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インタビューVol.3「まだ名の知れないクリエイターにこそ利用してほしい」/弁護士・河野冬樹さん

インターネットやSNSの普及によって、個人クリエイターの活動が目立つようになってきた昨今。それに伴って著作権にまつわる問題も取り沙汰される機会が増えてきている。そんな現実から、クリエイターの権利を守るために立ち上がった人がいる。それが、弁護士の河野冬樹(かわのふゆき)さんだ。

2020年4月から個人クリエイター向けに顧問弁護士サービスを始められた。今回は、顧問弁士サービスを始められた経緯や、始めてみて感じたことなどを聞いてみた。

顧問弁護士サービスが、いかにクリエイターにとって強い味方になるものなのか、ぜひ記事を読んで感じてもらいたい。

■個人クリエイター向け顧問弁護士サービスとは

まず、河野弁護士がされている顧問弁護士サービスについて説明しておこう。契約対象は、個人クリエイターだ(プランによって法人も可能)。プランは、2種類。


画像引用:クリエイターのための法律相談所『クリエイター向け顧問弁護士サービス』

スタンダードプランは、月額5,000円。鉄壁プランでは、月額10,000円。法人成りした一人社長の個人クリエイターでも利用できるようになっている。

個人クリエイターにとって顧問弁護士がいることのメリットは、いわずもがなだが、あえて述べておこう。報酬の踏み倒しや契約内容の不利益といったトラブルを未然に防げるだけでなく、何かしらトラブルに見舞われた時も安価に対応してもらえるところにある。

また、筆者のようなライターであれば、著作権にかかわるコピペ問題がつきまとう。そのような場合に、自身が書いた文章を公開しても問題ないのかどうかなど、すぐに相談できるのも利点だ。

■「個人クリエイターを守りたい」元文学少年の思いが発端


画像:Pexels

河野弁護士がこのサービスを始めたのは、自身がもともと文学少年だったことも関係している。子供時代から本が好きで、高校生の時から文学部に所属。大学の法学部に進学後も文学部に入部した。その関係で、出版の世界に関わることに。

今は休止しているが、一般社団法人出版文化産業振興財団が主催する大学生が選ぶ文学賞『大学読書人大賞』の委員長、副委員長も経験。大学を卒業後は、著作権や出版関係に特化した弁護士活動を始めた。

「どうすれば作品づくりを頑張る人たちチカラになれるのか、ずっと考えていました。弁護士になって5年経ったいま、弁護士として一人前になったといえるかなと思い、顧問弁護士サービスを始めることにしたんです」

そうして始まった顧問弁護士サービスは、Twitter上でも大きな話題になった。

<blockquote class="twitter-tweet"><p lang="ja" dir="ltr">【拡散希望】4月より、個人向け顧問弁護士サービスにつきまして、月額5千円~にて提供を開始し、おかげさまで反響をいただいております。同人、商業問わず、クリエイターの方にありがちな無断転載や報酬不払いなどのトラブルについて、着手金なしでご依頼が可能になります。<a href="https://t.co/nejIalwRjE">https://t.co/nejIalwRjE</a></p>&mdash; 弁護士 河野冬樹 (@kawano_lawyer) <a href="https://twitter.com/kawano_lawyer/status/1295002758941011969?ref_src=twsrc%5Etfw">August 16, 2020</a></blockquote> <script async src="https://platform.twitter.com/widgets.js" charset="utf-8"></script>

■「使い方次第では人の表現を委縮させてしまう」弁護士ならではの悩み

2020年春から始まった本サービスは個人クリエイター向けに展開しているが、個人クリエイターなら誰でも利用OKというわけではない。河野弁護士の中には譲れない部分があるという。

「例えば、侵害に当たるかを吟味しないで機械的に警告文を送るのは避けなければなりません。一歩間違えたら、相手の表現を委縮させてしまうものになるし、不当な請求に手を貸すことにもなりかねないので。だから、必ず一度お話をさせてもらって、契約相手として信用できるかどうかは見させていただいています」

私たちのような表現者は、自分の権利ばかりを主張してしまいがちだ。だが、忘れてはならないのは、自分に表現の自由があるように相手にも自由があるということ。自分の自由と相手の自由を守っているものの一つが著作権だが、その取扱いに気をつけなければ他者の自由を脅かすことにもなりかねないのだ。この視点は、弁護士だからこそといえるだろう。

■無名だからこそ弁護士の後ろ盾を武器にして

河野弁護士は、この顧問弁護士サービスは無名クリエイターにこそ使ってほしいと考えている。「有名になったらなったでいろいろとあるとは思いますが」という前置きしたうえで、理由を語ってくれた。

「ライターでも有名な永江朗(ながえあきら)さんや、ONE PIECEの著者の尾田栄一郎さんといったクリエイターさんに対して、報酬未払いや承諾なしの転載などのような失礼を出版社やクライアントがするかといえば、まずしないでしょう。たとえば、集英社が尾田栄一郎さんに失礼なことをした場合、裁判をする以外の解決方法として「お宅にONE PIECEをもう載さないからね」と言ったほうが早い。全てのクリエイターがそれで済むなら、弁護士はいらないんです」

