抽象的に見えていた数学が、ゲーム開発では現実味のある道具になる
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三角関数は、学校で習ったものの、その後の生活で使う場面が見えにくい知識の代表として語られがちです。実際、学生時代には、これを将来どこで使うのだろうと感じた方も少なくないと思います。
ただ、実装の現場に入ると、その見え方はかなり変わります。この記事で書きたいのは、三角関数そのものの解説ではありません。学校で抽象的に見えていた数式が、現場では挙動を作るための実用的な道具に変わる、という感覚の話です。
数学の価値を持ち上げたいわけでも、逆に学校教育を批評したいわけでもありません。抽象に見えていた知識が、実務ではどう手触りを持ち始めるのか。その変化を、ゲーム開発の文脈で整理します。
三角関数が話題になるたびに思い出すこと
三角関数は、しばしば学校知識の象徴のように扱われます。習った記憶はある。でも、買い物や日常会話の中で直接使うわけではない。そうした距離感があるため、役に立つ実感を持ちにくい分野でもあります。
私も学生の頃は、そのひとりでした。物理の式を追っている途中で小角近似が出てくると「それまできっちり式をたどっていたはずだったのに、なぜここで急に近似してよいことになるのだろう」と少し不思議に感じていました。理屈としては説明されても、手応えが薄い。どこかでご都合主義のように見えてしまう感覚がありました。
この違和感は、理解が足りないという話だけではないと思っています。何のためにその式を使うのかが見えていないと、式は記号の操作に見えやすいからです。
現場に入ると、式の見え方が変わる
ゲーム開発の現場では、数式は説明のために置かれているのではありません。動きや揺れや向きを、狙った形で作るために使われます。
キャラクターの回転、移動方向の制御、弾幕の広がり方、ヒット時の振動、カメラの揺れ、ライティング計算。こうしたものは、見た目には演出や操作感の話ですが、内部では数の扱い方の話でもあります。そこで三角関数が自然に登場します。
ただ、ここで本質なのは、sin や cos を知っていること自体ではありません。抽象的だった数式が、現場では挙動を作るための道具として立ち上がることです。学校では解く対象だったものが、実装では使う対象に変わります。この切り替わりが大きいのだと思います。
きれいな理屈より、理想の挙動をどう作るか
実装では、数式を正しく扱うことだけでは足りません。欲しいのは、理想の挙動がきちんと出ることです。しかも、重すぎず、不安定にならず、他の処理とも噛み合う形で成立している必要があります。
そのため、現場では数式を眺める視点が変わります。これは厳密に計算すべきか。多少近似しても困らないか。毎フレーム大量に呼ばれるなら、もっと軽い方法はないか。そういう判断が入ってきます。
学生時代には、ご都合主義に見えていた近似も、現場では別の意味を持ちます。理論を雑に扱うためではなく、必要な精度を見極めながら、限られた計算資源の中で理想の挙動を成立させるためです。ここでは、式の美しさだけでなく、使いどころの見極めが問われます。
以前見た現場でも、見た目の揺れを作る処理と、ゲーム性に直結する座標更新の処理では、重みづけが明確に違っていました。前者は多少の近似でも違和感が出にくい一方、後者はわずかなズレが操作感の違和感につながることがあります。同じ数式でも、置かれる場所で役割が変わります。
抽象だった知識に、用途という「具象」が宿る瞬間
学校で学ぶ知識は、あとから意味がつながることがあります。三角関数は、その典型のひとつかもしれません。
日常生活だけを見ると、三角関数はたしかに遠い存在です。直接使わないまま過ごす人も多いと思います。けれど、何かを設計したり、動きを作ったり、仕組みとして実装したりする場面に入ると、一気に距離が縮まります。
大事なのは、学校の内容がそのまま仕事になる、という単純な話ではありません。当時は抽象的に見えていた数式も、実装の現場では挙動を作るための実用的なツールになります。ご都合主義などと感じる余裕はなく、この道具をどう使いこなし、いかに効率よく理想の挙動を実現するか、という実践的な視点で捉えるようになります。
この感覚を持つと、数学への印象も少し変わります。覚えるための知識というより、必要になったときに使える道具として見えてくるからです。
注目したいのは、難しいかどうかではなく何を作るための計算か
実務で数式を見るとき、私はまず、その計算が何を作るために置かれているのかを見ます。回転なのか、補間なのか、揺れなのか、見た目の演出なのか、ゲーム性の根幹なのか。ここが見えないまま式だけ追っても、腹落ちしにくいことが多いです。
逆に、用途が見えると理解はかなり進みます。これは移動方向を出すための計算なのだ、と分かれば、三角関数は急に具体物になります。これは振動をなめらかにするための処理なのだ、と分かれば、近似や軽量化の意味も見えやすくなります。
数式が難しいかどうかより先に、何を成立させるための計算なのかを見る。この順番のほうが、実装では役に立つ場面が多いと感じています。
まとめ:遠い知識のまま終わらせないために
三角関数は、学校で習ったけれど日常では使わないものの代表として扱われがちです。その見方自体は、ある面では自然だと思います。用途が見えない知識は、どうしても遠く感じるからです。
ただ、現場に入ると、その遠さが崩れることがあります。抽象的だったものが、動きや体験を作るための具体的な手段に変わる。そうした変化は、三角関数に限らず、学んだ知識全般に起こりうることです。
見え方が変わるきっかけは、理解の深さだけではなく、使い道に触れることなのだと思います。学校で遠く感じた知識が、後になって仕事の手触りと結びつくことはあります。三角関数の話題は、そのことを思い出させる題材のひとつではないでしょうか。
おわりに
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