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心地よいところに留まらない。

話を聞いたらいろいろ出てきそう。ABEJAにはそう思わせる人たちがいます。何が好きで、どんなことが大事だと思っているのか。そんなことを聞き書きしていきます。

米マイクロソフトでベンチャー支援プログラムの設立と運営に携わり、その後、AIの学習用データを扱うベンチャー企業に飛び込んだアヤ・ズークさん。今春からABEJAに参画しました。

検索エンジンやAIの学習用データ作りなど、新しい技術を社会にどう定着させてきたのか。その最前線で見えた風景を語ってもらいました。


ズーク:6歳までアメリカ、高校卒業まで日本にいて、その後はアメリカに渡りました。ワシントン大学で哲学を勉強した後、シアトルの小さな出版社でデザインをやりたいと働き始めたんですが、ちょうどその頃、プログラミングに興味を持つようになって、こういうのができないとこの先厳しくなるかも、とHTMLやXML、JavaScriptあたりを勉強して、コーダ―としてマイクロソフトに転職しました。

でもコーダ―の仕事は残業が多くて、とても不健康な生活でした。若い子も次々に入ってくるし、いずれ自分のポストも彼らに取って代わられてしまうのだろうと感じていたとき、マイクロソフトが運営するポータルサイト「MSN」のマーケティングの部署に異動しました。


ポータルサイトの「戦国時代」で見えたこと

ズーク:異動した当時、ポータルサイトビジネスの領域は、さながら戦国時代でした。Yahoo!やMSNがポータルのユニークユーザー(UU)を取り合っている間に、当時誰もビジネスになるとは思っていなかった「検索」でGoogleが台頭していました。

一方で、検索結果が必ずしも正しい情報ではないことによる様々な弊害が目立ってきたこともあり、正確かつ役立つ情報を選び取るスキルをどう身に着けるかが議論されるようになっていました。そんな背景もあって、マーケティング担当の僕たちが学校に出向き、ウェブ情報の真贋の見抜きかたを助言していたんです。

この仕事で、大学で学んだ哲学の視点が生きたなあ、と感じることがよくありました。日々触れる情報や、それを正しいと思う前提、思い込みを根本から疑うには、本質をつかもうとする哲学的視点が必要だから。


ズーク:教育現場で自社サービスや製品を使ってもらい、そこから認知を高めていく手法は、ITやコンピュータの業界では常套手段です。ただ、検索ではすでにGoogleが抜きんでていて、正面から挑んでも勝てない。だからインフルエンサーに「Microsoft の検索エンジンはいい」と評価してもらい、そこから広めるアプローチをとりました。

他社がまだ食い込んでいないスタートアップの創業者や大学の研究者とつながろうと、ラボやコワーキングスペースの周辺で開かれるミートアップに通うようになりました。

ただ、そういうコミュニティは大企業の看板を忌避する空気が濃いんです。だから、マイクロソフト社員というより個人としてつながっていきました。「自分ができることがあれば手伝うから何でも言ってくれ」と声をかけたりして。

「手伝う」といっても、マイクロソフトの誰かを紹介したり、クラウドコンピューティングの利用クレジットを少し提供したりするのがせいぜいでした。もっと大きな力になれたら、とスタートアップの支援プログラム「マイクロソフト・アクセラレータ」を立ち上げることになりました。

このプログラムは、マイクロソフト本社があるシアトルに十数社の起業家を呼び、会社の施設や設備を使って、3カ月みっちり自社の事業や技術を磨き上げてもらいます。最終日に開く「デモ・デイ」(成果発表会)には投資家も呼んで、うまくいけば投資につながる機会も作りました。

起業したての企業は時間が財産です。「3か月もビジネスにブレーキかけてシアトル行ったけど何も得られなかった」なんてことのないように、本当に価値があると思ってもらえることを支援しました。

日本のベンチャー企業にもアクセラレータへの参加を呼びかけました。「今のままでキミたちは十分素晴らしい。一度世界に出てみたら?アクセラレータのプログラムでもまれて日本に戻ったら、今までできなかったような面白いことが起こるかもしれないよ」と、言い回って。

これは誇張でもなんでもなくて、日本にも優秀なエンジニアはたくさんいたんです。だけど、そういうエンジニアが集まってワーッと盛り上がっても内輪で終わってしまうことが多かった。「それ、ビジネスにしましょうよ、世界行きましょうよ」とけしかけても「興味ないです」と返されて「もったいないな....」としぼんでしまうことも結構ありました。


心地よいところに留まらない

ズーク:アクセラレータの運営担当だった間、僕自身もいろんな影響を受けました。

ある年のアクセラレータの初日に誰かが言っていた"Get comfortable being uncomfortable.”(心地よいところに留まるな)というメッセージは印象的で、いまも大事にしています。

日進月歩のテクノロジーの分野にいながら、昔の技術に詳しいだけの人になってしまうのもちょっと違う。「20年ぐらい前に誰かが作ったようなビジネスプランを崩さないのがあなたの使命」みたいな働き方も正直キツイ。みんなが考えていなかったようなことを考えたり、やり方を変えたりできる環境に行かないと。

そんなことを考えるようになった時、アクセラレータでユニークな会社と出あいました。AIの学習データを集めて加工するアノテーション専門のベンチャーです。AIモデルの開発はいろんな企業がやっていましたが、データ専門の会社はまだわずかでした。

