●採用でも「顧客」を理解していますか?
商品やサービスを売る時、「顧客は誰なのか」を考えずにマーケティングをする会社はほとんどないと思います。誰が買うのか。どんなことに困っているのか。何を基準に商品を選ぶのか。こうした顧客理解があって初めて、商品や価格、広告、営業方法を考えることができます。
では、採用ではどうでしょうか。「どんな人を採用したいですか?」と聞くと、「できれば20代ですね」「経験者が欲しいです」「長く働いてくれる人がいいですね」といった答えが返ってくることがあります。採用したい人を考えることは大切です。ただ、もう一つ必要な視点があると思っています。その人は、なぜ仕事を探しているのでしょうか。
●「属性」だけでは、求職者を理解したことにはならない
例えば「20代」を採用ターゲットにしたとします。でも、20代というだけでは、その人が仕事に何を求めているのかは分かりません。今の会社では成長できないと感じている人。給与を上げたい人。地元に戻りたい人。結婚を機に働き方を変えたい人。同じ20代でも、転職を考える理由はまったく違います。
「主婦」という括りも同じです。「主婦は短時間勤務を希望するだろう」と考えてしまうことがありますが、子育てが一段落してもう一度しっかり働きたい人もいれば、以前のキャリアを活かしたい人も、将来的に正社員を目指している人もいます。属性は、その人を理解するための入口にはなっても、その人自身ではありません。
●企業は「欲しい人」を考える。でも求職者も「欲しい会社」を考えている
採用では、どうしても企業側から考えます。どんな経験が欲しいか。どんなスキルが必要か。つまり「私たちは、どんな人が欲しいのか」を考えます。もちろん必要です。しかし採用は一方的な購買活動ではありません。求職者も会社を選んでいます。だから、もう一つの問いが必要です。「その人は、どんな会社を欲しいと思っているのか」。
以前「なぜ採用も『3C』で考える必要があるのか?」(
https://www.katawara.co.jp/blog/message0013
)という記事を書きました。3CのCustomerを採用に置き換えれば、求職者です。ただ「20代」「経験者」「主婦」とターゲットを設定するだけでは、Customerを理解したことにはならないと思っています。
●知りたいのは、「条件」よりも「背景」
求職者理解というと、希望給与・希望勤務地・勤務時間・休日といった希望条件を思い浮かべます。それはもちろん重要ですが、その条件の一つ手前を知ることの方がより重要だと思っています。なぜその給与を求めているのか。なぜその勤務時間でなければならないのか。なぜ今の会社を辞めようとしているのか。
例えば「17時までに帰りたい」という希望があったとします。17時という数字だけを見れば勤務条件ですが、その背景には「保育園のお迎えに間に合わせたい」があるかもしれません。そうであれば、本当に重要なのは17時という数字ではなく、「仕事を続けながら、子育てを成立させられること」なのかもしれません。条件だけを見るのと、その背景まで理解するのとでは、会社側が考えられる働き方も変わります。
●「何が欲しいか」だけではなく、「何を失いたくないか」
求職者理解で、もう一つ重要だと思っている問いがあります。「その人は、転職によって何を失いたくないのか」です。転職は何かを得る行為であると同時に、何かを失う可能性のある行為でもあります。「今より給与が下がるのは怖い」「家族との時間は減らしたくない」「これまで積み上げた経験を無駄にしたくない」。こうした「失いたくないもの」も意思決定に大きく影響します。
企業が魅力ばかり伝えても応募につながらない時、この視点が抜けていることがあります。「この会社に入れば何が得られるか」だけでなく、「この会社に移っても、今大切にしているものを守れるか」が重要になる人もいるからです。
●求職者は、自社だけを見ているわけではない
もう一つ忘れてはいけないのが、比較対象です。求職者は自社だけを見ているわけではありません。A社、B社、今勤めている会社、派遣という働き方、場合によっては「今は転職しない」という選択肢とも比較しています。
例えば地方の製造業が「近隣の製造会社より給与が高い」と考えていたとしても、求職者が比較しているのは製造業だけとは限りません。物流かもしれない、小売かもしれない、介護かもしれない。企業が考える競合と、求職者が考える競合は必ずしも同じではありません。だから競合企業を見る時も、「自社と同じ業界の会社」ではなく「その人の選択肢に入っている仕事」を見る必要があります。
●「若者は給与重視」という言葉で、思考を止めない
採用の話をしていると、「最近の若い人は給与を重視しますよね」「主婦は時間ですよね」「シニアはお金よりやりがいでしょう」といった言葉を聞くことがあります。傾向を知ること自体は悪くありません。ただ、平均値は一人の求職者ではありません。「20代は給与を重視する」というデータがあったとしても、目の前の一人が給与を最優先するとは限らない。
データを使って理解することと、データを使って理解したつもりになることは違います。顧客理解とは「20代はこう」「主婦はこう」と分類することではありません。その属性の中にいる人たちが、どんな事情を抱え、どんな選択をしようとしているのかを考えることです。
●では、どうやって求職者を理解するのか
