「直った」と「解消された」は、同じ言葉でも見ている地点が違う
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ゲーム開発の現場で、こんなことがありました。
あるステージで「敵キャラクターが壁をすり抜けてしまう」という不具合が出ていました。
致命的ではないものの、見た目としてはかなり目立つ挙動です。
その時、手が空いていた若手エンジニアが「ここ、少し触ってみてもいいですか」と声をかけ、修正を入れてくれました。
ひとまず挙動は落ち着いていた
修正内容はシンプルで、壁の手前に透明な当たり判定を追加する、というもの。
結果として、そのステージでは敵がそれ以上進めなくなり、問題の挙動は再現しなくなりました。
確認した限りでは、プレイ中に違和感もなく、進行上の支障もありません。少なくともその時点では、「問題は解消したように見えていた」と思います。
現象が落ち着いたあとで
ただ、少し時間を置いてコードを見直した時、気になる点がありました。
敵の移動ロジック自体は変わっておらず、移動ベクトルの更新と衝突判定の処理順は以前のままになっていました。
つまり、
- 処理の流れ自体は変えず
- その結果として出ていた挙動を
- 当たり判定で抑え込んでいる
という状態です。
この形だと、
- 別のステージ構成
- 同じロジックを使う別キャラクター
- 負荷やフレームレートの変動
といった条件が変わった時に、別の形で問題が出る可能性が残ります。
「修正しました」という言葉の解像度
この時、若手エンジニアが言っていた「修正しました」という言葉は、
今、確認できている条件では
問題が再現しなくなりました
という意味だったのだと思います。
それは、事実であり、手を抜いたわけでもありません。
限られた情報の中で、目の前の現象を止めるために考え、実装した結果です。
ただ、
- なぜその挙動が起きていたのか
- 条件が変わった場合どうなるか
- ロジック全体にどんな影響があるか
といった点までは、まだ視野に入っていなかったのです。
これは能力の話というより、経験値の差による視点の違いだと感じています。
現場で起きがちな流れ
振り返ってみると、この修正が若手の手にあった理由も、特別なものではありません。
- 不具合自体は把握されていた
- ただし緊急度はそこまで高くない
- 根本対応を入れるタイミングは未定
そんな状態で、「まずは見た目上の挙動を抑えたい」という判断がありました。その流れの中で、手が空いていた若手が関わり、目の前の症状に対する対応を入れた。現場では、わりとよくある話です。
経験を積むと、ゴールの置き方が変わる
経験を積むにつれて、不具合対応で見るポイントは少しずつ変わっていきます。
- ✕ 今、目に見えている挙動が再現しなくなったか
- ◯ なぜその挙動が起きていたのか説明できるか
- ◯ 条件を変えた時、別の形で壊れないか
この違いが、
- 「手を入れた」
- 「本質的に解消された」
の差になるのだと思います。
他分野でも起こりうる構図
この構図は、ゲーム開発に限りません。
例えば組込み系で、
「たまにフリーズする」
という不具合に対して、リセット処理を追加したことで、現象が表に出なくなったケース。
しかし後から調べると、
- 割り込み処理とメインループ間の排他制御が不十分
- メモリ破壊が起きていた
ということもあります。
再起動で回復しているだけで、原因は残ったまま。これもまた、症状は消えたが、解消はされていない状態です。
若手と仕事をする時に意識していること
若手エンジニアと仕事をする時、私が意識しているのは、
- 結果だけで切らない
- 「なぜそうしたか」を一度聞く
- 症状と原因を言葉で分ける
「ここがダメだった」で終わらせず、「どこまでが症状で、どこからが原因か」を一緒に整理する。
この視点は、教科書よりも実体験でしか身につかないと思っています。
まとめ
この手の不具合対応を何度か見ていると、表に出ている挙動が落ち着いたあとに、大元から目がそれている場面があるな、と感じます。
でも、時間を置いて別の条件で触ってみると、同じ原因が、違う形で顔を出すこともあります。
「直った」と感じたところで一度立ち止まり、「なぜそうなっていたのか」を言葉にしてみる。そのひと手間があるだけで、後からの手戻りはずいぶん減る気がしています。
おわりに
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