲットは自社で多種多様な設備を保有されている製造業や、店舗を全国展開している企業です。リテール(小売・流通)セクターだけでも数百社存在しています。これが製造業などのメーカー全体になると、その数は数千社規模に登ります。それ以外にも、インフラや倉庫、介護施設、病院などの医療機関、大学等の教育機関、鉄道や自治体が管理するインフラなど、施設を保有・運営している方々がすべて対象になります。
――建物のオーナーは大手が多く、すでに建物の維持管理や保全はシステム化されているのではないでしょうか?
もちろん先進的なシステムを導入しているケースもありますが、私たちが対峙する発注側・オーナー側の現場においては、まだまだ表計算ソフトや電話、ファックスといった従来の手法を用いて、日々の業務を維持されているケースが多くあります。実際にお客様と会話を重ねると、表計算ソフトの更新作業の手間や、電話での情報共有漏れなど、現場が従来のやり方で限界に直面している部分が数多く存在しています。
システム化が進んでいる製造業でさえ、メインの生産ドメインに関しては仕組みを持っていますが、工場の保全や施設の維持管理という領域はシステム化が届いていないケースが多い。仮にシステムが入っていたとしても、オンプレミス型の仕組みのため、現在は突発的な不具合への対応を中心とした運用が主流になっています。「この領域をテクノロジーで効率化してくれるのであれば、ぜひ導入したい」という声を多くいただいていたため、専用プロダクトを作り込んで勝負する必要性を肌で感じていました。
――これからの時代はどのように変革していく必要があるのでしょうか。
工場の一部が老朽化してから、不具合が起きてから対応するといった事後的なアプローチではなく、そもそも壊さないための予防や予兆検知の思想へ変えていく必要があると考えています。過去の改修履歴を残すだけでなく、日々の細かい点検結果や現場データを集約・構造化した上で「未来の経営の意思決定に繋げていく」アプローチが重要です。不動産であれ、リテールであれ、工場であったとしても、基本的にはそれぞれの目的やミッションがあります。例えば不動産であれば入居率の維持・向上が、リテールであれば売上最大化のための安定稼働や24時間365日営業を維持することが求められます。工場であれば、生産量や生産効率の最大化が必要です。現状は人手不足であり、老朽化に伴いメンテナンスの手間は増えています。特に製造業などではモノづくりを担うコア部門への投資が優先されがちです。一方で、保全や店舗管理・開発を担う部門は少数精鋭のため、老朽化する設備の維持やさらなる生産能力向上に向けた努力が求められています。管理する人間が減り、設備が老朽化していく状況の中で、突発的な事後保全から、現場データを活用した予防保全や予兆保全へシフトしていくことで、本来の事業ドメインにおける営業生産性向上に寄与していけると考えています。
――保全や店舗管理を担う部門は少数精鋭だからこそ、後手対応から脱却しなければならないと。保全の構築がもたらす影響や具体的な経営課題について教えてください。
大手製造業の最先端現場では設備の自動化が進み、設備が止まってもバックアップ設備が立ち上がり稼働し続ける仕組みを構築しています。本来であれば設備自体を止めない予防保全ができれば膨大な突発修繕費は劇的に減ります。修繕費は「計画修繕費」と予期せぬ「突発修繕費」に大きく分けられますが、突発修繕の発生により本当に投資すべきだった計画修繕や先進的投資のための予算が後ろ倒しになり、不具合対応に追われがちになっている実態が分かりました。さらに工場の自動化、設備の高度化や設備数そのものの急増という背景があるにも関わらず、管理・メンテナンスする人の数は減っている。このテクノロジーの高度化と労働人口の減少という逆行する状況に対し、いかに次の一手を打つかという課題に今どこの企業も直面しています。
――経営全体が後手に回ってしまう構造があると。
そうです。壊れる直前のデータから予兆を捉え、稼働に影響がないタイミングで摩耗した部品だけを事前に交換できていれば、実はわずかな費用だけで済んでいたかもしれません。こうしたコストの積み重ねが、何十箇所、何百箇所という拠点全体で日々発生している。ここを根底から変えていけるのが、私たちのソリューションです。自分たちの施設が「本当に正しい根拠を持って確実に保全されているのか」という問いに対し、一元的な現場データに基づいて先手を打つ経営テーマが、今まさに求められています。
「建てる」と「守る」がシームレスにデータ連携できるプロダクト
――アンドパッドがこれまで長年提供してきた「施工管理」や「プロジェクト管理」を中心としたプロダクト群と、今回のオーナーカンパニーが対峙するお客様へ提供するプロダクトとでは、決定的に異なる点は何でしょうか?