河野弁護士の言葉に思わず膝を打った。著名なクリエイターが相手なら、作品を取り下げられた後の影響力は計り知れない。それを出版社やクライアントは痛いほど分かっているはずだ。一方で、私のような無名なクリエイターが作品を取り下げますと言ったところで、相手に大きな損害が生じることはないだろう。

「だからこそ、まだまだ知名度がない、これから知名度を上げていきたいという人に使ってほしいんです。今回、浜田さんにPRをお願いしたのも、実はここに関係しています。有名な作家さんなどに宣伝してもらったなら、もっと簡単に広められると思います。だけど、それをすれば、『有名な人が使うサービス』と受け取られかねない。それは、本意じゃないので

河野弁護士にとって本サービスは、「申し込みで初めて名前を聞くようなクリエイターにこそ使ってほしい。それでこそ、意味があるものだから」と力説した。

■「訴訟までいくのは稀」存在が抑止になる


画像:Pixabay

個人クリエイターが本サービスで、毎月の固定費以上に気になるのは、裁判になったときの費用だろう。顧問弁護士を付けて頻繁に裁判にまで発展するようなら、いち個人の収入では賄えない、そう感じる人もいるのではないだろうか?

そのあたりについて河野弁護士に尋ねてみたところ、意外な答えが返ってきた。

「実は訴訟になるケースはほとんどありません。弁護士が付いているというだけで、大半が内容証明などの連絡だけでカタがつきます。サービスの中で利用頻度が高いのは、緊急相談。何かしら心配事がある人が契約されるんですが、契約後、トラブルが顕在化して緊急相談に至るケースが多いですね」

たとえるとすれば、クリエイター生命を守る保険のような役割。それが、顧問弁護士サービスだ。サービス内容には、メール相談サービスも含まれている。この使い方も、十人十色だという。

「メール相談は、トラブルになっていないことが前提になっているサービス。一番典型的なのは、自分が制作していて『これでいいのかな?』と不安になったときに確認のために相談するケースですね。たとえば、ライターさんなら『この記事と表現が似てしまう』とか。自分自身で著作権の判別がしにくいときなどに利用されることが多いですね」

イラストレーターなどでは、二次創作にまつわる線引きの部分。法律系記事を書くライターからは、法律のことを教えてほしいといった相談もあるそうだ。なかには作家さんから、刑事裁判の様子を聞かれることもあるのだというから、利用者によってメール相談の価値の見出し方はさまざまなのがよくわかる。

こうした使われ方をすることに河野弁護士自身、役立っているなら嬉しいと話す。

■「相談ハードルを下げたい」弁護士の役割は今後増える

画像:河野弁護士(提供元、同じ)

Twitterだけで見ても、個人クリエイターが日々、自身の作品を公開している。SNSが普及するまで個展を開いたり、出版社を通して書籍化したりするなどしなければ、作品を多くの人に見せることはかなわなかった。ところが、今は個人で発信するための媒体が数えきれないほどある。

この現状を踏まえると、今後、個人クリエイターと出版社の関係も変わってくる。実際、現状でさえ、Amazonで自己出版するクリエイターも増えている。そんな実情を踏まえて河野弁護士は、「もっと弁護士に相談するハードルを下げたい」と語った。

「本来、作品をどう扱うかは著作者自身の一存で決められるんです。けれど、出版社や制作会社などを通して作品を発表していると、そうもいかないのが実情です。これから考えうるケースとして、出版社を通さずに作家さんとYoutuberが繋がり、作品内容をYoutube内でドラマ化したいとYoutuberが言ったとします。作家はOKするかもしれないけど、作品を販売している出版社はOKしない。こうした場合の著作権に関するインフラを整備するのは、私たち弁護士の役目だと思うんですね」

このたとえ話は極端な例に聞こえるが、決してあり得ない話ではない。この場合、著作権に関する知識のない作家なら、出版社の言うがままになる可能性もある。反対に、著作権を知る作家なら、自身の権利をまっとうに主張できるはずだ。

個々のクリエイターの表現における選択の自由度が増えるにつれて、弁護士の役割は今後とても大きくなっていく。河野弁護士は、そう考えているようだ。そのためにも、弁護士に気軽に相談できるハードルの低さは、これからとても大切になると予想しているのだという。

クリエイターというと、イラストレーターや漫画家といった絵にまつわる人や、工芸品などの制作物を作る人を考えるかもしれない。だが、河野弁護士の顧問弁護士サービスを利用している人は、前述の職業の人も含めて、ミュージシャン、作家、ライターなど多種多様なクリエイターだ。

あなたの権利を守るのはあなた自身だが、それでも個人ではどうにも太刀打ちしにくいときがある。そんな状況を未然に防ぎたいなら、河野弁護士の顧問弁護士サービスを利用してみるのもいいのではないだろうか?

■河野冬樹さんプロフィール


弁護士。第一東京弁護士会、法律事務所アルシエン(東京都千代田区)所属。
専門は著作権関係。
Twitterでは出版関係や著作権の話題を主に発信している。

<連絡先・HP>
Twitter:@kawano_lawyer
HP:クリエイター向け顧問弁護士サービス

(インタビュー・文/浜田みか)

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