応募してくる前の求職者に、どうやって話を聞くのかという問題があります。すべてを知ることはできません。だからこそ、自社の採用活動の中にある情報を拾っていく必要があります。
応募者に「何を見て応募しようと思ったのか」を聞く。面接で「転職を考えたきっかけ」「他にどんな仕事を検討しているのか」を聞く。入社者に「最終的に何が決め手になったのか」を聞く。内定辞退者に、可能な範囲で「何が判断の違いになったのか」を聞く。そして、現場で働いている社員にも「なぜこの会社を選んだのですか」と聞く。意外と、経営者が想定していた魅力と社員が実際に感じていた魅力が違うことがあります。
●「採用できなかった人」もCustomerを教えてくれる
これは先日書いた「採用できた人ではなく、『採用できなかった人』を見ていますか?」(
https://www.katawara.co.jp/blog/message0051
)という話にもつながります。採用できた人から「なぜ選ばれたのか」を知る。一方で、応募されなかった・面接を辞退された・内定を辞退されたという事実から「なぜ選ばれなかったのか」を考える。この両方を見ることで、求職者像は少しずつ立体的になります。
顧客理解とは、一度ペルソナを作って終わることではありません。採用活動を続けながら仮説を立て、実際の反応を見て、違っていれば修正する。この繰り返しだと思っています。
●顧客理解が深まると、求人の言葉が変わる
「子育て中の主婦がターゲットです」だけなら、求人には「主婦・主夫歓迎」「家庭との両立可能」と書くことになります。でも「子どもが小学生になり、もう一度仕事を始めたい。ただ子どもの帰宅までには家に戻りたい。ブランクがあるので、いきなり以前と同じように働けるか少し不安」という人まで想像できたらどうでしょう。
何時に帰れるのか。学校行事の時は休めるのか。ブランクがある人はどのように仕事を覚えるのか。同じような人が実際に働いているのか。企業が伝えたいことではなく、求職者が意思決定するために知りたいことが見えてきます。ここに、顧客理解を採用に持ち込む大きな意味があると思っています。
●「魅力を伝える」の前に、「何を魅力と感じるのか」を考える
採用支援では「自社の魅力を言語化しましょう」とよく言われます。Katawaraでも「選ばれる理由」(
https://www.katawara.co.jp/blog/message0014
)を言語化することを大切にしています。ただ、会社の魅力は企業だけでは決められません。
年間休日120日、転勤なし、若手でも裁量がある。こうした特徴があったとしても、それを魅力と感じるかどうかは人によって違います。大企業志向の人には「社員20人」は不安材料かもしれません。一方「大きな組織の歯車ではなく、自分の仕事が会社に影響する環境で働きたい」という人には魅力になるかもしれない。自社に何があるか、だけではなく、それを誰が、なぜ価値だと思うのか。そこまで考える必要があります。
●顧客理解は、求職者に迎合することではない
顧客理解というと、「求職者が欲しい条件を全部用意する」という話に聞こえるかもしれませんが、そうではありません。企業にも、譲れないものがあります。仕事上必要な能力もあります。会社として大切にしている価値観もあります。顧客理解の目的は求職者に迎合することではなく、自社と求職者の接点がどこにあるのかを理解することです。
自社が提供できるものと、求職者が求めているものが重なるところを探す。反対に重ならないのであれば「この人には合わない」と判断することも必要です。それもマッチング精度を高めることだと思っています。
●採用ターゲットは、企業が欲しい人だけでは決まらない
ここまで考えると、採用ターゲットの見方も変わります。従来は「自社が欲しい人=採用ターゲット」と考えがちでした。でも実際には、自社が必要としている人と、自社を選ぶ可能性がある人が重なるところに採用ターゲットが存在するのではないでしょうか。
どれだけ優秀でも、自社を選ぶ理由がまったくない人をターゲットにしていれば採用は難しい。反対に、自社の特徴に強く価値を感じる人がいるなら、人口の多い市場でなくても採用できる可能性があります。だから「どんな人が欲しいですか?」だけで採用ターゲットを決めない。「その人は、なぜうちを選ぶのでしょうか?」までセットで考える。この問いが必要だと思っています。
●最後に
採用では、企業のことを一生懸命考えます。自社の強みは何か。どんな人材が必要なのか。どの媒体を使うのか。でもその反対側にいる求職者については、「20代」「経験者」「主婦」といった属性だけで理解したつもりになってしまうことがあります。
本当に知りたいのは、その先です。なぜ仕事を探しているのか。何と比較しているのか。何を不安に感じているのか。そして、何を失いたくないのか。そこまで考えて初めて「この人には、何を伝えるべきなのか」が見えてきます。
採用に必要なのは、企業が伝えたいことを上手に伝えることだけではありません。求職者が知りたいことを理解し、その人が判断できる情報を提供すること。マーケティングでCustomerを理解するのと同じように、採用でも「働く人」を理解する。「誰を採りたいか」から、「その人は、なぜ自社を選ぶのか」へ。この視点を持つことが、採用を単なる求人活動から「採用設計」に変えていく入り口だと思っています。