オーナーカンパニーであっても、新しく施設を建てる設備を導入する「建てる仕事」と、できたものを維持管理していく「維持管理する仕事」の2つが必ず存在します。新店舗の出店や大型改装工事、設備刷新の「建てる」フェーズにおいては、これまでのANDPADの施工管理プロダクトがそのまま力を発揮します。違うのは建物を作った後の「維持する」フェーズです。ANDPADで「資産台帳」「設備台帳」を構築し、日々の点検や修繕データを蓄積し、そのデータに基づき未来の予防保全の意思決定を行える。この「建てるフェーズ」と「作った後の維持管理フェーズ」の両方を分断させることなく一つのシステム、一つのデータベースでシームレスに完結できる「ANDPAD BM(アンドパッドビルディングマネジメント)」を提供している点が、これまでのANDPADとも全く異なる違いです。
私の知る限り、2つの領域が最初からすべて一つにまとまって、シームレスにデータが連動するプロダクトは多くはありません。実は、私がオーナーカンパニーを立ち上げる以前に、製造業やリテール、不動産の大手企業様が、店舗の新規出店や工場の大型改装工事、大規模な設備導入といった開発・工事のプロセス管理のために、当社の既存プロダクトを使ってくださっていたケースがありました。しかし、ユーザーであるオーナー側からすると、工事・改装は数日~1週間程度で終わる局所的な「点」のイベントに過ぎません。本当に大事なのはその先、いかに設備を止めないか、維持管理の運用を高度化できるかという、何年・何十年と続く日常のフェーズです。現場のオーナー様から、工事の管理だけでなく日常の維持管理や保全フェーズまでひと続きで管理できる仕組みを作ってほしいという切実な声を数多くいただいていました。
――既存のお客様からのリアルな声が、そのまま新プロダクトの開発、そして新カンパニーの誕生へ直結したと。オーナーカンパニーの営業戦略について具体的に教えてください。
新しく建てる建物に関しては工事段階から「建てる」と「守る」プロダクトのセット提案になります。一方で、すでに稼働している既存の建物や古い工場に対しては、最初の工事フェーズを挟むことなく、直接BMのシステムから単体で導入していただきます。まず、お客様が保有している既存の設備情報や資産情報をANDPADに取り込んで設備台帳・資産台帳を構築し、その台帳をベースにして、日々の保全や運用のサイクルを回し始めていただく流れになります。ですので、既存の施設に対しても、台帳構築から直接スタートできる仕組みになっています。
――なるほど。アンドパッドのアドバンテージはどこにあると思いますか?
直感的に使いこなせる圧倒的なUXを持ち合わせている点は大前提としてあります。ただそれ以上に、当社の支援体制とそれを支えるサクセス文化が大きな強みです。新しいシステムを導入しても現場に活着できるようになるまでに一定期間を要したという声をよく耳にします。なぜなら、製造業やリテールの現場において過去何十年分もの膨大な点検結果や設備のデータはすべて紙の書類や個別のExcelファイルで残されているからです。多くの現場では過去の大切な履歴データが様々な形式で散在しており、システムを導入しても最初のデータ移行という高いハードルを現場だけで乗り越えるのは難しいからです。データ移行や初期登録作業は利用者に任せてしまうケースが多く、現場の皆様には膨大な登録作業を行う時間も人手も確保できないのが実情です。
私たちは単にシステムを納品して終わりにせず、お客様の既存の管理状況に合わせた初期のデータ整理からシステム立ち上げまでを強力に支援する体制を整えています。これまでの運用の歴史が最初からシステム上で生きるからこそ、導入初日から現場で価値を実感できます。この仕組みを提供するだけでなく、お客様がサクセスするまでの大変なプロセスを泥臭く一緒に背負い切る。このサクセスへの執念と、それを当たり前とする組織のカルチャーこそが私たちの決定的なアドバンテージです。
現場から攻めるボトムアップと、上層部から入るトップダウンで
――広大なオーナー領域の市場をどのように切り拓き、勝ち切っていくのかという具体的な事業戦略や勝機について教えてください。
私たちの強みは、一気にすべての業界、すべてのセクターに対して同時に、垂直立ち上げで市場を面攻略していける「組織力」と「サクセスを見据えたセールスの実行力」です。そしてこれまでエンタープライズ領域などで徹底的に磨き上げてきたBDR(ターゲティング型のアウトバウンド営業)の実力も持ち合わせていると自負しています。私たちは徹底的にターゲット企業を分析し、能動的にお客様との接点を創り出し、価値を届けに行くという覚悟と、それをやり切るだけの営業力が組織に根付いています。これは過去の建設DXの歴史の中で、私たちが何度も重要な局面をくぐり抜けながら培ってきた、圧倒的な強みです。
今の私たちの状況は、市場にまだ絶対的なスタンダードが確立されていないフェーズです。このタイミングだからこそ、私たちが持つ強力なセールスリソースと開発リソースを一気に市場へ投下し、スピード勝負で勝ち切り、市場のスタンダードの座を確立しにいく。今こそが、まさに最大のチャンス、勝負のタイミングだと考えています。
――具体的に、最初のブレイクスルーとなったエピソードについて詳しく教えていただけますか。
事業の大きな転換点となったのは、ある業界トップクラスの大手企業様へのご提案でした。工事から維持管理までを一気通貫でつなぐという、私たちが理想とするアプローチの有効性を、最大手様の現場で証明できたことは、事業が本格化する決定的な瞬間でした。しかし、この成功事例をそのまま他の企業様へ広げようとした際、大きな壁にぶつかりました。
――どういった壁でしょうか?