その会社のCEOは、マイクロソフトで「コルタナ」(音声認識機能付きのアシスタント機能)の開発部署にいたポルトガル出身の女性です。シリコンバレーによくいる、家族と友達との間で資金を調達しあっているような白人の富裕層のコミュニティからは一線を画す経歴も、意気に感じました。彼女のようなバックグラウンドの人が、AIの核となるデータの会社を立ち上げたのなら、絶対面白いことが起きるんだろうな、と。


人間が機械にすり寄る現実は格差につながる。

ズーク:言葉は悪いかもしれませんが、人間の方から機械にすり寄らないと機能しないことって、まだまだたくさんあると思っています。

僕がかかわってきた「検索」で言うなら、検索を普段から使う人たちは「このキーワードを入れると、こういうサイトが出てくる」と検索エンジンの特性を踏まえて検索します。だから求めているサイトが出てきやすい。でもスマートフォンやコンピュータを普段使わない人は検索のツボが分からず、普段の話し言葉を、そのまま検索にも使うかもしれない。そうすると、求めるサイトに出あえなかったり、質の悪いサイトにつながるかもしれない。

こうした格差をできるだけ減らすには、シリコンバレーのAI企業で働いている人たちの思考回路や言葉遣いだけでなく、そういうコミュニティに全く関係のない、世界中の人の思考や言葉を全て反映させるくらいでないと、人間が自然なかたちで意思を実行できるような機能は開発できないと思います。

投資家視点で挙げると、ジェンダーバランスもその一つです。例えばAI企業の意思決定層に女性がいないような会社には投資しないという流れになっています。「本当にこの会社、多様性を踏まえたUI・UXデザインを考えているのかな?」と見られてしまう。

前職のアノテーションの会社では、人の音声データを集めるとき、年齢層やジェンダーの構成比率を考慮して、その比率になるべく近づけるように意識してデータを集めたり、そのデータがどの地域のどんな人たちに使われるのかも配慮してデータを集めていました。データの質、AIの精度の検証も、担当者が1人だけだとバイアスが強まるので、例えば3人中2人が同意しないと検証が完了しないというようなルールもありました。


AIの分野もいまテック系グローバル企業の寡占が起きていて、日本企業の方々の中には、今から大企業に勝てるAIモデルを開発するのは難しいのではという声も出ています。でも、そういうグローバル企業が作るモデルとローカルのニーズが合致しないことも少なくありません。

例えば、マイクロソフトが数年前、映った人のおおよその年齢を推定する顔認識のAIモデルを作りました。白人の顔だと80~90%と比較的高い精度だったのですが、アジア人の顔になると精度が落ちました。データに偏りがあったため、と言われています。

寡占企業の作ったモデルにコントロールされ、なかなか自分たちが使いたいもの、使い勝手のいいものが開発されないなんて残念です。貴重なデータを生み出しながら自前で活用できないまま寡占企業に流し、さらに不利な立場になっていくのをなすすべもなく眺めているだけではもったいない。自分たちの地域の実情を踏まえたデータ、自分たちに合ったモデルを自分たちの手で作らないといけないのではないかと思います。

今のAI開発のステージは、人間にたとえればヨチヨチ歩きの赤ちゃんです。自動化された、スケールした、安くなった、速くなったーーでとどまっている。このレベルはいずれ克服し、もっと人間に寄せていく議論、例えば「こういう人たちの存在を反映したモデルになってない」という指摘や「このモデルを作った時の人たちのバイアスが残っていないか」という問いが出るレベルになればいいと思います。

いろいろ言いましたが、すごい長期戦なんですよね、AIを育てていくのは。その体力のある企業は限られています。でもここでプレイヤーが増えないと、もっと偏った世界になってしまう。そう心配しています。


キャッシュ・カウからあえて外れる理由

マイクロソフト時代、日本のベンチャーを回っていたころからABEJAは知っていました。遠目で「面白いことしている会社だな」と思いつつ、でも正直何をしているかよくわからなかった。2019年秋ごろ、役員たちと再び話す機会があって、面白いことが起きるかも、とこの春から参加させてもらいました。

僕自身の仕事観なのですが、皆が行きたがるような、いわゆる「キャッシュ・カウ」(ドル箱)の部署や企業ではなく、収益をまだ出せていないレベルから飛び込んだ方が面白いと思っています。結局収益が出せないまま「負け」が決まるかもしれない。でも、一緒に面白いことができる仲間がいたのなら、どんなキツくても「あれ、結構良かったよね、楽しかったな」という思いは残るものです。

テクノロジーの分野は、何が当たるか全然分からないところがある。ツライことも絶対ある。それでもここでやりたいかどうかは、自分の周りに優秀でいい人たちがいるかどうかが結構、決断のポイントになりますよね。


Aya ZOOK(アヤ・ズーク):ワシントン大学卒業後、出版社を経て2006年マイクロソフトに入社、コーダ―を経てMSN・サーチ事業プログラムマネージャー。担当者としてMicrosoft Venturesの設立(2013年)やスタートアップ支援プログラムMicrosoft Accelerator(2015年、現Microsoft Scale Up)の設立に関わった。2016年マイクロソフト退社後、シアトルベースのVCファンド「Alonzi Ventures」をパートナーと設立。2017年、アノテーション専門企業「Defined Crowd」で新規事業責任者、最高マーケティング責任者などを歴任。2020年3月、ABEJAに参画。

取材・文:錦光山雅子   撮影:西田香織


(2020年7月22日掲載の「テクプレたちの日常 by ABEJA」より転載)

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