書籍【シン・日本の経営~悲観バイアスを排す】読了
著者はドイツ人の経営学者で、専門が日本企業の企業戦略だという。
これだけでも非常にユニーク。
なぜ日本企業を選択したのだろうかと思ってしまう。
それだけに視点が面白いし、我々日本人には気が付かない良い面悪い面が指摘され、読後は視野が広がった感じもした。
他の国家は分からないが、今の日本は閉塞感に満ちている。
大きなポイントは、少子化・高齢化・急激な人口減少だと思う。
今まで経済大国の地位を確立できていたのは、人口が多かったことが大きな要因であるのは間違いない。
それも内需を前提とした経済活動だったために、人口が減れば、当然経済は停滞する。
人口減については後戻りできない点をとっくに過ぎており、その進行を止めることはできないだろう。
単純にこれだけでも「衰退」と感じてしまうのだが、どうしても「大量生産・大量消費」の思考でいる限りは、衰退思想を免れられない。
社会が縮んでも豊かになれる方法はあるかもしれないが、そういう経験がないために、感覚的に理解できていないのかもしれない。
この点においては、著者は「こんな良いところがあるじゃないか」と、我々に気が付かない視点を示し、目を覚ましてくれる。
外部の識者をドンドンと入れて、日本を再生していくのはよいことだと思う。
かつて明治維新で国家を作り変えた際、明治政府は海外から多くのことを学んだ。
役人が海外留学することも然りだが、海外の識者をたくさん日本に招聘し、各分野を指導してもらった事例も多い。
日本がGDP2位になった際、他国から学ぶ姿勢を止めてしまったことも、衰退の要因の一つかもしれない。
結局、生き残るためには学び続けるしかない。
これは国家であろうと、個人であろうと同じである。
謙虚な気持ちになって、著者のような外の目から見た日本企業研究者の意見を聞くことは、決して無駄なことではない。
「日本企業は決して弱くない」と、著者は説く。
悲観バイアスを捨てて、未来に目を向けるべきだ、と言う。
本書で印象的だったのは、1990年代から2010年代を「失われた時代」と決めつけるのは間違いだという指摘である。
著者の意見としては、この期間は停滞していたのではなく、産業構造や経営戦略が大きく変わるための「システム転換期」だったと述べている。
同時代を生きていた自分自身の感覚として、停滞なのか転換期なのかは判断がつかないところだ。
確かに、表面的な経済成長率は低かったのかもしれない。
しかし、努力をしていなかったかと言われれば、決してそんなことはないと思っている。
確かに、劇的に変化したとは言えないのかもしれない。
しかし、本当に変化していなかったのか。
これだけインターネットが発展し、スマホも1人1台が行き渡っている。
確かに日本発の発明ではなかったかもしれないが、日本社会が大きく変化したことは間違いない。
その速度は、他国と比較したら遅かったのかもしれない。
我々は、変化が遅いことを「停滞」だと思い込んでしまいがちだが、著者はそれを「安定と引き換えに日本が支払っている代償」だと言い切っている。
確かにそういう視点では考えていなかった。
日本独自の文化の中での変革は、他国とは明らかに進み方が違う。
経済停滞しているとは言え、これだけ安全な社会が維持されている国家が他にあるだろうか。
失業者が町に溢れ、物乞いしている人がいる訳でもない。
政治的に不安定で、町中で暴動が起きている訳でもない。
もちろん、アメリカのように極端な格差社会で、貧富の差が広がり過ぎている訳でもない。
こんな状況の日本という国家は、本当に負け組なのだろうかと思ってしまう。
様々な課題はあるかもしれないが、それでも日本は本当に素晴らしい国だと思う。
そんな中で、これからどうやって今後の国際社会を日本は生き抜いていくのか。
かつては家電製品や自動車のように、完成品(コンシューマー製品)を世界に売ることで外貨を稼いできた。
しかし今や、その領域では中国や東南アジア諸国の台頭に勝ち目が無くなっている。
だからと言って、これだけで日本企業が終わったわけではない 。
現在の「シン・日本企業」は、より深い層で勝負している 。
スマートフォンの基幹部品。
半導体製造のための超精密な装置。
高度な機能性材料など。
これらが日本から供給されなければ、世界中のハイテク製品は一日たりとも作ることができない のは間違いない。
目に見える派手な主役(完成品メーカー)ではなく、それらを支える不可欠な存在(ジャパン・インサイド)として、グローバルなサプライチェーンの急所を握っていく。
これこそが、日本企業の新たな生存戦略と言えるのだと著者は説いている。
著者はこれを、小兵ながら多彩な技で巨漢を倒した力士に例えて「舞の海戦略」と呼んでいる。
ネーミングは日本人読者の受けを狙っているようにも感じるが、悪くはない。
自らのサイズや特性を理解し、他者が真似できない独自の「技」で勝負を仕掛ける。
この生き残り戦略は、とても日本的だと思う。
決して体格に恵まれない日本という国家が、どういう点で世界の中で勝負を仕掛けていくべきか。
我々はもっともっと真剣に議論して、効率よく勝つための戦略を練り込むべきだ。
シリコンバレーやユニコーン企業のやり方をそのまま真似する必要はない。
日本には、独自の歴史と風土に根ざした「イノベーション・システム」があるはず。
大切なのは、その流れを信じ、自分たちに何ができるかを主体的に問い続けることだ。
他国が決めたルールに従って、その土俵で戦うのでなく、自分の得意なフィールドで勝負する。
「主観」を信じ、どうやって独自のストーリーを創り出していくか 。
著者は「今が変革の絶好の機会」と説いている 。
日本企業が持つ「基本」の強さを再認識すること。
目には見えづらい日本だけが持つ資産を大事に育てること。
そして何よりも、未来に対して楽観的であること。
過去の停滞を「無駄な時間」にするのか、「飛躍のための準備期間」にするのかは、これからの我々の行動次第である 。
私自身も、日本の真価を信じて、挑戦を続けていきたいと思っている。
(2025/11/28金)