その企業様向けに作り込んだ仕組みは非常に高度だったため、他の中小規模や異なる業態の企業様にとっては、少し多機能すぎました。市場が本当に求めていたのは、もっとシンプルに日常の維持管理が完結する、扱いやすいシステムでした。それに気づき、私たちは即座にターゲットとプロダクトのあり方を、よりシンプルで本質的な形へとシフトしました。この柔軟な方向転換が見事にはまり、店舗や施設を多く保有するオーナー企業様を中心に導入が急速に進みました。
――マーケットの規模感や、現在動いているプロジェクトについて教えてください。
日本の名だたる大手メーカーとなると、拠点数は桁違いです。工場だけでなく開発拠点や研究所も含めて、会社全体で一括導入していただくことになれば、それだけで月額数百万円~数千万円クラスという、とてつもない規模のマーケットになります。現に、国内最大手クラスの製造業のケースでは、国内にある大型工場に加えて、すべての開発拠点における施工から、保全や修繕の維持管理、さらにはそこに関わる工事業務のデータまでをすべて一括してANDPADで管理するプロジェクトが動いています。
――アプローチ手法は、本部のトップへの提案が中心でしょうか?
製造業では、それぞれの工場ごとに独立した強い権限と独自の文化を持っています。製造業においては、これまでアンドパッドが建築現場で得意としてきた、現場から深く入り込んでいくというボトムアップの手法を愚直に実行しています。
一つの工場に深く入り込み、保全課の方々と一緒に汗を流して運用し、確かな成果を証明する。そしてその実績をもとに他の工場へと拡大し、最終的には本部で全社一括導入の契約を提案させていただく。この戦い方は、まさに私たちが過去10年間、建築の現場監督や職人さんたちに寄り添ってシェアを拡大してきた、アンドパッドの歴史の集大成そのものだと感じています。もちろんこれはあくまで一例で、正攻法のルートはありませんが、業種業界ごとの文化に応じた丁寧な攻略が必要だと感じています。
圧倒的な成長を見据え、巨大マーケットに立ち向かう
――過去のアンドパッドでの西野さんの経緯もそうですが、ゼロからの新規領域に挑み続けるモチベーションの源泉はどこにあるのでしょうか?
これは完全に個人の好みの問題なのですが、私はすでに先人がいて、レールが敷かれた状態の組織よりも、まだ誰も手を付けていない新規領域を任されることにやりがいを感じます。正解のないカオスな状態から、現場の一次情報を拾い集めて、自分たちの手で一つずつ正解を創り上げていく。そのプロセスそのものが、私にとっての最大のモチベーションであり、源泉です。だから、今回のオーナーカンパニーの立ち上げも、自分にとってはこれ以上ないほどエキサイティングな打席です。
――最後に、新しく立ち上がったオーナーカンパニーにおいて、西野さんが見据えている3年後の目標と、組織に根付かせたい思想やカルチャーについて熱いメッセージをお願いいたします。
数値目標に関して言えば、私たちは3年で売上580%成長という、とてつもない目標を掲げ、本気でこれを達成しにいきます。これがどれほど大きな数字かというと、過去最も勢いがあった領域の成長速度が「5年で500%」でした。私たちは、その主力事業の過去の成長率を遥かに凌駕する、未曾有の急速成長を成し遂げることを、組織のミッションに据えています。人員も急拡大を遂げており、現在は数十名程度の規模になっています。
――求めるカルチャーやメンバーへの期待についてはいかがでしょうか?
私たちが対峙する市場は領域が広大で、かつそれぞれが独自の深い文化を持っています。私一人でこの広大な市場に挑むことは到底不可能です。そのため、メンバー全員が決められた業務をただ指示通りにこなす作業者ではなく、それぞれの担当領域における、自立的なリーダーになってほしいと強く願っています。お客様と接点を持ち一次情報を掴み続けていれば、現場の圧倒的な顧客理解を基にして、現場からの自発的な提案やオーナーシップが次々と湧き起こるはず。それがビジネスやプロダクトの進化へ還元されていく組織を創り上げたいと考えています。何が正解か分からない未開拓の市場を、自分たちの圧倒的な顧客理解と行動力によって、正解へと変えていく。鳥肌が立つようなダイナミズムと劇的な成長機会を、新しい仲間たちと共に分かち合い、一気に市場を攻略していきたいと考えています。